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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
3/60

がくしゃさんといっしょ

「……なあ、ジン? 博物館に何の用なんだ?」


 レオがジンに向かって問いかける。

 他のメンバーもそれが疑問らしく、全員の視線がジンに向いている。


「ああ、そりゃもう一人、考古学者を雇いたいからな」

「考古学者? 何でそんなのを雇うのよ?」

「俺達が潜る洞窟や迷宮は、古代、または神代の人間が造ったものだ。その中には扉を開くためにパスワードやパズルを解く必要があるものがある。大体そう言うのはその当時の知識が必要になってくるんだ」

「しかし、それならば別に僕たちが勉強してやれば良いんじゃないかな?」

「ところがどっこい、そうは行かないんだ。とある一文をヒントにパスワードを入れるとする。例えば、『甘い調味料』って言うのがキーワードだったとする。さて、何を思い浮かべる?」


 ジンはそう言うとユウナに回答を促した。

 ユウナは少し困った顔をして答えた。


「ええと……砂糖……で良いんですか?」

「ああ、それで良い。俺たちならばまずそれを思い浮かべるだろ。けど、古代の人間が思い浮かべるのはハチミツだったり、神代の人間だったら何やら訳の分からんものだったりする訳だ。おまけに、後世の人間が実際の話を改ざんしている場合もある。こういう風に、一般的に知られているものと本来の意味が違う事が多いんだ」

「あ~、要するに素人のにわか知識じゃ限界があるから素直に専門家を連れてけって訳か?」

「思いっきりぶった切るとそう言うこった。んじゃま、交渉しに行きますかね」


 そういうと、一行は入場料を支払い博物館の中に入った。

 中には様々な展示品があり、それを鑑賞する人がフロアの中に何人かいた。

 ジンはそこを素通りし、奥に進んでいく。

 しばらく歩くと、会議室や資料室が並んでいる区画に入った。

 中からは、学者達の討論する声が聞こえている。


「あの……ジン? 学者さんってそう簡単に雇えるものなんですか? 自分の仕事で忙しいんじゃないんですか?」

「雇えるさ。考古学って言うのは現場を見てからじゃないと分からない事が多いから、考古学者は冒険者を雇ってよく迷宮とかに潜る。と言う訳で、今からここの学者に俺達を売り込もうって訳だ」


 ユウナの質問に答えると、ジンは変身を解き、元の姿に戻った。

 そして、館長室の前に立つと、四回ノックをした。


「入れ」

「失礼するぞ」

「え?」


 ジンが中に入ると、館長は呆気にとられた様に固まった。

 ジンは気にせず中に入り、館長の机の前に立つ。

 すると、館長は我に返り笑顔でジンを出迎えた。


「これはこれは、ファジオーリ様。本日はこのような所に来て頂いて誠に光栄です。お連れの方もよくぞこちらに」

「急な来訪で失礼。本日はそちらの学者を一名お借りしたいと思い、ここに来た」


 笑みを浮かべる館長に対し、ジンは先程とは違って尊大な態度で彼に接する。

 その言葉を聞いて、館長は首を傾げた。


「はて、貴方は既に高名な学者様と組んでおられたのでは?」

「彼ならこの間寿除隊した。私の旅は非常に危険だ、家族を持つものを命の危機にさらす訳にはいくまい?」

「成程、でしたら私からも祝電を送るとしましょう。ところで、どの様な人員をお探しですかな?」

「様々な所に潜る故、広い知識を持つ人間が良い。また、知っての通り私は過酷な所に潜る。若く体力のあるものを所望する」


 ジンの言葉を聞いて、館長はあごに手を当てて思案した。


「わかりました。学問の発展のため、私が責任を持って人員を選抜致しましょう」

「ああ、宜しく頼む」

「ではお掛けになってお待ちください。すぐに戻りますゆえ」


 館長はそう言うと部屋を辞した。

 ジンは促されたとおり、ソファーに腰を掛け、他の四人もそれに続いた。

 ジンはソファーの上でぐでっと伸びた。


「あ~……やっぱ疲れるわ、あのしゃべり方……」

「ちょっと、ジン! どうしちゃったのよ、今の喋り方? まるでどっかのお偉方みたいじゃない!」

「そうする必要があるんだよ。こういう交渉って言うのは足元見られたら負けなんだ。下手にへりくだると追い返されることだってある訳だしな。相手だって、未熟な冒険者に貴重な学者を預ける訳にはいかない。だから、こういう交渉で相手がどういう人間かを量るんだ。実際凄いぜ、こういうところの人間の人を見る目は」


 どこか興奮したように喋るリサに、疲れた表情で答えを返すジン。

 要するに、ジンは相手に足元を見られないように、わざと高圧的な態度で相手に接したのであった。

 しかし彼にとってはそれは慣れないことの様で、精神的にかなり疲労がたまることのようである。


「……幾らなんでも、『修羅』を未熟と思う輩は居ないと思うけどな……」


 そんなジンに対して、ルネがぼそりと呟いた。




 しばらくして、館長が戻ってきた。

 その後ろには、何人かの男女が付いて来ている。

 それを受けて、ジンは姿勢を正した。


「皆様、お待たせ致しました。候補者を連れてまいりました。彼らの中から気に入った者をお連れください」

「どうも」


 ジンはそう言うと、懐からコインを取りだした。

 そのコインは白銅の硬貨であり、一般に流通している通貨とは違うものであった。


「さあ、よく聞いて欲しい。今から私はこのコインを眼をつぶって投げる。これを掴み取った者について来てもらう。……準備は良いか?」


 ジンはそのコインを候補者達に見せながら、確かめるように問いかけた。

 それを聞いて、候補者たちは息をのむ。

 ジンはそれに満足そうにうなずいた。


「宜しい、では行くぞ」


 そう言うと、ジンは眼をつぶってコインを投げた。

 その瞬間、館長室は大騒ぎになった。

 候補者たちはコインに一斉に群がり、団子状態になる。

 コインから遠かった者は何とか争奪戦に加わろうとし、力の弱いものは引き剥がされて脱落していく。

 しばらくその状態が続き、


「そこまで!」


 とジンが叫ぶと、混乱は収まって行った。

 学者たちの服はよれよれになっていて、頬にあざを作っている者も居る始末だった。


「コインを持ってるものは挙手願いたい。こちらでその真贋を確認する」

「は、はい!」


 そう言って勢いよく手を上げたのは、透き通った深緑の瞳と長いブロンドの髪で、エルフ特有の長い耳を持つ少女だった。

 ジンはその容姿に軽く驚きながらもコインを受け取り、確認を行った。


「確かに、私が投げたコインだ。よし、では君について来てもらうとしよう。……名前は何と言うのかな?」

「ル、ルーチェ・ローズベルグです!」


 名前を訊かれた学者は緊張気味に答える。

 ジンはそれに対して、笑顔で答えた。


「ジン・ディディエ・ファジオーリだ。宜しく、ローズベルグ君」


 そして、ジンは館長に向き直った。


「この度は快く貴重な学者を貸し出して頂き、誠に感謝する。他の者も、意欲にあふれた素晴らしい学者だと私は思うよ」

「お誉めに与り恐悦至極です。何かあればいつでも申し付け下さい」

「そうさせてもらう。では、失礼する」


 そう言うと、ジンは館長室から出た。

 ルーチェを含む他のメンバーも後に続く。

 ジンはしばらく歩き、会議室のある区画を抜けたその瞬間…… 


「あ゛あ゛あ゛~……つ、疲れた……」


 その場にくたっ、とへたり込んだ。


「へ? はわわ!? ど、どうしたのです!?」


 厳格な空気を醸し出していた雇用主の突然の変貌に、ルーチェはおろおろとした表情でジンの肩を揺さぶった。

 そんな二人のもとにレオが近づいて話しかけた。


「なあ、ジン。あれ、そんなに疲れるのか?」

「……他国の大使を宿に泊めると同じと思え」

「……あ~……そりゃ疲れるわな……」


 ジンの例えを聞いてレオもげんなりとした表情をした。

 レオはジンの手を引いて立ち上がらせる。

 すると、ジンの視界に心配そうにこちらを窺っているルーチェの姿が映った。


「あ、あの……大丈夫なのですか?」

「ああ、大丈夫だ……少し疲れただけだからな」


 ジンはそう言うと、辺りを見回した。


「ん? そう言えば他の連中はどうした?」

「あ~、他の連中ならどうせこうなるだろうと思って、飲み物を買いに行ったぜ」

「そいつはありがたいな。慣れない事をしたせいで、喉がカラカラだ」


 三人揃って近くにある休憩スペースのベンチに腰を掛ける。

 しばらく待っていると、飲み物を買いに行っていた三人が戻ってきた。

 その手には、飲み物が入った透明な瓶が握られていた。


「お待たせしました。ジンはコーヒーで良いんですよね?」

「サンキュ、ユウナ」

「君は紅茶で良かったかな?」

「は、はい、ありがたく頂くのです」


 ユウナはジンに、ルネはルーチェにそれぞれ飲み物を手渡す。


「レオはライムスカッシュで良いわね?」

「とか言いながら絶対ライムスカッシュじゃねーだろ、これ! 何だよ、この謎の液体は!?」


 その一方で、レオはリサに渡された飲み物を見てそう叫んだ。

 レオの飲み物は虹色に輝きながら泡立っており、そもそも飲み物なのかどうかも分からない。

 蒼褪めて固まっているレオの様子を、リサはチェシャ猫の様な表情で見ていた。

 それぞれに飲み物が回ったので、全員ベンチに座る。

 三人掛けのベンチが丁度向かい合うような配置になっているため、全員の顔がよく見渡せる。


「んじゃ、全員揃ったところで自己紹介だな。先に言っとくが、堅っ苦しいのは一切無しだ。敬語は無しの方向で。そう言う訳で、宜しく」


 ジンはそう言うと、ルーチェの肩を叩いた。

 彼女はかなり緊張した様子で立ち上がり、自己紹介を始めた。


「ル、ルーチェ・ローズベルグなのです。種族はハーフエルフ、まだまだ若輩ですが、宜しくお願いするのです!」


 ルーチェの自己紹介を聞いて、ジンは少し苦笑いをした。


「そんな固くならなくても大丈夫だって。そんな喋り方じゃ無くても、もう少し楽に喋っていいんだぜ?」

「……語尾は口癖なのです。これが楽なしゃべり方なのです」

「そ、そうか、そりゃすまんかった。あ、俺の事はジンで良いからな」


 少し不機嫌そうに頬を膨らませたルーチェにジンは頬を掻きながら謝る。

 その後、全員が自己紹介を終えると、ルーチェがジンに向かって話題を切り出した。


「ところでジン、何で人員の選抜にあんな方法を取ったのですか?」

「それは僕も気になるところだね。知識が必要ならばそれについて質問をするべきではなかったのかい?」

「俺達が分からない事に関する質問をしたって無意味だろ? それに、俺はルーチェの知識に関しては全く心配していない。一応俺は有名人、向こうとしてもちゃんとした人間を送る利点はあると思っていたからな」

「……何だかんだでやっぱ自分の名声使ってんじゃねーか……」


 ルーチェとルネの質問にジンが答えると、レオがぼそっと呟いた。

 なお、手に握られた虹色の液体は全く減っていない。


「でも、それではあの方法を用いた意味の説明にはなっていないのだけど?」

「あの方法には意欲と運動神経、それから時の運を試す意味があった。やる気が無けりゃコインを追わないだろうし、運動神経と運が無ければコインは掴めない。と言う訳で、それらを持ち合わせた学者としてここに居る訳だ。期待してるぜ、ルーチェ」


 リサの質問に答えると、ジンはそう言って笑顔でルーチェの肩を叩いた。


「ううう……あんまりプレッシャーを掛けないでほしいのです……」


 ルーチェはそう言うと、背中を丸めて縮こまった。

 プレッシャーに弱いのか、有名な英雄を前にしてかなり緊張しているようである。


「そんな事言って、実際のところは?」

「選ぶのがメンドかった。理由は後付け。我ながら上手い事考えたと思う」

「ぶーっ!」

「ぶわっ!? 何だいきなり!?」


 が、ジンがドヤ顔で話した次の一言で口を付けていた紅茶を噴き出した。

 真っ正面に座っていたレオはそれを思い切り顔面に受ける。


「そ、そんなことであんな決め方にしたのですか~!?」

「いや、だから学者の知識なんてそれ以上の専門家でもないと量れないだろ? 知識だけなら誰を選んでも良い訳だし、そりゃ適当にもなるだろ」


 立ち上がってまくし立てるルーチェに、ジンは涼しい顔でそう答える。

 それを聞いて、ジンの幼馴染三人は大きなため息をついた。


「……ま、んなこったろうと思ったぜ」

「やっぱり何も考えてなかったんですね……」

「適当な事に定評のあるジンだものね……て、アンタさっさと顔拭きなさいよ」


 幼馴染三人組は悟った様に頷き合っている。

 どうやら昔からジンはこういう性格だったようである。


「うむ、流石は付き合いが長いだけある。俺の適当っぷりが良く分かってるな」


 ジンはそう言うと感心したように頷いた。

 それに対し、レオが呆れたように溜息を吐いた。


「威張って言う事じゃねえだろうが。テメェが適当だったせいでどれだけ尻拭いをさせられたと思ってんだ……」

「よく言うわよ、アンタだって大概だったくせに。アンタが馬鹿やらかした時に後始末をしてたのはジンだったわよ?」

「二人揃って問題児でしたしね……」


「「……」」


 レオの一言にリサは疲れた顔をし、ユウナは苦笑いを浮かべた。

 ジンとレオはしばらく無言で見つめ合い、


「「よお、マイソウルブラザー」」


 と言って固く握手を交わした。


「……なんか想像してた人物像と違うのです……」

「それは同感だね。でも、悪くないんじゃないかな?」


 その陰で、新参者二人は想像していた『修羅』と実物との違いについて話を始めた。

 ルーチェは少し疲れ気味に、ルネは楽しそうな表情を浮かべている。


「もっと厳格な人だと思っていたのです。館長室でのジンは想像以上でしたが……」

「僕としてはこれくらいでちょうど良いと思うよ? 堅苦しいよりはこういう方が親しみやすくて良い」

「この先大丈夫なのでしょうか?」

「流石にそれは心配し過ぎだよ。いくら自称適当でも旅に関する事が適当だったら『修羅』なんて言われないだろうし……第一、適当だったら学者は雇わないよ? ただ……」

「ただ?」

「少しばかり、油断があるかな」


 ルネはそこまで言ってニヤリと笑い懐から財布を取りだした。

 財布は男物で、かなり中身が入っている。

 すると、横から慌てた声が聞こえてきた。


「え……おお!? 俺の財布がねえ!? ここに入るまで持っていたはずだぞ!?」

「マジかよジン!? どこかで落としたか!?」

「いや、ポーチにしまったのは確認した。落とす要素は無いはずだぞ!?」

「もう、しっかりしてよ! 旅に出て早々何やってんのよ!」

「ジン、何か思い当たる節は無いのですか!?」


 ルネは鞄をひっくり返して財布を捜す幼馴染達にそっと近づいた。


「やあやあ、これをお捜しかな?」


 ルネはしてやったりと言うような満面の笑みを浮かべてに苦笑しながら財布を手渡す。

 渡された財布を見て、ジンは眼を細めた。


「……おい、ルネ。お前、スッたな?」

「少しばかり自分の技術を試したくなってね。中々隙を見せてくれないから苦労したよ。やっぱり、技術持ちからするのは簡単じゃないね」


 満足げなルネの顔を見て、ジンは肩を落としながらポーチに財布をしまった。


「それを成功させた奴に言われても説得力はゼロだぞ……あ~……こんな鮮やかにスられたのは師匠以来だ。チッ、まだまだ精進が足りんと言う訳だ」

「で、どうかな? 僕の腕前は」

「味方だと思って油断したのは認める。それを差し引いても抜かれたのを気付かせない技術は流石は本職と言うべきだな。後は錠外しの技術をどこかで試す事が出来れば良いが……」


 ジンはそう言うと、何か上手い方法が無いか考えだした。

 その傍らで、ルネはさっと歩いてルーチェの所に来る。

 その手には、先程と同じ財布が握られていた。


「あ、その財布は……」


 ルーチェは唖然とした様子でルネが手にしている財布を眺めている。

 そんな彼女に、ルネはにこやかに微笑んだ。


「注意一秒怪我一生ってね。君も注意しなよ? ジンみたいな人でも、いつ、どこで、何が起きるか分からないんだからね」


 そう言うと、再びルネはジンのところに行って財布を差し出し、大いにジンを凹ませた。


「死ねよやああああああ!!」

「うぎゃああああああ!?」


 その結果、ジンは隣で大爆笑していたレオに盛大に八つ当たりをかまし、レオは天井と床の間を往復することになった。


「こ、この先本当に大丈夫なのでしょうか……?」


 その光景を見て、ルーチェは頭を抱えてうずくまるのだった。






「で、この後どうする気?」


 博物館を出て、外の広場で一行は今後の予定を確認する。

 なお、ジンの手にはレオを簀巻きにしている包帯の端が握られている。


「この後は訓練所に行く。現時点で全員が何処まで戦えるのかチェックしたいと思う」

「訓練所か。どうやってチェックするつもりなんだい?」

「それなんだがな、まずは俺が直接相手をしようと思う。魔法も使うぞ」


 そう語るジンの額には大量の冷や汗が浮かんでいる。

 どうやら、エストックでの幼馴染三人のトンデモっぷりがトラウマになっているようだ。

 しかし、それに気付く者はいなかった。

 何故なら、


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 普通に訓練所のシミュレーターじゃダメなのかい!?」

「アンタとやって勝てる訳ないでしょ!? 何を考えてるのよ!」

「い、いきなりそれは無いのです! もしジンが加減を間違えたら、私達は消し炭になるのです!」

「わ、私も参加するんですか!?」


 と言うように、全員がジンの発言を前に恐慌し始めたからだった。

 ジンはそれを聞き流し、話を続けた。


「理由はもちろんある。まずは、俺が直接戦った方が正確に強さを量れると言う事。次に、強い相手じゃないと本気を出すまでもなく終わってしまう可能性がある。こう言っちゃなんだが、俺は難易度最上級のシミュレーターよりは間違いなく強いからな。最後にユウナ、俺はお前を戦力外には絶対しねえからな」

「何でですか!」

「出刃包丁でオークの群れ相手に無双した挙句にアイアンゴーレムみたいな鉄の塊を綺麗にをぶった斬る奴に戦力外通告する訳なかろう! そりゃ!」

「きゃあ!?」


 ジンはそう言うと丸い球体を抜き打ちでユウナに投げつけた。

 次の瞬間、その球体は綺麗に八つに切れて、重々しい音を立てて地面に落ちた。

 球体はジンが作り出した鋼の玉で、その断面は鏡の様に輝いていた。

 息を荒げたユウナの手には、出刃包丁と柳刃包丁が握られていた。


「はぁ……はぁ……な、何をするんですか!?」

「うん、やっぱお前前衛確定だわ。抜き打ちでこんな事出来るのは普通に剣豪クラスだし」


 ジンがそこまで話すと、突然「破ァァァァ!!」と言う掛け声とともに脇に転がっていたレオの包帯がはじけ飛んだ。

 レオは固まっている一同を尻目にジンに話しかけた。


「一つ質問。集団戦はどうするつもりだ?」

「……その前に、お前のその回復力とこの間アイアンゴーレムを一瞬で消し飛ばした事についてもう一度言及したいんだが……て言うか、お前いくつ武器を持ち歩くつもりだ?」

「ロングソードとハルバード、投げナイフにトマホークにロングボウだな。まあ、ロングボウはここぞと言う時にしか使わねえけど」

「そんなに持ってきてどうする!? ……ああ、いや、よく考えたらお前はハルバードとロングソードで二刀流をやる規格外だったな」


 ジンは煤けた背中でそう言うとリサに向き直った。

 リサはそれを見てビクッと肩を震わせた。


「わ、私は後方支援担当だから戦いは……」

「お前は何を言っているんだ。オーク数百匹を一人で退けたんだ、立派な戦闘員じゃないか……ああ、そうそう、俺はお前ら三人に手加減は一切しないからな」

「な、テメ、大人気ねえぞ!」

「か弱い乙女に恥ずかしくないの!?」

「いくらなんでもあんまりです!」

「やかましい、貴様ら自分がどんだけ出鱈目なのか分かってんのか!?」


 ジンの言葉を聞いて、幼馴染三人組は猛抗議を始めながら移動を始めた。

 その脇では、新参組が唖然とした表情でそれを眺めていた。


「……ねえ、この人達が暴れだしたら、止めるのにどれくらいの人間が必要だと思う?」

「……恐らく軍隊クラスが必要だと思うのです……明らかに過剰戦力なのです……」

「同感だね……」



 二人は深々と溜息を吐いて、後に続くのだった。





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