第161話 ミーナの答え
「あれ、せんせ、なんで一人で寝てるのー?」
「あ、ほんとだ。せんせーも一緒に寝ればいいのに」
「センセイ、ぼっちだ。可哀想……」
生徒たちの言葉が胸を抉る。こんなときなんて返せばいいんだ。笑えばいいのか? 俺は果たして上手く笑えるだろうか。
「…………」
ダメだ。何も返せなかった。
「ほら、アナタ? ジェイくん可哀想じゃない。隣で寝かせてあげなさいよ」
「いや、なんで我の隣なんだ。ミーナの隣が空いてるんだからそっちへ行けば良いだろ」
「確かにっ。ほら、ジェイくんー。ミーナちゃんの隣が空いてるんだからそっちへ行ったらどう?」
俺はチラリとミーナに視線を向ける。ミーナは寝る支度をしている手を止めてこちらを見てくる。つまり目が合ったということだ。二秒、三秒……。
「ハァ……。分かりました。私も離れます」
「え?」
そしてミーナは困ったようにため息を一つつくと、ズルズルと敷布団を移動させ、みんなからも俺からも離れたところへポツンと布団を置いた。どうやら俺だけが仲間外れではなく、ミーナも仲間外れになると言うことだろう。
「ん。私の横が寂しくなった。センセイ空いたけど来る?」
「え?」
そしてミーナが去ったことにより、空いたスペースへ誘ってくるアマネ。それなら許されるかと一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい。ミーナが折角気を使ってくれたんだ。俺はここで断固一人で寝るべきだろう。
「バカタレ。俺はここで寝る」
「わっ、さっきまで捨てられた子犬みたいな目をしていたジェイくんが急に強気っ! お姉さんビックリ」
「ククッ。フローネ言ってやるな」
「ぐぬっ」
ヴァル夫妻にはお見通しであったようだ。事実なだけに何も言い返せない。先程まで俺はとても情けない顔をしてしまっていたかも知れないから。
「ほら、もう寝るぞ。明かりを消すからな」
なので俺は誤魔化すためにも早口でそう言い、明かりのスイッチを消す。パチンとスイッチを切れば明かりは消え、真っ暗だ。
「みんなおやすみ」
「おやすみなさい」
それ以上はからわかわれることなく、それぞれが就寝の言葉を口にすると、部屋の中はシンと静かになる。まったく眠気がない俺は明日シャーリーに会ったときにどんな対応をすべきか色々シュミレーションをするのだが、残念ながらいくら考えても正解には辿り着けそうになかった。
そして、悶々とした夜を過ごし、僅かばかり意識をまどろませた後、無情にも朝はやってくる。
「みんな、おはよう」
「おはようございます」
特に問題が起こることもなく、朝を迎え身支度を済ませた者から中央の部屋へと集まっていく。
「ネア、おはよう」
「んー、お兄さんおはよー。よく寝れたー?」
「あぁ、お陰様でな。部屋を貸してくれてありがとう」
「うん、いいよー。さてっ、みんなの準備はできたかな?」
ネアの言葉に皆が頷く。
「よし、それじゃ行こうか。まぁ帝都は人が多いし、いろんな国から来てるから堂々としてれば大丈夫だと思うよ。ま、でも一応これ」
ネアはそう言うと、机の上に紙を何枚か置く。
「これは?」
「一時滞在許可書──の偽物だねー」
初めて見る許可証のため、それがどこまで精巧かは分からないが、紙質や印字を見る限り、とても良くできているように思える。
「もしかしてネア、俺たちが寝ている間にこれを?」
「ま、ねー。あぁ、別に善意ってわけじゃないから勘違いしないでよ? ビジネスだからね、お兄さんたちが捕まったらボクの計画も失敗する。一蓮托生なわけだから成功率を上げるための最善な行動をしただけだよ」
ネアはぶっきらぼうにそう説明した。俺はそれでも感謝の言葉を伝える。
「というわけで職人ギルド行くよー。ついてきてねー」
そして俺たちはネアの家を出て昼の帝都を歩くのであった。
「ネア、職人ギルドまではどのくらいだ?」
「ここから歩いて三十分くらい」
「そうか」
俺たちは一塊になり、口数少なく、なるべく目立たないように歩く。されどあまりコソコソしていては逆に目立つため、堂々と。つまり、堂々とコソコソして歩いているのだ。
「ねぇ、お兄さん」
「ん? なんだ?」
「あの子、どうにかならない? すっごい歩き方不自然なんだけど」
「……あぁ、ミコか」
ミコはみんなに囲まれて見えにくくなっているが、チラリと見ればギクシャクという音が聞こえてきそうなくらいは不自然な歩き方だ。
「アマネ、ミコの緊張を解いてやってくれないか?」
「ん、任せて」
ミコの隣を歩いているアマネは自信満々にそれを了承し、一つ咳ばらいをした後──。
更新が止まってしまい本当に申し訳ありませんっ!
こんな状況で言うのもアレなんですが、めでたく3巻が2020/11/13(金)に発売されます!!!
正直web版よりかなりクオリティ高いのでどうか読んで下さい!




