不出来な魔法
今日は今日で自己保有魔力を増やしながら過ごし、体力と筋力の維持のためにランニングと筋トレをする。
自己保有魔力がそれなりに増えてきたので魔法や他の術に関しても確かめてみたいが急ぐほどではない。
まずは生活魔法と言われる生活の助けになる魔法から訓練していく。
「相変わらず地味な特訓だね」
そう言いながら隣でアイスを食っているのはおなじみとなったカエラだ。どうも俺が彼を倒した時からこうしてちょくちょく顔を出すようになっている。
と言っても本当にたまにで、隣でただぼ~っとしているか、今みたいに菓子を食べながら眺めている事が多い。
「仕方ないだろ。攻撃魔法を試すとしてもここじゃ大技は使えねぇだろ」
「もう攻撃魔法使えるようになったの?すごいじゃん」
「全く凄くない。見ろよこの氷魔法。これじゃちょっと刺さればいい方だぞ」
そう言いながら地面に向かって氷魔法を放った。アイスニードルと言う氷の初歩攻撃魔法なのだが、氷でできた小さな針が地面にほんの少し刺さっただけ。
本物のアイスニードルは釘くらいの大きさで、一度に10本以上発射するのだが、今の俺が使っても小さな氷の針が1本だけ。これじゃ成功したとはとても言えない。
「でも無詠唱で出来ればマシな方でしょ。元々魔力量少ないんだからさ。というか詠唱しないの?」
「詠唱な……昔から苦手だったんだよな……」
実戦中に一々詠唱するのはかなり面倒で、何らかの原因で詠唱が止まってしまったら不発となる詠唱式は現実的ではないと思い全然使ってこなかった。
それに前世の頃は詠唱なしでも使えるほどの魔力があったし、必要なかった。
だから前世の頃はなんで詠唱しているんだろうと思ったが……確かに魔力量がないと無詠唱は厳しい。
「はぁ。強かった頃の感覚がまだ残ってたんだな俺」
「強かったってそんな頃あったの?」
「一応な。と言っても所詮お山の大将って奴で身内の中では強いって感じでしかない」
「ふ~ん。その時に実戦訓練を積んだって感じ?」
「まぁ……大雑把に言うとそんな感じだな。身内でごっこ遊びの延長戦で訳の分からん必殺技作ったり、とりあえず楽しんだもん勝ちって感じで色々条件付けてやったな」
「ならその人達とまたやればいいのに」
「それは無理」
「何で?」
「俺が引っ越しちゃったから」
死んで転生しちまったからな。
「そんなに離れたところに住んでたの?」
「それなりにな。だから元の場所に戻ってもう一度って訳にはいかないんだよ。もう二度と戻れないから」
「それは大袈裟すぎない?前に住んでたところなんだから覚えてるでしょ」
「……よく覚えているさ。でも帰れないんだよ」
そう。二度と帰れない。
一度死んだ者がもう一度同じところに帰れるはずがない。
「…………もしかして、男の意地って奴?」
「そんなところだ」
勝手に納得してもらえるのであればそれでいい。
それにしても詠唱式の魔法はやっぱり不得意だな。
今度魔導書でも作ってみるか。
――
「それで、彼の様子はどう」
「はい。彼は今日も特に変な事はしていません。カエラさんの報告通り校舎の陰で練習をした後帰宅したようです」
「氷の魔法の練習ね。実力も一応魔力がある程度の攻撃魔法、そこから何か思考している素振りを見せたが結論は言っていないか。サマエルから見て彼はどう思う」
「今時珍しい男子生徒だと思います。最近では種族の差を認め、ほとんどの人間種は我々に媚びる事が多いので、このように自ら鍛えて強くなろうとする人間は久しぶりに見ました」
「でも彼は全く特別ではない」
「そのようです。確かに魔法は使えましたがそれだけです。人間の中でも一応魔力がある程度でしかなく、氷の魔法で氷の針を1本出したくらいでは何の自慢にもなりません。それに魔力量を上げる訓練も行っているようですが、これも本来は幼少期の頃から訓練する事で得るものであり、彼の年齢で行ってもあまり効果は望めないでしょう」
「よくて人前、悪ければこれ以上の伸びはない。彼もそれを承知の上で訓練しているとみていいのかしら?」
「おそらくですが。その通りかと思われます。何故このような無駄な事をするのかは分かりませんが」
「……本当に変な子。普通は想定外の事が起きた時のために訓練するもので、危険に飛び込むための物じゃない。それ以前に危険から遠ざかろうとするのが自然なのだから、彼は真逆の事をしている。本当によく分からないわね」
「ですがこれ以上無駄な事はしないでしょう。この学校で龍化の呪いのような突然の事が起きない限り、安全性を保てているのですから」
「そう……よね。そのはずよね」




