13,ラスボス攻略冬華③
優児先輩とニセモノの恋人関係を終わらせてから、10日くらい過ぎていた。
クラスの子たちと放課後に遊びに行ったり、噂を聞き付けた男子数人から告白されたりと、いろいろと影響があった。
そんな中で、一番変化があったのは……。
「冬華、何か俺に話しておきたいことはないか?」
兄貴が家でめちゃくちゃ声を掛けてくるようになったこと。
これまでは、わざわざ無視をすることはなかったけど、用がなければ特段話をすることはなかった。
「……何もないんだけど」
私はそう言って、リビングから自分の部屋に籠ろうと、移動しようとする。
毎日毎日飽きもせず、私に対してそう問いかけてくるのに、うんざりしていた。
「待て。冬華が話してくれるまで待とうと思っていたんだが、もう無理だ」
そう言って、兄貴は私の腕を掴んで引き留める。
「は? 意味わかんないんだけど」
私はそう言って、兄貴の腕を振りほどこうとしたけど、強くつかまれたまま。
「どうして、優児と別れたんだ?」
その質問を受け、私は兄貴を睨みつけて答える。
「関係ないじゃん」
「関係あるっ! 俺は優児の友達で、冬華の兄貴だぞ!」
「……だから、関係ないんじゃん」
「関係ある! 俺が今こうして、曲がりなりにも冬華に向かって兄貴だぞって言えるようになったのは……優児がいたおかげだから」
兄貴は普段では考えられないくらい、語気を荒げて言った。
優児先輩がいなければ、兄貴の言葉の通り、私は劣等感を抱いたままで、こんな風に話すことはなかったはずだ。
「……どうせ、私が余計なことして優児先輩を怒らせて、気まずくなって別れを切り出したんだと思ってるんでしょ? 兄貴は優児先輩のこと、贔屓にしてるから」
いい加減、うっとおしく感じていた私は、兄貴に向かって嫌なことを言った。
普段なら、ここで物わかりの良い兄という風に、身を引いてくれるんだけど……。
「そんなこと、思っていない。……冬華が優児を揶揄うことはあっても、本気で傷つけるようなことを言うわけがない。そんなこと、見ていれば分かる」
「じゃあ、私が優児先輩に傷つけられたと思っているの?」
「優児がそんなことをするわけないだろ」
当然だろ、とでも言いたげな様子で、兄貴は言った。
「じゃあ、何だと思ってるわけ?」
「何も分からないから、事情を聴きたいんだ。……きっと、力になって見せるから」
真剣な表情を浮かべる兄貴。
心配してくれているから、そう言ってくれているのはわかる。
だけど……。
「今さら、兄貴ぶられても迷惑だし」
私が、優児先輩と出会う前。
なんでもできる兄貴と比較され、劣等感に苛まれていた。
頑張っても、私の評価は『池春馬の妹』のまま。
それが嫌で、心が折れていた時に、兄貴に手を差し伸べられたことはなかった。
「……俺に劣等感を抱いていた冬華に、俺から声を掛けることはできなかった」
私の考えを見抜いたのか、兄貴はそう言った。
「頑張るな、なんて言えなかったし、わざと手を抜くこともできなかった。俺の言葉が冬華にとってプラスに働くことはないと、そう思っていたから」
その通りだ。
いくら兄貴に何を言われても、私は素直に受け取ることはできなかった。
兄貴が悪いわけじゃないのは、最初から分かっていた。
兄貴のこと、嫌いなわけではない。
むしろ――自慢の兄貴だって、思ってる。
それでも、どうしても。
私は未だに、素直になれないでいた。
「でも、今は違う。……まだ好きなんだろ? 優児のことが」
「なんで……そんなことわかるわけ?」
私の質問に、兄貴はあきれた様子で言う。
「逆にわからないと思うか?」
「……どういう意味?」
「優児と別れてから、ずっとつまらなさそうな顔をしているからな、冬華は」
訳知り顔で、兄貴は言う。
なんだかムカついて、否定しようと思ったけど……きっと、それは図星だから。
「私、これまで兄貴にひどいこと、たくさん言ったと思う」
「そうかもしれないな」
「悪いとは思ってるけど、謝りたくない」
私の言葉に、兄貴は苦笑する。
「謝る必要なんてない。俺たちは、兄妹だから」
その言葉を聞いて、私はなんだか少しだけ――素直になれるような気がした。
「……ありがと」
私の言葉に、兄貴は両眼を見開いて驚いてから、
「どういたしまして」
と優しい声音で言った。
それから、私が口を開くのを待つように、無言だった。
私は、兄貴をまっすぐに見てから――お願いを口にする。
「ねえ。助けてよ――お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、なんて呼ばれたのは何年ぶりだろうな」
兄貴は、揶揄うようにそう言った。
私も少し、リップサービスが過ぎたかと思っていたので、とても照れ臭くなってしまい、
「うっさい、クソ兄貴! ……それで結局。助けてくれるの、くれないの!?」
思わず、生意気な口調で問いかけていた。
私の言葉に、頼れる兄貴は力強く断言する。
「任せてくれ、冬華」






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