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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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あたらしいめんどうごと

 「……はぁ……はぁ……」


 とある薄暗い部屋の中に、熱のこもった吐息が響く。

 その音源となっているのは、亜麻色の髪の少女。

 少女は一糸まとわぬ姿でベッドに横たわっており、発育途上の、それでいてしっかりと色を感じさせるボディーラインを晒していた。

 その顔は赤みを帯びていて、どこか恍惚とした表情を浮かべている。


 「……はぁ……はぁ……ク、クルード……」


 少女は切ない声でベッドの隣においてある椅子に座っている男に呼びかけた。


 「キ、キキ……どうしたぁ、シャイン……」


 声をかけられた男はにごった黄色い瞳を、少女に向ける。

 すると少女はゆっくりと体を起こし、男に向かって手を伸ばした。


 「……こ、こっちに……」


 幼さを残す可愛らしい顔に熱に浮かされたような表情を浮かべ、少女は男をベッドに引き寄せる。

 それに対して、逆に男が強引に少女の細い腰を抱き寄せる。


 「……あっ……♪」


 「キキッ、キュートなやつめ……あれだけやったのにまだ足りないのかぁ? イイぜぇ、満足するまで付き合ってやろう……」


 「あっ……ふぁぁ!?」


 男は昏い笑みを浮かべながら少女の背中を指でなぞり、絹のような白い素肌の首筋に舌を這わせる。

 すると少女は色香を多分に含んだ声を上げ、男の腕の中で体をくねらせた。

 力の抜けた少女をベッドに横たえ、男はその上に覆いかぶさる。


 「……はぁ、はぁ、も、もっと……」


 そんな男に、少女は熱い視線を送りながら男に懇願する。

 それを見て、男は薄く笑みを浮かべた。


 「キキキ……ずいぶんと俺様に溺れたなぁ、シャイン? ん?」


 「んっ!! んあっ!?」


 耳から首筋にかけて再び男は舌を這わせ、ボディーラインを指でなぞる。

 そのたびに、少女は途切れ途切れの声を上げ、男を抱く腕に力をこめた。

 その翡翠色の瞳に浮かぶのは喜悦だった。

 しばらくすると少女の体から力が抜け、ぽてっとベッドの上に身を預けた。


 「キキッ、シャイン……本当に可愛い奴め……そうだ……もっと俺様に溺れるがいい…………()に溺れて、()が物となれ……クククククク……」


 「……はぁ……はぁ……」


 暗い部屋の中に、男の低い笑い声と、少女の熱い吐息がこだました。



 *  *  *  *  *



 ジンが目を覚ますと、周りにはパーティーメンバーが全員そろっていた。

 場所は自分に割り当てられた部屋であり、パーティーメンバー以外の人間はそこにはいなかった。

 そして、そこには異常な緊張感が漂っていた。


 「……どうしたんだ?」


 ジンが訳もわからずそうつぶやくと、その中から一等ピリピリした空気をまとった人物が近づいてきた。


 「ジン、貴様に訊きたい事がある。町の中で、突然奇声をあげて常識では考えられない行動をしたやつはいなかったか?」


 その人物、アーリアルは真剣みを帯びた金色の眼でジンを見据えながらそう訊ねた。

 ジンはその問いかけの意味を考え、それを悟って眼を細めた。


 「……アンタがそれを言うってことは、まさか出たのか?」


 「ああ、出おったわ。しかも、どこぞに良い媒体でもおったのかそれに憑依する形でな。……心当たりは無いか?」


 「……あるぞ。しかも、道連れがいる状態でな」


 ジンがそういうと、アーリアルは顔をしかめ、目尻を抑えた。


 「くそっ、何ということだ……」


 「あの、アーリアル様? いったい何が出たんですか? 説明をしてもらえないと私たちは分からないんですが……」


 一人で呟くアーリアルにユウナが声をかける。

 アーリアルはそれに対し、首を小さく横に振った。


 「……どうもこうも無い。下手をすればこの街を滅ぼしかねんような奴が現れたということだ」


 「何だって!? いったい何なんだい、それは!?」


 アーリアルの一言に、声を荒げるホビットの少女。

 それに対して、ジンは群青色の頭を抱えて天を仰ぎながら答えた。


 「堕ちた神様、邪神だ。……まさか、街中に堂々と出てきてるとは思わなかったがな……しかも、こんな面倒くさいタイミングでなぁ……」


 「ふ、ふぇええ!? そ、それが本当なら洒落にならないのです!! どうするのですか!?」


 長い耳をビクッと跳ね上げて動揺するルーチェ。

 それをジンは手で制する。


 「いきなり邪神を相手にすることになって焦るのは分かるが、少し落ち着けよ。それはともかく、相手がどんな奴かの見当はついてるんだろ、アーリアル?」


 「うむ、降りてきたのは狂気の邪神、クルーエル。こやつはとんでもない快楽主義者でな、何をしでかすか分からぬ。単体でも十分危険な奴なのだが、憑いた人間如何によっては、大惨事を引き起こしかねん」


 アーリアルが邪神の詳細を口にすると、ジンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


 「……それはまずいな……そいつがとり憑いたのは、クルードだぞ。突然奇声を発したかと思えば、シャインを担いでありえない速度で走り抜けて行ったから、ほぼ間違いないだろうな」


 「……あの暗殺者か。であるならば覚悟をするのだな、ジン。おそらく、今までのそやつが善良に見えるようなことをしでかすやもしれんからな」


 「あの、それって例えばどんなことをしたんですか?」


 「過去にクルーエルがやったことといえば、単体では村人全員を狂気に堕として滅びるまで殺し合わせ、人に憑けばその人間が持つあらゆる方法で気が済むまで人を破滅させた。今回の暗殺者ならば、城の人間すべての命を人質にしてジンやレオの命を狙ってくるであろうな」


 「最悪じゃねーか……そりゃマジでこの街が危険だわ……」


 アーリアルが挙げた事例に、レオが右手で顔を覆い天を仰ぐ。

 そのレオを尻目に、アーリアルがジンに対して問いかけた。


 「ところで、何故目の前にいながらクルーエルの存在に気付けなんだ? ジンほどの者ならば、目の前に神がくれば分かりそうなものなのだが?」


 「それがなぁ……まったく違和感を感じなかったんだよなぁ……たぶん、クルードとその邪神の親和性が滅茶苦茶高くて、それで何も感じなかったんだとおもう」


 「そう言えば、シャインはどうなるんだい? クルードが邪神に取り憑かれたんなら、彼女も無関係じゃないはずだろう?」


 ジンとアーリアルが話している横から、ルネがライトブラウンの髪を弄りながら二人に質問を投げかけた。


 「それは宿主がそやつにどのような感情を向けているかによる。何とも思っていないようならば恐らく殺されるだろうし、寵愛を受けているのならば眷族として力を受けることであろう」


 「それならばほぼ間違いなく眷属と化しているはずだ。何せ、絶対に捕まりたくない相手から逃げている最中にUターンして助けに行くぐらいだ。下手すりゃ半身を与えられている可能性もあると思うぞ」


 アーリアルのルネに対する回答に、ジンが相手の状態に関して補足情報を入れる。

 それを聞いて、ルーチェはこめかみに人差し指を当てて考え始めた。


 「ということは、少なくとも二人はクルーエルの配下になるわけなのですか。襲ってきたらどうするのですか? はっきり言って邪神クラスの相手なんて私は無理なのです」


 「そりゃもう決めてある。クルードは俺一人で抑えるから、残り全員でシャインにかかれ。以上」


 「待ちなさい!! ジン一人で行くのは危険です!! 誰か一緒に行くべきではないのですか!?」


 ジンの作戦を聞いて、ユウナが即座に反対した。

 それに対して、ジンは首を横に振った。


 「そうは言うけどな、お前ら邪神と戦ったことないだろ。邪神は必ず強い瘴気を発している、耐性のない奴がまともに浴びると狂うぞ?」


 「ジンの言うとおりだ。特に、クルーエルは瘴気と共に狂気も振りまいておるからな。この中でそれに耐えられるのはジンだけであろう」


 ジンの発言を肯定するようにアーリアルが言葉をつなげた。

 すると、レオが大きくため息をついた。

 

 「んなこと言ってっけどよ、低級の神でもそこらの魔物共とは比べもんにならんくらいつええんだぜ? 勝算でもあるのかよ?」


 「あるともさ。そもそも、そいつを倒すのが今の俺の本業なんでね。俺は勝てなきゃお仕事にならんのさ」


 「……ちょっと、本業ってアンタ冒険者でしょ? どっかの迷宮で宝探しとかするのが本来の仕事じゃないの?」


 不敵な笑みを浮かべてそう言うジンに、リサが腕を組みながら質問を投げかけた。

 すると、ジンはキョトンとした表情を浮かべた。


 「あれ、言ってなかったっけか? 俺の本業はトレジャーハンターでも傭兵でもなくて、狩人なのさ。それも、邪神専門のな」


 「邪神専門って……それじゃあ、あんな危ないことをずっと続けているんですか、ジン!?」


 「ああ。誰かがやらんといけないことだし、俺としても願っても無い機会だからな。それに、あんな条件の悪い戦闘なんて滅多に無いぞ」


 飛び掛らんばかりの勢いでジンに詰め寄るユウナ。

 ジンはそれに対して淡々と答えた。

 その回答に、リサは深々とため息をついた。


 「ジン……アンタ、ホントに何を目指してるわけ? 人間の身分で神様を倒すなんて、英霊にでもなるつもり?」


 「リサ、ジンはもう英霊以上の存在になることは確定しておるぞ? 天界にいたときでさえ、ジンの名前は過去最高にして最狂の神殺しとして話に上るほどであったからな。大体それが目的であるならば、敵の大軍に突撃をかけて生還した時点で達成しておる。はっきり言って、ジンが何故そこまで強さを求めるかなど我には理解できぬよ」


 そう言ってアーリアルは首を横に振った。

 その横で、ルーチェがアーリアルに声をかける。


 「でもアーリアル様、邪神を倒した英雄はかなり古い時代になるのですけどいたはずなのです。何でジンが最高と言い切れるのです?」


 「む? それはあれだ、複数名で挑んだ他の英雄たちと違い、ジンは一人で神に挑んだからだ。それも、世界を揺るがすような強大な神にな。もはや戦好きもここまで来れば狂気の沙汰であろうよ。そして屈服させたのだ、天界は大騒ぎになったものだぞ?」


 「そんときゃこっちもほぼ死に体で命からがら帰ったもんだがな。まあ、これからは仲間もいることだし、その分楽させてもらうさ。そのためにも、今回眷属を相手にして瘴気になれてもらわんとな」


 アーリアルの言葉に、ジンは当時を思い出して深々とため息をついた。


 「それじゃあ本当に君は何を目指してるんだい? 大体、邪神なんて存在は知られていてもそう滅多に出てくるものじゃないだろう? そりゃあ見つかれば大騒ぎになるだろうけど、強くなるためだけにそれを追い求めるなんて正直どうにかしてるよ。ほかに何か目的があるんじゃないかい?」


 ジンの言葉を聴いてルネがもう一度疑問を投げかける。

 ジンはその質問に再びため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。


 「……まあ、無いとは言わない。むしろ、それがあるから俺は邪神狩りなんてやっている。ただ、その理由は今のお前たちには言えないな」


 「……テメェ……それはどういう意味だ?」


 睨み付けてくるレオの視線を受け流して、ジンは話を続ける。

 もっとも、ジンの発言に反感を覚えたのはその場にいた全員なのだが。


 「別にお前たちのことを信頼していないわけじゃあない。ただ、俺の目的を話すには今のお前たちじゃ力不足だ。だから、俺はお前たちに話すわけにはいかないし、言える様になるまで成長させなきゃならん。心配せんでも、時が来ればちゃんと話すさ」


 「……どうしても言えないんですか?」


 「言えないな。特に、エストックからの付き合いの連中にはな」


 真正面から鳶色の瞳でジンの眼を真剣な表情で見つめるユウナ。

 その眼をしっかりと見つめながら、ジンは答えを返した。


 「……言いなさい」


 「断る」


 「……言いなさい!!」


 言おうとしないジンに痺れを切らしたリサが、ジンにハンマーで殴りかかる。

 しかし、ジンはその場から動くことなく、素手でハンマーの起動をずらすことで回避した。


 「……やはりまだダメだな。リサは少しまっすぐ過ぎる」


 「ッ……アンタ……!!」


 「だから、話さないとは言ってないだろ。まだ言うには早いってだけで、時期が来れば絶対に言うさ。第一、俺の目的だけを気にしてればいいって訳でもないだろ? その前にやらなきゃいけないことは沢山あるんだ、先にそっちを終わらせないとな」


 怒り心頭といた表情で瑠璃色の視線をぶつけてくるリサに、ジンはそういって返した。

 そんなギスギスした空気の中、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 「ジンの兄さ~ん、何か白衣の兄さんが話があるって言ってるっスよ~。談話室のバルコニーにいるって言ってたっスよ~」


 ドアを開けてそう言いながらエメラルドグリーンの妖精はそう言った。

 ジンはそれに対して頷いた。


 「分かった、すぐ行く。……まあ、色々と言いたいことはあるだろうが、今はこれで我慢してくれ。じゃ、また後でな」


 ジンはそう言って部屋を出て行った。

 後に残されたメンバーはどこと無く落ち着かない様子で、幼馴染組みに至っては揃いも揃って不機嫌な表情であった。


 「……ジンの旅の目的って何なのでしょうか?」


 「さあね。でも、その話題があがったときのジンの表情を見る限りじゃ、あんまりいい目的じゃあなさそうだけどね。まあ、少なくとも何か邪神が関わってることは間違いないだろうな」


 ルーチェの質問に、ルネは若干投げやりに答えた。

 何だかんだで、ルネもジンの言葉が不満だった様だった。



 ジンが狩人だと忘れていた者、素直に挙手。

 ……ああ気にすることはない、かく言う私も忘れていてね。

 プロットにも書いてなくて自分で1話を見て思い出したんだ。


 そんなわけで、今回は暗殺者さんの狂化と、ジンの旅の目的少しでした。

 ……最近ギャグ空間の多様のし過ぎのせいか、シリアスにできているか不安だ……


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

 また次回会いましょう♪

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