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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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びっくりどっきりたまてばこ

花粉症しんどい。

「ん?」

「むむぅ?」


 そんなある日、洞窟の中を歩いていると、突如何か違和感を感じたのかジンとルーチェが立ち止まった。

 ルーチェの長い耳が吊りあがっていて、緊張状態になっているのが分かる。

 二人は目を見合わせ、確認を取った。


「ルーチェ……何か気がついたか?」

「……はい……一瞬でしたが、確かに魔力の淀みを感じたのです」


 それを聞いて、ジンは一番最初に潜ったときに感じた違和感を思い出した。

 その時も、確かに場の魔力の流れに乱れが生じていたのだった。


「てことは、俺が前に感じたのは気のせいじゃなかったってこったな。おーい、ルネ! ちょっと来てくれ!」


 ジンに呼ばれて、ルネはトコトコと小走りでジンの元へやってきた。


「どうしたんだい?」

「少し気になることがある。今までマッピングした奴を少し見せてくれないか?」

「ああ、分かった。ええっと、はい、これだよ」


 そう言うとルネは鞄から今まで作成した地図をジンに渡した。

 確認してみると、洞窟の入り口の座標から推測した場合の違和感を感じた位置がほぼ等しかった。


「……この前俺が違和感を感じたところと近いな……ってことはこのあたりに何かある可能性が高いな?」


 ジンはそういうと洞窟の壁を入念に調べ始めた。

 しばらく調べた後、ジンは壁をじっと見据えた。


「……間違いない、壁の中に洞窟の魔力が行きわたっていない空間がある。それとかなり分かりにくいが、洞窟のものとは異質な魔力とその部分を周囲から隔離するような術式もある。つまり、この中に誰かが何かを隠している可能性が高いな……」

「何でそう思うのですか?」

「そりゃ、ここが安全かつ隠しておくには都合が良い場所だからさ。普通ならこんな冒険者の練習場になっているところに物を隠すなんて考えないだろうからな。それにしても、術式がやけに手が込んでいるな……かなり腕の良い術者が組んだ術式らしい。さて、中に入っているのは何だ?」

「ひょっとして、神代の道具じゃないかい!? ほら、ここって神様が創った遊技場なんだろ!? あってもおかしくないじゃないか!!」


 ルネは青と緑のオッドアイを輝かせながら、興奮した様子でジンに詰め寄った。

 ジンはそれを両手で制した。


「落ち着けルネ、まだそうときまった訳じゃないだろう。まあ、確かにその可能性も否定はできないことだし、少し調べてみますかね“魔力探知(マジックシーカー)”」


 ジンはそういうと壁に向かって手を突き、魔法を使った。

 しばらくすると、洞窟の壁に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「……あった、ここが入り口だな」

「隠匿と偽装と、三重の保護と封印の複合魔法陣で強力にロックされているのです。ここまで固められた魔法陣は、恐らく今の私達じゃキーとなる呪文無しじゃ解けないと思うのですが……」

「そうか……それは残念だな……」 


 そこまで言うと、ルーチェは深緑の瞳でジンを見た。 その横では、ルネが心底残念そうに肩を落としている。

 しかし、そんな二人の反応をよそにジンは笑みを浮かべた。


「いや、この程度の魔法なら少し強引だが解く方法を知っている。まずはこの魔法を解析してと……ははあ、核はこいつか。それじゃあこの部分をチョチョイと弄って……」


 ジンは魔法陣に手を当てて、何やら色々と魔法を使い始めた。ジンが魔法を使うたびに魔法陣の色が変化し、だんだんと光を失っていく。

 そして最後には魔法陣は消え、目の前の岩が下に沈み込んで道が開けた。

 それを確認すると、ジンは一息ついた。


「ふう……ほら開いた」

「ジン……今、何をやったのですか?」


 ルーチェはジンが何をやったのか良く分からなかったらしく、唖然とした表情でジンに問いかけた。

 それに対して、ジンは何て事無いと言わんばかりに返答を返す。


「鍵になっている術式を解読して、その核になる部分を改変してこじ開けただけだが?」

「……それ、結構滅茶苦茶なのです。他のならまだしも、あの魔法陣でそれをやるのがどれだけ骨だと思っているのですか?」


 ルーチェがそう言うのも無理はない。

 ジンの取った方法自体はそう難しいものでもない。魔法陣はその形の絵であるからこそ効果があり、それに少し落書きをするだけでも効果は激減するからだ。

 しかし、その問題となる絵を何重も金庫に入れられて厳重に保管され、更にいくつも用意されてどれが本物か分からないとなると話は別になってくる。

 ジンがやった行為は、その一つ一つの金庫を片っ端から叩き壊し、その中で本物を見つけ出して落書きをするという、実に遠回りかつ力押しな方法をとったのだった。

 そんなルーチェの言葉に、事の次第がわからなかったレオが苦い表情で口を開いた。


「んなことどうでも良いじゃねえかよ。とにかく開いたんなら早く入ろうぜ?」


 レオに促されて中に入ると、周囲の様子は一変した。

 今まで天然の洞窟だったものが、厳かな雰囲気の建造物に変わったのだった。


「……ここだけ作りがずいぶんとしっかりしてるな」

「そうですね……今までは明らかに洞窟でしたけど、ここは何と言うか、お城や神殿みたいな感じがします」


 ジンとルーチェは今までとは違う雰囲気に身構える。

 それに引き換え、ルネはこの先に何があるのか楽しみでしょうがないと言った表情を浮かべていた。


「ふふふっ、わくわくするじゃないか。この先には一体何があるんだろうな!?」

「はしゃぐのも良いが一応トラップにも気をつけておけよ、ルネ」


 奥に向かってズンズン進んで行くルネに対して、ジンが後方を確認しながら注意を促す。仮にも神の創造物、何があるか分からないからだ。

 しかし、その横でルーチェが首をかしげていた。


「……妙なのです……この建造物、そこまで古いものでは無いのです」

「ん? どう言うことだ、ルーチェ?」

「お~い! こっちに扉があんぜ!」


 ジンの疑問を遮るように、レオの言葉が飛んでくる。

 その声に反応して、ルネがその扉に向かっていく。


「おや、こんなところに鍵穴があるね。うん、これくらいなら軽いな」


 ルネはそういうと外套からピッキングツールを取り出し、鍵穴を弄り始めた。


「……神代の物品に、鍵穴なんて存在しないはずなのですが……」


 ルネの言葉に、ルーチェがそう漏らした。

 ジンはその言葉を聞いて背中に悪寒を感じた。


「……ルーチェ、何やら嫌な予感がする。とにかく、奴らを引き留めてくる」


 ジンは小走りでルネの所に駆け寄って行く。

 その間に、ルネは手際よくピッキングを進めていく。


「おい、嫌な予感がするからその先には」

「開いたよ」

「……遅かったか……」


 ジンが声をかけると同時にルネの作業が終わり、扉が開く。

 扉を開けたジンとルーチェ以外の一同は期待のまなざしを持ってその中をのぞく。

 しかし、その先にあったのはルネの期待したような宝の類では無かった。


「貴方達はだあれ?」


 中にいたのは、一人の少女だった。


「……あ~……何か面倒なことになりそうだ……」 


 ジンは、直感的にこの出会いがとてつもない面倒事の発端なるだろうことを予期した。


「もう一度聞くよ? あなた達はだあれ?」


 年齢にして十代半ばくらいの外見の少女は、ジッとジン達を見つめながらそう問いかける。

 それに対し、ジンがメンバーに後ろに下がるように手で指示を出してから応答する。


「誰と聞かれてもただの冒険者としか言いようがないな。俺たちは単に迷い込んだだけなんだしな」

「そうなの? ここに入るには特殊な鍵が二つ必要だったはずなんだけど、それはどうしたの?」

「あ~……はっきり言うけど、鍵使わないでこじ開けた。つまり不法侵入になるわけなんだが……」


 そう言いながら、ジンはキョトンとした表情を浮かべる相手の少女を良く観察する。

 少女の服装はオレンジを基調としたシンプルなデザインのドレスで、翡翠のブローチと銀のブレスレットを付けていた。身だしなみも完璧であり、栗色の髪は傷みもなく腰の高さで綺麗に整えられている。

 顔立ちは童顔で瞳は澄んだ琥珀色、綺麗と言うよりは可愛いと言った方がしっくりくる。

 しかし、少女の纏う空気はどこかぽやぽやしているが、立ち居振る舞いは洗練されていて美しく優雅に見える。

 それらのことからジンは目の前の少女が少なくとも貴族、それも一定以上の権力を持つ家系に連なる者と推測し、下手に関わると面倒なことになると判断した。


「ふーん……それじゃ貴方達はすごく強い不審者さんなんだね?」

「ああ、そうなるな。まあ、ここに何があるのか気になっただけだからもう退散するけどな」


 ジンはそう言うと踵を返して立ち去ろうとする。

 しかし、少女の次の一言によってそれは止められることになる。


「えっとね、悪いんだけどそうはいかないかな」

「……どう言うことだ?」

「あのね、私は人に見つかっちゃいけないの。だから、貴方達に見つかってるこの状況って凄く不味いんだ」


 少女は若干睨み地味のジンから目をそらさず、そう話した。

 その様子を見て、ジンは嘘ではないと判断した。

 更に、自分より明らかに力の強い相手にも物怖じしないその態度から、普段からそのような相手と接しているであろう事も推察できる。

 ジンは相手の正体を探るべく、再び口を開いた。


「そうは言われてもな……そもそも何故見つかっちゃ不味いのかが分からん。少しばかり説明が欲しいんだがな?」

「そー言われてもね……あんまり話せる内容じゃないんだよ」

「お~いジン、何を話してるんだ? いつまで俺らを放置してるつもりだよ?」


 ジンが少女と話していると、後ろから退屈そうなレオの声が聞こえてくる。

 ジンはそれに少しいらだちながら答えた。


「うるせえ、少し黙ってろ! さっさと帰るための交渉をしてるんだからな!」

「ジン? ……ひょっとして、あなたが『修羅』なの?」


 ジンの名前を聞いて、少女は丸く目を見開いてジンにそう訊ねた。

 少女の視線はジンの全身を頭頂部からつま先までをジロジロと眺めた後、ジンの灰青色の眼に戻ってきた。

 それに対して、ジンは警戒の色を強めた。何故なら、ジン自身も様々なところに狙われる覚えがあるのである。目の前の少女が、思いもかけない不利益をもたらす可能性があるのであった。


「……だとしたら、何だ?」

「理由を話してあげるから少し付き合ってくれる?」

「……何をしろって言うんだ?」

「私を連れておとーさまに会ってほしいの。理由はそれから話すよ」

「……もし断ったら? 先に言っておくが、力づくで言うことを聞かせようとか考えるなよ? その名前を知っているなら、意味は理解できるはずだ」

「それじゃー、何をすればお話を聞いてくれる?」


 ジンが警戒し威圧をかけているにもかかわらず、少女は危機感を感じていないのか柔らかい空気を保ったままジンに質問を投げかける。

 その態度にジンは一気に毒気を抜かれ、大きなため息をついた。


「……はあ……はっきり言うが、俺達がアンタにしてもらえそうなことは何もないぞ。大体アンタが何者なのか分からない以上、どこまで望めるのか分からない。この状況で交渉なんてできるわけ無いだろう? 俺に何かして欲しいんなら、せめてそれ位の情報は欲しい。もしそれすら教えられないと言うんなら、俺達はアンタの存在を忘れてここを立ち去るぞ」


 ジンのこの一言を聞いて、少女は可愛らしい唸り声をあげて悩みだした。

 どうやら自分が何者なのかしゃべって良いものか考えているようだ。

 しばらくして、少女は悩んだ格好のまま口を開いた。


「う~、うう~、出来れば黙っておきたかったんだけどな……でも仕方ないのかなぁ? 私はエルフィーナ・フラン・モントバン。一応モントバン国の王女だよ」



 その言葉はジンを慌てさせるのに十分だった。

もうすぐ修業期間がおわるお……


さあ、お姫様の頼みごととは何なのか?


次回に続きます。

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