147話
少々都市の方へ視点が移りまして…‥‥
……都市メルドランからエルゼ達がルースを追いかけて行った丁度その頃、都市の端にある小さな貸家にて、ある人物が様子を見届けていた。
「‥‥‥なるほど、まさかあのように動くとは予定外だったな。あの黄金の魔導書所持者を追いかけたあの液体、性質上もしや力に反応しすぎたのではないだろうか?となれば、魔導書所持者たちの中でどれだけの力がるのか測定できる応用にもなりそうだが…‥‥」
ぶつぶつとつぶやきながら、その人物は思考の海に沈んでいたその時であった。
「!?」
突然、何かが動く気配がして思わずその人物は後ずさりをすると同時に、目の前を光の線が走った。
ジュンッツ!!
壁に当たると、何やら一瞬にして焼け、いや溶けてなくなってしまうほどの‥‥‥殺傷能力の高い光線のようであった。
「い、今のは‥‥‥」
「私の仕業ーよ」
光線の出てきた方から声がし、見てみればそこには一人の女性がいた。
白色の魔導書を持ち、受け取れる雰囲気は圧倒的な強者。
「ぐ、グリモワール学園のバルション学園長だと!?」
なぜそのような人物がここにいるのかはともかく、どうやらその表情から見るに色々とばれてしまったらしいことを、理解してしまう。
「な、なぜここがばれて…‥‥」
「ふふふふーふ、冥途の土産に教えーてあげーましょーうか?」
疑問の声に対して、バルションはにっこりと笑って答えた。
「元々あーの生徒、黄金の魔導書の持ち主の彼は、この国にとーってできーるだけ失いたくない人物でーもあるわけ。ゆーえに、ある程度の監視のスペシャリストが付いていーるわけなのよね」
それも、日常的に過ごしていると気が付かないレベルの者で、徹底的に鍛え上げられた者たちが見張っているのだ。
それがルースの周囲の者たちにばれないのは…‥‥タキ辺りはなんとなくわかっているかもしれないが、ルースに害を与えないようにしており、そしてできるだけ害になるような事を行差にように防ぐ役割も担っており、例えるのであれば縁の下の力持ちのような役割を果たしているからである。
あと、ついでに言うなれば黒色の魔導書を持つ者たちの集団でもあるので、魔法によって影の中に隠れていることが多いので、発見しづらいというのもあるのだ。
「学園長といーう立場上、融通を効かせることも出来ていーるのよ。で、そーの中で今回、何かわから-ないか調べーてもらったところ、あの逃げ惑い、避難すーる市民の中で、あなたーだけが反応が薄かったのよね」
普通、時計塔から謎の液体が流れだし、それが1年前の液体事件を知っている人や知らない人でも危なそうで有れば慌てて避難するものである。
だがしかし、この人物……今回の液体事件の元凶は余り慌てた様子もなく、そのせいで怪しさを感じ、学園長の持てる限りの権限で追跡してもらい、ついでに素早く調べてもらったのである。
「都市内へ入場したーのはつい最近‥‥‥けれどーも、時計塔上部に登った回数が平均以上……明らかにあーやしすぎるわねぇ?」
微笑みながら言うが、その目の奥は笑ってはいないことを、その元凶の人物は感じ取った。
……学園長は己の生徒たちが危険にさらされること嫌う。
特に、今回のような自らの手を汚さずに別の者に任せようとしたことが…‥‥もっとも怒りを買ったようだ。
「本来ならーば、このまーま拘束し、しかるべーきところで拷問、こほん、尋問を受けさーせてその情報を吐いてもらーうけど…‥‥1、2発、いや、百発以上攻撃して、この怒りをぶつけさせてもらうわ」
いつもの伸びた口調から、真面目な声に、にこやかな顔から真剣な、それこそ目に怒りの炎が宿っているような表情へバルション学園長が変化する。
「捕縛よりも、私情を優先か…‥‥」
そうつぶやき、元凶の人物はそっと後ろに後ずさる。
普通であれば、この怒れる学園長から逃げることは不可能に近い。
だがしかし、生憎ながら、この人物は普通ではなかった。
「はっ!!」
その人物が懐から何かを取り出した。
中身が明らかにやばそうな液体の瓶で、それを地面にたたきつける。
いやな予感がした学園長は、とっさにその中身の液体に向けて光線を放った。
が、攻撃する瞬間、その隙を狙ってその人物は魔族とかでもありえないような速度で学園長の横に駆け抜け・・・・・
ドスッツ!!
「ぐっ!?」
思いっきり、隠し持っていたナイフを学園長の横っ腹に突き刺した。
そのままの勢いで横に切り裂いたあと、その人物はそのまま外へ駆け抜け、最後に残していた団子のような物を地面にたたきつけた。
ぶしゅううううううううううう!!
見る見る間に、その団子のような球から煙があふれ出し、周囲が全く見えなくなる。
刺されたところを抑えながら、学園長は攻撃を加えたが手ごたえはなかった。
煙がはれ、後にはただ単に、都市の風景があるだけであった。
「ちっ、逃げーられたわね」
忌々しげに舌打ちをしながら学園長はそうつぶやいた。
万が一を考えて、先ほど述べた監視のスペシャリストたちも待機させてはいたが、この煙や先ほど見せられた素早さを考えると、誰も追跡できていないだろう。
「…‥‥っ、毒も一緒なのね」
刺された箇所が変色し始めたのを見て学園長は毒付きのナイフで刺されたことを悟る。
幸いというか、回復魔法を彼女は使えるので、解毒も容易い。
だがしかし、おそらくはあのフェイカーの手によって精製された毒であろうことから、そう簡単に解毒できるような代物ではない。
とにもかくにも、彼女は自身の治療を始めるのであった。
本音を言えば、あの謎の、おそらくはフェイカー製の液体に対して、自らを囮にして遠くへ行ったルースの元へ駆けつけ、手助けをしたいと考えていた。
だがしかし、あの冷気を吸収した特性からあの液体には魔法が聞きにくそうであり、自称攻撃魔法は苦手な学園長にとっても最悪な相手であることは間違いない。
……それでも助けたいのが学園長として生徒を想う心があるからなのか。
「‥‥‥いや、違うわね」
ふっと笑みを漏らし、自身を治療しながら学園長はその答えを見つけていた。
とはいえ、その答えは今はまだ無理。もっともっと未来にならなければダメであろう。
それに、手助けをしようと考えたが…‥‥今のルースならば、おそらくは勝てる相手であり、必要ないであろう。
精霊の力を使い、怪物を一瞬で消し去る力もあり、複合魔法でも奇想天外な使い方をしたりする彼の事だから、どうにかして勝ってしまうのが目に見えていた。
「そーう考えーると、助けがいらーなくーなったこーとに悲しーむべきかしらね?」
いつもの口調に戻り、巣立ちされた後の親のような気分となって、思わず感じた寂しさに学園長はそうつぶやくのであった。
それから数時間後、都市からかなり離れた場所にいるルースの元へ、ようやくエルゼ達が到着していた。
「ルース君!!大丈夫……って、何よこの状況?」
「激しい戦闘があったようにも・・・・・見えるアルね?」
「‥‥‥ちょっといいなぁ」
辺りがあちこちボコボコになっており、激戦の跡地となっていたことがうかがえる。
けれども、その激戦の跡地にはなぜか花畑が広がっており、その場で横になっている巨大な狐と人サイズほどの兎の間に挟まれた状態で、ルースが寝ていたのであった。
【お、やってきたようじゃな】
エルゼ達に気が付き、ルースが起きないようにそっとタキが体を起こしてそう声に出した。
「な、な、何をやっているのよこの女狐……ルース君と一緒に寝るなど、なんてことを」
「というかこの状況はどういうことでアル?あの液体も何処へ行ったのでアル?」
「モフモフに挟まれての睡眠・・・・・うらやましいな」
ぼそりと、ルース同様隠れモフモフ好きのレリアの事は放っておいて、エルゼとミュルはタキに詰め寄る。
ついでに、ここまで乗せてもらった火竜とシーサーペント達を送還した。
【走っただけで、もう終わりか】
【なんかこう、片方だけでもよかったようなきがす、】
「「『送還』」」
ポンッツ
……言い終わる前に二体が送還されたが、誰も気にはとめないのであった。
「ふーん、つまり液体は潰し終わってそしてこの花畑はルースの影響があるのでアルね」
事情をエルゼ達は聞き、ミュルが周囲を見渡してそう声に出した。
【うむ、精霊としての力を全力で出して、ついでに先ほど我らをモフり倒した後に、緊張の糸が切れたように眠ったのでな。精霊状態の解除はしておるが、無意識にその力があふれたようじゃ】
「で、その兎は国滅ぼし可能なモンスターの一体?一体何がどうなってそいつも合流したんだ?」
【まぁ、いろいろとあってな。こやつも召喚主殿のモフテクに轟沈したのじゃよ】
ルースの横に寝ている兎を見ながら、タキはそう説明する。
【とはいえ、あと2,3時間ほどで起きるじゃろうな。…‥‥できればこやつは寝ている間にこの場に置いていきたいのじゃが…‥‥勘が鋭いゆえに無理なのじゃよな】
「ん?女狐にしては珍しく他人を拒否するような‥‥‥この方がそれだけ危険なのかしら?」
タキの言いよどむような口調に、エルゼは疑問の声を上げる。
【いやまぁ、我と同じく国滅ぼしの力はあるのじゃが‥‥‥今は表面化しておらぬようじゃが、こやつの種族故の厄介性があるからのぅ‥‥‥】
「というと?」
【‥‥‥通常、こやつよりもっと下位のラビッタ―とかいう種族であれば、求めるものが真逆で、そちらであればまだ容易いのじゃよ。しかし、こやつクラスの者になれば…‥‥】
かくかくしかじかとタキが話すと、エルゼ達は血相を変えた。
「えっと‥‥‥それは本当なのかしらね?」
【間違いないはずじゃ。嘘だと思うのであれば、エルモアの奴に聞くのが良い】
「ちょっと待って。その話しから思うに、そのモンスターって観光目的は建前で、本音はそのことになるのか?」
【いや、本能的な部分になるじゃろうからそうとは限らぬ。だがしかし、もし何かの拍子にその本能的なものに目覚めれば‥‥‥‥】
「…‥‥よし、ここは皆で協力したほうが良さそうでアルな」
「「【同意】」」
ミュルのその言葉に、全員がうなずく。
手を合わせ、互に確認しあう彼女達。
その団結力は今、たった一人の者のためだけに、ダイヤ以上の硬さをもったのであった…‥‥
結束を固めた乙女たち(約2名は年齢的にどうかと思うが)。
何はともあれ、謎の液体騒動はこれで収まったかのように思われた。
だがしかし、今度は別の脅威が迫っているようであり…‥‥
次回に続く!
毎回思うけど、この次回予告的な後書きにBGMを流したい。某機械の体を求める旅の奴の次回予告風な奴が欲しいな。わかる人いるかな?個人的にはあの次回予告が好きなんだよね。
何はともあれ、あの兎の何がやばいのだろうか?兎と言えば、普通は愛らしい容姿で済むのだが‥‥‥




