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108話

‥‥‥シリアスは早々に抜け出したい。

だがしかし、中々抜けられない。

――――――忠告。モシ、瀕死ノ重症‥‥‥例エバ、首ノ骨ガ折レタリ、心臓ヲ貫カレタリ、身体ガ上下ニ裂カレタリ等二ナッタラ、半自動的ニソノ封印ハ解ケルノデ注意。





 その言葉を今、ルースは思い出していた。


 以前、魔導書(グリモワール)が夢の中で忠告してきた。



 人間としての封印が解かれるきっかけになるようだが…‥‥‥今まさに、それが起きてしまったのである。



 心臓を、金棒によって貫かれるという瀕死の重傷どころか死亡確定の一撃で。






…‥‥そして今、その封印は解かれたらしい。


『‥‥‥なんだ、こりゃ?』


 立ち上がり、己の状態を感じ、ルースは思わずそうつぶやいた。


 幽霊になったようなというか、体重が無くなったというべきか、恐ろしく体が軽く感じられ、何処か金色に発光しつつ、透き通っていた。


 見れば、ルースを金棒で貫いた本人のミルもその状態に驚愕しているのか、目を見開いてあんぐりと間抜け面をさらしていた。




 どうも、人間をルースはやめてしまったらしい。


 では、何になったのか?幽霊?いや違う。



 それを考えようとしたところで、ふとルースの耳になにかが聞こえた。



【グギャゴォォォォォォォォォオン!!】




 それはまるで、怪獣が叫ぶかのような爆音。


 不快に感じられ、嫌な気配しかしない相手が、向かってきているのだとルースはそう感じた。



 そして、その爆音の相手が姿を現した。




 洞窟いっぱいの巨体だが、不気味な色合いをした巨大な狼。

 

 いや、頭が五つに、尻尾が6本、足が10本以上で、そして体中に人間の手が生えた…‥‥まさに、化け物と言って過言ではない相手が現れた。


 目がすべて血走っており、だらだらと流すよだれは地面に落ちるたびに、腐食作用でもあるのかジュッという音が出ている。



【グギャゴォォォォン!!】


 咆哮し、首をすべてルースの方へめがけ‥‥‥そしてすぐにミルの方へ向いた。



『「え?」』


 まさかの方向転換に、ミルも思いもよらなかったのか、驚きの声が重なる。


 次の瞬間、怪物は一気にミルへ向かって飛び掛かった。


「何っ!?」



 まさか、自分が襲われると考えていなかったミルは金棒で防ごうとしたが、相手はそれをかわし、ミルに全ての口が喰らいつこうと大口を開けて‥‥‥



『させるか!!』


 気が付けば、ルースはいつの間にか勝手に体が動いていた。


 先ほど、確実に己を殺しに来た相手だったが‥‥‥どういうわけか、体が自然と動いたのだ。



 くらいつかれる直前に、ルース自身も信じられない速度で怪物からミルをかっさらい、距離を取った。


「え?え?え?え‥‥‥どうして助けたのでアルか!?」


 状況にようやく追いつき、混乱してもすぐに冷静さを取り戻したミルはそう尋ねた。



 それはそうだろう。先ほどまで、欺き、勧誘し、そして殺しに来た相手をルースが助けたことに信じられないのだ。


『‥‥‥さぁな?勝手に体が動いただけだ』

「そ、そんな理由で‥‥‥」



 ルースの返答に、驚いたのか声も出ないミル。


 だが、今はまだ落ち着いて状況を整理出来る時ではない。



【グゲボドォォォォォォン!!】


 獲物が横から奪われたと思ったのか、激高し、怒声の咆哮を上げる怪物。


 その叫びだけでも洞窟内が揺れ、天井にひびが入る。



びきっ!!ばきっ!!


「『げっ!!』」


 天井から石が落ちてきて、ルースたちはまずいと思った。



『今は一旦休戦だ!!とりあえずここから出るぞ!!』

「ちょっ、待って、というかなぜ担がれるかたちで・・・・・」


 お姫様抱っこではなく、肩に担ぐ形でミルを持ち、ルースは素早く駆けだす。


 魔法による強化もないが、今は人間離れした力を発揮できているのか、地面を蹴り上げただけで砕き、一気に高速で駆け抜ける。



 そして、洞窟から出た瞬間、崩落が始まった。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!



 先ほどの咆哮が効いたのか、それともそもそも脆かったのか、どんどん崩れていく洞窟。


 洞窟の外は何処かの森の中のようだが、今は夜分遅く、曇りのようなので月明りはないが、自然と金色に発光しているルースの身体は良い光源となった。



『‥‥‥で、一体あの怪物はなんだ?』


 洞窟の崩落を見届けた後、ルースは担いでいたミルに問いかけた。


「そ、それよりも早く下ろすのでアル!!」

『‥‥‥殺そうとしてきた相手の言うことを、俺が素直に聞くのか?』

「そ、それはそうとして、…‥‥うぇっぷ」


 ふと、その声を聴いてルースは嫌な予感がした。



『お、おいまさか‥‥‥』

「ゆ、揺らすというか、人外的な‥‥‥酔った」

『ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!!』


 いやな予感的中。


 人外化したらしいルースの速度とその揺れは、人外すぎる余りに過重な負荷がかかるようで、ミルの三半規管や胃が耐えられず、顔を物凄く真っ青にさせていた。



 相手がいくら己を殺そうとしていたとしても、流石に肩で嘔吐されるのは嫌である。












「う、うっぷ‥‥‥せめて見られたくなかったでアル…‥‥」

『いや、そもそもそっちはこちらの内臓とか見えていただろうし、これでお相子だろ?」

「殺した側が言うのもなんだけど、それ違うと思うでアル‥‥‥」



 吐くだけ出し切ってぐったりとするミルにルースはそう言葉をかけると、ミルは反論した。



 先ほどまで、確かに殺し合いに近かったはずなのに、いつの間にか先輩、後輩だった時の空気が戻ってきていた。


 殺し殺され、敵対していた関係からこうなると、奇妙な空気となる。


「それにしても‥‥‥解せないアルね」

『何がだよ?』

「先ほどの‥‥‥我がフェイカーでの、最新型の兵器『ウルフキメラ』が、連れてきた私に喰らいつこうとしていたことアル。フェイカーに所属しているものであれば攻撃はしないはずなのに、それにも限らず私を狙ってきたのは一体どういうことでアルか?」

『いや、それをこっちに言われてもなぁ』


 どうもあの怪物の名前は「ウルフキメラ」というようだが、それはフェイカーの構成員には手を出さないように、調教ではなく直接頭の中身をいじって改造しているらしい。


 その為、本来であればフェイカーの幹部であるミルが襲われるはずもないのだが、それにもかかわらず喰らいつこうとしていたのはおかしい話しらしい。



『考えられる話としては‥‥‥改造とやらが不完全か、もしもの時のためにミルもまとめて殺して証拠隠滅するようにされていたか、それともおまえ自身が組織内の誰かの策略に嵌ったか?』

「不完全はないし、証拠隠滅は爆破と決まっているのでアル。となれば‥‥‥」



 消去法によって、どうやら組織内の誰かに嵌められた可能性の方が高いらしい。


 考えてみれば、ミルはフェイカーの幹部だが、その座が空けば誰かが幹部の座に座ることができる。


 その座を狙う物からしてみれば、ミルは邪魔者であろう。



 となれば、考えられるのはその座を狙った策略によって、先ほどの怪物「ウルフキメラ」とやらが利用されたに違いないらしい。


 ルースが敵対しようがしまいが、あの怪物でミルごと片を付けられると考えたやつがいて、その結果、あの怪物の頭にミルを襲うように命令する何かを仕込んだのかもしれないのだ。


 組織というのは一枚岩ならいいのだが、フェイカーはいわば恨みを持った人の塊。


 恨みの対象が国に向けられているのならまだいいが、その組織内での権力闘争で矛先を人へ向けることもあるだろう。


 ゆえに、ミル自身が組織の誰かによって狙われた可能性があるのだ。


『生きていたとしても裏切り者のレッテルを張るような用意をしていたり、亡き者になれば俺と相打ちになってという言い訳もありうるだろうな』

「…‥‥確かに、そうでアル」


 考えれば考えるだけ陰謀の可能性が高くなり、空気が重くなる。




 と、その時であった。



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…‥‥


 突如として、地響きがなり始めた。


 その音源は…‥‥崩れてしまったはずの洞窟からである。


『‥‥‥まさかとは思うけどさ、生きているのか?』

「そういえば、あのウルフキメラって頭が一つでも無事な限り、確実に再生するはずでアル」


 もう少し早く欲しかったその情報。


 落盤により、潰されたと思っていたウルフキメラであったが、頭の一つが無事だったのであろう。



ドッガァァァァァァン!!

【グギャゴォォォォォン!!】


 上に堆積していた岩の塊をすべてふっ飛ばし、洞窟の跡地からウルフキメラが飛び出してきた。



 その顔は最初よりも怒りに染まり、身体の色はフェイカー特有の不気味な色合いのままであったが、5つの頭全てが変色していた。


 真っ赤に染まり、熱を出しているのか周囲の空気が揺らぎ、口から炎が漏れ出る頭。


 真っ青に染まり、冷気が出ているのか白い息が漏れ出る頭。


 黄色く染まり、口からでる雷撃の影響か、毛が他の頭よりも逆立っている頭。


 紫に染まり、口から紫色のよだれが地面に垂れ、その地面が溶け出す頭。


 茶色に染まり、岩に覆われて文字通りの石頭になっている頭。




 すべてがそれぞれ別の属性を発現しているようで、敵意を持った目で、ルースとミルを見て咆哮を上げる。


【グギャドゴォォォォォォオン!!】




『‥‥‥うわぁ、なんかもうロックオンしてしつこい感じがするな』

「これはまずいアルね‥‥‥暴走をして、制御がもうない状態のようでアル」



 怪物‥‥‥ウルフキメラにロックオンされたらしいルースとミル。


 互いの本来は敵対しあうはずなのだが、ここは一時休戦し、あの怪物を倒すために素早く動き始めるのであった‥‥‥‥



フェイカーの創り出した怪物との対峙は、もはや何度目であろうか。

これまで戦闘してきた相手よりも、格段に完成度が高い怪物ウルフキメラを相手に、ルースとミルは互に敵同士とはいえ、狙われているので一時休戦し、共同戦線を張る。

果たして、怪物相手にどこまでできるものだろうか…‥‥

次回に続く!!


‥‥‥ルースの身体の変貌については、もう少し後の方で詳しく解説予定。その為、詳細を知りたい方はもうしばらくお待ちください。

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