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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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えいゆうさんともとさんぼう

 混沌とした会合を終え、レオがエルフィーナとアーリアルと国王、そしてジャッジメントのリサにドナドナされていったのを見送った後、しばらく予定がなかったジンはフランベルジュの町に出ていた。

 その理由は、依頼後の長旅に備えて買い物をするためであった。

 ジンは変装して町の商店街をめぐり、食料品や医薬品を買いそろえていく。

 食料品は日持ちをすると同時に、少し高価でも栄養価の高いものを選んで買っていく。

 医薬品は主にアーリアルが対応できない病気の治療薬を中心に買うが、この薬は高価なため必要最低限を揃えるのみにする。


 「……これは少し早まったか……?」


 そして買い物を終えた時、ジンは軽く絶望感を覚えた。

 気が付けば荷物の量は大変なことになっていたからだ。

 麻袋6袋分の荷物は殆どが食料である。

 その重さ、実に50kg。

 この大半はルネの腹の中に消えることであろう。


 「どうすっかな……流石にこれを全部担いで歩くのは目立つよなぁ……」


 ジンは山の様な荷物を見て途方に暮れた。

 しばらく考えてため息をつくと、溜め息と共に麻袋を一つ担いで歩きだした。

 どうやら分割して運ぶつもりのようだ。


 「……エレンに“亜空の扉(アナザクレム)”教えてもらおうかね……」


 ジンは亜空間を繋ぐ魔法の利便性を思い出して再びため息をつく。

 しかし、良く良く考えたらあの簡単なようですごく複雑な術式の魔法を短期間で使えるようになるわけがないと考え、思考を破棄する。

 なんだかんだでエレンは優秀な魔導師なのである。


 「ふぅ……まずは一つ目」


 ジンは繰り返し荷物を置いた場所と自室の間を移動し、買い込んだ荷物を運びこむ。

 何度か往復したのち、ジンは最後の一つを運び込むために街に出た。


 「……そうだな」


 ふと、ジンは近くにあった裏路地に入った。

 裏路地に入ると変身を解き、路地の隅にある木造の古びた雑貨店の中に入っていく。

 蜘蛛の巣を払いながら中に入ると、ジンはその部屋に置いてあった、売り物のひび割れたハンドベルを鳴らした。

 すると、店の奥のドアが開いた。

 ジンはその開いたドアの奥に進んで行く。

 その先にあったのは、壁紙がはがれかけていて、中には大量のファイルが積み重ねられた机と、数々の薬品が並べられた棚が置いてある部屋だった。

 部屋の一角はベッドが置いてあって、医療器具が揃えてあった。

 その中では一人の男がソファーの上に寝っ転がって新聞を読んでいた。

 男は新聞に目を通したまま、気だるそうに深々とため息をついた。


 「……何や、客か? うちの店は一見さんお断りやで?」


 「残念、そういうことならアンタの休憩時間は終わりだな」


 ジンが男の言葉にそう返すと、男はゆっくりと体を起こした。

 寝ぐせだらけの黒い髪を掻きながら客に目をやると、男はがっくりと肩を落とした。


 「……堪忍しいや……何でオドレがここに来るんや……」


 「まあそう言うな、リカルド。今日は仕事を持って来てやったんだからな」


 リカルドと呼ばれた黒髪の男は、ジンの言葉にイラッ☆ときた。


 「やかましいわドアホ!! 大体オドレとその師匠が持ってくる仕事はロクなもんないわ!! おかげで何回騎士団に捕まりそうになったと思っとるんや!!」


 リカルドの文句を聞いて、ジンはその場で頭を下げた。


 「……その節は本気ですまんかった。うちの師匠が騎士団殴り込みとか滅茶苦茶やるから……」


 「オドレも大概や!! 何やねんな、師弟揃って任務中に喰い逃げしいの、緊急の呼び出しがあったかと思えば拾い食いして食あたりしいの!! んな下らんことにワイを付き合わすな!!」


 「その文句は師匠に言えよ!! 師匠が文無しだと知ってたら俺全力で止めてたって!!」


 リカルドの追い打ちにジンが反論した。

 しかし、それはリカルドの怒りの炎を鎮火させるには至らなかった。


 「知らんわボケ!! その後ワイをオドレ等の旅について行かざるを得んようにしおったことを忘れたとは言わせへんぞ!! あのパーティーが解散してここに帰り着き、地盤を築き直すまでの苦労ときたらもう……!!」


 握りこぶしを作りながらリカルドはこれまでの苦労を思い出して男泣きをした。

 ジンは溜め息をついて首を横に振った。


 「まあ、それはさておき依頼をしたいんだが良いか?」


 ジンのその言葉を聞きながら、リカルドはよれよれのジーンズから煙草を取り出し、皺だらけのワイシャツからマッチを取り出して火を付け煙を吸い込み、紫煙を吐きだした。


 「……ええぞ。そろそろ仕事せんと、もう煙草代も払えんくなっとるからな。で、仕事はどっちや? 情報屋か? それとも医者か?」


 「依頼は情報屋だ。まずはウォッチャーについて調べて欲しいんだがどうだ?」


 ジンが依頼の内容を口にすると、リカルドは再び吸っていた煙草の煙を吹いた。


 「何や、オドレもウォッチャー探しか?」


 「まあ、ちょっとした依頼でな。それがどうかしたのか?」


 「ちーっとばかり前に依頼があってな、その情報に関してはもう集めとるんや。そしたらな、最近そのウォッチャーを探しとるから居場所を調べろっちゅう依頼がそこらじゅうでされた見たいなんや。干されとるはずのワイの所にも来るくらいや、やっこさん相当必死に探しまわっとる見たいやったで?」


 リカルドの言葉にジンは首をかしげる。


 「みたいやった? どう言うことだ?」


 「それがな、今朝方依頼主がうちんとこ来てな。依頼を撤回させて欲しいと頼みに来たんや。探す必要が無うなったと言うことらしい」


 「……そうか。で、現時点でウォッチャーに関する情報はどんなのがある?」


 「チョイ待っとき、今取ってくる」


 リカルドはそう言うと、机の上のファイルの山からその内の一つを抜き取った。

 そのファイルには、『ウォッチャー関連』と書かれていた。


 「待たせたな、これや」


 「ん、これ代金な」


 ジンはそう言うと金貨を2枚手渡した。


 「まいど!! ほな、読み終わったらあの棚に直しとき。ワイはそこで寝とるからな」


 リカルドはそれを受け取るとさっきまで寝ていたベッドに戻っていく。


 「あいよ」


 ジンは受け取ったファイルに眼を通す。

 中身を調べていくが、その情報に目新しいものは無くエレン達が調べたことと一致していたので、ジンはファイルを閉じた。


 「……ふむ……おい、リカルド。ここに書いてある情報、どうやって集めた?」


 「オドレはアホか? 情報収集の方法は情報屋の命綱やぞ? そう簡単に教えるアホは居らん」


 ジンの質問に、リカルドはソファーで寝っ転がったまま紫煙を吐きだす。


 「それもそうか……で、他の情報屋の情報はどうだ?」


 「ワイも回っては見たが、どこもあんま変わらへんな。何なら紹介状書いたるから他の所も回って確認してみいや」


 リカルドはそう言うとソファーから起き上がり、近くに置いてあった灰皿で煙草の火を消した。


 「そいつは助かる。それじゃ、紹介状頼むぞ」


 「おう、その代わり代金は弾んでもらうで♪」


 弾むような口調でそう言うリカルドに、ジンは疲れたように肩を落とす。


 「……金取るのかよ」


 「当たり前じゃドアホ!! 商売敵に客を渡すんや、それ位せんと割に合わんわ!! そこのベッドにでも座って待っとれ!!」


 リカルドはそう言うと、机に向かっていった。

 ジンは書き終わるまでの間、言われた通りベッドに座って待つことにした。


 「出来たで。こいつを見せれば大体の情報屋は回れんで」


 しばらくして、リカルドがそう言って一枚の紙を手渡した。

 ジンはそれに対して金貨を3枚支払って受け取る。


 「恩に着るぜ、リカルド。……ところで、もう一つ依頼したいことがあるんだが、良いか?」


 「ん? 何や?」


 それなりの稼ぎが入ってホクホク顔のリカルドが、ジンの言葉に注意を向ける。 


 「この町に居るんだが、クルード・ベトラとシャイン・シクストの隠れ家と動向について調べて欲しいな~……なんちゃって」


 笑いながらそう依頼をするジン。

 それを聞いて、リカルドの顔から血の気が一気に引いた。


 「オドレはワイを殺す気か、おお!? あんなもんに関わったら首と胴体が泣き分かれしてまうわ!! ついこの間も、その関連で情報屋に仏が出とるんやぞ!?」


 「あ、やっぱり……?」


 予想通りの返答に、ジンは苦笑いを浮かべた。

 その一方で、ぜーはーと息を吐くリカルドは、ジンに質問を投げかけた。


 「……で、何で『光と影』の二人が出てくるんや?」


 「いやぁ、実はついこの間その二人に襲われましてなぁ……」


 「……よう生きとったな、オドレ……ってチョイ待ち!! と言うことはオドレは今城勤めをしとるんか!?」


 ハッと思いついたかのようにリカルドはそう叫んだ。

 なお、城がクルードとシャインに襲撃されたのは今朝になって手配書が出ているため、とうに知られているのだった。

 ジンはそれに対して頷く。


 「ああ。すこーしばかり面倒なことに巻き込まれてな。現在雇われの身と言う訳だ」


 「読めたで。オドレお姫さんがウォッチャーに付きまとわれとるさかい、その護衛で雇われたんやな?」


 「ご明察、その通りだ。俺の雇い主は確かに王家さ」


 「それだけやないな。そこに光と影が絡んでくるっちゅう事は、実際にはもっと面倒なことに巻き込まれとる。そんなとこやろ?」


 「流石は元パーティーの参謀。良く分かってらっしゃる」


 ジンの置かれている状況を次々と当てていくリカルド。

 ジンはそれに対して感嘆の念を込めて頷く。


 「……オドレと言う奴は、ホンマに国家が絡むと碌なことにならへんな……」


 「言うなよ……実際呪いが掛ってんじゃないかと思うぜ、本当に……」


 ため息交じりのリカルドの言葉に、ジンは滝のような涙を流した。


 「で、用事はこれで全部なんか?」


 リカルドの問いに、ジンは即座に泣きやんで考え出した。


 「ん~……そうだな、後は薬の調合を頼みたいな」


 「何の薬や?」


 「即効性のある二日酔いの薬と胃薬」


 「なんじゃそりゃ……」


 「……深刻な問題なんだ……」


 ジンの注文を受けて唖然とするリカルドと、そんなものを注文する羽目になったジンの溜め息が重なる。

 しばらくして、リカルドは大きくため息をついた。


 「……何や知らんけど、苦労しとるんやな……チョイ待ち、そんくらいならすぐに作ったる」


 そういうと、リカルドは部屋の隅の薬だなの所で薬の調合を始めた。

 しばらくすると、リカルドは大量の薬包紙に包んだ薬をジンに手渡した。


 「出来たで。こっちの緑色が二日酔いの薬、こっちの黄色が胃薬や」


 「サンキュ。それじゃ、俺はこれでお暇するとしようかね」


 ジンは代金を支払って薬を受け取ると、出口に向かって歩いて行く。

 外に出る寸前、ジンはふと立ち止まって口を開いた。


 「……なあ……リカルド、また俺と一緒に来ないか? 腕の良い医師がいるとこの先助かるんだが……」


 ジンはソファーに座っているリカルドに後ろから声をかけた。

 それを聞いて、リカルドは煙草を取り出して火を付けた。

 リカルドは煙を大きく吸い込んで、天井に向けて吐き出した。


 「……ドアホ、ワイはオドレみたいに世界を飛び回れるほど若くは無いんや。実際の年齢の問題やない、気持ちの問題や。パーティーが解散する羽目になったあの一件、ワイには思った以上に堪えとるみたいなんや。それに、ワイは今の暮らしが気にいっとる。今さら旅に出る気はあらへん」


 リカルドのその言葉に込められた感情は、心の底から安息を求めるものだった。

 その返答に、ジンは肩を落としてため息をついた。


 「そうか……気持ちが変わったらいつでも言ってくれ。歓迎するぜ。じゃあな」


 「おう。達者でな、ジン」


 リカルドはソファーに座ったまま、振り向かずにそのまま手を振った。





 「……まあ、うちが持っている情報はこんなもんだねぇ」


 「そうか……」


 それからジンはリカルドの紹介状を持ってそこら中の情報屋を回った。

 しかし、得られた情報はどれもリカルドと同じような情報ばかりだった。


 「しかし、これはどう言うことだ……?」


 ここまでの情報を整理していたジンは、何か妙な引っかかりを覚えていた。

 そして、しばらく考えていたジンは、情報屋に質問をすることにした。


 「……一つ質問がある」


 「何だ?」


 「聞きたいことはこれだ――――」


 その後、ジンは今まで回っていた情報屋全てにその質問をした。

 するとその答えは、


 「……何故それを知っている?」


 「お、良く分かったな」


 「驚いたな、その通りだ」


 と返ってきた。

 これによって、ジンはとある確信を得た。


 「なるほどな……となると確証は無いが、辻褄は合う訳だ。……何だか、いきなり妙な方向に話が流れてきたな……」


 ジンはそう言いながら最後の荷物を運ぶべく、荷物を預けていた店に向かっていた。

 すると突然前から、


 「ひぃぃぃぃぃぃ!!! く、来るなあああああああああ!!!」


 「ヒャッハアァァァァ!!!! 犯罪者は消毒だぁ!!!」


 「犯罪者などSATSUGAIしてくれるわ!!!!」


 「や  ら  な  い  か」


 必死の形相で走る男と、何やら名状しがたい三人組が走ってきた。

 言葉から考えるに、逃げているのが犯罪者で、追いかけているのが警邏の兵士(?)であろう。

 その光景を見たジン曰く、


 「な、何というカオス……」


 更に言うなら、捕まったら法の裁きよりもえらい目に遭うことは明らかである。

 そんなものに関わりたくないので、ジンは即座にわき道にそれた。


 「……国王と言い、騎士と言い、この国はどうなって「ぎゃああああがっ、アッーーーーーー!!!」……うわぁ……」


 ジンが惨状を覗き見ると、男は頭から流血させて炎上しながら尻を押さえて悶絶していた。

 すると近くにいた救急隊が駆け付け、即座に病院に運ばれていった。


 「……まずは冥福を祈ろう」


 ジンは眼を瞑って黙祷をささげると、踵を返して荷物を取りに行こうとする。

 しかし、振り返った瞬間ジンは固まった。

 何故なら、目の前の通りを横切っていくグレーの服と黒いマントと白い髪を見つけたからだ。


 「…………」


 ジンは無言で後をつけることにした。

 標的の男、クルード・ベトラは何か良いことがあったのかルンルン気分で街中を歩いている。


 「キキッ、チミチミ、帽子が3ミリずれてるゾ? そこはしっかりアテンションぷりーず!! キーキキキッ!!」


 「なっ!?」


 クルードは道行く人のかつらのズレを指摘して、スキップしながら道を進んで行く。

 ジンはそのあまりにお気楽な行為に、若干呆れながら追跡を続ける。

 その他にも、


 「オゥ、そこのアナタ!! 鳥がとまりましたね!? んん、どこに? 止まってるじゃな~い、アナタの眼もとにカラスが!!」


 「ンッン~、実に美味そうなおべんとだね♪ きっと食べたらクライシス!!!」


 「あ~チミチミ、あんま難しいことばっか言ってっと、すぐに頭がシャァァァイニィィィングゥゥゥ!!!!」


 と、対象を見つけてはとんでもない暴言を吐きまくるクルードだった。

 そのたびに、クルードのご機嫌はうなぎ登りである。


 「……ホント、何やってんだあいつ……」


 ジンはクルードのあまりの暴挙に疲れた表情を浮かべ、大きくため息をついた。

 すると、


 「……ぐっ!?」


 突然ジンに向かってナイフが飛んできた。

 ジンはかろうじてそのナイフを叩き落とす。


 「……キ、キキッ、い~けないんだ~いけないんだ~♪ 俺様の後をつけようなんざ、いわゆる思考のミステイク!!」


 そう言いながら、クルードはゆっくりとジンの方に振り向いた。

 ジンはとっさに辺りを見回した。

 気が付けば、辺りに人のいないスラムの裏路地に誘い込まれていた。


 「……ちっ、いつから気が付いていた?」


 「ンッン~♪ チミが変な三人組を見ていたところから♪」


 ジンの問いかけにしてやったりと言った表情でクルードは答える。

 つまり、最初からジンを罠にかけるつもりでいたのだ。

 それに気づいたジンは、溜め息をついて首を横に振った。


 「……はぁ……つまり、してやられたってわけだ」


 「イェス、ザッツライッ!! さてさて、今日こそ引導を渡しちゃうぞ~ジン!!」


 くすんだ褐色の影はマントからナイフを取り出してジンに立ち向かう。


 「……逃げられると思わない方が良い」


 亜麻色の髪の光は青い甲冑に身を包み、盾と剣をもって隙を窺う。


 気が付けば、前にクルード、後ろにシャインが立っており、ジンは路地で挟み撃ちを受ける形になった。

 しかし、武器を取り出して構える二人に対して、ジンは思わず笑みを浮かべた。


 「くくっ、その前にお前ら俺を倒せるつもりでいるのか? 昨日なんか二人がかりであのお粗末っぷりだろ?」


 「キキッ、あの時と今は関係ナッシン!! 何度も逃げ切れると思っちゃ、ダメ☆ダメ!!」


 「……倒せるかじゃない、倒す」


 昨日の失態を挽回しようと意気込む光と影。

 その二人に対し、ジンは背にした銀の大剣を抜くと獰猛な笑みを浮かべた。


 「面白い!! なら遊んでやるよ、お望み通りにな!!」


 こうして、第二回戦が始まった。



 なんか新キャラ出てきた。

 リカルドさん、マジ動かしやすい。

 この先どうするかは決めてないけど。


 それからクルードさん、かませにはしたくないのでジンを罠にかけてみました。

 ……何だか地味に強キャラになってきたな、彼。


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

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