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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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かみ、こう・りん!

 リサが中に入ると、闘技場には四体のとかげが現れた。

 それらは赤、青、黄、緑の四色に分かれていた。

 大きさは体長五メートル、体高三メートルと先程の者に比べれば小柄だが、人間が脅威を感じるには十分な大きさだった。


「リサの相手は何て言うんだ?」

「エレメントドレイクだ。あいつらは自分の色に応じた強力な魔法や技を使ってくる。今回ならば炎、氷、雷、風だな。見てくれはただの色つきトカゲだが、一匹退治するのに騎士団一個中隊必要な強さといわれている。Sランクで一匹を相手にするレベルだから、四体同時は妥当なところだろうな」

「リサ、大丈夫でしょうか……」


 三人が話している間にエレメントリザード達はじりじりとリサに迫ってくる。

 リサは眼を閉じ、その場にひざまずいた。


「……“愛されし子よ……」

「「「「グアアアアアア!!」」」」


 言い終わるが早いか、無防備なリサに四匹揃ってブレスを放った。炎が激しく揺れ踊り、地面は凍てつき、稲光が場内を駆け巡り、暴風が吹き荒ぶ。

 場内を覆いつくす四色の嵐にリサは成す術もなく飲みこまれ、中心には四色が入り混じった巨大な柱が天を貫かんばかりに聳え立つ。


「あううう……リサさん、間にあわなかったんですね……」


 ルーチェはリサの敗北を確信し、ガックリと肩を落とす。しかし、ジンはしばらくジッとリサの様子を眺めていたが、急にニヤリと笑いだした。


「いや、まだの様だぜ?」

「へっ? ああ!?」


 ジンの声につられてルーチェがリサの方を向くと、そこには全くの無傷のリサが居た。しかもかすり傷どころか、服もホコリ一つ付いていない状態だった。

 リサはそっと眼を開けると、その青い瞳は美しい金色に変化していた。


「……ふぅ……何とか……間にあったわね……」

『ふふ、久々に暴れられるという奴だな』

「そうね、正直レオばかりじゃ芸が無いし、ちょうど良い機会よね」


 リサの口からもう一つ、女性の澄みきった綺麗な声が聞こえてくる。それはまるで会話をしているようで、リサの中に誰かが居る様でもあった。

 リサは立ち上がるや否や、手にした巨大なハンマーを黄色いとかげに振り下ろした。


「グエエエエ!? ……シャアアアアア!」

「きゃあ!?」

『ぐっ!? ……ははは、やったな!?』


 エレメントリザードは一瞬ひるんだものの、即座にその反撃として跳びかかる。そしてリサの上にのしかかると、首筋に高電圧の牙を突き立てた。


「くっ……このおおおお!」

『それ!』


 しかしリサはそれを無理やり引きはがし、巴投げの要領で投げ飛ばした。何故か首筋には出血どころかかすり傷一つ無い。

 他の生物の鱗を切り裂く牙は、何故か人間の柔肌を引き裂くことが出来なかったのだ。


「これは……どうなっていると言うんだ……?」

「ふわぁ……」

「あんなリサ初めて見ました……」

「……何だこの違和感。俺が知ってる加護と違うような……」


 その様子を、ルネが困惑した表情で眺めていた。その横ではルーチェとユウナ、更にジンまでも同じような表情でその光景を見ていた。

 明らかに人間が受けると即死してしまうような攻撃を受けていると言うのに全く倒れる様子の無いリサが不思議でならないのだ。


「ぐぬぬぬぬ……お~いってえ……おお、あいつ盛大にやってんじゃねえか」


 周囲の混乱の最中、今まで伸びていたレオが起き上がってリサの戦闘の光景を見て、そんな事を言った。

 その言葉を聞いて、ルネが興味深げな表情でレオに眼をやった。


「レオ、リサが何やってるか分かるのかい?」

「ああ。神降しって言う奴で、神様の力が使えるようになるらしいぜ。何でも、試しにやってみたら出来たってさ」


 それを聞いて、ユウナを除く三人はその場で硬直した。


「……ちょっと待て。それ本気で言ってるのか? 加護じゃ無くてか?」


 頭を抱えながらジンはレオに問いかける。どうやらまたしても自分の常識の範疇を超えているようである。


「は? そりゃ適正があるなら出来なくはないだろうがよ?」

「そうですよね……神父様も祭りの時に良くやられてましたし……そう言えばジンはいつもその時は居なかったんでしたね」 

「き、君達は何を言ってるんだい? 神降しってそんな簡単にできるものじゃないだろう!? 僕が知ってるのは教会で何人も司教が集まって儀式するものだぞ!?」

「一つ間違えれば魂を対価に取られてもおかしくないのですよ!? それにこんなことに使うものではないのです!」


 何てことない様に答えるレオとユウナに、新参二人が噛みつく。

 東洋の世界にも、このように神を降ろすことのできる者は確かに存在する。しかし、それは多神教の八百万の神の中から一柱を呼び出しているために、余程強力な神を降ろさない限りは術者への影響は少ない。

 しかし、リサが信仰している宗教『ルクス教』は一神教であり、その神は当然ながら絶対的な力を持つのである。よって、それを呼び出すとなればそれ相応の対価を払わなければならないのである。

 それを何の躊躇もなくあっさり降ろしているのだから、リサの異常性が見て取れると言うものである。

 なお、その反応にジンが「うん、そうだよな。これが正しい反応だよな」等と言いながら涙を流して頷いている。

 それに対して、レオはため息をひとつ吐いて答えた。


「良いから見てろよ。……見てると笑えるぜ?」


 レオはそう言って闘技場の中のリサを指差した。

 リサは手にしたハンマーで四匹のエレメントリザードをまとめてぶっ飛ばしたところだった。


『ははははは! 久々の運動は気持ちが良い』

「ちょっと、何時まで遊んでるのよ。疲れるのはアタシなのよ?」

『良いではないか、我の力を存分に使えるのだからな。それにしても、お前ならばこの程度我の力を借りるまでも無いと思うが?』

「アンタたまに呼ばないと拗ねるでしょうが。お陰で一回レオの折檻に呼ぶ羽目になるし……」

『おお、レオと遊ぶのは悪くない。その時は呼んで貰おう』


 闘技場の真ん中で。自分の中の神と会話をするリサ。その間に敵達は体勢を立て直し、一直線にリサに突撃を掛ける。


「ぐっ……分かったわよ。さあ、早く終わらせるわよ!」

『言質は取ったぞ。では、終いにしよう』


 リサは手を前に突き出した。すると、その手に光が集まって来る。

 集まった光は柔らかく、それでいて力強いもので、いつしか烈光となっていた。


「“裁きの光よ(フォトンパニッシュ)”」


 リサがそう言うと、手に集まった光が奔流となってエレメントリザード達に向かって行った。

 相手は光に触れた瞬間音もなく消え、後には大きく抉れた地面と、打ち抜かれて四分の一程欠損した闘技場の壁しか残らなかった。

 それを確認すると、リサはゆっくりと観客席に戻ってきた。 


「おめでとうございま……「どうも」は、はい……」


 先程の受付嬢が現れ、リサにメダルを渡そうとする。

 リサは受付嬢が言い終わる前に無表情でメダルを取り、そのままメンバーのところへ戻ってくる。


「どう? アタシだってこれくらいできるわよ?」


 リサが自慢気に言うのを、全員複雑な表情で聞く。が、思っていた反応と違い、リサは小首を傾げる。


「な、何よ? もう少し驚くとかあるんじゃないの?」


 いかにも期待はずれといわんばかりのその言葉に、全員顔を見合わせる。


「だってねえ……」

「神降し自体は凄いとしか言えんがな……」

「……正直、インパクトで言えばレオの爆発の方が凄かったのです」

『何、レオはさっき闘っておったのか!?』


 ルーチェの一言を聞いた瞬間、リサから小さな幼女、もとい少女がそう言いながら飛びだしてきた。

 銀に輝く髪と神秘的な金色の瞳の少女は、レオの襟首を掴んで激しく揺さぶった。


「ええい、折角だからレオの試合も見たいと思っておったのに! おい、レオ! もう一度試合に出ろ!」

「ちょ、ちょい待て! ああああ脳が揺れるぅぅぅぅぅ!!」 


 レオは首を揺さぶっているものの首根っこを掴んで引き剥がした。すると、彼女はジタバタと手足を動かして抵抗を始めた。

 しかし、残念ながらその攻撃はリーチが足りず、空を切るばかりであった。


「この、放せ! 我を何だと思っておる!?」

「神(笑)」

「貴様ーーーーー!!」


 眼の前で交わされるアホな会話にぽかーんと呆けるジンと新参者二名。その三人を尻目にユウナは取っ組み合いになっている二人を宥めに入る。


「こらこら、アーリアル様も落ち着いて下さい。レオも、そろそろ放してあげなさい」

「むぅ……仕方がない。だがレオ、貴様には後でたっぷり付き合ってもらうからな」

「へいへい、しっかりお相手させてもらいますよっと」


 すぐにアーリアルと呼ばれた少女は抵抗をやめ、レオは彼女を地面に下ろした。

 その彼女に、ルーチェが真っ青な顔で恐る恐る声を掛けた。


「あの……アーリアル様はルクス教の主神のあのアーリアル様なのですか?」

「うむ、確かに我がそう言う事になっておるアーリアルだ。それがどうかしたのか?」


 アーリアルはレオの肩によじ登りながらそう答えた。それに対し、レオが口を開く。


「おい、何で俺の肩に乗ろうとすんだよ?」

「し、知らないものに見下ろされると怖いではないか。この中で背が高いのはレオかそこの男だけならば、こうするのがベストであろう?」

「いや、怖いではないか、ってよぉ……」


 肩車の状態でレオの頭をアーリアルは抱え込んだ。その見た目は、娘を肩車している父親そのものだった。

 その光景を見て、ルネは複雑な表情を浮かべながらアーリアルに話しかけた。


「で、だ。こうやって神降しをしているならば対価が必要なはずだけど、その対価は一体何だい?」

「思いっきり暴れさせる事だ!」


 ルネの質問に対するアーリアルの答えに、事情を知らない三人はガクッと崩れ落ちる。

 あまりに神のイメージからかけ離れている彼女に、ジンは抗議の声を上げた。


「ちょい待てぃ!! 仮にも一宗教の主神ともあろうものがそんな対価でええのんか!?」

「我が良いと言うのだから良いに決まっておるだろう! 大体どいつもこいつも神託だの祭事だのつまらん事に呼びおって! 自分の将来くらい自分で考えんか、虚け者共め!」


 ジンのツッコミに、怒り心頭といった面持ちでレオの頭を殴りながらアーリアルは返答した。


「いてぇ! オイコラ、人の頭を殴るんじゃねえ! 降ろすぞ!」

「す、すまん。興奮してつい……周りが怖いからこのままで居させてくれ」


 レオが怒鳴ると、アーリアルは少し涙眼になりながらレオの頭を抱え込んで謝った。

 それを見て、ジンの肩から一気に力が抜け落ちた。


「はぁ……我が国の最大宗教の主神に謝らせるレオって一体……」

「いや、主神と知ってなおツッコミを入れられるジンも大概だと僕は思うけどな?」

「というより、エストックの村ってこんな人ばかりなのでしょうか……」

「?」


 ルーチェとルネはユウナを見る。ユウナは何で視線を向けられたのか分かっていないようだった。

 続けてジンを見ると、ジンは言いたい事を察したのか力なく首を横に振ったのだった。


神様や悪魔の容姿とか事件を誰がどうして考えたのだろうか本気で考えたくなる時がある。

蝿の姿をした悪魔だの、8本足の馬とその逸話とかさ。

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