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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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どうくつたんけん、だいじぇすと


 それから一行は何度も洞窟に潜って訓練を続けた。

 その中で一行がどのような経験を積んだのかを見てみることにしよう。




「おいコラ、レオ……テメェあんだけ力加減気をつけろって言ったよなぁ……あぁん?」


 ジンはドスの効いた低い声でそう言って、土下座をしているレオを睨みつける。

 ジンの周りには、砂まみれになって目を回している他のメンバーがいた。


「わ、悪ぃ、まさかあの程度で洞窟が崩落するたぁ……」

「敵に囲まれて面倒くさくなったから、まとめて吹っ飛ばそうとしたのよねぇ? アンタそれで闘技場吹っ飛ばしたのを忘れたわけじゃないわよねぇ?」


 レオの言い分を聞いて、リサが幽鬼のごとくユラリと立ち上がった。

 その手には、「おバカ矯正マシーン・ごっすん一号」と書かれた巨大な大金鎚が握られていた。

 それを見て、レオは顔を蒼褪め、冷や汗を流しながらじりじりと後ずさる。


「あ~っと、それはだなぁ?」

「リサさん、やっておしまいなさい」


 冷や汗を流すレオに対し、ジンが無情にも死刑宣告を告げた。

 ビコーンと言う音と共にリサの眼が光り、大金鎚が振り上げられる。


「はいだらぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎにゃあああああああ!!」


 そして次の瞬間、レオは地面に垂直にめり込むことになったのだった。




「たぁっ!」


 ユウナが音も無く長い牙を持つ虎の横をすり抜けるように移動する。

 すると、剣虎は全身から血を流しながら倒れた。その切り分けられた肉は、肉屋で売られているのと同じくらいの大きさにまでなっていた。


「……ユウナ。前々から思っていたが、お前本当に料理の修行をしていたのか?」


 目の前で一瞬の剣虎解体ショーを見せられて、ジンはそう呟いた。

 突然の一言にユウナは首をかしげる。


「そうですけど……何でいきなりそんなことを?」

「経験も無くいきなり戦闘に駆り出されて、即座にSSSランクの相手に無双かます料理人があるか! そうでなくても包丁捌きが異常だし……一体何をやったらそんな技能がつくんだよ!?」


 群青の髪をがしがしとかき乱しながらジンはそう叫んだ。

 ユウナはキョトンとした表情で固まったのち、答えを返す。


「え? それは空中でお魚を船盛にしたり、鍋を振っている最中に飛んできた食材をみじん切りにして鍋に入れたりしなければならなかったので……牛の解体もお師匠様が「全力で突進してくる牛を部位ごとに正確に解体出来て一人前」と言っていましたので、そのため修行の一環として飛んでくる鋼の塊を、制限時間内に空中で飾り切りにする修行を……」


 その明らかに料理人の技術の範疇を超えた内容に、ジンはもはや何も言えずにあんぐりと口をあけて固まった。

 そして、目元を手で押さえながらユウナに問いかけた。


「色々と言いたいことはあるが……ちなみに、それどのレベルまでできる?」

「ええと、やってみないと分かりませんけど……」

「それじゃあ、やってみるか?」

「はい! 宜しくお願いします! あ、リクエストは何かありますか?」


 ジンの言葉にユウナは花のような笑顔を浮かべて頷いた。

 それを見て、ジンは少しばかり意地の悪い笑みを浮かべた。


「そうだな……鳳凰でも作ってもらおうか?」

「うっ、難易度の高いものを……が、頑張ります!」

「って出来るのかよ!?」


 その返答を聞いてジンは噴出した。

 まさか出来ると言う返答が返ってくるとは思っていなかったのだ。


「そ、それじゃ、行くぜ? “鉄球投げ(スティールボール)”」


 そう言うと、ジンは直径二メートルほどの鉄球を創り出し、ユウナに向かって打ち出した。

 直後、ユウナが桜吹雪と紅葉嵐を抜き放ち、鉄球に向かって構えた。


「やああああああ!」


 すれ違いざまに白刃が走り、長い黒髪がひるがえる。

 回転を止めてその場にとどまる巨大な鉄球と、刀を振りぬいた体制のユウナ。

 残心をとったユウナが二本の刀を鞘にしまうと、鉄球が崩れて中から翼を大きく広げた見事な鳳凰が生まれた。

 ジンはその光景を唖然とした表情で眺めていた。

 今にも動き出しそうなそれに駆け寄ってよく見てみると、表面は鏡のような綺麗な断面で、羽の一本一本に至るまで細かく形作られていた。


「ふぅ……上手く行きましたね。思ったよりも速度が遅かったので助かりました」


 出来上がった鳳凰を見て、ユウナはホッとした様子でそう呟いた。

 どうやらジンの前で格好悪い姿は見せられないと、随分緊張していたようである。


「……こ、これはもはや料理人ではなく曲芸師の名をかたった剣聖じゃねえのか!? 明らかに料理人の技じゃねえぞ、おい!?」


 しかしジンにしてみればそれどころではなかったようである。

 狼狽したジンの声に、ユウナはびくっと肩を震わせた。


「そ、そうなんですか? 料理は速度が命と言われて、一番努力で何とか出来る包丁捌きを練習したのですけど……ほら、空中で食材が思うように切れれば移動しながらでも切れますし、切る場所にも困りませんよ?」

「ユウナ……俺の知っている料理人はまな板の上で物を切るんだ……」

「……え?」


 また一つ、ジンの常識にひびが入った。





「おお、これは「軍隊の行進」なのです」


 岩の扉の前に置かれた台座を見て、ルーチェが声を上げた。

 六芒星の様な模様の描かれた台座には、形と色の違う駒が規則正しく並んでいた。

 ルーチェの言葉にリサが首をかしげた。


「軍隊の行進? 何よ、それ?」

「おや、やったこと無いのですか? ある一定の並びに配置された駒を他の駒を跳び越すように動かして、反対側の領地に全く同じ並びで入れ替えるゲームなのです。上手くやれば三つの部隊が綺麗に入れ替えるので、軍隊の行進と言う名前がついたのですよ」

「へ~ それにしても、これってもしかしなくても頭使うゲームよね?」

「そうなのです。駒にも王、将軍、騎士、歩兵と位があって、自分より高い位の駒は跳び越せないのです。ですから、計画的に動かさないと歩兵が全く身動きが取れなくなるのですよ」


 そうやって説明を受けているリサの肩を、レオがにやけた顔で叩く。


「ま、リサにゃあ無理だな。なんつったって、リサは超脳筋……」

「逝きさらせぇ!」

「ふぎゃああああ!?」


 レオがセリフを言い切る前に、リサは神速でハンマーを振りおろした。直撃の瞬間に気を込めたのか、レオの顔面で大爆発が起きる。

 レオはその場に崩れ落ち、ピクピクとけいれんを起こしてしまった。


「……あんまり暴れるなよ、下手に壊すと先に進めなくなるから」

「大丈夫よ、加減はしたわ」


 呆れ顔で注意をするジンに対し、リサは涼しい顔でそう返した。

 その横で、ルーチェが着々と『軍隊の行進』を進めていた。


「……っと、出来たのですよ」


 そうルーチェが呟くと同時に、岩の扉が音を立てて開いた。

 ジンはヒュウと口笛を吹くとルーチェに話しかけた。


「早いな、もう出来たのか?」

「このゲームはセオリーがあるのでそれを覚えてしまうと楽なのです。さ、先に進むのですよ」


 ルーチェは涼しい顔でそう呟くと、扉の中へと入っていった。



 


「ジン、ストップ。そこから動くと床が爆発する」

「……ああ、今カチッって音がした」


 洞窟の中を歩いている最中、一行はこのようなやり取りをして足をとめた。

 ジンは苦虫をかみつぶしたような表情をして自分の足元を眺める。そこには良く見ると円盤状の地雷が設置されていた。


「待ってて、今解除するから」


 ルネはそう言うと外套から道具を取り出し、罠の解除を始めた。

 解除は手際よく進み、爆発させること無く信管を引きぬくと、ルネは一息ついた。


「ふう……終わったよ、ジン」

「すまん、少し油断してたな……しかし、気が付いていたなら何で言わなかった?」

「だって、ジンが明らかに僕に頼りすぎている気がしたからね。この間まで自分でもトラップを確認していたのに、最近はそれが雑になっているしね」


 若干呆れ顔のルネがそう言うと、ジンはバツの悪そうな表情で頭を掻いた。


「……よく見てたな、確かにその通りだ。はあ……少しばかり気が緩んでいるみたいだな、俺」

「信頼してくれるのは嬉しいけどね。でも僕がいつも見ていられるわけじゃないんだし、僕だって見落すかもしれない。それに何より、ダンジョンの罠の解除はジンの方が経験豊富なはずだろう? だからジンにもしっかりしていて欲しいと思うんだけど」


 ルネはライトブラウンの髪を指でいじりながらジンを注意した。

 ジンはそれに苦笑で答えた。


「そうだな。っとルネ、そこにある宝箱の解錠と罠外し頼む」

「ん、分かったよ」


 ルネはそう言うと、宝箱の解錠に取り掛かった。




 ジン達が開けた空間に足を踏み入れようとすると、中はモンスターの巣窟だった。しかも、魔物の一匹一匹が強大な力を持っている。

 ……尤も、それ以上にジン達の戦闘力が鬼の様に高いため、それが脅威になることはほぼ無いのだが。


「……これまた団体様のお出まし、ってやつだな」

「ふむ、数だけは多いようだな」


 中を確認してなお、そんなのんきなことを言うジンとアーリアル。

 魔物たちは獲物の存在に気付き、ゆっくりと窺うように近づいてくる。


「で、どうするつもりだ?」

「ふっ、何を言っておる。どうするもこうするも据え膳食わぬは何とやらよ」


 見た目相応の子供っぽい笑顔で今にも飛び出しそうなアーリアルを見て、ジンは溜め息をついた。


「……つまり戦うんだな?」

「それ以外に無かろう! さあ、宴を始めようではないか!」


 そう言うや否やアーリアルは魔物の群れに突撃をかけた。そして衝突の瞬間、群れの最前線が吹き飛ばされた。

 魔物もアーリアルの周りを取り囲んで攻め立てるが、襲い掛かったものは片っ端から倒されていった。

 その様子をジンは流れてくる敵を適当に倒しながら呆れた表情で眺めていた。


「まあ仮にも神だし、アーリアルならほっといても大丈b」

「いやああああああ! 蜘蛛は嫌あああああ! 助けてレオおおおおおお!」


 前方から聞こえてくる大きな悲鳴。

 それを聞いて、ジンは大きくため息をついてレオのほうを向いた。


「……お呼びだぜ、レオ」

「あんの馬鹿神……ったく、世話が焼けんなぁオイ!」


 ジンの言葉を受けて、レオが額に手を当てながらハルバードとトマホークを手に取る。


「洞窟崩壊させんなよー?」

「うるせえ。んじゃま、ちょっくら行ってくらぁ」


 レオは気だるさを抑えること無くそう言うと、銀のトマホークに軽く気を込めて投げ、それを追うように走り出す。

 トマホークは弧を描くように飛び、アーリアルの周辺にいた魔物たちを薙ぎ払う。

 レオは走りながら戻ってくるトマホークを掴むと、魔物の群れに突っ込んだ。


「邪魔だ雑魚共!」


 巨大なハルバードを片手で軽々と振りまわし、群がる魔物を殲滅しながらレオはアーリアルの許へ向かう。

 たどりついてみると、アーリアルは巨大な蜘蛛の群れを前にしておびえていた。神の矜持なのか何とか立っているが、かなり引け腰になっていた。

 アーリアルはレオの姿を確認すると、文字通り神速でレオの背後に隠れた。 


「れ、レオぉぉぉぉ……」

「はいはい、わーったから少し落ち着け。ここは俺が何とかしてやるからそこでジッとしてな」


 レオは呆れ顔でそう言うと、蜘蛛の大群に目を向けた。


「さぁーて、テメェら。少しばっかし遊びに付き合ってもらうぜ?」


 レオは獰猛な笑みを浮かべてそう言うと気をハルバードに込めた。

 周囲の空気を変えるほどのレオの気に重圧を感じ、蜘蛛たちはその場に縫いつけられる。


「あんまやり過ぎっと怒られるからこんくらいか。一撃で全員沈んでくれるなよ? うぉらああああああ!」


 気合一閃、レオはハルバードを横に薙ぎ払った。

 すると、気によって生み出された衝撃波によってレオの周囲の蜘蛛は横一文字に両断されて絶命した。 

 しかし、ある程度手加減はされていたため何匹かは傷つきながらも生き残っていた。

 手負いの蜘蛛は勝てないと本能で感じたのか、一目散に逃げ出して行った。

 それを確認すると、レオはつまらなさそうな表情でハルバードを下ろした。 


「……つまんねー……また一撃かよ。まあ、今回はしゃあねえか……っと」


 レオがそう呟いていると、背中に隠れていたアーリアルがレオの首に飛び付いた。


「ひっぐ……こ、怖かった……」

「アンタ、本当に主神の威厳ゼロだよな……蜘蛛ごときこの先腐るほど出てくると思うんだがよ……それが怖いんならついて来るのは無理だぜ?」


 金色の瞳に涙をためて縋ってくるアーリアルに、レオは溜め息をつきながらそう言った。

 そう言いながらも、レオはアーリアルが落ちつける様に抱きかかえて背中を擦っている。


「だ、だだだ、大丈夫だ! レオが付いているから大丈夫だ!」

「……どうでも良いけどよ、その度に俺はこうやって飛び付かれんのかよ……少しは改善の努力しろよな?」

「う、うん……頑張ってみる……」


 しどろもどろになりながらナチュラルに依存を宣言するアーリアルに、レオは諭すようにそう言った。

 アーリアルは舌足らずな口調で返事をすると、レオの首筋に顔をうずめた。

 そんな銀髪の青年と少女の様子を遠巻きに見ていたリサが、ジンに話しかけた。


「ねえ、あの二人見てどう思う?」

「すごく……親子です……って、前にも同じことやらなかったか?」

「いやね、どうしてもやりたくなるのよね、ああいうのを見ると」




「……なんていうか、暇ね……」


 ある時、洞窟内を歩いているとリサが唐突にそんなことを口にした。

 それを聞き、ジンは溜め息をつきながらリサに言葉を返した。


「そう思うんなら結界でも張って出てくる敵が少なくなるようにしてくれないか?」

「え~……怪我人がいるならまだしも、あんな効率の悪いものをいつも張るのはきついのよ? それにそんなことしなくても、敵が出てきたらあっという間に殲滅しちゃうじゃない。誰も怪我しないから私のやることは攻撃しかないんだけど、気が付いたら終わってるし」


 そう言うと、リサは前で戦っているメンバーに目を向けた。

 魔物はそれなりの数がおり、通路が狭いのでジンとリサはあぶれているのだった。

 なお、あぶれていたのは単にジンとリサが後方警戒組だったからである。


「だらあああああああ!」


 レオの剣とトマホークが嵐のような攻撃を見まう。

 攻撃を喰らった相手は吹き飛ばされ、仲間を巻き込んで倒れる。


「やあああああああっ!」


 ユウナの刀は相手が近付くことすら許さず、相手を一振りで斬り裂く。

 剣捌きが異常な速度のため、相手は斬られたことに気付いてさえいない様だった。


「はははっ、我の前に跪くが良い!」


 アーリアルはご機嫌な表情で相手を神術で吹き飛ばし、その光の弾丸で致命傷を与える。

 彼女に攻撃が飛んでくるも、強力な力によって攻撃そのものが無効化され、届かない。


「一つ、二つ、三つ!」


 ルネは壁を蹴りながら跳躍し、後方から敵の魔導師を指弾で狙撃する。

 空中から不安定な体勢で放たれたにも拘らず、弾は正確に相手の心臓をとらえている。


「まとめていくのですよ!“氷雪の散弾(スラッグブリザード)”!」 


 前衛中衛が奮戦している間に、ルーチェが魔物を魔法で一蹴する。

 放たれた散弾は訓練前と違い、一つ一つが一撃必殺の威力を持つ凶悪なものに変貌を遂げていた。

 そんな彼らを見て、ジンは納得して頷いた。


「まあ、実際このレベルだと回復要らんもんな……周りが化け物すぎて」

「アンタ人のこと言えるの? その化け物まとめてぶっ倒しておいて? どうなの、化け物殺しの化け物筆頭さん?」


 ジンの一言に呆れ顔でリサがそう言い返す。

 それに対してジンが言い返そうとすると、前方から盛大な破壊音が聞こえた後、辺りから轟音が響き始めた。


「……何、今の……」


 リサが呟くと当時に、前方の天井が音を立てて崩れ始めた。

 戦闘をしていた面々も、それを見るや逃走を開始した。


「に、逃げろぉぉぉぉぉぉ!」

「あれだけ力加減には気を付けてくださいって言ったじゃないですか!」

「ええい、何をやっておるのだレオ!」

「全く、この間も崩落させたばかりだろう!?」

「あわわわわ、またこのパターンなのですか~!」


 真っすぐこちらに向かって走ってくる面々を見て二人は大きなため息をついた。


「……リサ、転移魔法使うから防御頼む」

「分かったわ……あんのバカ、後でキッツーイ一撃をお見舞いしてやるんだから!」

「ああ、たっぷりと灸を据えてやれ。“我は風なり(アリアドネ)”」


 ハンマーを握り締めたリサの隣で、ジンは魔法を使って全員を脱出させた。

 その後、レオは宣言通りメンバー全員からお灸を据えられることになったのだった。


 そんな訓練がまたしばらく続いた。

 なおその間にレオは一か月の間に洞窟を十五回崩落させ、そのたびリサに徹底的に干されることになったのは余談である。


ジンは脱出担当になったようです。

レオが破壊王の称号を得たようです。

リサはレオに対する制裁しかやっていません。

ユウナの料理の師匠は頭がおかしいようです。

ルネはいろいろ任されてお疲れ気味のようです。

ルーチェは謎解きを楽しんでいるようです。

アーリアルは蜘蛛嫌いのようです。


筆者は自らの境遇を嘆いているようです(単に実験がめんどくさいだけ)。


そんなわけで、また次回会いましょう。

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