二人の保護者
今日も菜月は来ない。核心をついたせいだ。ということは憶測はあっている。
「せっかくあの子に教えてやろうと思ったのに残念だ」
緋炎たちも今日は来ない。
ちりりん、店のドアが開く音がした。
「おや、今日は休み……いや、ようこそ魔術屋へ」
菜月かと思ったが、来た相手は違った。
「何の用かな?勤務中だろう?」
「単刀直入に言う。何のつもりで妹を巻き込んだ?」
「妹?何のことかな?私のところに来るお前と同じ姓の者は男だよ」
「腹の探りあいは止めましょう。妹は今月いっぱいでここを辞めてもらう」
その言葉にくすりと笑う。
「お前が保護者というわけだ。そして歳の離れた兄、そういうことか」
「そういう事です」
二階へ促し、そのまま椅子を勧める。
「いえ、バイトを辞めさせる確約をいただければ俺は帰りますので」
二階にあがったものの長居するつもりはない、はっきりと言い切ってくる。
「保護者から言われてしまえば私は承諾せざるを得ない、それだけだよ。その前に、私からも頼みがあるのだが」
「何でしょう?」
「あの子に会わせてやれないか?」
その言葉に男が笑う。
「不可思議な事を言う」
「承諾するか否か、きちんとお前の妹の口からあの子に……」
「その必要はありませんよ」
そしてきびすを返して出て行く。
「まったく、あの男はやりにくい」
数日後、菜月はバイトを辞めると。
「何故?」
「しばらく無断欠勤が続いたからだと思います。今月いっぱいで終わりなんです」
笑いながら言う。
「菜月、今日は帰りなさい」
「あ、はい」
今日もあまりいてほしくない、つまり素性を掴み、それが厄介だったという事だ。
「師父……」
連絡先くらい聞きたかった。
「私からは何も言わないよ」
意地悪げに返された。
「紅蓮様!!」
菜月がいなくて良かったと思った。唐突に疾風が本当の名前を呼びながら入ってきたのだ。
「疾風、ここでは……」
「も……申し訳ございません。朗報です!」
「は?」
陽光こと啓治もいぶかしんで顔を出した。
「やっとご返事がいただけたんです!」
「何の?」
もう、分からない。
「咲枝様を通じて樹杏殿からお話が!」
「何だって同じ支社内なのにわざわざ京都通すわけ?」
啓治が後ろで不思議そうに言う。
「だから厄介なんだよ、あの男は。意外に根回し上手だからね」
ひそひそと話す二人の会話を聞きながら、思う。祖母を通しての話となったらただ一つ、そして朗報という事は……。
「明日、東堂のホテルにてと!」
つまり承諾なのだ。奈落に落ちる感覚がした。
「紅蓮!」
啓治が驚いて声をかけてきた。




