えいゆうさんとおさななじみーず
この作品はArcadiaでも投稿しているファンタジー・オリジナルものです。また、作者は感想やアドバイスを頂けると踊り狂います。どうか皆様(生)温かい目で見守ってください。
青い空、白い雲。
山々は緑に萌え、野には青い小鳥が高らかに春を告げる。
その誰が見ても平和と感じられる草原を流れる清らかな川沿いに、小さな村がある。
その村は小さいながらも旅人の宿場として知られていて、村としては大きい方だ。
そこでは春を祝う祭典が開かれており、教会ではミサが開かれ、表通りには活気があふれている。
そんな村に、一人の旅人がやってきた。
その青年は銀色に輝く鎧と若草色の外套をまとっていて、その背中には背丈ほどもある巨大な剣を背負っている。
鎧のへその部分には青い宝玉が、剣の柄には赤い宝玉が埋め込まれていて、それがとても貴重なものである事を物語っている。
青年は精悍な顔つきで、髪は群青色に染まっている。
村人はその群青色を見た瞬間、青年に駆け寄った。
「おい、我らが英雄のご帰還だぞ!」
「本当だ! おい、てめえら! ジンが帰ってきたぞ!」
その声が聞こえた瞬間、村中の人々がジンと呼ばれた青年に駆け寄って行った。
その光景にジンは軽く溜息を吐き、
「大袈裟だっての……ま、悪い気はしねえし、良いか! 皆、帰ったぞーーー!!」
と、笑顔で答えた。
その声に、村人から歓声が巻き起こった。
その歓喜の中、一人の少女が駆け寄ってきた。
「ジン!」
「おう、ただいま」
駆け寄ってきた少女を青年は軽く抱きとめる。
その瞬間、感極まったのか少女は涙を流し始める。
「元気だったか、ユウナ」
「馬鹿っ……あんなことになったって聞いて……どれだけ心配したと思ってるんですか!」
「悪い悪い、何しろ色々あったもんだから手紙を送るのすっかり忘れててな……」
「ぐすっ……馬鹿ぁ!」
ジンは泣きじゃくるユウナの頭を撫でて宥めようとする。
しかし、ユウナは一向に泣きやむ気配が無く、ジンにしがみついている。
そんな二人の許に、一人の青年が近寄ってきた。
銀色の髪を後ろ手で束ねた、中肉中背の男だ。
「お~やおや、いたいけな女の子を泣かせるなんて悪い奴が居たもんだなあ……なあ、ジン!」
「三年ぶりに会って最初の一言がそれかよ、レオ! 頭のネジ少しは締めたか!?」
「お前も十分酷ぇぞオイ!」
そう言いながら二人は楽しげに拳を打ち合わせる。
そうやっていると、またしても人がやってきた。
やって来たのは燃える様な赤いショートヘアで尼僧服を着た少女だった。
「こら、レオ! 感動の再開に何水を注してんのよ!」
少女はやってくるなりレオの頭に躊躇なく金槌を振り下ろした。
それを受けて、レオは頭を抱えてその場に蹲った。
「痛ぇ!? テメ、何しやがるこの暴力シスター!」
「良いからこっち来る! アタシ等は後でじっくり話が出来るんだから今は二人っきりにさせてあげなさい! ……と言う訳で、後でね、ジン」
「あ、ああ、分かった。後でな、リサ」
「な、ちょ、そこ持って走ると首締まるゥゥゥゥゥゥ!!」
そう言うとリサはレオの首根っこを掴んで走り去っていった。
ジンは心の中で合掌しながらその光景を見送り、衆人環視の中、冷やかされながらも再びユウナを宥めるのだった。
その日の夕方、久方ぶりに実家に帰宅し荷物をおいたジンは、とある宿の酒場に向かっていた。
賑やかなその場所に入ると、中は祭りの客で満員で、開いてる席が無い状態だった。
客の殆どは長旅をしている旅人たちであり、彼らの傍らには剣や槍などの武具が置かれていた。
「お、来た来た。お~い! こっちだこっち!」
その片隅のテーブル席で、レオが手招きをしている。
ジンはそれを確認すると、客にぶつからない様に気を付けながらその席に向かった。
席にはレオのほかにユウナとリサが居た。
「すまん、遅くなった」
「良いって良いって、お互い急な話だったしな」
「全くよ。帰ってくるなら帰ってくるって一言くらい連絡しなさいよ!」
遅れてきたらしいジンに、レオは笑顔で返し、リサはムッとした表情で返した。
「それがですね、リサ。ジンときたら手紙を送るのを忘れていたらしいんですよ?」
「まだ引っ張るのかよ、それ……だから悪かったって」
リサにユウナは淡々とした表情で多少怒った口調でそう話し、ジンはかくりと首をたれた。
「でもまあ、しゃあないよなあ、あんなことがありゃ。そりゃ忘れもするわな」
「ああ、あんな面倒で危ない事をする羽目になるとは夢にも思わなかったぞ……」
同情の念を含んだレオの言葉に、ジンは遠い目をしながら答えた。
その眼が、自分がくぐりぬけてきた修羅場の凄惨さを物語っていた。
「でも、そのおかげで今のジンは『修羅』の称号を持つ世界で指折りの魔法剣士じゃない。信じられないけど」
「剣を持たせりゃ大地を裂き、魔法を使わせれば獄炎を呼び出す……すげえ言われようだよな、ホント」
「んなことどうでも良い。名前が知れても仕事や王様に謁見する時くらいしか役に立たんばかりか、盗賊に狙われたり決闘を申し込まれることが増えて足手まといにしかならん」
「……大変だったんですね……」
疲れた表情で机に突っ伏すジンの頭をユウナが優しく撫でる。
その状態のまま、ジンは話を続けた。
「で、お前はどうなんだ、レオ? と言うか、良いのか、宿ほっぽり出して? お前の親父もお袋ももう居ないんだろ?」
「良いってことよ! 泊まりたきゃ帳簿に勝手に名前書いて勝手に使えば良い。ま、明日の朝払わねえで逃げる様な奴にはち~っとお灸をすえるがな」
「大丈夫か? 冒険者の中には結構手練れも居るんじゃないのか?」
「なあに、『面倒な事は力でねじ伏せろ』て言うのが死んだうちの親父の教えでな。そこいらの冒険者なら軽くひねれる自信があるぜい! 魔法対策もあるしな!」
「あ~、あの親父ならそう言いかねんな……納得したわ」
レオはそう言うと磊落に笑い、ジンは盛大に溜息を吐いた。
そして、次はリサの方を向いた。
今のリサは尼僧服から着替えていて、見た目は若干子供っぽく見える。
「ま、レオは分かった。リサはシスターになったのか?」
「そ。と言っても、まだ勉強中だし、本気で神の御使いになる気は無いわよ。折角適正があったことだし、怪我や病気の治療法をね」
「……まあ、そんなところだろうな、リサは。て言うか、適正あったのか……」
「信じられるか? こいつが神術の適正あるんだぜ? あの路地裏の撲殺魔と言われた「死ねぇ!」んがっ!」
横から話しに入りこんできたレオの頭に、リサは憤怒の表情で頭くらいの大きさがある金槌を叩きつけた。
レオは机に突っ伏し、ピクピクと痙攣している。
「雉も鳴かずば撃たれまい……相変わらずだな、二人とも」
「……アンタも殴られたい?」
「……遠慮します……」
リサの一言にジンは青ざめた顔でそう答えた。
そのやり取りを見て、ユウナがくすくす笑った。
「くすくす、修羅も恐れおののくシスターの金槌、なんて知れたら世界から追手が付きそうですね」
「ユ、ユウナまで……ちくしょおおおおおおお!!」
ユウナの一言でリサ撃沈。
ジンはそれに対して乾いた笑いを浮かべている。
「それじゃ、ユウナは今何をしてるんだ?」
「近くの食堂で働いています。いつか自分の店を持つのが夢なんです」
ジンの問いかけにユウナは笑顔と共に答える。
人形のように整った顔立ちで見せる、柔らかく優しさを感じるそれは、とても絵になるものだった。
「そうか、頑張れよ」
元より料理が好きだったユウナの夢を聞いて、ジンは笑顔でそう告げた。
「ところで、ユウナ?」
ふと、ジンがユウナに問いかける。
「何ですか、ジン?」
ユウナはそれに対してにこやかにほほ笑みながら答える。
ジンはそれに対して笑顔で続けた。
「いつまで俺の頭を撫でているんだ?」
「気が済むまでです」
……即答だった。
結局、ジンは解散の時間になるまでユウナに頭を撫でられ続けた。
「んじゃまたな! ジンもまた来いよな!」
「心配せんでも酒が飲みたきゃ行くっての! リサもまたな!」
「アタシに会いたきゃ教会に来れば良いわよ! ま、来たけりゃ来なさいな!」
「おう! そうさせてもらうぜ!」
飲み会がお開きになり、ジンはそう言うと家路に着いた。
隣にはユウナが居て、家が隣同士である二人は連れ添って帰る。
「……ジン。久しぶりに故郷の空をゆっくりと見てみませんか?」
横からユウナがそう告げると、ジンはそちらを向いた。
それから少し考えて、
「そうだな、それも良いかもな」
と言って同意した。
二人は村のはずれにある高台の広場へと移動した。
そこからは村が一望でき、空を見上げると、空には星の海が広がっている。
ジンが近くのベンチに腰をおろすと、ユウナはそのすぐ隣に腰を下ろした。
「……変わらねえな、ここは。三年前から何も変わっていない」
「不満ですか?」
「いんにゃ。良いと思うぜ。変わらない方が良いものが変わってないんだから」
二人は空を眺めたまま会話をする。
その眼の前で、大きな流れ星が流れていく。
ジンはそれを見て、流れ星に願い事をすれば叶うと言う、この地方の言い伝えを思い出した。
「……何を願った?」
「……秘密です。ジンは?」
「……知らん」
そう言いながら二人は顔を見合わせた。
ユウナの長く、艶やかな黒髪は星明かりに照らされてキラキラと輝いていた。
ジンはユウナを見て、ふと思った事を口にした。
「……そう言えば、まだその服着てるんだな」
ユウナの服は和服の単衣の様な服装で、この地方の一般的な服装とは異なる。
ユウナはその質問に眼を閉じて、昔を思い出しながら笑顔で答えた。
「はい。ジンがここを出る前に買ってくれた、最初で最後の服ですから」
「ちょっと珍しいから東方の行商人からネタのつもりで買ったんだが……気に入ってもらえて何よりだ」
「もうトレードマークですよ、この格好は。この形の服は何着か自作までしました。けど、やっぱりこの服が一番ですよ」
「……そうか」
心地良い無言が二人を包む。
二人は空を眺め、村の喧騒をしばらく見続けていた。
「……また、発つつもりですか?」
ユウナは俯き、ジンにそう問う。その声は若干の恐れや焦燥が感じられる。
ジンはそれを見上げながら答えた。
「ああ。冒険者って言うのは色々でな、開拓者や探検家、それから俺みたいな狩猟者やら色々だ。冒険者を必要としている人間は多い。だから俺は大勢の役に立ちたい……って言うのは建前だな。何より俺は、強くなりたい。世の中にはまだまだ俺の知らない色んな奴が居る。俺はそいつらと戦ってみたい」
「何故そんなに強さを求めるんですか! もう富も名声も貴方は手に入れた! これ以上何故!?」
ユウナは叫ぶように訴える。その眼には涙があふれていた。
ジンは、ふっ、と一息ついて答えた。
「……理由なんてないさ。男なら誰だって強くなりたいと願う。俺はそれが少し他の奴より強かっただけだ」
「っ! 卑怯ですっ、そんな言い方! 待たされる人間がどんな気持ちになるか考えた事は無いんですか!?」
「あるさ、それくらい。けど、どうしても強くなりたいってう衝動は抑えきれなかった。だから、俺は闘う」
そう答えるジンの眼には強い意志が込められていた。
ユウナはしばらくジンを睨んでいたが、力なく視線を落とした。
「……ジン……『修羅』と言うのは称号では無く、貴方自身を指す言葉なんですね……」
「……」
ユウナの呟きにジンは無言で答えた。
先程とは違い、苦い沈黙が二人の間に流れる。
そこを少し冷たい夜風が吹きぬけていく。
それは、寒さを思い出させるには十分なものだった。
「……帰ろう、ユウナ。ここは冷える」
ジンはユウナに帰宅を促す。
「……嬉しかった。貴方が無事に帰ってきたと知って。でもその分辛かった。貴方の安否が分からなくて。もうあんな思いはしたくないんです。だから、私は貴方にはここに残って平和に暮らして欲しかった……でも、それは叶わないんですね……」
「……ユウナ?」
絞り出すような声で話すユウナに、ジンは耳を傾ける。
すると、俯いていたユウナは勢い良く顔をあげ、ジンはそれに驚き思わず身を引く。
「ならば! 私は貴方について行きます! ジン、私を貴方の旅に連れて行って下さい!」
「な!?」
そう言い放つユウナの視線と言葉には強い意志と決意が込められていた。
「い、いや、ちょっと待て。俺の旅は滅茶苦茶危険だぜ? 村から一歩も外に出た事が無い様な奴がついてこれるような奴じゃないって!?」
「ジンだって最初はそうだったでしょう? なら、私がそれに追いつけるように努力すれば良いだけの話ですし、ちょうど他の国の食材にも興味があります。何より、もうジンの安否を気にして生きるのは嫌なんです!」
「簡単に言うな! 俺がこの強さになるのにどれだけ苦労したと思っているんだ!? 自分で言うのもなんだが、高々三年でこの強さになった俺は異常なんだぜ!? ユウナがついてこられる訳が無いだろ!」
「そんな事やってみなければ分からないじゃないですか! 何と言われようとも私は行きますからね。それじゃ、私は明日の仕込みがありますので失礼します!」
ユウナをそう言い残すと、高台から去っていった。
ジンはしばらくその場で立ち尽くしていたが、
「くそっ、分からず屋め」
と吐き捨てると、高台から去っていった。
ジンは自宅に着くと、荷物の手入れをした。
ジンの両親は幼いころに他界しており、もっぱら面倒を見ていたのはユウナの両親だった。
リサやレオ、そしてユウナは物心ついた時からの幼馴染で、良くつるんで遊んでは、怒られていたものだった。
しかし、四年前にユウナの母親が亡くなり、三年前に父親が亡くなると、それを契機にジンはその身一つで旅に出たのだ。
ジンは手入れを終えると、ベッドに寝転んだ。
いつ帰ってきても良い様にユウナに洗濯されていたのだろうか、家の中を見てもホコリ一つ落ちていない。
ジンはそっと目を閉じる。
思い出すのはユウナの事。
ジンの中ではいつも自分について回っていた、内気な少女として記憶に残っていた。
そのユウナが、見た事のない様な表情を見せ、意思をぶつけてきたのだ。
「……諦めないって、俺にどうしろって言うんだよ、全く……っ!?」
ジンがそう呟いた瞬間、村中に轟音が鳴り響いた。
ジンが窓から外を見ると、高さ十五メートル程の巨大な鉄の人形が村の建物を薙ぎ払っていた。
それは、通常であればその場所に居るはずのないものであった。
「アイアンゴーレム……何でこんなところに!? しかもあっちはレオの宿屋の方角じゃねえか!」
ジンは急いで剣と鎧を装着し、窓から飛び出した。
屋根を渡り、通りを飛び越え一直線に進んでいると、眼下に緑色の集団が見えた。
オークの集団である。
「ちっ……オークか……しかもよりにもよってあんなの動かす奴か……かぁ~、ついてねえな!」
オークは性格は獰猛で、このように村を荒らし回る事も多い。
醜悪な外見をしているが、知能はそれなりに高く、優秀な者は魔法や人間が扱うような道具も扱う事が出来る。
そのため、オーガやゴーレムなどを魔法で使役してくる事もあるのだ。
しかし、この巨大なアイアンゴーレムの様な強大な物は扱いが極めて困難である。
つまり、それを制御できるまでに強力な集団がこの村にやってきているのだった。
「オークなんぞに好きにさせるか! 喰らえ!」
「祭りの気分をぶち壊した礼はたっぷりさせてもらうわ!」
オーク達の集団を、村に来ていた冒険者たちが食い止めている。
ジンはそれを見て、ここは任せても大丈夫だと判断した。
「あのアイアンゴーレムを叩けば奴らも戦意喪失するはずだ」
制御しているオークを倒しても自律人形であるアイアンゴーレムは止まらない。
そう判断したジンは、アイアンゴーレムの居る場所まで急ぐことにした。
レオの宿屋の前に着くと、そこにはオークが集まってきていた。
「でぇりゃあああ!!」
その集団の中で、巨大なハルバードを振り回して周囲を薙ぎ払っている者が一人いた。
その中にジンは背中の大剣を抜き放ち切りこんだ。
「レオ!」
「ジンか! ったく来るのが遅えよっと!」
レオは集まってきたオークを一掃すべくハルバードを振るう。
そんな中、間合いの中に入ってくるものが三体ほど出てきた。
オーク達はレオの首を取るべく襲いかかった。
「おい危ねえぞ!」
「心配ご無用! うぉおおおおりゃああああ!」
すると、レオはハルバードを片手に持ちかえ、空いた手で腰に刺していたロングソードでオークの首を刎ね、蹴りで突き放し、斧で叩き斬った。
「滅茶苦茶な二刀流だな、オイ!」
「はっはっは! だから言っただろうが! 『面倒な事は力でねじ伏せろ』がうちの教えだってな!」
レオはそう言って笑いながら軽々と両手の武器を振るい、目の前の敵を斬り捨てていく。
その一方で、ジンはある程度オークの数を減らすと、魔法で脚力を強化して宿の屋根に飛び乗った。
すると、すぐ目の前に腕を振り上げたアイアンゴーレムが立っていた。
「やばい……!」
ジンは素早く飛び降り、レオのところに駆け寄った。
次の瞬間、轟音と共に宿屋の屋根が吹き飛んだ。
その音とともに、目の前のオーク達は撤退していく。
「う、うちの宿が! ちくしょおおおお!!」
破壊者であるゴーレムの脚に向かってハルバードで斬りかかるレオ。
しかし、アイアンゴーレムのの名に恥じない硬さを誇る装甲に弾かれてしまう。
「この! このおおおおおお!!」
「落ち着け、レオ! 幾らなんでも無茶だ!」
激情に駆られてなおも斬りかかるレオを、ジンは止めに掛る。
しかし、レオの力は見た目よりもはるかに強く、ジンは引きずられていく。
「放せ! 親父やお袋の唯一の形見が……」
「だから待て! あいつは俺が倒してやる! だからお前は向こうに行ったオークを蹴散らしてやれ! それが出来ればこいつは倒せる!」
「ぐっ……ぐぐぐぐぐ……くっそおおおお!! オーク共め!! 皆殺しにしてやる!!」
レオはそう言い残すと、オークが去っていった方向に走り去っていった。
ジンは軽く呼吸を整えると、両手でしっかりと剣を握りしめた。
「こいつの場合魔法の方が速いが、威力が高すぎるんだよな……それに、それじゃあ面白くない。まあ、やるか」
ジンはそう言うと、剣に気を込めた。
すると、剣が青白く光り始め、辺りが熱を帯び始めた。
ジンは、それを見てニヤリと笑った。
「まあ、こいつ相手ならこれ位で充分だろ。さて、この修羅の剣、何太刀耐えられるかね? はああああ!!」
そう言うと、ジンはこちらを意に介さず宿を破壊し続けるアイアンゴーレムに斬りかかった。
二太刀。結論を言えばそれで十分だった。
バランスを崩すために脚に一太刀。
倒れたところを心臓部に一太刀。
その結果、アイアンゴーレムはその活動を停止することになった。
「……な~んだ、結局ただ固かっただけか、つまらん」
ジンはつまらなさそうにそう吐き捨てるとその場を後にした。
ふと、ジンはまだ会っていない残りの幼馴染の事が気にかかった。
「(……避難所に居てくれるだろうか……)」
そう思ったジンは、避難所となっている高台に移動することにした。
そこには怪我人が大量に集まっていた。
数も多い上に、アイアンゴーレムまで居たのだ、その被害は相当なものだろう。
その数は少なく見積もってもおよそ千人。
その中には腹を裂かれて今すぐにでも治療しなければいけないものも居た。
「(これは……これだけの人数を治療するのに司教クラスが何人要る?)」
そんな事を感じながらも幼馴染の顔をジンは捜す。
そしてしばらく捜していると、
「きゃあああああ!」
突如甲高い叫び声が響き渡った。
それはジンにとっては馴染み深すぎる声だった。
ジンは大急ぎで人混みを駆け抜け、声のする方に向かった。
そして、その方角には大勢のオークがいた。
「ユウナか!? くそっ! 今助ける!」
ジンは大声で叫ぶと、ユウナの居る方向に走り出した。
が、突如凄まじい轟音が空に響いた。
「何だ!?」
ジンが空を見上げてみると、そこには先程のアイアンゴーレムが二体、空を飛んでやってきていた。
「ちっ、魔法で撃ち落とすと周囲に被害が出る……降りるまで何もできないのか、チクショウめ!」
更に、ジンがそうやって考えている最中にも、
「おい、あっちに凄い数のオークの大群が居るぞ!」
どうやら別方角からもオークの大群が近づいているようだった。
「くそっ、こんな時に! 一体何なんだ、この異常なオークの集団は!?」
心中でジンはそう毒づく。
しかし、それが判断の遅れにつながった。
「助けて下さい! ジン! いやああああああああ!!」
「くっ、ユ、ユウナーーーーーー!!」
……詰んだ。
そう感じたジンの顔に絶望の色が灯る。
……ところが。
「嫌ああああああ!! 来ないで下さい!!」
ユウナはオークの群れを切りぬけ、こちらに向けて走って来た。
ユウナに触ろうとしたオークは、素早く振られるユウナの手に触れると血しぶきを上げながらその場に倒れる。
よくよく見てみれば、ユウナの通り道の周りにはオークが死屍累々と積み上げられていた。
「……は?」
ジンの思考はそこで一時停止を余儀なくされた。
ユウナって戦闘経験ないよな、これは眼の錯覚だよな、等と言う事まで考えだす始末である。
そんな事など一切構わずユウナはこちらに向かってはしてくる。
「ジンーーーーーー!!」
「はっ!! ユウナ危ない!!」
そこに運の悪い事に、空に居た一体のアイアンゴーレムがユウナとジンの間に降り立った。
そして、オーク達に危険と思われたのかユウナに向けてその拳が振りあげられた。
「きゃあああああああ!!」
次の瞬間、ユウナが三閃。
ユウナは振り下ろされた腕を斬り飛ばし、脚を刈り取り、心臓を斬り捨てていた。
アイアンゴーレムは成す術もなくその場に崩れ落ち、機能を停止した。
「……………………」
ジンは呆然と突っ立っている。
眼の前の出来事に頭の処理が追い付いていない様だ。
そこに、
「ジーーーーーーーーーン!!」
「ごふぅっ!?」
凄まじい勢いでユウナが突っ込んできた。
ジンは何とか意識を引きもどし、何とか抱きとめる。
ユウナはジンの腕の中で震えていた。
「だ、大丈夫か……?」
「こ、怖かった……」
その手の中には大量のオークの血に濡れた出刃包丁が握られていた。
そこでまたジンの思考は錯綜した。
「(あれ~? アイアンゴーレムってさっきレオの戦斧弾いてたよね? 俺だって剣に気を込めないと切れないんだよね? それが出刃包丁であっさり切れるってなにそれ怖い)」
そこまで考えたところでジンは頭を横に振って意識を引きもどす。
今度は空の上に居るもう一体のアイアンゴーレム。
アレを何とかしないと避難所が危ない。
「ユウナ、俺はあのアイアンゴーレムを止めに行く。安全な所へ……」
「あい待った、あいつは俺様の獲物だ」
「……何?」
ジンがユウナに逃げるように指示するところに割り込んできたのはレオだった。
その手には巨大な弓と矢が握られていた。
「何をするつもりだ、レオ。ただの矢ではどうしようもないし、気や魔法で撃ち落としたら避難所が……」
「撃ち落とす? またまた御冗談を~……跡形もなく消し去ってやるぜ!!」
レオがそう言うと、弓に矢を番えた。
すると矢の先端がどんどん赤くなっていき、最終的にそれは白い閃光に変わっていった。
「うおっ、まぶしっ!?」
「きゃあああ!?」
あまりの閃光の強さに眼を覆うジンとユウナ。
「んじゃま、あーーーーばよっと!」
そんな二人を尻眼にレオがそう言って放った矢はまっすぐアイアンゴーレムに向かって飛んで行き……
「え?」
突如、音もなくゴーレムが欠片も残さず消滅した。
残ったのは強烈な熱風だけだった。
「お前……今、何をした?」
「ん? 何って、あいつが気体になるまで加熱しただけだぜ? いや~、奴が飛んでて助かったぜ~、地上でやると色々燃えるからな、あれ」
口をパクパクさせて驚嘆するジンの質問にレオはしれっと答えた。
「(あれ~あれれ~? 魔法剣士最強の魔力で魔術師としても十本の指に入る俺でも出来るのは爆破までなんだぞ? 一瞬で蒸発なんてどんだけ強烈な魔法使ったんだ? つーか、こいつは片手で戦斧振り回すわ、何なんだこいつわ?)」
ジン、再び思考の迷宮へ。
それをユウナが強引に引き戻す。
「ジン、しっかりしなさい! 私も初めて見て信じられないって思ったけど、それどころじゃないでしょう! 別の方角にオークの大群が居るんでしょう!」
「はっ、そうだった!」
必死の表情で肩を揺さぶるユウナに、ジンは心の中で「お前が言うな」と呟きながら我に返った。
「おいおい、しっかりしろよ、修羅さんよぉ……さあ、早いとこ行くぜ!!」
気合を入れてそう叫ぶレオ。
それに先導される形で避難所に戻る。
すると、待っていたのは驚愕の光景だった。
そこにあったのは通りにひしめく瀕死もしくは死亡したオークの大群。
それと、何故か傷が回復している村人たちが居た。
「おらあ、もっと来なさいオーク共! 全然足りないわよ!」
そして、事を起こしたであろう張本人は元気にオーク達に喝を入れていた。
「「「えっ?」」」
眼の前の光景に訳が分からず固まる三人。
すると、オークの中の一群が、傷だらけの状態ながらも果敢に向かって来た。
「これなら上等ね。“<ruby>取り換えよ<rt>スカーチェンジ</rt></ruby>”」
「グギャアアアアア!!」
「おおっ! 傷が塞がった!?」
リサが一言そう言うと、突如オーク達の体に数多くの傷が生まれ、村人からは傷が治ったと言う声が上がった。
事が終わると、リサはこちらに気が付いて寄って来た。
「あら、無事だったのね! よかったよかった!」
「……あの、リサ? 今のは?」
「ああ、あれは『傷の交換』ね。怪我人のある部位の『怪我』と、オークの該当部位の『無傷』を交換したのよ。めんどくさかったもんだから全員まとめて掛けたら少し甘かったから、今はその食いかけの処理ね。まあ、どの道数も足りないみたいだし、もう全員治すかな。“<ruby>この者たちに祝福を<rt>ブレス・アリアル</rt></ruby>”」
リサの最後の一言で、全体から歓喜の声が上がる。
良く見てみると、先程まで大怪我を負っていた村人達が残らず立ち上がって傷の回復を喜んでいた。
「(傷の反転なんて制御の難しいものを数百まとめて? 司教クラスが何人も必要な事態だぞ? それを一人で解決した? もうやだこいつ等あははははは♪)」
それを見たジン、思考崩壊。
自分の中の常識を木っ端みじんにされ、かなり錯乱し、混乱している。
そして、ジンは考えるのをやめた。
「およ、ジン? どうした!?」
「ジン、しっかりして下さい、ジン!!」
「ちょっと、どうしたのよ!? 対して怪我もしてないのに何でそんな!?」
「おい、リサ! お前ジンに何か攻撃を「逝けよや!」はべら!」
「ジン、折角帰ってきたのにここで死んでどうするんですか! 起きて下さい、ジンーーーーー!!」
憔悴する三人の声を聞きながら、ジンは全ての思考を放棄した。
翌朝、ジンは自分の部屋で眼を覚ました。
「ああ、あれは夢だったんだ……そうだよな……やな夢だった……」
ジンは眼を覚ました時に自分の部屋だった事を喜んだ。
あれは夢だった。その事実がジンを安心させてくれた。
さあ、窓を開けよう。今日は何をすべきか考えよう。
そう考えてジンは窓を開け放った。
「……あれ~?」
目の前に広がるのは半分崩壊した村の姿だった。
ジンは無言で支度をし、レオの宿に向かった。
「夢であってくれ、頼むから!」
ジンは心の底からそう祈りながら道を走った。
そして、レオの宿に着いた。
「……終わった……」
そこには、倒壊した宿と、自分が斬ったアイアンゴーレムの残骸が残されていた。
自分がやったのだから間違いない。あれは現実だったのだ。
ジンはガックリと崩れ落ちた。
「もう良いや、旅に出よう。この様子じゃ補給も期待は出来んし、早く出た方が良いだろう」
ジンはそう決心し、家に戻ると速攻で旅支度をした。
村の出口に向かう途中、積み上げられたオークの死骸や切断されたアイアンゴーレムの腕、空中消失したゴーレムの話等が足を速めた。
そして、逃げるように村を後に……
「お、来た来た」
「遅いわよ、ジン!」
「さあ、行きましょう!」
出来なかった。
まるでハイキングにでも行くかのような楽しそうな表情で、幼馴染三人組は村の入り口で待っていた。
ジンは額に手を当てて俯いた。
「……お前ら何やってんの?」
「何って……ジンが来るのを待ってたんですよ? もしかしたら今日旅に出るかもしれないと思って」
ジンの質問に、貴方は何を言ってるんですかとでも言いたげな表情でユウナは返した。
ジンは頭を抱えた。
「いや、お前ら何のために旅に出るつもりだよ……大体俺と行くと危険だぜ?」
ジンはこのパワーがインフレを起こしている幼馴染達と離れたい一心でそう言う。
すると、各々の理由を話し始めた。
「俺様は宿を立て直そうにも再建する金がねえからな。それに良い機会だしこの際、ジンと行ってひと山当てるのも良いかなと。あ、ジンが居る時点で野盗とかは心配してねえからそこんとこ宜しく。空飛ぶデカブツは蒸発させるけどな!」
出稼ぎ目的のレオに……
「私は教会壊されちゃったし、司祭様には「この際だから世界を見てきなさい」って言われたわ。それから、アンタを護衛に雇うように言われたから、お願いね? 怪我したら相手に転化するから安心して護衛してね」
修行目的のリサ。
そして……
「私は言いましたよ? 必ずついて行くと。ジンが強さを終着地にするなら、私の終着地は貴方が居る場所です。良いですね?」
ジンが心配でついて行くと言っているユウナ。
そしてユウナは、ジンにゆっくり近づいて……
「ああ、もし断ったらこの場で刺し違えるつもりです。……ですから断らないで下さいね♪」
と、ジンにだけ聞こえるように笑顔で囁いた。
おまけに逃げられない様に長い黒髪をジンの首に巻きつけながらである。
ジンはその場で石の様に固まった。
「んじゃま、全員揃ったところで行こうぜ!」
「そうね! まずは何処に……って何してんのユウナ?」
「いえ、包丁の忘れ物がないかどうか確認を……ええと、菜切り、出刃、柳刃、肉切りに中華に鮪切り……」
そんなジンを尻目に三人はワイワイと村の外に出ていく。
ジンは心の中で、呟いた。
「(拝啓、親父殿。幼馴染達が怖いです)」
「ジーン! 置いてっちまうぞー!」
「早く来なさい……て、何やってるの、ユウナ?」
「いえ、出刃包丁の研ぎなおしを……」
「待て、今すぐ行くから待て!」
ジンは、生命の危機を感じて三人の居る場所に飛んで行った。
そして心底思った。
こいつらに護衛は要らねえ、と。
お初にお目にかかります、F1チェイサーです。
突発的に変なの思いついて、思わず書いてしまいました。
上手く書けている自信はありませんが、宜しければ感想や意見などを聞かせてもらえれば良いな、と思います。
でわでわ♪
改訂開始……?




