花みつる日常 4.5話
イルシーとジオーネの会話。
コージャイサンとイザンバがお色気論争をしている反対側、本日はオリーブグレーの髪にオリーブ色の瞳で眼鏡をかけた従者スタイルのイルシーと照明係として走り回ったジオーネも一息ついていた。
しかし、聞こえた主人夫妻の会話にイルシーが呆れたように言った。
「おいおい、イザンバ様無自覚かよぉ」
「ご結婚されてから随分と色っぽくなられたからな。お前でも驚くか?」
「はっ、あんなもんやっと色気のいを知ったとこだろぉ」
「つまりまだ単体で堕としにいけるあたしの方が若奥様に負けてないって事だな」
「張り合ってくんな、面倒くせぇ」
実際女装して愛嬌も色気も振りまけるイルシーと魅せ方を知る天然爆乳美女のジオーネである。コージャイサンといるからこそのイザンバと比べると、お色気勝負はまだまだ彼らに分があると言えるだろう。
「まぁご主人様も大概だけどな。周りに薔薇の花が飛んでるように見えるのはあたしだけじゃないはずだ」
「照明で目やられてるだけじゃね?」
「ああ、そうかもしれない。衣装もだが表情やポーズ、どれをとっても素晴らしいからついしっかりと照準を合わせてしまった……!」
いい仕事をした、とジオーネは煌めく笑顔だ。達成感溢れる彼女をイルシーは小馬鹿にするようにニイッと笑う。
「あーあ、お前この先ずっと照明係だなぁ」
「それは別に構わないんだが……というか、あたしもさっき気付いたんだが若奥様の首の後ろ」
お出掛け着の時は髪型でうまく隠されていたその場所。当然知っていると言うようにイルシーは肩をすくめた。
「今更だろぉ。イザンバ様がいちいち騒ぎすぎなんだっての」
「ご主人様も意地が悪い。あそこではヴィーシャたちも隠しにくいと思うぞ。化粧で隠そうとした時点で若奥様に気付かれる可能性が高いしな」
「だから髪型でギリギリまで凌いでたんだろうよぉ。ま、ああなっちまったらしゃあねーよなぁ」
「若奥様のモチベーションを下げないためにも黙っておこう」
人目に晒されているにも関わらずイザンバが平然としている時点で彼女が気付いていないと分かる。
余計な事を言って撮影が中断してはいけない、と従者達もこの件に関しては沈黙を貫く事にした。
さて、仲良く会話をしている二人の様子にジオーネがしみじみと言った。
「ここにシャスティとケイトが居たら喜んだだろうな……」
そんなジオーネの哀愁をイルシーは鼻で笑った。
「はっ、アイツらが居てもうるせーだけだろーが」
「イルシーが絡みに行くからシャスティが吠えるんじゃないか」
「はぁ? アイツが勝手にキャンキャン噛みついてきてんだよぉ。リアンといい勝負だぜぇ?」
「いや、まぁ、うん……そこはそれでもいいけど。今日の写真も伯爵に売るんだろう?」
「あー、それなぁ……」
「どうしたんだ、歯切れの悪い。まさか……別のところに売る気か⁉︎ それはダメだぞ!」
「ちげーし。ンなわけねーだろぉ。伯爵邸に行きてーとこだけど今日のは公爵夫人直々の依頼だからなぁ」
その言葉に、ジオーネは納得したというように手を叩いた。
「成る程。流石のお前でも憚られるか」
「しかもその後ろに閣下がいるってのがなぁ」
「確かに」
ハイエ王国最強の防衛局長とその彼にオネダリ出来る王妹の公爵夫妻。とてもではないが勝てる気がしない。
「ま、お伺いは立てるけどなぁ。コージャイサン様の母親なだけあって公爵夫人もその辺は太っ腹だし。つか、あっちもあっちでなぁ……」
ため息を吐き出すイルシーにジオーネは少し表情を険しくして尋ねた。
「何か問題でもあるのか?」
「いや別に。伯爵夫人はそうでもねーけど、伯爵は娘も息子も居ない事にまだ辛気臭ぇんだよ。まぁイザンバ様も忙しそうにしてっから中々実家に顔出せてねーし。写真見てはキノコ栽培ばっかして鬱陶しいって伯爵夫人なんかばっさり言ってるしなぁ」
全然問題なかった。いや、クタオ伯爵家的には屋敷の雰囲気に問題があるが。
簡単に想像できる伯爵夫妻の様子にジオーネの表情も和らいだ。
「それならあたしも一緒に願い出よう。今日は若奥様がご結婚前は着ていなかった種類の服もあるし、写真もいつもと違ってまたいいものだ。クタオ伯爵夫妻も使用人たちも喜ぶと思うぞ」
「はっ、この俺がわざわざ足運んでやってんだぁ。精々財布の紐緩めて貰わねーとなぁ」
なにせセレスティア拘り抜いた写真ばかりだ。いい値段になる事は間違いないとイルシーは己の懐が潤う様を想像してニヤリと笑った。
活動報告より少し手直ししてます。




