不思議な少女の出た電話
月曜になり、また店に行く。だいぶ落ち着いてきたが、悪夢はおさまらない。
「どうしたんですか?」
あまりにも不機嫌すぎるせいだ。年下に気を遣わせていた。
「いや、お前の言う通りだなと」
「何がですか?」
「無事でいる可能性だよ」
終わったあと少しだけ話がしたかった。連中に言ったらどういう返事が返ってくるか分からなかった。だから菜月に言おうと思ったのだ。
「あの時お前は何気なく言ったんだと思う。だけどあいつが置かれている状況はまったくもってその通りなんだ。生きてるから無事とは限らない状況なんだ」
「え?」
「この間入れた情報が如実に物語っている。そいつの父親は色魔だと師父は言った。女とあれば見境無く手を出すと。そこまで言えば分かるか?」
「でも、その父親と一緒って……」
「すでに父親と共にあり、出ること叶わず。それが今の状況」
菜月の顔色が変わった。
「その父親の居場所が分からない。どうやっても調べられない。よほど手馴れが隠してるんだ」
「じゃあ、その情報の真偽も分からないってことじゃないですか?」
その言葉に驚いた。
「情報を信じるのも良いですが、自分の目で確かめないと駄目ですよ」
今度は慰められた。
戻ったときにはある程度ましな顔になっていたのだろう。待っていた三人が苦笑していた。
「で、今回は?」
「最近妖魔の数が多すぎる。門でも開いたのか?」
「いや、あちらのほうでも色々あるようでね。だから私もこうやって動いている」
「聖さんはしないんですか?」
「私?制約でね、出来ない。情報を入れて緋炎たちに渡す、それ位しか出来ないんだよ」
不思議そうにまた聖を見つめている。
「どうでもいいですけど、人使い荒すぎやしませんか?」
その言葉に黒龍が腹を抱えて笑い出した。
「そういうお人だよ、白銀の旦那は。諦めろ」
その言葉に菜月が納得しているあたり、警戒しているのかどうかが分からない。
「あ、今日ちょっと用事あるので、早めに帰ります」
「そういえばそんな事を前から言っていたね。緋炎か陽光、どちらか……」
「そんなに遅い時間じゃないので大丈夫です。失礼します」
こうやってみるとガードが固い。
「……訳わからんわ、あの子。なんて言うか……必死に素性隠してる気がする」
「隠す必要あんのか?そこまで」
「これを見る限り、なんら支障はないと思うが」
そう言って聖が書類を出してきた。華弦からの報告だという。
「歳の離れた兄と、保護者の四人暮らし。両親は不明……ここから推測される事は?」
「歳の離れた兄ってのも、血の繋がりは無いかもしれないということか?」
「緋炎、あたりだ。私はその可能性から色々推察しようと思っている」
――情報を信じるのも良いですが、自分の目で確かめないと駄目ですよ――
さっきの菜月の言葉が頭をよぎる。だが、華弦の情報が正確なのも知っている。
「……歳の離れた兄って、いくつ違うんだろ」
陽光の言葉に全員はっとした。
「そうか……歳がいくつか。それが分からない。菜月も歳が離れてるってしか言わない」
「歳の離れた兄ってのが実の父親とか?」
それもありえなくない。結局、菜月のことは振り出しに戻る。
通常の話であれば菜月はけたけたと笑って話をする。ことに陽光とは店番しながら話すようだ。これが黒龍の場合はそうもいかない。結構黙りこくっている。緋炎にはというと、少し警戒が解けてきたかなと思う素振りが出てきた。
「へ?あいつがロマンティスト?んなわきゃない」
「だって、なんかの折に後生大切にやく……むぐぐ」
店番だろうがなんだろうが、こんなところで話して欲しくない。速攻で口を塞いだ。
「おいおい、お前が塞いだら鼻毎塞がるぞ?そんなに聞かれたくない話なら、菜月ちゃんの前でもするなよ」
「やっかましいわ!!」
ちょうど、聖が呼んでいた。悔しいがここを立ち去るしかない。
「菜月ちゃん、えらい。あいつの図星ついたわ」
「え?」
「昔っからそう。図星指されるとああなるんだ」
菜月まで呼んでいなかったが、これ以上二人を一緒にしたらそれこそ次は酒の肴だ。
「気が利くと言いたいところだが、一体何を店番中に話している?」
「えっと、緋炎さんがロ……」
また口を塞ぐ羽目になるとは思っていなかった。
「緋炎、そんなに聞かれたくない話なら、するな」
そこまで菜月の口が軽いと思っていなかったのだ。
「女は基本口が軽い、違うか?」
その通りなのだが。ちょうど菜月の携帯が鳴り響いた。
「出ていいですか?」
「構わないよ」
「もしもし……うん。…………え?……えぇ?……はぁい。分かった。とりあえず言ってみる。あとでかけ直すから。じゃあ」
そして電話を切ってこちらを見据えてきた。
「あの……家で急用が入ったそうなので、帰っていいですか?」
「急用?」
「はい。いつもお世話になってなってる方がいらっしゃったそうなので」
「お世話になってる方?」
ただ菜月はこくりと頷くだけだった。
「あたし、その方のこと詳しく知らないので」
「なら仕方ないね。今日は帰っていい」
その言葉に一礼して菜月は帰っていった。
「あと、つけねぇのか?」
「つけても意味がない。帰る家はいつも一つ」
黒龍の言葉に聖があっさりと答える。
「だとそこを張ってるというわけか」
「のはずなんだが……引っかかる」
その日は出かけるといっただけに、一度家に戻ってから出かけたと報告が入る。ただ、出かけた先は不明。
「……何を隠す?あの少女は」
聖の警戒も強まっていく。




