表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
20/60

おうさまとけーやく

今の作者の状況を的確に表す言葉


「かゆ……うま……」

 一行は首都に戻り、その中心にあるフランベルジュ城に入った。エルフィーナはジン達より先に謁見の間に入り、父親である国王に話をすることにした。

 そしてエルフィーナが謁見の間に入ると、国王は非常に驚いた表情を浮かべた。


「フィーナ!? 隠れていたのではなかったのか!?」

「それがねー、見つかっちゃったの」

「何だと!? あの魔法陣は破られないはずではなかったのか!? ええい、エレンを呼べ! あやつにはきっちり話を……」

「おとーさま、エレンは悪くないよ? ただ、ちょっと相手が悪かっただけなんだ」


 国王の声は非常に大きく、そのあまりの音量にエルフィーナは顔をしかめ、近くに飾ってある騎士甲冑が振動を始める。

 そんな興奮した国王を、エルフィーナは極めてのんきな声でそう言って宥めた。

 国王は深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、改めてエルフィーナに向き直った。


「む……そう言えば、その相手はどうしたのだ? まさか、黙って帰したりはしていないだろうな?」

「うん、ちゃんと連れてきてるよ。うふふ~ 多分びっくりすると思うよ? ジン! みんなー! 入ってきて!」


 エルフィーナがそう叫ぶと、ジン達が謁見の間に入ってくる。

 ジンは仲間を手で制し前に出ると、国王に向かって恭しく頭を下げた。


「お初にお目に掛ります、陛下。ジン・ディディエ・ファジオーリと申します」


 国王は名前を聞いた瞬間、驚愕に目を見開いた。


「……まさか、君があの『修羅』なのかね?」

「確かに、私はそうも呼ばれております。そして私と共にいるものは、私が認めた使い手たちです。以後お見知り置きを」

「それでね、しばらくの間ジン達にお願いして私のことを守ってくれることになったの。だから、おとーさまにそれを伝えに来たの」


 父親を驚かせられたことが楽しかったのか、エルフィーナは満面の笑みを浮かべてそう言った。

 それに対し、国王は難しい表情を浮かべた。


「ふむ……良いだろう……と言いたいところだが、そう簡単には許可は出せん」

「えーっ、何で!?」


 まさか断られるとは思っていなかったのだろう、エルフィーナは驚いた様子で声を上げた。

 国王は難しい表情を浮かべたまま話を続けた。


「それを話す前に先に断っておく、これからジン殿達にとって不快なことを言うことを許してほしい。まず、ジン殿が本人であるかが分かっていない。エレンは確かに我が国最高位の魔導師だが、彼女が頂点でない限り、それを超える魔導師は複数人居て然りであるからだ。これは確認をとれば分かるのであろうが、そこははっきりさせておきたいのだ。そしてこちらが重要なのだが、彼らが我々に害意が無いかどうかが分からぬ。その確認がしっかりと取れなくば、簡単に許可することは出来ぬ」

「でも、今までにも護衛を雇うことはあったよ?」

「確かにそうだ。だがそれは何かあったときにエレンや城の者で対処出来るレベルの者であった。しかし、今回は訳が違う。もし彼が修羅本人であった場合、彼一人抑えるのに何人の犠牲を出すやら分かったものではない。そうでなくてもエレンの魔法を破った男だ、我々で易々と制御しきれるものではないだろう」


 国王がそう言うと、エルフィーナは困ったように唸り声をあげた。

 国王の言うことも分からなくも無いのだ。何故なら、ジン達一行が反乱を起こそうものならば、それだけでどれほどの血が流れるか分からないからである。


「う~、何とかならないのかなぁ?」

「そのためにも今エレンを呼んでおる」


 二人で話していると、再び扉が開き人が一人入ってきた。

 入ってきたのは赤みがかった茶髪を肩の高さで揃え、淡いレモン色のローブを身にまとったエルフの女性だった。

 エルフの女性は国王の前に来ると一礼した。


「エレン・レミオール、只今参上いたしました。私にご用があれば何なりとお申し付けを」

「エレン、久しぶり~」

「姫様!? 何故ここにおられるのですか!?」


 エレンはのんきに手を振るエルフィーナの姿を見るなり、口元に手を当てて驚いた表情を浮かべた。


「……」


 ジンはそれを見て少し考え、彼女が例の魔法陣を仕込んだ術者で、あの仕草は演技であろうと考えた。

 何故なら、姫を餌にして冒険者をおびき出すなどと言うことを知られたらただでは済まないからだ。

 そう考えるジンを尻目に、エルフィーナはエレンに話しかける。


「あのねエレン、あの魔法陣破られちゃったの」

「何ですって? 失礼いたしますが、事の詳細をお聞かせ願えますか?」


 エルフィーナはエレンに事の顛末を詳しく話した。

 それを聞くと、エレンは小さく頷いた後で国王の方に向き直った。


「……そういうことでしたか……陛下、今この場で魔法を使う許可をいただけますか?」

「構わん。お前が何をするかは分からぬが、むしろ余も自分の目で確認しておきたい」

「では、これから私が行うことを説明いたします。まず、今ジンと名乗っておられる彼に魔法をかけ、彼の記憶を覗くことによって本人の確認を行います。聞けば彼はフェイルノート国で本人の身分を証明する書面を賜ったとのこと、それも合わせて確認を行いましょう」

「ふむ、では害意の有無はどのように判断するつもりだ?」

「それは許可をいただけるのであれば血の契約書を使って判断いたします。これは本人の血を持って署名したものを、その文面の内容に従わせる効果がございます。今回の場合ですと、彼らが陛下や姫様に危害を加えられないようにするものになるのですが、それを確実なものにするために陛下と姫にも署名していただきたいのです。許可をいただけますか、陛下、姫様?」


 エレンがそう言うと、親子は揃って頷いた。


「良かろう。その程度のことで安全が買えるのであれば余に異論はない。フィーナ、お前はどうだ?」

「ん、いいよ。ジン達はそれでいーの?」

「私は特に異論はございません」

「ホントに?」


 エルフィーナの言葉に、ジンはすぐにそう言って答えた。

 それを聞いて、エルフィーナは不思議そうな表情で首をかしげた。何故なら、自分の記憶を覗かれることは、普通ならば例え疚しいことがなくても不快なことであるはずだからである。

 しかし、当のジンは全く躊躇する様子もなく頷いた。


「国王やそれに連なる者の警備をするのであればそれ位の事はして当然でしょう……しかし、私以外の者がどう思っているかを確認させていただきたいのですが、よろしいですか?」

「うむ」


 国王の承諾を受け、ジンは後ろを振り返り全員に声をかけた。


「話は聞いてたな? そう言う訳で、お前らにもサインしてもらうぞ」

「……つまり、どう言うこと? 一度きちんと整理しておきたいんだけど?」


 リサはそう言うと腕を組んでジンに説明を求めた。

 自分の与り知らないところでどんどん話が進む上に、理解できないことが沢山あるためである。


「とどのつまり、効果付きの誓約書に自分の血を使ってサインするわけだ。これにサインすると、その書面が存在する限りは国王様やフィーナに危害を加えることができなくなる」

「具体的にはどうやってそうするんですか?」

「恐らく害意を持って攻撃を加えた場合に、一切の力が入らなくなる呪いが掛けられると思う。普段触れ合ったりする分には効果は出ないはずだ。何故ならば、触れることができないと咄嗟のときに引き寄せたりできなくなるからな」

「でもそれに安易にサインするのは危険じゃないかい? 逆にいえば契約者に襲われても僕達は何もできない訳なんだろう?」


 説明を続けるジンに、ルネがライトブラウンの髪を指で弄りながらジンにそう言った。

 しかしジンはそれを即座に否定した。


「流石にそこまでは無いな。確かに契約者に攻撃することは出来ないが、自分の防御は出来るさ。相手の剣を弾き飛ばすことは出来るし、魔法をかき消すことも出来たしな。大体、俺達に襲い掛かるとしても国王様達じゃ無理だろう。まあ、別にサインしても俺達が本気で困ることは無いだろうな」

「ふん、我はそんな署名なぞせぬぞ。そのような物で神を縛ろうなどという傲慢なことは許さぬ」


 不遜な態度で腕を組み鼻を鳴らすアーリアル。

 ちなみに国王の前での肩車は流石にレオに迷惑がかかると言うことで、アーリアルは地面に降りている。

 そんな彼女に、ジンは苦笑いを浮かべて答える。


「心配しなくてもアーリアルに署名をさせる気はない。こう言っちゃなんだが、今のアーリアルの姿は誰が見ても子供、その姿なら幾ら国王様でも子供に流血を望んだりはしないだろうさ」

「一つ質問なんだけどさ、護衛の仕事ってみんなこんな面倒くさいことするわけ?」

「流石にそりゃねえだろうよ。そんなことしてたら準備に金がかかるし、大体客に襲い掛かるようじゃ自分の信用に関わっからな。冒険者も客商売、一番大事な信用を失うことはしねえのが大前提なんだわ」


 リサの質問にレオが割り込んで説明をする。

 信用を失ってしまえば、後は飢えていくしかない。それを避けるためにも、今回のような特殊なケースを除いて余程の事がない限りは冒険者達は依頼人を裏切ることはないのだ。

 今回の場合は仮に依頼主を裏切って全てを掌握すれば国一つを乗っ取れるという状況であるため、血の契約書のような書面がないと安心できないような状態なのであった。

 ジンも言うことは一緒だったらしく、感心したようにうなずいた。


「ほう、やっぱその客商売をしていただけあるな、レオ。言いたいことを全部言ってくれた」

「宿で荒くれ共の相手をしてりゃ嫌でも覚えるっての」

「それもそうか。それじゃ、話を付けてくる」


 澄ました顔のレオにそう言うと、ジンは国王に向き直る。


「話は終わりました。全員署名に合意をしました」

「うむ、では早速始めるとしよう。まずは身分の確認から始めようか」


 国王がそう言うとエレンがジンの前に立った。

 エレンはジンの顔を両手でつかみ、アメジストの様な瞳でジンの眼をのぞきこんだ。


「では、始めます。“汝の記憶を明かせよ(レド・ユメディダス)”」

「うっ……」


 魔法が掛けられた瞬間、ジンは強い頭痛を感じて僅かに声を上げる。魔法が掛けられているせいか眼を閉じることができず、記憶をそこから読み取られていく。

 しばらくするとエレンは眼を閉じ、ジンを解放した。


「…………ジン・ディディエ・ファジオーリ、旧名ジン・マクラーレン本人であることを確認いたしました。ご協力ありがとうございます。ごめんなさいね、記憶まで確認させてもらって」

「いえ、お気になさらず」


 感謝の言葉を口にするエレンの表情はどことなく落胆の表情を浮かべており、一方のジンはにこやかな笑みを浮かべていた。

 どうやら、この魔法を掛けられている間にジンとエレンの間で一勝負あったようである。


「ねぇエレン、書けたよー?」


 エレンの後ろからエルフィーナののほほんとした声が聞こえてくる。

 エレンは玉座の前に置かれた机の前に行き、サインを確認する。そこには、赤黒い血で書かれた国王と王女のサインが記されていた。

 それを見ると、エレンは一つ頷いてジンに声を掛けた。


「はい、では預からせていただきます。それではジン様、こちらに血を受けて署名をお願いいたします。後の方々も続いて参りますのでご用意をお願いいたします」


 ジンは何も言わずに頷いて、机の前に立つ。机の上には血を受けるための皿とナイフと消毒用の薬品が染み込んでいる綿、そして羽ペンと書面が置かれていた。

 ジンは机の前に立つと、書面を確認した。そこには次のように書かれていた。


『契約における誓約


 いつ、いかなる時もモントバン国国王およびその家系に連なる者に対して害意ある行動を行わない

 国王家の家財を持ちださない

 モントバン国王家に対して反乱等の企てを行わない


 以上のことを立会人の許に同意し、それを守り抜くことを下記の契約者は誓うものとする』


 書類の立会人の項には、既にモントバン国国王とエルフィーナ、そしてエレンの名前がそれぞれの血で記されている。

 ジンは机の上のナイフで手を切りつけると受け皿に血を滴らせ、それを羽ペンに着けて名前を書いた。

 アーリアル以外の残りのメンバーも同様に名前を書いていき、全員が書き終わった。 


「うむ、署名も無事に終わったことだ、続いて報酬と扱いについて話し合おうではないか。諸君らは報酬に何を望むか?」

「報酬については依頼である異変の解決達成時に、路銀と陛下の直筆と印鑑の入った身分証明書を全員分発行していただきたい。依頼中の我々の扱いについては、陛下の思うようにお伝えください。ですが、護衛に不備が出るようなことがあればこちらから希望をお出ししますので、ご了承ください」


 ジンの要望を聞くと、国王は静かにうなずいた。どうやらジンの出した条件に不満はないようであった。


「良いだろう、その程度で娘の安全が買えるのであれば安いものだ。扱いに関してだが、諸君らを客将という形で取り扱いたいと思う」


 国王の突然の提案にジンは思わず首をかしげる。

 何故なら、雇われの冒険者をわざわざ客将扱いにする理由が全くないからである。


「客将、ですか?」 

「巷では、諸君らは皆AAAランク以上、うち四人はSSSランクと聞いている。それほどの逸材であるのならば、依頼外ではあるがここにいる間に兵たちの調練や魔導師たちの教育なども頼みたいと思っておる。その代わり城内の立ち入り禁止区域を除く全ての場所への通行許可と仕事に対する報酬のを出し、そして依頼中の生活を客人と同等の扱いにさせてもらおう」


 これにはジンも驚いた。

 通常、国王家の護衛であっても精々が常駐の騎士と同じ扱いを受ける程度であり、一介の冒険者を貴族や国王族と同等の待遇にすることは異例と言っても良かった。

 更にその上に別途給料も支払われるのだから、ジンにとって信じられないほどの高待遇であった。

 加えて想像以上に自分達が噂になっていたことを知り、少々迂闊だったと反省する。


「……ずいぶんな扱いですね。それであればこちらとしてもご期待に応えなければなりませんね」

「うむ、期待しておるぞ。それでは下がって良いぞ」


 それを聞くとジンは一礼し、仲間と共に謁見の間を辞した。

前書きで軽く触れた(?)とおり、これから大学やら就活やらで死ぬほど忙しくなることが予想されます。

よって更新速度が落ちる可能性が……そうならんように努力はするけど。


それにしても投下のたびに大体200くらいのユニークアクセスがある。

全く宣伝もしていないこの状況で、この周りに埋もれていそうな小説を読んで下さる方がそれだけいるということに驚きです。

そんな奇特な方々に精一杯の感謝をこめて次回も書かせていただきます。


それでは、ご意見ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ