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閑話 地獄を見た後は

この場合、怒りを買った者の末路とも言うべきか。

――――――彼女はさまよっていた。


 生と死の狭間を漂い、やや死にかけていた。


 だが、何とか一命をとりとめたのだが‥‥‥‥




【‥‥‥アあ、恐怖といウものを超えタものがあルとは、思わなかった】


 そうヴィーラはつぶやき、袋の中に彼女は引き籠っていた。





 数日前、精霊薬を求めて己でやらかした行い。


 そのツケとして様々な事をやらされたが…‥‥これまでの人生、いやモンスター生では味わったことが無い、真の恐怖と言う物を味わったのである。


 正直言って、これほどまでのものがあるとは彼女は想像だにしていなかった。




 元はかなり弱いモンスターであったから、恐怖と言う感情をきちんと持っていたのだが‥‥‥それすらも凌駕し、今まで味わったことがある恐怖などは、もはやまだ優しいものであったと知ったのだ。



 そのせいで、毛もはぎ取られ、生え変わるまで赤裸な姿になって、しかも無理やりであったからかなりじんじんとして痛い。


 でも、文句も言えないことかもしれないと、彼女はそう思った。





【‥‥‥でも、あたい的に本当に悪いコとをシたかモなぁ】


 そうつぶやき、彼女はこれまでの事を振り返ってみた。


 自身が弱かったモンスターであったゆえに、国を滅ぼせるだけの力を付けようとも常に周囲を疑い、本心を隠すことが多かった。


 精霊王の孫であるというルースに関しても、その力を貸してほしいと素直に頼めばよかったのに……疑心暗鬼でやってしまったのは、力づくでの誘拐だった。


 そして、頼んでもダメだろうと思い、薬を盛って子をもらい、その子に精霊薬を得るための手伝いをしてもらおうとしていて…‥‥考えてみれば、どれだけ馬鹿だったのか、ヴィーラは身をもって痛感した。


 馬鹿だったからこそ、今のような悲惨な状態に追い込まれ、彼女は未だにまともに動けない。




【‥‥あノ時、素直に頼ンでいレばヨかっタのかな】


 地下の奥深く、偶然にもルースが探り当て、そして辿り着いた場所で彼はヴィーラが求めていた精霊薬を見つけ出した。


 力づくで奪おうとも考えたが‥‥‥思いのほか、彼はあっさりと譲ったのだ。


 理由としては、いらないからと言うのもあるが‥‥‥まともに、きちんと正面から話していれば、強硬手段に彼女は出なかっただろう。


 ルースの偽りのないその言葉に、彼女は己を恥じた。




 何も、皆が自身を狙うような輩ばかりではない。


 強くなるために、薬に頼ろうとしたのも…‥‥良くないことだ。



 そう痛感し、ヴィーラはほろりと涙をこぼす。


 そして、誘拐したにも関わらず、事情を話すとルースは分かってくれて、許してくれたのだ。





……ヴィーラは思った。


 自分はこれまで、ルースのような素直で、そして分かってくれるような人を探さず、何もかも疑い、そして本心を隠してしまったのだと。


 ゆえに、得られたかもしれない繋がりもなくなり、今に至るのだと理解した。



「‥‥おおぅ、同じようなことを考えているようでアルな」

【‥‥ん?】


 ふと声が聞こえて、振り返ってみればそこには鬼人が一人立っていた。


【‥‥だれだ?】

「ん?私はミュルと言う名の鬼人でアル。‥‥‥お前のように、かつてルースに害を加え、手痛い反撃をあの少女たちに喰らった者でもアルよ」



 その言葉に、ヴィーラは驚愕した。


【‥‥‥同様にッテ事は、あたイと同じヨうにヤられタのか?】

「ああ、同じようにな。その話しを聞いて、私も同じような目に遭ったお前と話したいと思ったアルよ」


 ルースに害を加え、そして彼を慕う者たちに手痛いお仕置きに遭ったもの同士として、二人は何か絆が産まれたように感じた。




 場所を移し、屋上へ彼女たちは出た。


 袋詰めのままヴィーラは移動し、ミュルが酒瓶を持って来た。


「‥‥‥一応、今はここの教師をやっているでアルが、酒でも飲んで話し合おうでアル」

【‥‥‥あア】



 互いに杯を交わし合い、同じような目に遭ったもの同士、互いに語り合い始める。


 秋も深まり、月明りも綺麗な真夜中、酒も進み、理解を深めていった。




「‥‥私も少々事情が異なったとはいえ、同様の目に遭ったアル。毛皮が無い分、あんなことやこんなことにあって‥‥一時期、廃人と化したのでアルよ」

【そんな目にか‥‥‥そチらも大変ダったヨうだね】

「そうでアルな」


 お互いの境遇や、ここに至るまでの経緯を話し終え、酒を飲みかわし、同情しあう。



 ここまでの時間が、何となく居心地のいいようにヴィーラは思えた。




「なんにせよ、そのトラウマも克服し、私は再びここへ戻って来たのでアル。後悔してこそ、己を見つめ返せて……無くした時を、もう同じようにいかないけれども、それでも取り返したく思ったのでアル」


 ミュルのそのつぶやきに、ヴィーラはふと思った。


【そこマで渇望すルほど……その無くした時と言うノは、楽しカかったノか?】

「ああ、そうでアル。皆で遊び、学び、乗り越え‥‥‥しがらみもなく、ただ単に一人の少女として過ごしていた日々。それを捨てたのは、自分とはいえ…‥‥それでも、やっぱり戻りたくなったのでアル」


 ふと遠くを眺め、ふっと笑うミュル。


 その顔は、寂しげでもあり、諦めてもおり‥‥‥後悔もしている顔であった。



「良く言うアル。『割れた皿は戻らない』、『こぼれた水は戻らない』などとね。それでも…‥‥やっぱり戻ってしまうのは、アレのせいアルかね」

【アレ?】

「‥‥‥ルースでアル。一度関わっただけでも、やはり離れがたいというか…‥‥再び、皆で笑いあいたい。そう思わせる様な、相手でアル。そして、恋もしていた相手…‥‥いや、今も私はしているアルな」


 その言葉に、ヴィーラは驚いた。


【今もって……本当に?】

「本当アル。でも、もう今でハ傍に寄れナい相手。一人の少女としてならともかく、こうして教師となると‥‥‥そうそう関わりも減るアル。それに、一度は害した身ゆえに……ね」


 最後まで言わなかったが、何を言おうとしていたのかヴィーラは分かったような気がした。


「それでも、いくらあのトラウマたちがいようとも、己のできることはやり遂げたいでアル。後悔してこそ、見つめ直し、再び歩む機会をくれたのも……ルースと言って良いアル。ならば、最後まで徹底的に頑張ってみようと思えたのでアル」


 ミュルのその言葉は、ヴィーラの心に響いた。


 後悔してこそ、確かに己が見つめ直され、考える機会があるのだ。


 もう、前みたいなことはないかもしれないが…‥‥それでも遂げたくなる気持ち。




 そう思うと、なにかこう、ストンと彼女の中で納得がいくような気がした。



【‥‥そウね。そうダよね。あたいだッテ、まだまだ見つめ直せる。その機会があルよね】


 そうつぶやき、ヴィーラは空に浮かぶ月を見た。


 今日はどうやら満月で、この都市で行われている収穫祭を見ているかのように、綺麗に照らしている。


 その美しい月明りのように、自らを照らし、隠すことの無いように生きたいとヴィーラは思えた。



 そして、同時にふと思った。


 このような機会を得られたのも、そしてこうしてミュルと言う友が出来たのも、ルースのおかげだと。


 あのトラウマ製造機共が付いてくるのはどうしようもないことかもしれないが、それでも一緒になって、笑いあっていた。


 それをまた、取り戻したい。


 特に、ルースに再びモフられて、笑わせてあげたい。


 そして、一度は違う目的で狙っていた子もなしてみたいとさえ、彼女は思った。



【…‥‥一度は間違った道、今度は間違えズに生きたい。そう思えタよ】


 ぐっと意気込みをつぶやき、ヴィーラは心からそう思った。


「ふふふ、ようやく立ち直ったようでア……ル?」


 ヴィーラが立ち直ったような声を出したので、ミュルが笑いながら彼女を見たとき……その表情は驚愕へ変わっていた。


【ん?どうシたの?】

「‥‥‥なぁ、ヴィーラ。ちょッと聞くけど、お主もタキのように人型になれるアルか?」

【え?】

「えっと‥‥‥ほれ、こいつを見るアル」


 ごそごそと懐を探り、ミュルが取り出した手鏡を受け取り、ヴィーラは己の姿を見た。



 そしてしばし硬直し…‥‥口を開いた。


【‥‥な、ナ、な、ナ……なンじゃぁコりゃァぁぁァぁぁぁぁァぁぁっ!?】



 つい最近、最強の恐怖を覚えたばかりであったが、今回は最強の驚愕を彼女は覚え、思わず叫んでしまった。



 その驚愕の声は、月明りに照らされた都市中に聞こえそうなぐらいのものであったという‥‥‥‥。



‥‥‥さてさて、何やら叫んでいるようだがどうなったのか。

ここまでのやり取りでいつの間にかなっていたようだが、気が付かないものなのか。

なんにせよ、何か驚くべきことがあったようで……

次回に続く!!


‥‥‥次回、新章予定。そろそろルースたちの将来とかをはっきりさせるべきだろうし、色々と問題を片付け始める感じかな。

あ、最近、連載作品「転生、いきなり最悪過ぎだよ!!」をやっていますが、興味があればぜひご覧ください。

‥‥‥露骨な宣伝とは、こういうことなのだろうか?

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