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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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くんれん、かいし!

パソコン故障してえらい金掛った。

正直泣きそうです。

おまけに色々やる気がどん底DEATH!!!

けど遊んだりする気力はあるという。


ジン達一行は、レンガ造りの建物が立ち並ぶ大通りを訓練所に向かって歩いていく。その最中、レオがジンに質問をした。


「なあ、ジン。訓練所って言うのはどういうところだ?」

「異空間を用いた闘技場と言えば分かるか? 現実を仮想空間の中に取り込んで、その中で魔物たちと闘う事で訓練を行うのさ。仮想空間の中で行う事で、中で怪我をしても実際にはそれが無かった事になると言う事らしい」

「そう言えば、さっき難易度がどうこう言ってたわよね? あれって何?」

「訓練所にはF~SSSまでの二十一ランクがあってな。部屋の真ん中にある台座に挑戦したいランクのメダルをセットして訓練する。SSSに近づく程強い奴が出てくる。Fランクならそれこそ子供が相手にするような敵が出てくるし、一般的な冒険者であれば大体C~CCCランク。遺跡に潜ったりする奴は最低でもBランクは要るし、深く潜ろうとするなら少なくともAランク~Sランククラスと言ったところか。ちなみに俺はSSSランクな」


 ジンは訓練所についての簡単な概要を説明した。

 訓練所での成績はそのまま冒険者の戦闘能力の指標となり、受けられる依頼が決まっている。つまり、受けられる依頼を訓練所の成績で制限することによって、冒険者がいたずらに命を落とすことを防いでいるのであった。

 なお、Cランクで受けられる依頼が市中警邏などの一般的な仕事であり、龍などの危険な生物を狩りに行く仕事がSランク以上である。SSSランクともなると、一人で迫り来る軍隊を蹴散らせる実力を持っていてもおかしくはないのだ。

 それ故に、SSSランクの人材ともなると依頼のほうが勝手に舞い込んでくるのである。


「チーム戦とかは出来ねえの? 何も一対一だけとは限らんし」

「当然出来る。メダルにはシングルメダルとチームメダルがあってな。シングルを入れれば一人で挑戦になるし、チームを入れれば闘技場に入った面子で闘う事になる」

「ランクが上がると何か良い事があるんですか?」

「ギルドで特典が付いたり、ランクの高い仕事が得られたりする。武具屋で買える品物が増えるとか、結構利点はあるぞ。その特典を受け取るためには訓練所のモンスターを倒してメダルを受け取らなきゃならない。っと、訓練所に着いたぜ」


 訓練所はコロッセウムの様な外見をしていて、中では訓練の様子がモニターで映し出されている。

 そのモニターを見て、闘い方の研究をしている者も居た。


「訓練所か……僕も初めてくるね。何しろ冒険には縁が無かったからね」

「あうう~……どこまでいけるのでしょうか……」


 訓練所の中に入ると、ジンは変身を解いた。突然の有名人の来訪に、訓練所内にどよめきが起こる。

 周囲の人間がざわつく中、ジンはカウンターまで向かっていった。


「失礼、SSSランクのシミュレータールームを使わせて頂きたい。それから新規登録五人だ」

「新規登録者のお名前を頂けますか?」


 受付の言葉を聞いて、ジンはポーチの中から一枚の紙とペンを取りだし、全員の名前を書いた。


「これで良いかな?」


 受付嬢が名前を登録している間に、ジンはメダルケースを受け取り全員に配る。

 中には交差した剣を背景にF~SSSまで描かれた二十一枚の銀色のメダルに交差した剣と杖の描かれた二十一枚の銀色のメダル、そして何も入っていないページがあった。


「こいつが訓練に必要なメダルだ。剣だけで交差しているのがシングルメダル、剣と杖が交差しているのがチームメダル、空のページはクリアした証のゴールドメダルを入れるところだ。っと、そろそろ受付が終わるな」


 ジンは受付に戻り、受付嬢の作業の完了を待った。


「ありがとうございます。それではS-1の部屋をご利用ください」


 ジンは受付嬢から渡された鍵を受け取ると、他のメンバーのところに向かった。

 ジン以外は何処となく緊張しており、表情が若干硬くなっている。

 部屋の中に入ると中は白い大理石で造られたロッカー室になっていて、その真ん中には黒い大理石の台座が置かれていた。

 ジンはその石の台座の前に立つと振り返り、メンバーに説明を始めた。


「さて、さっきも言った通りこれからお前達の実力を見せてもらいたいと思う。まずはここにあるシミュレーターを使ってだな」

「オイあんちゃん、ちょっと待てや。さっきまで自分が相手するとか言ってなかったか?」

「いやあ、ああ言っといて何だが、やっぱ一度どのランクまで上がれるか見てから相手をした方が良いかな、と思い」

「テキトーにも程があるわよ!」

「うぉぉぉぉっ!?」


 軽薄な笑みを浮かべるジンは、リサが投げたハンマーを紙一重で避ける。

 風を切りながら後ろに飛んで行ったハンマーは、石造りの部屋の壁にめり込んで止まった。

 ジンはその破壊力に冷や汗をかきながら説明を続けた。 


「いやいやいや、確かに適当に決めたが俺も一応相手するぞ? しかし、人間に勝てて魔物に勝てませんじゃ意味が無い。だから、まずは魔物相手に戦ってもらう」

「ちょっと待ってくれないかい? いきなりSSSランクと言うのは無いだろう。仮にも訓練所の最高ランク、超一流の冒険者じゃクリアできないと言われてるんだよ?」


 ジンの発言に、ルネが少し青ざめた表情でライトブラウンの短い髪を弄りながらそう口にした。

 それに対して、ジンは小さく笑みを浮かべた。


「出来ない訳じゃないんだろ? でもま、最初からSSSをやらせる気はないさ。まずは実力を見るためにも無難にAランクから……」

「ふぇぇ!? Aランクでも十分一流クラスなのです! せめてCCCランク辺りで……」

「そいつは聞けないな。俺が潜るところはAランクの魔物がうじゃうじゃ出てくるような場所もある。こいつらを相手にしてどういう風に動くか分かっておくと自衛の役に立つし、戦闘員として当てにできるかどうかも知っておきたい。と言う訳で、まずはルーチェから行ってみようか」

「ひゃ、ひゃい!? 私からなのですか!?」


 突然の指名を受けて、ルーチェが激しく動揺し始めた。そして眼に涙を溜め、縋るような上目使いでジンを見る。

 どうやら余程自信がないらしく、その表情には強い不安の色が見て取れた。


「あ、あの、私は後で……」

「初めてで緊張するのは分かるが、何時やっても変わらんよ。なら、さっさと終わらせた方が楽だぞ? ダンジョンに潜るための訓練は受けたんだろ?」 

「そ、それはそうなのですが……」

「大丈夫だって。ここなら負けたって良いんだ。俺だって無敗でSSSになった訳じゃないんだしな。それに、やってみれば意外と良いところまで行けるかもしれないぜ?」


 ジンはやわらかい笑みを浮かべながらそこまで言うと、幼馴染達に向き直った。


「お前らは少し見ていな。これからどういう奴と戦うのかをな」


 そう言うと、ジンは部屋の真中にある石の台座にコインを置いた。


「あ」


 しかし、その瞬間ジンはしまったと言わんばかりの顔をした。

 その間に台座が光りだし、ロッカー室は巨大な闘技場へと変化していく。

 気が付けば、一行は闘技場の観客席に座っていた。

 そこからは、場内に向かって階段が降りている。

 台座に手を置いたまま呆然としているジンに、ルネは呆れ顔を浮かべながら前髪を弄る。


「ジン? 今置いたメダル、SSSのシングルメダルじゃないかい?」

「……うん」

「……わ、私はやらないのです」

「……うん」

「……まずはジンのお手並み拝見だね」

「マジですか……メンドいのが来なきゃ良いけど」


 微妙な表情を浮かべる新参者二人にそう言うと、ジンは深々と溜息を吐いた。

 ジンは無言で剣を取ると、闘技場の中に入っていく。 次の瞬間、観客席と闘技場の間の門が閉まり、場内に魔物が具現化した。

 魔物はちいさな白い鶏だった。それを見た瞬間、ギャラリーは一斉に首をかしげた。


「鶏? これがSSSランク? もっとごついのが出てくると思ったんだが、何なんだ、あいつ?」

「クエェーーーーーーーーーーー!!」

「きゃあああ!?」


 レオがそう言った瞬間、鶏は甲高い声で鳴いた。その声は耳をつんざく様な強烈な声だった。

 思わず相対しているジンも、離れてみている観客すらも思わず耳をふさぐ。突然大きな音を聞いたため、全員頭を揺さぶられたような状態になり、目眩を起こす。


「……ほっ!」


 そんな中、ジンは前方から迫る嫌な気配を感じて右に跳んだ。

 少し遅れて、何か巨大なものがジンの居た場所を猛烈な勢いで駆け抜けていき、その何かは壁を容易く粉砕し止まった。

 目眩から立ち直ったジンが確認すると、そこに居たのは巨大で白い雄牛だった。


「変化した? それっ」


 ジンが雄牛に向かって斬りかかると、雄牛は突然白い兎に変化した。対象が突然小さくなり、剣は空しく空を切る。


「うおっ!?」


 次の瞬間、兎は白い猪に変化して、ジンを強烈に弾き飛ばした。

 ジンはとっさに大剣を盾に使い、わざと後ろに弾き飛ばされることでダメージを軽減する。


「ぐっ……あらら、失敗したかな」


 ジンは空中で体勢を整えて着地する。咄嗟に受け身を取ったため、大きな痛手にはならなかったようだ。

 ジンは剣を構えなおして相手を見ると、今度は白い巨大な虎の様な生物に変わっていた。


「な、何なんですか、あれ……」


 訳が分からなくなったユウナが思わずそうこぼす。見たことも聞いたこともない姿が変化する生物に戸惑いを隠せないようである。

 そう言っている間に白虎は攻撃を仕掛けている。時には壁に跳びついて三角跳びの要領で、時には地を這うような動きで、前後左右上下からジンに向かって次々に跳びかかっていく。


「SSSランクの相手は初めて見たけど……眼で追うのが精一杯だよ、僕は」

「それを全部避けられるのは、流石は『修羅』と言うところなのです」


 縦横無尽に跳びかかっている白虎をルネ達は残像しか視認できない。白虎の動きはそれほどまでに早いものだった。


「ガアアアアアアア!!」

「よっ、はっ、ほっ」


 ジンはそれを足さばきだけで避けていく。表情に変化はなく、ジンは涼しい顔で避け続ける。

 その様子にはかなりの余裕が感じられ、攻撃が当たる気配はない。


「せやっ!」


 ジンは体を右に開いて避けながら、真っ正面から跳んできた白虎の横腹を斬りつけた。

 銀の大剣の切っ先が縦一文字に線を描き、白い毛並みに赤い色を加えていく。


「ギャウウ!!」


 血を流しながらも白虎は果敢に跳びかかってくる。その速度は落ちることはなく、激しくジンを攻め立てる。

 ジンはそれを避けながら、軽々と剣を振るう。そのたびに白虎の白い毛皮は赤く染まっていき、地面にも赤い点が落ち始めていた。


「おおっと!?」


 ジンが次の攻撃を迎え撃とうとしたところに、氷の刃が飛んできた。白虎が魔法を使ったのである。

 それを慌てずに剣で弾くと、氷の刃は砕けた後に剣に吸い込まれ、剣が冷気を帯び始めた。

 ジンはそれを確認するとふっ、と溜息を吐いた。


「……つまらん。本気で来いよ、お前」


 ジンが冷めた声でそう言うと、その言葉を理解したのか白虎が光を帯びた紙粘土のように姿を変える。

 巨大な体はさらに大きくなり、最終的に大きな翼を持つ、体長二十メートルほどの白いドラゴンが姿を現した。

 ホワイトドラゴン、食物連鎖の頂点に立つ龍種の一角だ。本来ならばこの一頭で街一つ滅びかねない強力な生物である。

 その姿を見て、観客達は思わず息を飲んだ。


「ちょっと、あれホワイトドラゴンじゃない!? SSSってそんなのまで出てくるの?」

「おいおいおい、ジンの奴本気でこいつと一人でやる気か?」

「ジン! もう良いから戻ってきてください!」


 応援席から幼馴染達が叫ぶ。目の前の圧倒的な存在を前に、ここでは死の概念がないことすら忘れてしまっているようである。


「やれやれ、この程度で驚いてもらっちゃ困るんだがね」


 しかし、ジンはそれを気にも留めずに剣を構える。

 その眼は目の前の巨大な龍の姿をしっかりと捉え、口元は僅かにつりあがっていた。


「ガアアアアアアアア!!」


 強烈な鳴き声とともにホワイトドラゴンの体が光り始めた。それを見て、ジンはホワイトドラゴンに向かって駆けだす。

 そしてドラゴンの口から強烈な閃光が放たれ、それと同時に激しい砂嵐が巻き起こった。

 光の奔流は闘技場全体をあっという間に飲み込み、観客席の五人はそのまぶしさに眼を覆った。


「ぐっ……どうなった?」

「あ……」


 砂嵐が収まり眼を開けると、そこには未だに健在のホワイトドラゴンと床に出来た巨大なクレーターが眼に入った。

 ……そこにジンの姿は見えなかった。


「ちょ、嘘でしょ!?」

「……無茶しやがって……」

「ジン……」


 目の前の光景に呆然とする三人。ユウナなどは眼に涙をためて今にも泣きそうな顔をしていた。


「はっ!!」


 しかし、そこにホワイトドラゴンの上からジンが剣を振りかぶった状態で落ちてきた。

 ドラゴンが気付いて振り返る前に、ジンはその背中に向かって銀の大剣を深々と突き刺す。

 それと同時にジンの剣から青白い光が溢れ出し、背中から胸までを一気に貫通させた。


「ガッ……」


 その一撃を受けて、ホワイトドラゴンは地面に倒れ伏した。その心臓には大きな穴が空けられていて、傷口は若干凍りついている。


「ふう……やっぱ生物最強に化けたといえどこの程度か。ま、こんなもんですかね」


 そして、ドラゴンの背中の上には剣を肩に担ぎ、さもありなんといった表情で溜息を吐くジンが立っていた。

 しばらくすると、闘技場は元のロッカー室に戻り、六人が一堂に集結した。

 外からは大きな歓声が聞こえている。先程の訓練をモニターで見ていた者たちの声だ。

 ジンは台座からコインを取り、ポーチにしまった。


「とまあ、こんなんが俺の行く先にゃ出てくる訳だ。それでもついてくる気か?」


 ジンは陽気な態度で幼馴染達にそれぞれの意向を聞いた。

 その内心は、「お前ら怖いから、さっさと村にごーばっく」なのだが……


「わ、私は諦めません! ジンが行く所ならどこでも行きます!」

「俺も帰っても先立つもんがねえし……それにテメェはこれをあっさり倒してやがるし、問題ねえかなと」

「アンタ、私をほっぽり出そうったってそうはいかないわよ? 意地でもついて行く気だから覚悟なさい」


 その言葉を聞いてジンは頭を抱えた。

 三人が守りながら闘うことの難しさを知らない事と、守ろうとしたところをフレンドリーファイアで自分が天に召される可能性が大いに考えられたからだ。

 そんなジンの心境を知ってか知らずか、ルネがジンの肩を叩く。


「いや、モテる男はつらいね。でも君なら五人くらい楽勝で守れるだろう?」

「……こいつ等の戦いを見てみろ、守る気なんて一瞬で失せるぞ……いや、それ以上に危険だ……」

「え?」


 ルネが首を傾げるのと同時に、ジンがポーチから取り出したコインを台座に嵌める。

 あっ、と声を漏らすルネを余所に、すぐにロッカールームは闘技場に変わり、階段の門が開いた。


「レオ、お前なら冒険者相手に戦った事あるだろ。行って来い」

「人間とバケモンじゃ訳が違うだろ……」

「何、そこら辺は死んで覚えろ。訓練所内なら死ぬこたないから、な!」

「うおわっ!」


 ジンはそう言うとレオを闘技場に叩き込んだ。門が閉まり、闘技場内にはレオ一人だけが入っている。

 レオは眼を閉じ深呼吸をした。


「うぉっしゃあああああ!! やぁぁぁぁってやるぜぇぇぇぇ!!」


 レオは全体に響くような雄たけびを上げると、背負っていたハルバードを右手に、腰の剣を左手に手に取って闘技場の真ん中に立った。

 しかし、先程と違い相手が出てくる気配が無い。レオが怪訝に思っていると、突然地面が揺れ始めた。


「な、なんだぁ!?」


 レオはあたりを見回すが、周りを見ても誰も居ない。が、嫌な予感を感じたレオは咄嗟に前に跳んだ。


「うおおおおおお!!」

「グオオオオオオオ!!」


 すると、地面から巨大なひも状の生き物が大口を開けて現れた。クロノスワームと言う、砂漠地帯においてもっとも危険な生物の一種である。

 その体長は約四十メートル、砂漠を渡る馬車を一呑みにしてしまうような巨大生物である。表皮は固い甲殻に覆われており、生半な剣などでは傷すらつかない。

 レオは素早く体勢を整え、その巨大生物に相対した。


「おいおいおい、初めてでこれはねえだろうがよ……」


 レオは若干冷や汗をかきながら相手を見る。このような相手とは普段あまり関わらないのであるから、その動揺はかなりのものであろう。

 一方観客席では、ジンが最っっっっっっっ高に良い笑顔を見せていた。そのジンに、ルネがジト眼を向けながら近寄る。


「……ジン……君と言う奴は……」

「ンッン~♪ どうかしたのかね?」

「いや、意地が悪いなと思ってさ。僕の時はそんなことしないよね?」

「さあ、どうだか?」

「……僕の時は自分で入れるよ……」


 そんな会話の間に、レオは初めての魔物との戦いに苦戦していた。攻撃しようにもすぐに地面に潜られてしまい、攻撃が届かないのだ。

 クロノスワームはその巨体に見合わずとても素早く、レオの行為は分かりやすく言えばトンネルから出てくる新幹線に斬りつける様なものであった。


「くっそ、ちょこまかと……!!」


 レオは攻撃を避けてから反撃をしようとするも、いつもコンマ数秒間にあわない。レオがハルバードや剣を振るう度、それは空を切った。


「ガアアアアアアア!!」

「うぉわ!? 危ねえな!」


 空振りしたところに素早くクロノスワームはレオの背後に現れ、高電圧を纏った体液の塊を吐く。

 レオは直感で前に跳び、相手が地面に空けた穴を飛び越えて回避した。


「おい、ジン! ここって、壊れてもすぐ直るんだよな!?」


 しばらくその状態が続いた後、レオはイライラと怒鳴り散らすような声でジンに話しかけた。

 その眼は据わっていて、今にも何かが爆発しそうなのがよく分かる。


「ああ。ここは仮想空間だからな、一度外に出れば元に戻るぞ」

「そうかい……なら、遠慮はいらねえな……」


 レオは地獄の底から聞こえてくるような声でそう言うと剣をしまい、ハルバードを両手で持った。

 するとあたりの空気が一変し、観客は強烈な重圧を感じることになった。


「はぁ……はぁ……い、息苦しい……」

「ユ、ユウナ!? 大丈夫!? しっかりしなさいよ!?」


 その凄まじい気迫に気圧されて、ユウナは息をつまらせる。

 リサはユウナの突然の異変に驚き、血相を変えて看病を始めた。


「はあああああああ……」


 レオは気を吐きながらハルバードに力を込めて高々と振りあげた。

 そして、掛け声とともに思いっきり振り下ろした。


「だらあああああああああああああああ!!」


 ハルバードが地面に刺さった瞬間、凄まじい衝撃とともに直径五十メートル程の床全体が爆発し、大量の砂塵が宙に舞った。砂塵は空高く舞い、巨大なキノコ雲を作った。

 闘技場は爆発の衝撃で激しく揺れ、誰一人としてまともに立っていられる状況ではなくなる。


「うきゃああああああ!! は、はわわ、何なのです、これは!?」


 突然目の前で起きた大爆発に、ルーチェが悲鳴を上げながら転ばないように手すりにつかまる。

 その他のメンバーも、その場に縮こまったり、爆音で耳をやられたりしていた。


「見つけたぜ、おりゃあ!」  

「ギシャアアアアアアアアアアアアアア!?」


 そんな中、クロノスワームは爆発によって空高く打ち上げられていた。床全体を吹き飛ばすような大爆発は、この巨大生物を吹き飛ばすには十分な威力があったようである。

 レオはそれに向かって白熱させた投げナイフを四本投げた。投げナイフは甲殻を溶かし相手の胴体に深々と刺さり、ワームは悶えながら二十メートル程深々と抉れた地表に叩きつけられた。

 ワームは地上でジタバタとパニック状態でもがきながら、慌てて地面に潜って逃げようとする。


「逃がすかよぉ!! うらあああ!!」


 レオは素手でその腹をつかみ、潜りかけていたワームを外に引きずり出して壁に投げつけ、その後を追わせるように剣を投げた。

 白熱した剣は壁に叩きつけられたワームの胴体を貫き、その痛みにクロノスワームは地面に潜ることすら出来ずに悶絶する。


「止めだ、喰らえい!」


 その縫い付けられた相手に向かい、レオはトマホークを投げた。トマホークはクロノスワームの首をかすめ、レオの手に戻ってくる。

 しばらくして、クロノスワームの頭は重々しい音を立てて地面に落ちた。たった一匹で砂漠を恐怖に陥れる巨大生物は、もう動かなくなった。


「うおっしゃあ! 俺様の勝ちでい!」


 相手が動かなくなったのを見て、レオは勝ち鬨の声を上げた。

 その様子をメンバー一同唖然とした表情で見つめていた。


「はわわわわ……クロノスワームがあんなあっさり……」

「……ジン。レオが冒険初心者だなんて嘘だろう?」

「残念ながら本当なのだ♪」


 ルーチェは眼の前の光景が信じられずに錯乱し、ルネは呆然としたままジンに話しかけた。ジンは「もうど~にでもな~れ♪」と言った表情でそれに答える。

 その間に、レオが階段を上って観客席に戻ってくる。

 すると、突然レオの前に先程の受付嬢が現れた。その受付嬢は信じられないと言った表情でレオの体を頭からつま先までジッと見つめた。


「ん? どうしたのかな、お嬢さん? この人生の勝者に何の用かね?」


 すっかり調子付いたレオは受付嬢を見るや否や破顔し、バラの花を手にとって話しかけた。

 バラの花を何処から取り出したのかは謎である。


「え、ええと……お、おめでとうございます! 貴方をシングルSSSランクに認定致します! こちらがその証明のシングルSSSゴールドメダルですっ!」

「あ?」


 レオは興奮した様子の受付嬢の言葉を聞いてキョトンとした。本人はAランクのつもりで戦っていたからである。

 しかし、その後すぐに笑顔で、


「おう、サンキュ!」


 と返した。

 その屈託のない笑顔を見た受付嬢は、少し俯いて小さく息を吐いた。


「それから……」

「ほえ?」


 受付嬢は少し覚悟を決めた表情で近寄ると、レオの頬にそっと触れるようなキスをした。

 受付嬢は顔を真っ赤にして後ろに下がり、


「こ、これは私個人からの特典ですっ! 格好良かったですよ!」


 と早口でまくし立てて走り去っていった。

 レオは少し膠着した後、


「イヤッフゥゥゥゥゥゥ!! 俺様にも春が来たああああああ!!」


 とガッツポーズをしながら大絶叫した。


「そぉい!」

「うぎゃ!」


 そんなレオに、特大の百tハンマーが振り下ろされた。轟音と地響きとともにレオの頭が地面に埋まる。

 その状態のレオに、リサは非常に苛立った表情で声をかけた。


「アンタねえ、モニターで色んな人に見られてるのよ? 恥ずかしいんだからやめなさいよ!」

「……あの、いつもより強烈じゃござんせんか?」

「知るか!!」


 リサはそう言うとツカツカとジンのところへ歩いて行った。そしてジンの胸倉を掴んで揺さぶりはじめた。


「ジン! 早くアタシの相手を出しなさい! SSSランクよ!」

「な、お、おい!」

「Preparation, and right now(準備をしろ、今すぐにだ)」

「……あいよ」


 金槌を振りかざすリサを前に、ジンはそっとSSSシングルメダルを台座に置きなおした。即座に闘技場の門が開き、リサはハンマーを担いで大股で歩いて入って行く。

 その様子を「なんてパワフルなんだ」と口々に語りつつ、それを聞きつけたリサのハンマーがレオの顎を捉えるのを尻目に、残りのメンバーが見つめる。


「はわわわわ……リサさん、大丈夫何でしょうか……」

「さあな……とりあえず、相手が一体なら上手くやれば勝機あり、それ以外は未知数と言ったところだな」

「……ねえ、それ本当かい? 初心者なんだよね?」


 心配そうにリサを見つめるルーチェにジンがそう答え、ルネが呆れた声で呟いた。


「…………」


 ジンは無言だった。

レオの起こした爆発はキノコ雲が上がるレベルと思ってください。

ええ、もう滅茶苦茶です(笑)。


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