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ゆかりさんとわたし  作者: ユエ
2話 ゆかりさんとわたしと、洋館にて
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第一の事件 解答編


 

 ゆかりさんは笑顔で頷いて、スケッチブックを捲ります。



〝ポイントは燃え方と草地よ、みぃちゃん〟

「燃え方と草地?」



 ゆかりさんはこくりと頷きます。



「えっと、爆発みたいに燃えたのよね? それが最初はライターの不備によるもので、実は仕掛けがしてあったんじゃないかって……。ううん、違う。ライターは関係ないんだよね」



 ゆかりさんがまた頷きます。

 スケッチブックを裏返して、



〝ライターで火が付いたのは間違いないわ。でも、ライターで紙とかに火をつけても爆発しないでしょう? 服や皮膚なんかでも同じ。火そのものでは爆発は起きないの〟

「そうね。爆発って火が勢いよく燃え広がることだものね。すごい音がしたり、眩しかったり。普通は少しずつ燃えるからそうならない。うん、うん」



 ゆかりさんは新しいページにさらさらと文字を書き込みます。


 わたしは知らずにほっとしていました。今までの調子でわたしの発言が全部予想されていたら、とても怖いです。



〝何があると火は勢いよく燃えるのかしら〟

「それは、灯油とかガソリンとか?」



 言って、すぐに自分で気がつきます。



「ああ、でも、すごい臭いがしてしまうからすぐに気づいてしまうはず……。そんな描写はなかったからこれも違うのね」



 ゆかりさんが頷きを返してくれます。



〝ちなみに灯油って、ガソリンと違って引火点が高いから、火を近づけただけではなかなか発火・燃焼しないの。何かに染み込ませるか、火種になる芯があれば別だけど〟

「へえ、そうなんだ。そういうことも考えないといけないんだね」



 言いながら、私はゆかりさんの顔色を観察してみます。満足そうな様子であるところを見ると、考える方向は合っているようです。


 わたしは俄然張り切って考えます。ガソリンや灯油のように良く燃えて臭いがしないもの、それは……。



「油、とか?」



 言葉にしてみて、



「ああ、でもそれはちょっと……」



 違うかな、と続けようとした時でした。


 ゆかりさんは、ポンと両手を打ち合わせてくれました。にっこりしています。正解のようです。



「ええっ、油で正解なの?」



 言ってみたわたしがびっくりでした。


 ゆかりさんは頷いて、スケッチブックを見せてきます。



〝正解は油よ、みぃちゃん。物によるけれどあれならほぼ無味無臭で、簡単に手に入れられて、火がつけば勢いよく燃え広がるわ。常温で気化しないから音と衝撃はないけれど、それこそ爆発のようにね〟



 わたしは一瞬呆気にとられて、それから反論を口にします。



「でも、あんなものを人に使ったらギトギトになってしまって、さすがに気づいてしまうんじゃ?」



 しかし、ゆかりさんはこの反応も織り込み済みでした。スケッチブックの別のページを開きます。



〝その時の状況を整理してみて。外は豪雨で記者さんはびしょ濡れだった。身体を包む不快感は雨でごまかされてしまうわ。服に油がかかっても、森の中で何かおかしなものが付着したとか、それくらいしか考えなかったでしょう〟

「なるほど……。それじゃあ、犯人は裏口の上の窓か何かから油を降らせたということね」



 考えを口にしてみますが、でもそれって現実的にやるとかなり違和感がでてきてしまうんじゃ……。

 それに、ピンポイントで狙って油をかけることなどできるのでしょうか。


 そんな風に思いましたが、ゆかりさんはやはり一枚上手でした。



〝たぶん、雨に紛れるようにじょうろか何か使ったんじゃないかしら。容器の中に油だけじゃなくて水を一緒に混ぜておけば十分可能なはずよ〟

「なるほど」



 スケッチブックにそんな言葉が書いてあって、わたしはもう感心するしかありません。



〝私の解答はこう〟



 ゆかりさんはそう前置きをしてから自身の考えを披露します。イラスト付きなのでとても良く分かりました。



〝犯人は双子を探すふりをして裏口の真上に陣取った。記者さんが捜索から帰宅し裏口のドアの前に来た時に、潜めていた身を起こし、上からじょうろのようなものを使って、雨に紛れて油を浴びせかけたの。あとは記者さんがライターでタバコに火をつけると、油が染み込んだ服に燃え移って勝手に炎上するというからくりよ。きっと、記者さんはヘビースモーカであるとか、そう設定づけられていたんじゃないかしら〟



 わたしはまだ読んでいなかった推理の部分にざっと目を通して、ゆかりさんの言葉と照らし合わせてみます。

 トリックの大筋はまさにその通りでした。



「うん、合っている。すごい、ゆかりさん」



 わたしが声を弾ませると、ゆかりさんはそれに応えるように口元を緩めて微笑みます。

 そして先程のページをもう一度わたしに見せます。



〝ポイントは燃え方と草地よ、みぃちゃん〟



 また別のページを開いて、



〝火が通常より勢いよく燃えたのなら、それは可燃性の何かを身に纏っていたから。雨に紛れさせたと思ったのは、草地が焦げていたからよ〟

「そうか。油を含んだ水を降らせたからそこも油まみれになっていて、燃えている記者さんが転がったから火が燃え移ったんだ」

〝普通雨の中なら火は消えるはずだから、不自然に草地まで燃え広がっていたのなら、その範囲まで届く何かがあったということよ。油まみれの水は豪雨で薄まって流れてしまうでしょうし。おかしなあとは残らないという寸法よ〟

「なるほど……。わたし、さっきからなるほどとしか言っていないかも」



 さらにゆかりさんは補足します。



〝たぶんだけれど、犯人はあらかじめ記者さんに裏口の鍵を渡していたんでしょう。『天気が悪いから、雨が降ってしまった時はそちらから入っても構わない』とでも言って。手分けして双子を捜索する際に、より裏口に近い所を探すよう指示したんじゃないかしら〟



 ゆかりさんの指摘はまたも的を射ています。作中で、サヤカとユウトの二人が交互に親族の人たちへそのようなことを説明しています。


 親族の人たちと同じように、わたしもまた納得せざるを得ません。



「うわあ。これはわたしかなり旗色が悪いなー」



 そんなことをぼやくわたしの声は自分で聞いてもどこか楽しそうで、全然説得力がありません。


 ゆかりさんもそう思ったのでしょう、おかしそうにはにかみます。


 そんな彼女に、わたしはおねだりするように上目遣いでお願いします。



「ゆかりさん、ゆかりさん。次の事件はどう思ったのか教えて」



 ゆかりさんは、こくりと頷いてくれました。人差し指と中指を伸ばして、二つ目の事件であることを示します。

 

 

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