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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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エレンとけっとう

「単刀直入に言うわよ。貴方に決闘を申し込ませていただくわ」


 いきなり決闘を申し込まれて、ジンは頭を掻いた。

 一方、申し込んだ側である紫の瞳の美しいエルフの女性は優雅に笑みを浮かべている。


「一体何だ? そう突然決闘を申し込まれても訳が分からんのだが?」

「あら、さっきも言ったじゃない。私は貴方に興味があるって」

「訳が分からん。ただ単に興味の対象にするだけなら別に決闘なんざする必要はないだろ? 俺の戦いが見たけりゃ訓練所で戦えば良いんだからな」

「いいえ、それがあるのよ。私は、貴方が本当に追い詰められた時の命の輝きが見たいのだから。“我は風なり(アリアドネ)”」


 エレンがそう言った瞬間、二人は平原に立っていた。

 ひざ下くらいの高さの黄金の平原には心地よい夜風が薙いでおり、遠くには二人がさっきまで会話をしていたモントバン城が月夜の闇の中に佇んでいる。

 ジンは少し警戒しつつ、エレンの顔を眺める。微笑を浮かべたその表情からは、どこか期待の表情がうかがえた。


「……本気か? 確かにエレンはそこいらの魔導師とは比べものにならないくらい高い魔力と、さっき廊下で見せた魔法制御力がある。だが正直、アンタ一人じゃ俺から逃げ切ることは出来ても俺を追い詰めることは出来ないと思うんだが?」

「ええ、貴方の様にエルフをもってしてもお化けと言わせられるような魔力を持ってて、反則級の経験を持つ人間に私じゃ勝てないわね。……でも、私が一人じゃなかったらどうかしら? “亜空の扉(アナザクレム)”」


 エレンが呪文を発動させると、突如としてエレンの周囲の空間が歪み始める。そして、その歪みから自分と同じ姿の人間を三人呼び出した。

 それらはそれぞれエレンと全く同じ量の魔力を持っており、それぞれに思考能力を持っているようだった。

 ジンはそれを見て姿勢を正し、面白そうに笑った。


「くくく、なるほどな。まさか自分のコピーをこれだけ用意してくるとはね。これだけ用意するのに何年かかった? 一朝一夕で作れるものじゃなかったと思うが?」

「じっくり肉体の調整と魔力の注入を重ねて三十年かしら? 材料は滅多に手に入らないし結構作るの大変なのだけど、貴方相手ならこれくらい惜しくは無いわ」


 澄ました顔でそう言うエレンの言葉に、ジンは大きく笑い声をあげた。


「はっはっは、ずいぶんと大盤振る舞いするじゃないか! 確かに、このくらいの戦力があれば俺も殺せるかもな?」


 殺されるかもしれないと言うのに、ジンは愉快そうにエレンに言葉をかける。

 その言葉に対し、エレンは少し呆れ顔で言葉を返す。


「……殺されるかもしれないって言うのに、よくそう笑っていられるわね?」

「訳あって、相手が取り消さない限り挑まれた勝負はたとえ殺し合いであろうとも断れないんでね。なら、楽しんだほうが得だろう? それに俺を殺せるかもしれないこの状況、たまには無いと気が緩みすぎる」

「私としてはここまでやっても確実ではないってことに驚きよ。さあ、早く始めましょう? もたもたしてると他の人たちにばれるでしょうしね」

「ああ、始めるとしよう。……あいつら以外では久々に楽しくやれそうだ」


 そういうとジンは銀に輝く大剣を抜き放ち、エレン達もアゾット剣を手に取った。

 ジンの灰青色の眼と、エレンのアメジストの様な紫色の眼が交差する。


「それじゃ……行くぜ!!!“我が力は姿を模す(フォース・ミラージュ)”」


 先手を仕掛けたのはジンだった。ジンは体を四つに分け、それぞれにエレンに一斉に斬り掛った。

 四人のエレン達は慌てることなく剣を短いアゾット剣で鮮やかに受け流し、ジンの腕を押さえる。

 そのエレンの身のこなしを見て、ジンは楽しそうに笑った。


「へへっ、やっぱ俺に挑んでくるだけあって体術も出来るか」

「そりゃあ姫様の護衛も兼ねてますもの、並の兵士には引けを取らないわよ。それよりも貴方は力を四つに分けても平気なのかしら?」


 ジンの使った魔法は力を分散させて自分の分身を作り出す魔法である。エレンのように時間をかけて別の器に蓄えていたものではなく、全てをその場でくみ上げる術式なのだ。よって、四つに分かれたジンは体力、魔力ともに四分の一となっており、一人一人の強さは格段に弱くなってる。

 本来であれば一対一の勝負で扱うものでありその際は強力な物になるが、エレンの様な強者複数人では逆に弱体化になりかねないのである。

 その結果、分身したジンは全てエレンに抑え込まれていた。


「確かにこれじゃ駄目だな」

「っ!」


 しかし、ジンは自分が不利な状況にもかかわらずニヤリと笑った。 

 それを見て、エレンは危険なものを感じて、すぐに後ろに飛びのく。


「“等身大の蝋燭(アウナ・トーティス)”」


 次の瞬間ジンの全身が一気に燃え上がり、平原に四本の火柱が立った。

 蝋燭はだんだんそのうちの一本に集まってどんどん巨大化していき、夜の平原を真っ赤に染め上げた。


「“鋼鉄の投槍(アイアンジャベリン)”!」 


 その巨大化していく火柱に、エレンは巨大な鋼の槍を呼び出して次々と突き刺した。

 投槍は次々と火柱の中に吸い込まれていったが、炎にさえぎられてどうなったのか分からない。

 しばらくすると、炎はだんだん小さくなっていき、火柱の中からジンが現れた。

 足元には、赤熱した鉄の池が出来ていた。


「ヒュ~♪、あぶねえあぶねえ。単純に水や氷で来るかと思ったら鉄で来たか。こりゃ想像以上に戦い慣れてるな」


 ジンは口笛を軽くふきながらおどけた様子でそう言った。表情には余裕があり、楽しそうに笑っている。

 どうやらエレンがどういった攻撃を仕掛けてくるかを試したようであった。


「世界中の戦場を荒らしまわった戦闘狂の貴方ほどじゃないわよ。大体あの炎の中で良く飛んでくるのが鉄だってわかったわね?」


 対するエレンの顔にも焦りはなかった。エレンは微笑んでおり、余裕の表情が窺える。

 エレンはエレンで、ジンがこの程度の攻撃では倒せないことを分かっているのだ。

 そんなエレンの言葉に、ジンは静かに首を横に振った。


「いんにゃ、分かってたわけじゃないさ。鉄である可能性を考えてただけさ」

「そう……で、ウォーミングアップはこれぐらいで良いかしら?」

「ああ、これほどの腕前なら惜しくない。お望み通り本気で戦ってやるよ」


 そう言いあった瞬間、場の空気が変わる。

 平原はうるさいほどの静寂が支配し、並の者であれば窒息してしまいそうな空気が流れる。

 そんな中、ジンは手にした大剣を低く、自分の体の後ろに隠すような脇構えに構えた。

 剣には気が籠められており、銀色の剣は青白く炎の様に光っていた。


「はあああああああああ!」


 ジンは気合と共に体を回転させるように剣を薙ぎ払った。

 すると青白い衝撃波が取り囲んでいたエレン達に向かって横一線に放たれる。

 何人かは飛び、何人かはしゃがむことでそれを回避すると、二人のエレンがジンに向かってアゾットで斬り掛った。

 ジンはそれを気配で察し、それぞれを剣と気を纏わせた手で受ける。


「素敵……稲妻のように蒼く、炎のように激しく、星のように儚い……これが貴方の魂の色なのね、美しいわ、ジン」


 ジンの纏った気の色を見て、エレンは恍惚とした表情を浮かべた。それは、この状況でなければ見とれてしまうほど美しかった。


「ああ……そいつはどう、も!」


 ジンは気をぐっと込め、爆発させるように発散させることでエレン達を振り払う。

 彼女達はあえて後ろに跳ぶことによって一気に距離をとり、追撃を避ける。


「“大地の大牙(アースファング)”」

「“激流の水柱(アクアピラー)”」


 振り払ったところを下から鋭い地面が突き上げ、上から巨大な水の柱が落ちてくる。


「“生まれ出る鳳凰ブローム・フェニキュア”」


 ジンはあらかじめ残りの二人が攻撃を仕掛けてくるのを呼んでいたらしく、回避するために魔法を使う。

 するとジンの姿が黄金の炎を纏った巨大な鳳凰のものになり、その場から飛び立った。


「ゲェェェェェェェェェン!」


 鳳凰は遠くまで響くような甲高い声を上げ、空を飛びまわる。

 その姿は神々しいまでに美しく、激しく優雅に燃え盛っていた。


「“氷雷の驟雨(ノウザンストーム)”」


 エレンはじっとそれを見つめ、相手の行動を封じるように魔法を放つ。すると激しい雹が降り注ぎ、雷がジンに向かって落ちてくる。

 それを掻い潜って、鳳凰は羽ばたきと共に炎の羽根をエレン達に投げつけた。


「“勝利の追い風ヴィンテール・ウィンド”」


 エレンはその羽根の弾幕を、強い追い風によって鳳凰に向かって打ち返す。

 すると、鳳凰はあえてその中に炎の羽根の隙間を縫うようにして突っ込んでいった。

 そして全てを回避したのち、その先にいたエレンの元へ真っ直ぐに飛び込んだ。


「くっ!? “飛翔(フライング)”!」


 まさか真っ直ぐ突っ込んでくるとは思わなかったエレンは、慌ててその場から飛びのいた。

 その直後、エレンの立っていた場所に鳳凰が突っ込み、一帯が炎の海と化した。

 しばらくして、その黄金の海の中からジンが歩いて出てきた。


「ああ……もう最高よ、ジン。貴方の魔法って本当に芸術的だわ」


 エレンはやや興奮した様子でジンに話しかける。同じ魔法使いとして、ジンの扱う大魔法はとても興味の惹かれるものであり、それを見れたことが嬉しいようであった。

 ジンはそれに対して笑みを浮かべて応対する。


「やれやれ、ずいぶんと余裕だな。やっぱあの程度じゃアンタらは倒せないか」

「もう、無粋ね。倒すことばかり考えていないで、少しは貴方も楽しみなさいな」


 少し拗ねたようなエレンの表情に、ジンは腹を抱えて笑いだした。それはどことなく狂気を孕んだ、どこか壊れた笑いだった。


「ははははは! 何だエレン、アンタあれか? 戦っていないと退屈で仕方ないとかそういうやつか!?」

「そう言う訳じゃないけれど……そうね、私としては魅力的な殿方と美術館でデートしているような気分よ。展示されているのは貴方と私の描いた絵。それを二人で見ながら腕を組んで歩くの。どう、素敵でしょう?」


 うっとりとした表情でエレンは楽しそうにジンにそう問いかける。

 するとジンは笑うのをやめ、大きくうなずいた。


「ああ……それなら悪くない。それで、次はどんな絵をご希望かな、お嬢様?」

「ふふふ……その前に、今度は私の絵を御覧なさいな。“蒼海の大蛇(ヨルム・リヴァイオス)”」


 エレンがそう言うと、ジンの足元から巨大な水の蛇が現れ、呑み込んだ。ジンの体には大量の水によって強烈な圧力がかかり、押しつぶそうとする。

 ジンは剣に青白い気を込め、蛇の腹を切り裂いた。大蛇は制御を失い、巨大な水の塊となって地面に降り注ぐ。


「“貫く閃光(ガンレイピア)”」


 その出てきたところを狙って四人のエレンが一斉に光の矢を投げかけた。

 音もなくすばやく飛んでくるそれに対し、ジンは鎧についているマントを盾にして呪文を唱えた。


「“夢か幻か(ドリム・ドリマ)”」


 するとジンの姿が消え、誰もいないところを光の矢が通り過ぎていった。

 そしてエレンのすぐ後ろに若草色のマントが現れ、中からジンが飛び出してくる。


「せいやああああああ!」


 ジンは一息で間を詰めてエレンに斬り掛った。


「“火蜥蜴の尾(イグニテール)”!」

「まだまだぁ!」 


 エレンはそれに対して前に跳躍し、体を反転させながら炎の鞭を横に払う。

 ジンはそれを青白く光る剣で斬り払い、更に追撃をかけようとする。


「“衝撃の轟鎚(ギガントフォール)”」

「“大地の大牙(アースファング)”」

「うおおおっ!?」


 しかし離れたところにいた他のエレン達が、息の合ったチームプレーでジンに追撃をさせない。

 ジンは咄嗟に気を手のひらの一点に集中させることで下から突き出てくる岩を受け止め、受け身をとった。


「ふぅ……流石にアンタレベルが一度に四人、しかもチームワークも完璧となると一筋縄じゃいかないな」

「あら、貴方のお仲間さん達じゃ不満なのかしら?」


 溜め息をつくジンに、相変わらず余裕の笑みを浮かべながらエレンが話しかけた。

 激しい攻防があったにもかかわらず、二人ともまだ無傷である。

 その事実に、ジンは少し楽しそうに笑った。英雄となった今でも少しでも高みに上ろうとする彼にとって、全力を尽くせることが楽しくてしょうがないのだ。


「あいつらは俺を倒すには経験が足りないし、チームワークもまだまだだ。倒すのには苦労するが、まだまだ負けそうなほどじゃあ無いな。それに比べてアンタの経験は恐らく長い年月の賜物だろうし、全員が同一人物だからチームワークにブレが無い。今まで俺が相手してきた中では十本指に入る強さだな。と言うか、正直単体でも俺とある程度はやれると思うぞ」

「私としては、たった三年間の経験で私の二百年の経験に対抗できる貴方の方が異常だと思うのだけれど?」


 やれやれといった感じで首を横に振るジンに対し、エレンはすこし呆れ顔で返した。

 エレンはエレンで、自分が優れた魔導師であり、長い間王族の護衛として鉄火場を潜り抜けてきたという自負があるのだ。

 だというのに、それが四人集まってもたった三年間旅をしただけの青年一人に傷一つ負わせられないというのは、彼女にとって目の前で見ても信じ難いものであったのだ。


「それはそんな濃い経験をさせた、俺の師匠に言ってくれよ」


 ジンはそれにため息をつきながら、それでいてどこか誇らしげにエレンにそう言った。

 それを聞くと、エレンはにこやかに頷いた。


「そう……それなら貴方の様な芸術品を作り上げてくれたお師匠様に感謝しないといけないわね、“青天の大吹雪クレア・テンペスト”!」


 エレンの魔法によって作られた竜巻のような上昇気流にジンは空高く吹き上げられ、それと同時に中に混ぜられた雪の結晶が形成される。

 雪の結晶は月明かりによってキラキラと光りながら宙を舞い、吹き荒ぶ風によって鋭利な氷の刃となって襲い掛かる。 


「ちっ……“火車の疾走(フレアドライヴ)”!」


 ジンは全身に赤い炎を纏い、自分に近づいてくる雪の結晶を溶かしつくしていく。

 しかしそれでも吹雪は手を緩めることなく、ジンを切り裂こうと際限なく襲いかかって来る。

 それに対して、ジンは炎を纏いながら、次の魔法の用意をしていた。


「“牙を持つ太陽(レオーネ・ソルバルウ)”!!」


 次の瞬間、ジンの周囲を魔力が大爆発を起こして白い閃光のような炎が覆い尽くし、襲い掛かっていた吹雪を消し飛ばした。

 閃光が収まると、空には爆発した魔力の残滓が白く光って舞い、エレンの頭上に降り注いだ。エレンからはそれが星空と混じり合って、まるで星が降ってくるかのように映った。

 それを見て、エレンはまるで素晴らしい芸術品を見たときのように感嘆の声を上げた。


「はぁ……綺麗……素晴らしい大魔法だったわ……ねえジン、まだ立っていられるかしら?」

「ふぅ……生憎と、俺はまだピンピンしてるぜ」


 その軽口を聞いてそちらを向くと、そこにはジンが全くの無傷で、決闘前と同じ様子で悠然と立っていた。

 その姿を見て、エレンは少し驚いたように眼を見開いた。

 鉄を一瞬で溶かすほど高温の炎柱、黄金に輝く鳳凰、そして空一面を染め上げる白炎。

 そのどれもがかなりの魔力を必要とする大魔法であり、それを回復もなしに立て続けに使って息すら切らさないジンにエレンは驚嘆したのだった。

 そしてその表情はすぐに歓喜の表情へと変わり、ジンに対して拍手を送った。


「凄いわ、流石よジン。私達四人がかりで未だに無傷、しかもあれだけの魔法を使っておいて息すら上がらないとは恐れ入ったわ。ふふふ、それじゃあそろそろ私達の最高の魔法を見せてあげるとしましょう」


 そう言うとエレン達は一斉に空へと飛び立ち、ジンを中心とした三方とその頭上、つまり中央に陣取った。


「“虹の万華世界(プリズム・カレイダス)”」


 エレンが呪文を唱えると地面に虹色の巨大な魔法陣が描かれ、それぞれのエレン達を起点にしてジンを囲むように巨大な結界を作り出した。

 結界は巨大な三角柱の形をしており、壁面は虹色の壁で出来ていてゆっくりと回転している。


「四人分の魔力を使って作るとはずいぶんと豪華な世界だな?」

「ふふふ……どうかしら、貴方の為に創りだした私の世界は?」

「まあ、普通ならこんなに魔力を使うことは無いのだけれど」

「貴方相手にはこうでもしないと通用しなさそうですものね」

「ええ、だからこれは貴方の為だけに創った世界なのよ」


 ジンの一言にエレン達が口々に答えていく。

 それを聞いてジンは不敵に笑い、周りの様子を窺うと同時にエレンの次の行動を考える。


「そいつは光栄だな。で、これから一体何を見せてくれるんだ?」

「そんなに焦らなくてもすぐに見せてあげるわよ。それじゃ、行くわよ?」


 エレン達は、そう言うと手にした魔法の杖代わりのアゾット剣を振りかざした。


「「「「“|貫く閃光《》”」」」」


 四人のエレンが一斉に光の矢を放つ。

 すると、それは結界の壁で複雑に反射して様々な角度からジンに襲い掛かった。

 更に、壁に攻撃が当たった瞬間壁が鏡の様に変化して、まるで万華鏡の中にいるような感覚を覚える。

 それは合わせ鏡によって無限に広がった世界に相手を立たせ、攻撃を認識しづらくしていた。


「くっ! なるほど、そう言うことか……」


 ここにきて、ジンはわずかに焦りを覚えた。

 もし仮に、自分がエレンに攻撃を仕掛けたとしてもその攻撃は自分に返ってくるだけであろう。更に言えば、エレンが攻撃を重ねるたびに避けるべき弾の数は増えていく。

 つまり時間が経てば経つほど自分の方が不利になっていくのだ。と言うことは、ジンは一刻も早くこの結界を破る方法を探し出さなければならない。

 しかし、その起点である三方及び中央のエレンは結界に守られており、こちらから攻撃する手段が見つからない。

 エレンの魔法は、相手が少人数であるならば攻守共に恐ろしい程の効果を発揮していた。


「綺麗でしょう? この万華鏡の世界で貴方はどうするのかしら?」


 エレンは柔らかい笑みを浮かべてそう言うと、再び剣を振りかざした。


「「「「“火炎弾幕(エル・ブライト)”」」」」


 万華鏡の世界に、オレンジ色の炎が鮮やかに輝きながらジンに向かって降ってくる。

 エレンの柔らかな態度とは対照的に、その攻撃はとても苛烈で、それでいてとても美しかった。


「“防弾の障壁(フラック・ジャケット)”」


 ジンはそれに見とれることなく自分の周囲に青白い障壁を作り出し、少しでも反射してくる弾丸を減らそうとする。


「「「「“|貫く閃光《》”」」」」


 しかし反射する弾が消えてもエレンはすぐに追加の魔法を放ってくる。

 張られていた防壁もだんだんと耐久度が落ちていき、何発か貫通した閃光がジンの体をかすめる。

 このままではジンはゆっくりとエレンに命を奪われることになる。


「ちっ……腹括るっきゃねえな……」


 ジンは何を思ったか障壁を解き、自分の剣で飛んでくる魔法を斬り払い始めた。

 踊るような足さばきで避け、白刃が翻るたびに魔法が掻き消える。


「「「「……っ!? “青天の大吹雪(クレア・テンペスト)”!」」」」


 エレンはそれを見てジンが呪文を唱え始めたのを察知し、弾数を一気に増やした。

 もはや結界の中は雪の結晶で乱反射した閃光で染め上げられ、隙間の見えない状態になった。

 しかしジンは幾らかを被弾しながらも剣をふるい続け、倒れる様子が無い。


「上手く行ってくれよ……“燦々たる終焉(ブリリアス・エンデ)”!」


 ジンがそう言って手を空に掲げると、結界の外が急に明るくなり周囲の草から火の手が上がり始めた。

 エレンは空からの光と焼けつくような熱さを受けて空を見上げた。するとそこには青白く光る星が周囲を焼き尽くしながら迫ってくるのが見えた。

 その大きさは先程エレンの吹雪をかき消した炎とは比べ物にならないほど大きく、草原全体から一気に火の手が上がるほどの熱を放っていた。


「さあ、我慢比べだエレン! 俺の切り札の一つ、耐えきって見せろ!」


 ジンは手を空に掲げたまま魔法の制御を続けた。

 魔法の制御に集中力の大半を割いており、致命傷になりそうなもののみの防御しかしていない。その間に次から次へとエレンの魔法がジンの体を傷つけていき、流血を強いる。


「くっ……ううっ!」


 エレンは持てる魔力の全てを自らの保護と結界の維持に充てた。

 激しい熱と光に、その表情からは余裕が完全に消え、苦悶の色が浮かんでいる。

 灼熱の青白い星が段々と迫ると同時に、万華鏡の世界に次々とひびが入っていった。


「うおおおおおおお!!」

「ああああああああ!!」


 そして青白い星が弾け、全てを白く染め上げた。


ああ、しんどい。

何がしんどいって魔法の名前を考えるのが一番しんどい。

何しろ頭の中がどんどん厨二臭くなって精神的打撃ががががが……慣れてきたけど。


ちなみにエレンさんの強さはルーチェの上位互換的な強さです。

ルーチェは才能があってジンのスパルタ特訓を乗り越えてきましたが、高々2カ月の特訓の経験が常在戦場で200年現場に立ち続けた経験に勝てるわけないので……

え、ジン? ジンの特訓がカスに思えるほど超濃縮人生によって強化されています。


それではご意見ご感想お待ちしております。

……今後の参考にしたいのでかなり切実に感想がほしいです、はい……

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