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epilogue2

 ロビーから見守る二人は互いに顔をあわせようとしなかった。

「何だかあまり良い雰囲気ではないね」

「白銀の呪術師殿」

 割って入った男の名前を呼んだのは疾風だった。

「久し振りだね、樹杏」

「どうも」

 素っ気無く答えるしかない。妹のバイト先くらいもっと先に調べれば、この茶番は起きなかった可能性が高い。

「この間お前が来たから驚いたよ。まさか菜月がお前の妹だとはね」

 薄々感づいていながら図々しく言う。それが面白くない。

「は!?」

 疾風が驚いていた。つまり妹はこの男とも顔を合わせていた事になる。

「当たり前でしょう。ちい姫は四条院の名前とあまり関係のないところにいて欲しかった。その為には多少情報に細工位します」

「多少、ね。あれを多少と言ったら、本気はどれ位になるのかと聞きたいくらいだよ。でも、それが逆に今回は命取りだったのかな?」

「いえ。ちい姫のバイト先はちい姫の希望であの時まで調べていなかっただけですが?」

「妹に激甘という情報は間違いでないわけだ」

 苦笑しているのが分かる。

「で、保護者としてはバイトを辞めて欲しいと?」

「当たり前でしょう。あなたがどんな計画を練って四条院内部に入ってきてようが俺は構いませんが、ちい姫は巻き込んで欲しくないだけです」

「お前が私に協力でも?」

 ふざけるな。そしてそんなものをこの男は望んでいない。

「俺なんか組み込んでいいんですか?何をするか分かりませんが」

「冗談だ。もちろんお前の妹も約束どおり今月いっぱいで解雇だ。そのあと遊びに来るくらいは歓迎するが」

「……妹を茶番に巻き込まないと確約していただきましょうか。あとは変に呪術を教えない、知識を与えない」

「お前は本当に厄介だよ。ただ、この先紅蓮の婚約者として立ち回るにあたり、呪術を覚えておかなくてはいけない、違うか?」

 遊びに来たついでにと教えるつもりだったらしい。

「あなたに聞かなくてもいいでしょう。妹はどうも母方の血を色濃く受け継いだようで、四条院の呪術はほとんど使えない。だとしたら魔術が良いわけでして、だからあなたが教えると言いたいのでしょうが、俺としてはあなたに頼むくらいなら、魔女の系譜に頼んで魔術は覚えさせますよ。今までも実際、ラムエル家の方に頼んでいましたし。今それが無理なら、ちい姫と同じように母方の血を色濃く受け継いだ、アンジェリカ=蘇芳=メルティスに俺から頼みにいけば良いだけです」

「蘇芳は教えないよ。ばれるのが嫌だからね」

「兄の子供に何やってんですか」

「何でもないさ。ただ私が預かった。それだけの話だ」

「メルティス家でも色々考えてますね」

 その言葉に聖が苦笑した。おそらく事実だ。

 兄は愚鈍だった。女に惚れた、それだけなら一向に構わない。それが魔女の系譜であっても。その女を父に紹介したのだ。腹に子供がいると。当たり前のように父親の逆鱗に触れたのだ。父は兄か自分を中枢の奥深くにおきたかったのに。

「お前もそういう意味ではあの男の思い通りに動かなかった」

「花蓮の妊娠は寝耳に水でしたよ。俺の子供じゃないことは確実。なのでそれを逆手に二人で破棄しただけです」

 産まれてきた子供は母親の呪術を受け継いだ子供だった。

「はて。花蓮はお粗末なほど呪術は使えなかった。紅蓮は……」

「あなたもはかるのは苦手ですか?上辺は父親に似ているかと思いますが、最深部、本当の意味でのチカラは花蓮にそっくりですよ」

「ということは……」

「花蓮は最期まで教えてくれませんでしたが、父親が誰なのかは見当ついてますよ。花蓮の意思があるので伝えるつもりはありませんが」

 この男もおそらくという形で紅蓮の父親に関して気がついているはずだ。だが、あえて言わない。ただ一人疾風が黙りこくっていた。

「私が教えるしか道はないと思うが?」

「だったら教えるだけにしてください。茶番に巻き込んだ時点で俺は俺の動きをしますから」

 それはあっさりと承諾してきた。

「あぁ、そうだ。そのうちあなたにはちい姫をあそこから出した、本当の理由を伝えますよ」

「紅蓮には教えないのか?」

「教えてもせんのないことですよ。少し冷静でいるという事を教えてあげても良かったような気がしますが」

 その言葉に聖が苦笑している。

「たまに冷静さを失う事がある。お前も思い当たるだろう?」

「さて、何のことやら」

 今は妹だけ守れればいい。それだけだ。


 それに聖が気付いたのだろう。静かに笑っていた。



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