第22話 棋士は困惑する
食事中に後ろから音がして振り向くと、鞄を落とした真矢の姿があった。その表情は何か焦ったようなのがだんだんと顔を青くしていった。
「真矢?」
「あ、あぅ……」
「なんだ? 知り合いなの?」
圭は真矢がそんな状態になっているのかわからなくて、首を傾ける。真矢に気付いた玲奈は食事を止めていた。
「あぁ、真矢は俺と同じ棋士だよ」
「棋士なのか! って、固まっているんだが大丈夫なの?」
「確かにな。真矢! 大丈夫なのか? 顔が青いぞ?」
圭に声を掛けられて、固まっていた真矢はブリキのように玲奈に指を指して聞いてきた。
「け、圭!? そ、その人は……?」
「玲奈のことか? 知り合ったばかりだが探索者の仲間だな」
「……探索者?」
真矢は圭が探索者をやっていることを知らないので、探索者の仲間と聞いてもピンと来ないようだ。
「言っていなかったが、俺は探索者になったんだよ」
「えっ!? 棋士はーー!?」
「兼業だよ。探索者は兼業出来るからな」
「なんで、危ないことを!? もしかして、生活が苦しいの!?」
「いや、そうじゃないが……」
立ったままにすると周りの邪魔になるので、隣へ座らせた。まだ慌てている真矢に探索者へなった経緯を話し始めーーーー
「はぁっ、友達の誘いで息抜きの為に探索者になり、調子が良くなったから今も探索を続けていると……?」
「まぁな。将棋も探索者も楽しくやれているから探索者になったのは間違いじゃないと思っている」
「で、でも危ないことをして大怪我でもしたら…………」
真矢は圭のことを心配していた。もし大怪我をしてしまい、本業の棋士へ悪い影響を与えてしまわないかと。
「心配はしなくても大丈夫よ。圭は探索者としての才能があるわ」
「……貴女は圭の何ですか? 探索者の仲間はわかりますが、それだけじゃないよね?」
「そうね。私はAランクの探索者として圭を育てたいと思っているわ」
「Aランク!?」
真矢はまだ未成年の玲奈を見て、上級の探索者であることに驚いていた。
「私のことよりも圭のことが気になるでしょ? 圭は朝霞のギルドマスターにも認められている優秀な探索者よ。1週間で既に地下20階まで降りているわよ」
「優秀って、運が良かっただけだよ」
「運も実力の内よ。それに、ギルドでナンパしようとする男から助けてくれたわよね? 普通なら巻き込まれないように見て見ぬ振りをするわ。助ける為に動いた貴方は素晴らしい覚悟を持っていると私が認めているのよ」
(いや、玲奈を助けようと動いた訳ではないが……褒めてくれているし、わざわざ正す理由はないよな)
圭を褒める玲奈に何故かモヤッとする真矢。玲奈の楽しそうに話す姿に何かを感じ取ったのか真矢が…………
「わ、私も探索者になる!」
「え、真矢?」
突然に真矢がそう叫べば誰だって驚くだろう。どうしてそう叫んだのかわからない圭はわからず聞いていた。
「突然に探索者になると言って、どうしたんだ?」
「い、いいじゃない。私が探索者になっても」
「理由が知りたいんだが……」
「ふーん」
玲奈は察したのか目を細めていた。
「言っておくけど、今は探索者になっても圭は私とやることがあるから一緒に潜れないわよ」
「えっ?」
「あー、俺とダンジョンに潜りたかったのか? すまないが、今は詳しいことを言えないが玲奈とやることがあってな。とにかく、今は探索者にならない方がいい」
圭は自分が楽しそうにダンジョンへ潜っていることを聞いて羨ましくなっただろうと思い、危険に巻き込まれないようにと配慮をするが…………
「そ、そう…………」
真矢は落ち込んだようで表情を暗くして、顔を伏せてしまう。
(そんなにダンジョンに潜りたかったのか? 可哀想だが、今は危険だから仕方がない)
危険なのはわかってくれたと思うが、落ち込みようから放っておくことが出来ずーーーー
「まぁ、今はダンジョンに連れていけないが……やることが終わったら一緒に潜るぐらいはいいぞ?」
「本当に!?」
先程の落ち込みようから反転して、笑顔になる真矢。その様子に玲奈は何処かつまらなそうな顔になっていた。
「むー」
「玲奈? どうしたんだ?」
「いや、なんでもありませんよー」
「そうか……?」
玲奈が不機嫌になった理由がわからず、困惑する圭であったーーーー
次は明日の7時に投稿します!




