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第113話 もきゅ

 そしてすぐにグラスとワインが用意される。先ほどとは違う服装を着た男性が丁寧にグラスにワインを注いでくれる。そして四人分注ぎ終えたところで一礼し去っていった。俺たちはグラスを持ち──。


「乾杯」


 小さくグラスを響かせあう。


「ふむ。美味いな」


「えぇ、そうですね」


 どうやらヴァルたちの舌に合ったようだ。良かった。俺とミーナもワインを少しずつ口に含む。


「あぁ、確かに美味しくて、飲みやすいな」


「そうだね。でも気をつけないと」


 飲み口が軽く、一緒に運ばれてきたチーズと食べると丁度良い。だが、ミーナの言う通り気をつけなければあっという間にボトルを開けてしまい、最悪の場合酔っ払ってしまう。大の大人四人が魔獣パーク内で酔っ払うという絵は想像もしたくない。


 そして俺とミーナはゆっくりとワインとチーズを楽しみ、四人で他愛もない会話に花を咲かせていたところで料理が到着する。


「こちらジェノベーゼと、シャルコヴォッテ・ソルニッチェルです」


 まず運ばれてきたのはミーナと俺の食事だ。まぁ当然だろう。いかに焼き時間が短いとは言え、十キロと七キロの肉を用意するのは容易ではないはずだ。


 コトリとミーナと俺の前に皿が置かれる。ミーナの方は香草が使われたパスタだ。予想の範疇内であり特筆すべきこともない。強いて言えばジャガイモがゴロゴロ入ってるところに高評価をあげたいというくらいだ。


 そして次に俺の前に置かれた皿。ミーナも気になるようで覗いてくる。


「……ふむ。これはなんだろうか?」


「うーん、見たことない料理だね」


 肉だ。それは間違いない。だが何の肉かは分らないし、かかっているワインレッドのソースも見当がつかない。これは煮込んだ肉か? ひとまずナイフを肉に入れてみる。


「!? や、柔らかい。なんだこれ」


 ナイフの沈み方は半端なかった。力を入れずとも重力に従うだけでまるでほどけるように肉が分かれる。それをフォークで刺し、得体の知れないソースにからめる。


「じゃあ、お先に……」


 抑えきれない好奇心。匂いは非常に芳醇だ。まるで熟れた果実のようなほのかな甘みを感じさせる。口を開ける。あーん……。もきゅ。もきゅもきゅもきゅ。んくっ。


「どう?」


「…………うみゃぁ〜」


「え……」


 一般的な肉とは固く、スジがあり、噛みごたえがあってボリューミーだ。だがこの肉は違う。ふわっふわでトロットロで、じゅわ〜でうみゃ〜なのだ。


「ミーナ……ほれ」


 俺は皿を少しミーナの方へ寄せる。感動して言葉が出ないのだ。まさか魔獣パーク内のレストランでこのような美味い肉料理に出会えると誰が思おうか。俺はその感動を言葉ではなく直接伝えたかった。ミーナは大げさに感動している俺にやや訝しげな視線を送りながらも肉にナイフを入れ、フォークで口に運ぶ。


「……もきゅもきゅ」


「どうだ? ん? どうだ?」


「……すごく美味しい」


「だろ? だろ? ふわっふわでトロットロでじゅわ〜でうみゃ〜だろ!?」


「う、うん。言ってることは分かるよ。本当に美味しいね。このソースなんだろう。香りがすごくいいし、いくつか果物も使ってるかなぁ。うーん、ワインも使って──」


「もきゅもきゅ、んぐっ。なに、ミーナ。まさかこれを再現できそうなのか?」


 返ってきた皿の肉をもきゅもきゅ食べているとミーナが煮込んであるソースのレシピを予想しはじめる。


「え、あ、うん。ごめん、もう一回ソースもらってもいい?」


「あぁ、もちろんだ」


 今度はスプーンでソースをすくい、パクリと口へ含む。


「…………うん。大体分かったかも。今度作ってみるね」


「おぉー……あなたが神か」


「いや大げさだよ。それにうまくいくとは──」


「いや、俺はミーナの料理の腕に全幅の信頼を置いている。あー、楽しみだな」


「……もう。でもありがと。だけど今は目の前のお肉を楽しんでね?」


「え、あぁ。そうだな」


 ミーナにそう言われ俺は慌てて食事を再開するのであった。


「やれやれ、会話だけ聞いてればまるで夫婦のようだな」


「フフ、そうね。見てて胸がいっぱいになっちゃうわ」


 そんな俺たちを微笑ましく見つめているドラゴン夫妻。だが、胸がいっぱいと言っていたフローネさんの前には──。


「お待たせしました……。焼き方ブルーの七千グラム、トウトツステーキ、です……」


 ガラガラガラとカートに山盛りになった肉たちが運ばれてきた。こっちの方が見ているだけで胸もお腹もいっぱいだ。七千グラムという数字を舐めていた。女性の店員がえっさほいさといくつかの肉塊に分かれたプレートを置いていく。いざ、目の前に並べられると圧巻の二文字である。周囲もざわざわと騒ぎはじめる始末だ。


「はーい。ありがとうございまーす」


 そして──。


「……こちらは焼き方ブルーの一万グラム、トウトツステーキになります」


「我だ」


 別のカートで今度は男性が山盛りの肉を運んでくる。テーブルは一気に肉パラダイスである。このテーブルだけ何かのイベントのようだ。


「「全ての食材に感謝を込めて、いただきます」」


 そして肉が全て置かれるとヴァルとフローネさんは手を合わせ、独特な礼をした。二人はナイフとフォークをスチャッと構え──。


「「もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ」」


 瞳孔が細まり、まるで爬虫類の……それも獲物を捕食するような目つきとなる。両手は滑らかに迷いなく動き、切っては運び、噛んでは呑み込んでいく。だが、その所作は決して粗暴でなく、性急でもない。いやむしろ美しさまで感じてしまう。その妙な迫力に俺やミーナ、周りの客も食事の手を止めて、釘付けになってしうのであった。

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