蜜月の一対 1.5話
モーリスと侍女たちの会話。
レッツ若奥様付き争奪戦!
これは結婚式前の事。その日、集められた年若い侍女たちに向かってモーリスはこう言った。
「今から若奥様付きになる者を決めます」
その一言で空気が変わった。それまで和気藹々としていた彼女たちだが、どこかピリリとしたような鋭さを持った雰囲気だ。
「枠は?」
「二名です」
「少なっ!!!」
驚きのあまり公爵家には珍しい大きな声が飛び出した。
「これだけいるのに二人⁉︎」
「今ここに何人いるか見えてます⁉︎」
「若様があれだけ溺愛なさっていのに⁉︎」
「これからお子様も生まれるのに⁉︎」
「間違いなく守り通さねばならない御方なのに⁉︎」
「天下のオンヘイ公爵家の若奥様ですよ⁉︎」
「それなのに二人って……」
次々と飛び出した言葉の末、彼女たちは声を揃えた。
「嘘でしょう!!!???」
少な過ぎるのも問題だと言う彼女たちの勢いに押されたモーリスだが、それでも冷静に言葉を紡ぐ。
「まぁ、私も少ないと思いますが……これは奥様がお決めになった数です。若様の部下から二名付きますし、ご実家でも二名だったそうですから。若奥様は突拍子もないところもあられますが慎み深いお方です。最初から大人数を付けると萎縮してしまうだろうという事と、ご実家での様子に近いものの方が早く慣れるだろうという奥様のお心配りです」
すでに二枠埋まった上で彼女たちから二名。合計四名は直近の伯爵家での人数と同じなのだ。
モーリスの言っている意味は分かる。分かるのだが……。
「さすが奥様です。ああ、でも……でも〜〜〜!」
「侍女心的に少なすぎる!」
「しかも先に二枠埋まってるとか辛い!」
「彼女たちは別枠にして欲しかった!」
「モーリスさん、もっと頑張ってきてくださいよ!」
競争率が高いなんてもんじゃない、と侍女たちの間に広がる嘆き。なぜか責められる形となったモーリスだが、ごほんと咳払いをすると力強い声で彼女たちに言い聞かせた。
「ですが、あなた方も公爵家に勤めるに恥じない方たちです。誰がお側に侍る事になろうとも私は安心して推薦する事が出来ます」
教養、品性、忠誠心。加えていざという時、公爵家の盾となり、剣となることを厭わない度胸と武の心得。暗殺者たちの仕事ぶりに怯えない胆力。
それらに高い水準を求められるのが公爵家の使用人だ。
その中でも侍女は貴族出身である事が多い。しかし、当主の愛人になりたい、令息に見初められたい、お姫様のように守られたい、などと夢見る者は早々に容赦なく振るい落とされる。
今この場にいると言う事実。
それは彼女たちが公爵家使用人としての品格を認められていると言う事だ。
モーリスの言葉に自尊心をくすぐられた彼女たちはすぐに態度を改めた。
「そうね。生半可な気持ちでは務まらないわ」
「数が決まっているのなら仕方がないですね」
「誰が選ばれても恨みっこなしよ!」
側付きに選ばれた者も、選ばれなかった者も、オンヘイ公爵一家に誠心誠意仕える心積りは変わらない。
「それでどうやって決めるんですか?」
「教養、品性、忠誠心。あと必要なもの。それは…………運です」
「運」
「ええ。万が一の場合、若奥様の危機を察知し、彼女たちと連携をとり守り切る。その窮地を脱する運」
冗談でもなんでもなく、モーリスは至極真面目な表情で懐からトランプを取り出すと見事な手捌きでシャッフルし、扇状に広げた。
「さぁ、まずは引きなさい!」
すでに勝負は始まっているのだ。その事を理解した彼女たちは鬼気迫る顔つきで、しかし命運をかけてスパーンと潔く引いていく。
全員が引き終わった後、さらにモーリスがテーブルに広げたのは……すごろく。
「ダイスを振る順番は数字が一番若いものからです!」
「一番は誰?」
「私ね」
しかし、堂々と前に出た一人の侍女は手渡されたダイスにギョッとした。
「ちなみにですが、ダイスはイカサマ防止の為サイズは大きめ、さらにスケルトン仕様です」
本当に運だけで勝負しろと彼は言う。
「くっ……さすが出来る人は抜かりない!」
「私の指先が唸るはずだったのに……!」
「イカサマも運の内でしょう⁉︎」
「敵を欺く立派なテクニックですよ⁉︎」
時にはそれが必要な場面もあるだろう。だが、今はそうじゃないとモーリスはにっこりと微笑んだ。
「そうですね。ですが、今回は若奥様のため。正々堂々勝負してください」
「さぁ、いくわよ!」
とても、とても熱い真剣勝負が始まった。すごろくで。
こうして若奥様側付き枠を勝ち取ったのがリンダとヘザーであった。
活動報告より少し手直ししてます。




