19、埋め合わせ
「そういえば優児先輩のクラスの応援団は、誰になったんですか?」
体育祭のメンバー選出が済んだ放課後。
連続で昼飯をすっぽかした穴埋めとして、駅近くの喫茶店に入ってお茶を飲みながら、俺は冬華と話をしていた。
注文の品がテーブルに運ばれ、喉を潤してから告げられた冬華の言葉に、俺は答える。
「応援団、か。たしか……野球部の野口っていう奴と、女子バレー部の八木ってやつだ」
俺が体育祭のメンバーに選ばれた時に背中を押してくれた奴らだった。
そしてやはり、野原でも野崎でもなかったことに、申し訳なく思うのだった。
「野口先輩と、八木先輩……全然知らない人でした。……って、あれ? 応援団って一・二年生は各クラス男女二名ずつでしたよね?」
「確かそうだったよな。……実は、覚えてないんだよな」
野口と八木はメンバー選出の件も有って覚えていたのだが、どうにも他の二人のことは思い出せない。
俺が頭を悩ませていると、あははー、と笑い声が聞こえた。
「自分に関係ないことって、割とそんなものですよねー。流石に、二学期に入ったのに、クラスメイトの名前を未だに覚えていなくって、それで忘れていたとかなら、私も心配になっちゃいますけど」
と、揶揄うように冬華が言った。
……俺は気まずくなって視線を逸らす。
「え? あ、あれー、どうしたんですか、優児先輩? まさか、本当に……」
俺は無言のまま、季節限定メニューに視線を落とす。
宇治金時680円、絶妙な値段設定だな……。
そんな風に考えていた俺に、冬華は気を使ってくれたのか、
「なんかごめんなさい。……あ、そういえば朝倉先輩は応援団じゃないんですか? 体育祭とか、チョー好きそうですけど?」
そう告げて、話題を変えてくれた。
「ああ、朝倉は部活を優先したいみたいでな。クラスの連中が推薦していたけど、断っていたな」
「なるほどー、納得です」
そう反応してから、
「ウチの学校って、ブレザーじゃないですか? 優児先輩の学ラン姿、実はちょっぴり見てみたかったりしたんですよねー」
と、どこかがっかりしたように冬華は言った。
「そういえば、中学の制服は学ランだったな。……そんな特別なもんでもないだろ」
俺がそう言うと、
「本当ですか、それ!?」
と冬華はどこか興奮した様子で、俺に問いかけた。
「あ、ああ」
「それなら、今度着ているところ、見せてください!」
「え、あ、ああ。……まぁ、機会があれば」
熱心な冬華に、俺は引き気味に答える。
俺の回答を聞いて、「やった!」と冬華は喜んだ。
……俺の学ラン姿を見て、どうするつもりだ? 昭和のヤンキーみたいだと笑うつもりか?
疑心暗鬼になりつつ、俺は冬華に問いかける。
「ちなみに、冬華は参加しないのか? クラスの人気者だと、推薦されたんじゃないか?」
「確かに推薦はされましたけどー。めんどくさいので、断りました」
「そうだったか」
冬華らしい言葉に納得する俺。
「ちなみにもう一つ理由があって。……あのクソ坊主も応援団のメンバーなんですよねー」
と忌々しそうに言った。
クソ坊主……? と一瞬疑問に思ったが、甲斐のことだろう。
もう坊主頭じゃないのにこの言われよう、相変わらず、甲斐のことが嫌いなようだ。
「そうなんだ。あいつは人気者だし、不思議ではないな」
「あのクソ坊主、外面は良いですしね。内面を見ない女子は、未だにキャーキャー言ってますねー。本当に理解できないんですけどー」
肩を竦めつつそう言う冬華に、俺は苦笑する。
「でも、その代わり。ウチの体育祭の目玉種目らしい騎馬戦には、出なくちゃいけなくなったんですよねー」
この学校の騎馬戦は、男女混合で、各クラス3組ずつ出場させ、54組の騎馬を学年関係なしに競わせる。
配点も高く、終盤に行われる競技であり、確かに最もお祭り感の強い種目だ。
「ああ、それは俺も出ることになった」
「へー、そうなんですね。じゃあ、本番では敵チーム同士で戦うことに……え?」
そういえば、冬華とは違う組になるので、敵チーム同士になるわけか。
驚きの表情を浮かべる冬華を見つつ、俺はそう思った。
「……先輩、騎馬戦出るんですか?」
「ああ。それ以外にも、色んな種目に参加することになった」
俺の答えに、動揺を浮かべる冬華。
「ど、どうしてですか? 先輩、こういった行事はあんまり得意じゃないと思っていたんですけど……」
「朝倉や池、夏奈。それにさっき言った野口や八木とか、……クラスの連中に任されたんだよ」
俺は少し照れながら言う。
すると、冬華は茫然とした表情を浮かべる。
……そんなに信じられないことを言っただろうか?
そう思いつつ彼女を見ていると、
「と、冬華!? どう(う)した?」
驚いたことに。
冬華の目尻から、一筋の涙が零れ落ちていた。
「驚いちゃいましたよね、ごめんなさい優児先輩。別に、悲しいことがあって涙が出たわけじゃないので、心配しないでください」
そう言って、冬華はおしぼりで涙を拭った。
「心配するなと言われてもだな……本当に大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。……嬉しかったんです」
「……どういうことだ?」
俺は、優しい微笑みを浮かべる冬華に向かって問いかける。
すると彼女は、はにかんだ笑みを湛え、口を開いた。
「先輩のこと、ちゃんと見てくれる人がたくさんできて。……恋人として、鼻が高いです」
学校で浮いていた俺が、ちゃんとクラスに馴染めたことを、喜んでくれていたらしい。
不要な心配を冬華にさせていたことを申し訳なく思いつつ、純粋に喜んでくれたことに、俺は嬉しく思った。
いつものように、「ニセモノ」の恋人だけどな、と照れ隠しにはぐらかしそうになるのを堪えて、
「……ありがとな、冬華」
俺は彼女に感謝の言葉を伝えた。
「別に、感謝されることじゃないですよ?」
呆れたように冬華は言ってから、
「……ただ、優児先輩の良いところが他の人たちにも知られるのは良いことなんですけど、人気者になった先輩とお昼を一緒に食べづらくなっちゃうと、困りますねー」
と、悩まし気な表情を浮かべつつ、続けた。
「そんな心配までする必要ないだろ。……それにもし、万が一。そんなことになったとしても……」
俺は彼女の言葉に苦笑いしつつ、
「昼飯くらい、みんなで一緒に食べたら良いんじゃないか?」
冬華に向かって、そう告げた。
彼女は俺の言葉を聞いて、
「先輩……。捕らぬ狸の皮算用って言葉、知ってます?」
と、肩を竦めつつ、揶揄うように言った。
「冬華からこの話を振ったんだろうが。乗ってやったらそんなこと言われるとか、どんな罠だよ……」
俺は不満を抱きつつそう呟く。
すると、冬華は「あはは、ごめんなさい!」と、おかしそうに笑った。
彼女のその笑い顔を見て、俺もなんだかおかしくなって、思わず笑みを零すのだった――。






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