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不思議な少女の忘れ物


 緋炎の寝ている部屋を出ると菜月が華弦に詰問されていた。

「一体、何者だ?」

「何でそんなこと聞かれなきゃいけないんですか?」

 菜月が怯えていた。

「いや、何者でもいい。これ以上緋炎に取り入ろうとするな」

「別に……」

「緋炎はお前を相手にしない。それだけは言っておく」

 菜月が俯いている。表情などまったく読めない。

「華弦、少し待ちなさい」

「白銀の呪術師」

 割って入っても菜月は一向に顔をあげようとしなかった。

「この子は私が雇っている。その時点でこの子が取り入ろうとしてる素振りはないよ」

 緋炎が鈍いため気がついていない。それに取り入ろうとするより、確認を取りたい、そんな感じが強い。

「菜月も何かの折に緋炎からきちんと話を聞いているようだ。だとしたら、取り入ろうと思うか?」

 あれだけ強い想いを口に出されて、それでも取り入ろうとするなら緋炎の表の顔を知っていることが前提となる。だが、菜月は知らない。

「しかもあれが防御壁を張っているだろう?それで話も進んでいない」

 これは二人にしか聞こえないように言う。

「菜月、君は帰りなさい」

「分かりました」

 震える声に反応したのは陽光だった。

 だが、全てを無視して部屋にいく。

「いっくらなんでも、華弦さんに詰問されちゃ、怖いっしょ」

 ため息をつきながら陽光が言う。

「華弦さん、美恵ちゃんに言っちゃいますよ?女の子泣かせたって」

「うるさい」

 細君に弱い華弦には堪える一言だ。

「俺から事情説明すれば問題ない」

 すぐさま吉雄がフォローを入れる。

「参ったなぁ……吉雄さん向けのって俺ないんですよね……いっそ二人でできちゃってるとか……」

 その瞬間華弦と吉雄から拳骨が飛んでいた。

「美恵ちゃんとかすっげー嬉々として……」

「嬉々とするのはお前の嫁さんだ!!」

 同時に二人が叫んだ。それと時を同じくして菜月がでてきた。

「大丈夫?」

「はい」

「じゃあ、お疲れ様」

 陽光にだけ一礼をして菜月は逃げるよう帰っていく。

「知らないっすよ?せっかく打ち解けてきたのに、元の木阿弥になったら」

「揺さぶりは緋炎の役目。それなりに想いを菜月が抱いているなら、それを利用させてもらう」

「分かったでしょ?こっちが諸悪の根源で、菜月ちゃんは巻き込まれただけです」

「確かに」

 そんな話をしていたら、緋炎が出てきた。

「身体、大丈夫か?」

「あぁ。丈夫なのが俺の取り柄だ。菜月は?」

 その言葉に華弦が驚いていた。

「ポーチの忘れもんだ。まだいるならと思ったんだが」

「帰ったよ。俺が自宅まで届ける?」

「あぁ」

 だが、そのポーチは血で汚れていた。

「これ、お前の血だろ?明日別の買ってきてやれよ」

「そうする」

 その日はそのまま暮れた。



 別に買ってきたポーチを菜月に渡すと不思議そうな顔をしていた。

「俺の血で汚れたみたいだった。だから……」

「気にしなくても、別に……」

 落ち込んでいる。

「何か、あったか?」

「何でもないです。そっちのポーチ、返してもらっていいですか?」

「は?」

「血は洗えば取れますから」

「いい。俺が落とす」

「え?」

「一応、一人暮らしは長いから、洗濯のやり方くらい分かってる。お前、血が駄目なんだろ?」

「でも」

「洗い終わるまで、そっち使っててくれ」

 無理矢理でも渡したかった。


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