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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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とっくんとおとこのしょうぶ

ちくせう、花粉め滅べ。

 訓練場で訓練をすること数時間。

 ジンはSSSクラスの訓練をたまにこなしながら他のメンバーの特訓を見ている。


「も、もうダメなのです……」


 息も絶え絶えになりながら杖をついて立っているルーチェの眼の前には、巨大な鉄の塊が置いてあった。

 その周りには魔法を行使した跡があり、ルーチェがそれで鉄塊を破壊しようとしたのが見て取れる。


「まだだ、ルーチェ。魔力量の底上げのためには限界を超えて魔力を使うのが一番早い。それと、もう少し的を絞ってみろ。そうすればあれくらいは楽勝で壊せるぞ? あ、ちなみにこれは実体験だから反論は聞かんぞ。それを証拠に……“水鉄砲(アクアピストル)”」


 ジンはそう言って、指先から飛び出す超極細の水流で鉄塊に線を引いた。

 すると、鉄の塊は水が当たったところから真っ二つに切断され、断面は鏡の様に光っていた。

 それを見て、ルーチェは愕然とした。


「し、信じられないのです……あれが……“水鉄砲(アクアピストル)……? でも、感じた魔力量は確かにそれの……」

「とまあ、初歩の魔法でもうまく制御すればこんなこともできるんだぜ? ……そうだ、今のをやってみろよ。今日はそれができたら終わりで良いぜ」


 それを聞いた瞬間、ルーチェの長い耳がビクッとはねた。

 ジンは簡単に言うが、“水鉄砲”は本来使用魔力量の少ない、子供が遊びに使うような害のない技なのである。

 ジンの水鉄砲にルーチェが感じた魔力は普通の水鉄砲よりも少し多いくらいであり、殺傷能力のある別の魔法よりもずっと少ない。

 それを同じ魔力量で殺傷能力を持つまでに制御をしろと言うのだから、滅茶苦茶も良いところなのであった。


「そ、そんなの無茶なのですぅ~!」

「はっはっは、なあに、女は度胸! 何でもやってみるものさ!」

「女は愛嬌ではないのですか!?」


 泣き言を言うルーチェを放置してジンは次の場所へ行くことにした。




「はぁ、はぁ、はぁ、んっ、はぁ……」


 そこでは、ルネが一本の大樹を相手に格闘していた。息も絶え絶えになりながらも、ルネは大樹に操気弾を撃ち込む。

 しかし、大樹の表面を傷つけるにとどまり、飛び出す根や舞い散る葉による大樹の反撃を受ける。

 ルネはそれを避けながら再び操気弾を撃ち込むのだった。


「どうした、ルネ? 動きながらその樹を一発で倒せるようでなければ俺についてくるのは厳しいぞ? 避けながらもう少し気の圧縮に気を配れるようになったほうが良い」

「か、簡単に言うけどね……」

「そりゃ簡単にしか言えんよ。気を込めるっていうのはほとんど自分のイメージでしかない。要は、どれだけそれに集中できるかが大事なんだ。こればっかりは実戦で経験を積むしかない」


 ジンは移動するルネに並走しながらアドバイスを送る。

 アドバイスを送った後、ジンは次の所に向かった。




「あひゃ、きゃははははは、ひゃあああああ!」


 続いてジンが向かった先では、リサがイソギンチャクの様な生物にくすぐりの刑を受けていた。

 ジンは大笑いを続けるリサに若干引きながらもそれに近づく。


「我ながら何とくだらない訓練を思いついたもんだ……リサ、さっさと神術で倒さんとお前酸欠で死ぬぞ?」

「しょ、しょんなことひったって、にゃははは、にゃあああ!? そ、そこはらめええええええ!」

「……次行くか」


 ジンは首を左右に振り、その場を立ち去った。



 

「…………」


 続いて向かった先は、ユウナの訓練。ユウナは石造りの闘技場の真ん中で桜吹雪を手に立っていた。

 その周囲には、上下左右前後を無数の矢が取り囲んでいる。

 それらの矢には、ところどころに印がつけられている。

 そして、それらは一気にユウナに向かって飛び出した。


「はああああああっ!」


 掛け声とともに、ユウナは手にした桜吹雪を振る。

 一太刀二太刀と目にもとまらぬ速さで振るわれるそれは、次から次へと矢を叩き落としていく。

 最後にはすみれ色の着物にも黒髪の一本すら傷ついていないユウナと、大量の断ち切られた矢が残された。

 ジンはそのうちの何本かを拾い上げた。矢は、印の位置丁度で断ち切られていた。


「……お、お見事……俺が半年かかった修業を、まさか一日でクリアとは……」

「そ、そうですか?」

「そうですかって……そうか……ユウナにとってこれはその程度なのか……」 


 ユウナの一言を聞いて、ジンはその場に崩れ落ちた。

 ジンからはどす黒いオーラと低い笑い声がこぼれ出した。


「ははは……俺の修行ってユウナにとってはお遊戯なんだろうなぁ……ハハハ……」

「ジン、しっかりしてください! これで不足というのならばもっと頑張ります! だから気を確かに持ってください!」


 ジンが立ち直るのには小一時間を費やした。




 レオはハルバードを固く握って空を見上げた。空からは赤く輝く星が十ほど見える。

 それは、明確な意思を持ってレオに向かって降ってきた。


「はああああ……でりゃああああ!」


 レオは最初に一つをを手にしたハルバードで空に打ち返した。

 それは後から落ちてきたものにあたり、こなごなに砕け散る。


「おりゃあ! うらああ! そいやぁ!」


 二つ、三つ、四つと同じことを繰り返し、八つの隕石を粉砕する。


「でぇぇい! ……くそっ!」 


 九つ目を打ち返した時、わずかに力加減を誤り位置がずれる。

 打ち返した隕石は十個目のそれの横を通り過ぎ、大気を突き破った。


「うおおおおおおおお!!」


 体制が崩れた状態であり、打ち返すのは無理だと判断したレオは咄嗟にハルバードを放り投げた。

 そして、落ちてくる隕石を大きく腕を広げて待ち構えた。


「どっせえええええええええい!!」


 レオは隕石の勢いに押されながらも足を踏ん張り、それを受け止める。

 地面に二本の線を引きながら後退したのち、レオの動きは止まった。


「ふっ……はああああ……」


 レオは一つ息をつくと、自身の体の数十倍はある赤く赤熱した隕石を地面に下ろす。

 そして、横であまりの出来事に呆然と突っ立ているジンに声をかけた。


「なあ、ホントにこれだけで良いのか?」

「……ぶっちゃけ、お前に関しちゃどうすりゃいいか分からん。どうやったら隕石をハルバードで打ち返したり素手で受け止めたりできるんだ……」


 誰がどう考えても出来そうにないことをこれだけなどと言うレオに、ジンは本気で頭を抱えた。

 何しろ、ジンは冗談のつもりでこの修行を提案しただけで、まさか本当にやるとは思っていなかったのだった。


「わけ分かんねえ……」

「そりゃこっちのセリフだ!」 


 ジンは割と本気で自分の存在価値を見つめなおしていた。




「こりゃ潮時だな……全員やめ! 今日はもう帰るぞ!」


 一部を除いた人間が何も話せないほどくたびれたところで、ジンは今日の訓練の終わりを宣言した。

 すると、レオがロングソードとハルバードを肩に担いでジンに近寄ってきた。


「なあ、久々に一勝負しねえか?」

「良いぜ、レオ。俺も少しばかり退屈してたんだ、相手になってもらおうか」


 笑みを浮かべたレオの一言に、ジンも獰猛な笑みで返す。

 二人は距離をとり、お互いに武器を構えた。


「……魔法は無しだぜ?」

「分かってるっての。大体それありじゃ面白くねえしな」


 そう言うと、ジンは仰々しく大剣を高く掲げた後、切っ先をレオに向けた。

 それは、舞台の上の騎士が決闘を挑むときに行う仕草だった。


「準備は良いか?」


 ジンのその行動にレオは思わず苦笑いを浮かべる。


「恰好つけやがって。それで負けたら笑い物だぜ?」

「言ってろ。それじゃ、行くぜ!」

「上等だぁ!」


 その言葉を皮切りに二人は一気に距離を詰めた。


「でやあああ!」

「でえええい!」


 レオの武器が唸りを上げてジンに何度も襲い掛かる。その攻撃は喩えるなら暴風であり、一撃一撃が荒々しく力強い。

 ジンの剣が鋭く風を切りレオに斬りつける。こちらは柳のように暴風を受け流し、舞うように相手を斬る。

 嵐のような攻防を、二人は全く引くことなく、笑みさえ浮かべて繰り返す。


「そおおおおおら!」


 レオの強烈な一撃がジンを体ごと吹き飛ばした。

 ジンはわざと吹き飛ばされる形をとり、受け身をとって着地した。


「うわたった……ったく、相変わらずの馬鹿力だ、な!」

「あんだけブッ飛ばされてほぼノーダメのくせに何言ってんだよ。こっちこそ武器が流されるみてえでやりづれえったらねえ、よ!」


 再び間合いを詰めて激しく打ち合う。大気が震え、地面が揺れる。

 その二人の剣劇は、常人には考えられないほどの力強さと、見るものを惹きつけるような美しさがあった。


「……すごいな。これがSSS同士の戦いか……」

「た、太刀筋が見えないのです……」

「ほう……これはなかなか……」


 ルネとルーチェとアーリアルは二人の戦いに完全に見入っている。

 外でも、この戦いを見ようと観客がモニターの前に集まっていて、打ち合うごとに歓声が上がっていた。


「チィィィ!」

「でりゃああああ!」

「うおおおっ!?」


 ジンが攻撃を受け流しきれず体制が崩れたところを、レオが強烈な切り上げで上空に打ち上げる。

 すると、即座にレオは追撃のためにジンに跳びかかった。


「そこだぁぁぁぁああああああ!?」


 しかしその追撃をジンは読み切り、逆に振り下ろす手を掴み自身に回転を加え、その力でレオを地面に叩き付けた。

 土煙が立ち込める中、ジンは着地すると同時にひざをついた。銀色の鎧には強烈な衝撃を受けたことを示すひびが入っていた。


「っぐ……甘えよ。こちとらお空に打ち上げられたくらいじゃ隙にもならんぜ?」

「ってぇ……へへっ、でもテメェもずいぶん効いてるみてえだな?」

「ああ……俺の防御を打ち抜く衝撃とかありえんだろ、普通……」


 両者ともに決して軽くないダメージを負っていながらも、なおも笑いあう。

 そのボロボロの状態で立ち上がり、二人は相対した。


「次で仕舞いにすっか?」

「そうしようぜ」


 二人はそう言うと、どちらともなく走り出した。


「じぇあああああ!」

「ふっ……」

「おおおおおおお!」

「なっ、ぐああああああ!!」


 ジンはレオの渾身の一撃を飛び越え、背後をとろうとした。

 しかしレオは無理やり体勢を変えながら、着地したところに強烈な横薙ぎの一撃を入れ、地面に転がったところに首筋に刃を当てる。

 かなりの力技だったが、これで勝負がついた。

 周囲は攻撃の余波でボロボロで、地面は抉れ、壁は崩れていた。


「……へへっ……俺の勝ちだぜ、ジン?」

「……グフッ……ああ、俺の負けだ、レオ」


 ジンは口の中にたまった血を吐き出しながら立ち上がり、そこにレオが肩を貸す。

 ため息一つついて、ジンは乾いた笑いを浮かべた。


「あいたたたた……しっかし、格好つかねえな……始まる前にあんなことしといてよ……」

「笑ってやろうか?」

「好きにしろ」

「げひゃひゃひゃひゃ」

「死ね」


 大笑いするレオの脇腹に、ジンはレバーブローを叩きこんだ。しかも、確実に通るように気を送りながら。

 レオはその場に崩れ落ち、肩を借りていたジンも同時に地面に転がった。


「へぶぅ!? テ、テメェ自分で言っておいてそりゃねえだろうがよ……」

「知らん……ああくそ、三年間死ぬ気で鍛錬したってのに、力でねじ伏せられたとかマジ泣きそうだ……この脳筋め」


 ジンは大の字に寝転がると、腕で目を押さえながらそう言った。


「よく言うぜ、こちとら全力だってのにテメェは制限付きじゃねえか。むしろ、水をあけられて泣きてえのはこっちの方だ、バカヤロウ」


 すると、横からレオがふてくされた声でそう返した。


「ぷ、くくく……」

「く、ひひひ……」

「「ハッハッハッハッハ!!」」


 しばらくして、場内に二人の笑い声が響いた。

 それは、まるで空いた三年間を埋めるかのような、とても楽しげなものだった。























 -後日談-



「え、え~っと……私の勝ちですよね、ジン?」

「ちくしょおおおおおおおおおお!」


 剣技のみの勝負、●ジン vs ユウナ○


 十秒、首を一撃、瞬殺



 


ジンVSユウナは


切り結ぶ→ジンの剣真っ二つ→速攻首狙い→\(^o^)/O☆WA☆TA


な感じです。

なお、純粋に剣技のみだとレオも似たような末路をたどるという……


そりゃあ、魔法や気を使えばジンは勝てますし、レオも引き分け以上には持ち込めますよ?

でもユウナさんは単純な身体能力だけでそれに立ち向かうという……


ユウナさんがチートすぎる、どうしてこうなった。



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