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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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へやわりとようせいとおとことさいなん

「……なあジン、結局俺達はどういう扱いになったんだ?」

「依頼達成までこの城で仕事をしながら貴族や国王族と同レベルの生活をすることになった。お前ら、頼むから『常識の範囲内』で行動してくれよ?」


「常識の範囲内で」の部分をやたらと強調しながら、ジンは全員にそう話す。

 今までの身内の行動を振り返ると、眼も当てられないほど常識はずれなことをしているからである。


「流石に僕達だってそこまで馬鹿じゃないよ。問題は護衛以外の仕事のことさ。そっちはどうするつもりだい?」


 ルネはライトブラウンの髪を弄りながら、ため息混じりにジンにそう返した。

 ジンは少し考えて返答する。


「大体は現場の指示に従えば何とかなるだろう。仕事内容は追々国王様とかから指示も出るんだろうし、個人個人で動くことが多くなるだろうな。それに幾らなんでも国家の中枢に関わることを一介の雇われ冒険者にやらせることは無いだろうから、そんなに難しいことは無い筈だ。たぶん、後で得意分野とかいろいろ聞かれると思うぜ?」 

「……そ、それにしても、いきなり貴族生活とか言われても実感湧かないのです……」


 ルーチェは今までのアパート暮らしから突然の城暮らしへの変更に戸惑っているようで、オロオロしている。

 それを見てジンは苦笑した。


「基本的にはいつもと変わらんと思うぜ? 飯が少し豪華になって、ベッドが柔らかくなっただけさ。でもまあ、せっかく城内を自由に歩いて良いって言われたことだし、色々と見学すりゃ良いんじゃないか?」


 ジンの言葉を聞いて全員が眼を光らせた。

 その内容の内訳は、


   ユウナ:厨房で料理の勉強

    リサ:訓練所でストレス発散

    レオ:メイドのナンパ

    ルネ:宝物庫の見学

  ルーチェ:書庫で希少文献の調査

 アーリアル:城内の神殿の見学 on レオの肩


 であった。

 それぞれがそれぞれに思いを馳せていると、エルフィーナが声をかけてきた。


「お話は終わった? それじゃー私が案内してあげるからついてきてね」


 そう言うと、エルフィーナは文字通り城中を隅々まで案内した。

 ジン達は会議室、訓練所、娯楽室、食堂、図書室および書庫など、様々な施設の紹介を受けた。

 途中エルフィーナが試行錯誤をしながら全員の呼び名を考えたのだが、


「う~、アーリアルはあーたんで、ルーチェはるーるー、ルネは……う~……普通にルネちんかなぁ? リサはリサねー一択だし、ユウナは雰囲気的にゆーさまでしょー……レオは……れおぽんで良いや。ジンはどうしようかなぁ……女の子みたいだけどジニーで良いかな?」

「「「「「「「…………………」」」」」」」


 全員沈黙した。

 何故なら、却下すると「じゃ~、何て呼んで欲しいの? 面白くなきゃやだよ?」と、期待に輝かせた目で見られながら言われるからである。

 ちなみに、アーリアルの名前は神様の名前にあやかって付ける人が多いため、町を探せば割と見かける名前だったりする。

 そして最後に案内を受けたところは三階の渡り廊下の手前にある部屋だった。


「で、この辺りがみんなの部屋だよー。手前から順番に、るーるー、ルネちん、リサねー、れおぽんとあーたん、ゆーさま、ジニーの部屋だからねー。ちなみにこの奥が私んちー」


 この区画は国王が信頼できると思った忠臣達が常駐するための区画であり、王族の居住区画のすぐ手前にある区画だった。

 周囲を深い堀に囲まれた王族の居住区画に行くためには必ずこの三階の渡り廊下を使わねばならないため、門番の役割も果たすことになる。

 エルフィーナの提示した部屋割りを聞いて、レオは乾いた笑みを浮かべた。


「何で俺とアーリアルが同じ部屋なんだ?」

「あれー? 親子じゃないの?」


 レオの疑問に対して、エルフィーナは疑問で返した。

 その反応に、レオはガクッと膝をついた。


「……俺、そんな歳に見えるのか……?」

「レ、レオは我と一緒は嫌なのか?」


 落ち込むレオの肩の上で、金色の眼に涙をためて泣きそうな顔でアーリアルはそう言った。

 その震える声を聞いて、レオはふっと溜め息をついた。


「……そうは言ってねえだろ。だから泣くんじゃねえよ」

「うん……」


 レオはそう言いながらアーリアルの頭を撫で、アーリアルはそれを受け入れてレオの頭に抱きつく。

 するとぐずっていたアーリアルの表情が見る見るうちに満足そうな笑顔に変わっていった。


「ねー、あの二人ホントに親子じゃないのー?」


 その二人を指差して、無邪気な声でエルフィーナはそう言った。

 非常に子供っぽいアーリアルとそれを宥めるレオはパッと見たときに二人とも銀髪であり、何も知らない人が見れば親子に見えてしまうのだ。

 それを見て、リサは笑いをこらえながら質問に答えた。


「気持ちは分かるけど、親子じゃないわよ?」

「へー、そーなんだ」

「それにしてもずいぶんと信頼されたもんだな。まさか王族の居住区画のすぐそばに部屋が来るとは思わなかったぞ?」

「おとーさまがあの契約書にサインしたなら大丈夫だろうってことで私んちのすぐ近くになったんだよ。これなら何かあってもすぐにみんな私のとこに来れるでしょー?」


 エルフィーナは楽しそうにそう言った。どうやら友人認定した人間がすぐ近くに住むことになったことが嬉しいようだ。

 それを聞いて、ジンは難しい表情で答えを返す。


「確かにそうだが、幾らなんでも近すぎないか? 豪胆なんだか慎重なんだか全然分からん」

「いーじゃん、部屋近いと遊びに行きやすいし。それとも、ジニーは私と仲良くしたくないの?」


 エルフィーナは捨てられた子犬の様な眼で、ジンの顔を下からのぞきこんだ。

 その視線にジンはたじろぐ。


「い、いや、そんなことは無いが……」

「ホントにー?」


 エルフィーナはくりくりした琥珀色の純真な目でジンをじーっと見つめ、詰め寄りながら確認をとる。

 その視線には有無も言わせぬ、威圧感とも違う別の圧力があった。


「あ、ああ……」


 結果、ジンにできることはただ頷くことだけだった。

 それを見て、エルフィーナはにこりと笑った。


「じゃあいーじゃん。と言う訳で、これからちょくちょく遊びに行くから宜しくねー」


 ジンがエルフィーナの精神攻撃に白旗を上げたその時、向かい側からエレンがやってきた。

 エレンの手には書簡が握られており、先ほどまで会議に出ていたことが分かる。


「あら、姫様。彼らを案内していたのかしら?」

「そうだよー。あ、ジニーの部屋、エレンの希望どーりエレンの隣の部屋になったからねー」


 どことなく楽しそうなエルフィーナの声に、エレンが軽く首をかしげる。


「ジニー……ああ、ジンのことね、ありがとう。そうだ、せっかくですし、皆さん私の部屋でお茶でもいかがかしら?」

「あ、さんせー。ねー、みんなで一緒にお茶のも?」


 エルフィーナはそう言いながらジンの腕をくいくいと引っ張る。

 それに対して、ジンは少し考えてから小さく頷いた。何故なら、エレンが何か良からぬことを考えている可能性があり、その腹を探ってみようと考えたからである。


「そうだな。それじゃあ、ご一緒させていただきましょう」

「あらあら、そんなにかしこまらなくても良いわ。これからしばらくは同僚なのだし、楽なしゃべり方で良いわよ?」


 エレンは砕けた喋り方ではあるが、上品な仕草で話しかける。その動作には隙がなく、たとえ今この瞬間に背後から攻撃を加えられても即座に返り討ちに出来る態勢であった。

 それに対し、ジンは普段通りの態度で話を続けた。こちらも常日頃から身の危険に備えているために、全く隙がない。


「んじゃ、お言葉に甘えさせてもらおう。ところで、何で俺達の部屋と言うか俺の部屋を隣にしたんだ? アンタはあの契約書の被保護者にはなっていないはずだが?」

「エレンと呼んでちょうだいな。それから質問の答えだけれど、単純に私の興味よ。それに私じゃ貴方を倒しきることは不可能だし、逆に貴方に襲われても逃げるくらいなら問題ないわ」


 ジンは一体自分の何に興味があるのかを考えると同時に、エレンが自分から逃げ切れるかどうかを考えた。

 興味の内容については分からないが、逃げ切れるかどうかはすぐに答えが出た。


「それもそうか。あの魔法陣が張れるほどの使い手なら、俺を倒せずとも逃げることは出来るだろうな」


 ことのほか早く帰ってきた返答に、エレンは少しだけ意外そうな表情を浮かべた。何故なら、ジンが思いのほか舌戦の場をくぐっていないことが明らかになったからである。

 通常、得体の知れない相手には自分の力を隠し、少し強めに強調しておくくらいでないと、相手に圧力が掛からない場合がある。

 特に今回の場合は、エレンがジンから逃げ切れると言う事をジン自身が客観的に分析して素直に話してしまっている。と言うことは、この時点でエレンをジンは完全に抑え切れないという情報を明かしてしまったことになるのだった。

 そんなジンの言葉に、エレンはにこやかに微笑んだ。


「あら、ずいぶん素直に認めてくれたわね」

「あの魔法陣の隠ぺい能力は凄かったからな。たぶん本気で隠れることに専念されたら俺には見つけられんだろうな」


 ジンの評価を聞いて、エレンは口に手を当てて嬉しそうに笑った。


「ふふふ、修羅のお褒めにあずかり光栄よ。さてと、ここでこのまま立ち話をしているのも何だし、中にお入りなさいな」


 エレンはそう言って、自分の部屋のドアを開けた。


「♪~……あ」


 すると、書類や本が散乱している雑然とした部屋の中で、羽の生えた小さな人の形をした生物、妖精が本を読んでいた。

 エレンは笑顔を消し、無言でドアを閉め、顔に手を当てた。


「……ちょっとごめんなさいね」


 そう言うと、エレンは勢いよくドアを開け放って中に入っていった。エレンが中に入ると、乱暴にドアが閉められる。

 すると、突如として中から怒号と悲鳴が聞こえてきた。


「キャロル! あれだけ散らかした部屋を片付けておきなさいと言ったでしょう!?」

「ひええええ~っ! すんません、賞味期限がギリギリのケーキがあって、それを処理してたら遅くなったっスよ~!」

「わ、私が楽しみにしていたケーキを……ええい、そこに直りなさい! たたっ斬ってくれるわ!」

「ひええええええええ~っ! アゾット喰らったら死ぬっスーーー!」

「ええ、殺すつもりで振ってるのだから当然よ!」

「ひょええええええええええええええ~っ! 退却、退却っスーーーーーー!!」


 中からドタバタと激しい騒音が響く。重たい本が落ちる音や、実験用のフラスコが割れる音が聞こえてくる。

 しばらくするとドアが再び勢いよく開き、中から先ほどの妖精が飛び出してきた。


「兄さん兄さん! ちょっと胸借りるっスよ!」

「あ、おい!」


 青緑色の髪のキャロルと呼ばれた妖精は、有無を言わさずレオの黒鉄色の鎧の中に入り込む。

 その直後、部屋の中から無表情のエレンが短剣を持って現れた。エレンはレオの鎧の中に入っていくキャロルの姿を認めると、背筋が凍るほど綺麗な笑みを浮かべた。


「……貴方、確かレオって言ったわね……ちょっとそこの駄妖精渡してくださる?」

「あ、ああ、ちょっと待ってくれよ……って、テメェ何してやがる!」


 レオが鎧の中からキャロルを引っ張りだそうと中を見ると、その中ではキャロルが銀色の繭を作って引きこもっていた。

 引きはがそうとしても繭は強力にくっついており、取れそうにない。


「後生だから見逃して欲しいっス! キャロルが生き延びるためには仕方が無い事っス!」


 繭の中からはキャロルの必死の声が聞こえてくる。その甲高い声を聞いて、エレンは黒い笑みを深くした。


「ふ~ん……その鎧の中で籠城するつもりなのね、キャロル? ……ごめんなさいね、レオ。少し手荒な事をさせてもらうわ」


 そう言うと、エレンは指先に炎を生み出した。

 それを見て、レオはギョッとする。


「ま、待て、何をする気なんだ!?」


 冷や汗を浮かべてアーリアルを肩に乗せたままじりじりと後退するレオに、氷のように冷たく美しい笑みを浮かべながらじりじりと近寄るエレン。


「ええ、その駄妖精を鎧の中で蒸し焼きにしてやろうと思って。大丈夫よレオ、ちょっと熱いだけだから」

「だ、大丈夫な訳あるけぇ! 俺まで焼け死んじまうわ!」


 レオはそう言うや否や、一目散に逃げ出した。


「あ、こら待ちなさい! “火蜥蜴の尾(イグニテール)”!」


 それを見て、エレンは走りながら炎の鞭を呼び出しそれを振りまわす。

 レオはそれを避けつつ、ひたすらに走る。


「うおおおおおお!」

「こ、こらレオ! 我を肩に乗せたまま走るな! 酔ってしまうだろうが!」

「うるせえ、テメェを降ろしてる余裕なんざねえんだよ!」


 頭にしがみついているアーリアルにそう言いながら、レオは炎の鞭を避け続ける。

 そんな中、レオの胸元からは妖精が応援をし続けている。


「頑張って逃げるっスよ、兄さん! お互いの命がかかってるっス!」

「テメェはんなこと言う前にとっとと出てきやがれ!」

「無理っス。繭は作れても消せないし、外に出るためのナイフを忘れてきたっス」

「この大馬鹿ヤロォォォォォォォォ!!」


 悪びれることなく最悪の事実を告げるキャロルに、レオは思いっきりそう叫んだ。


「一瞬で済むから止まりなさい! “炎の大河(バーンフラッド)”!」


 今度はレオに向かって一直線に、押し寄せる濁流のように炎が迫ってくる。

 どうやら余程頭にきているらしく、本当にレオごとキャロルを蒸し焼きにしようとしているようであった。


「んああああああああ!」


 レオはそれを気合でかき消したり、避けたりしている。 

 その様子を、残りのメンバーは呆然と見送っていた。


「……ごめんねー、みんな。お茶会はまた今度みたい」

「……まあ、そうだろうな……」


 そう言うと、エルフィーナは案内を終了した。

 なおその日の夕食の時間には、息を切らせたエレンと黒こげになったレオと蒼い顔をしたアーリアルがいたことは余談である。





 夕食後、初日の護衛にレオとルーチェをあてがったジンは自室で大剣をとり、トレーニングをしていた。

 すると、ドアをノックする音が響いた。


「ん、誰だ?」

「入ってよろしいかしら?」


 ジンが声をかけると、大人びた女性の声が聞こえてきた。その声の主に、ジンは首をかしげた。

 その声の主がこの時間にわざわざ声を掛けてくる理由が見当たらなかったのだ。


「エレン? ……まあ良いか、入って良いぞ」

「失礼するわ……熱心ね、トレーニングの最中だったかしら?」


 剣を持っていたジンを見て、エレンは感心した様子で頷いた。

 ジンはそれに苦笑で返す。


「うかうかしてると奴らに追い抜かれそうなんでね。で、何の用だ?」


 ジンがそう言うと、エレンは微笑を浮かべて、


「単刀直入に言うわよ。貴方に決闘を申し込ませていただくわ」


 と言った。


「……は?」


 突然の一言に、ジンは固まる。

 何故なら、決闘とは訓練所を使わない、本気の命のやり取りを指すのだから。




今回は話的な進展はほぼなし。


それにしても、このペースで行くと終わるころには何話になっているのやら……


ご意見ご感想お待ちしております。

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