第12話 棋士はギルド長と話す
「まぁ、座ってくれ」
ギルド長の室さんの言葉に従い、ソファーに座り直す。ギルド長も座り、後ろに受付嬢の野谷が立つ。
「君をここへ案内した理由は聞いているね?」
「あ、はい。変異種が1週間内に2体も現れておかしいと思い、詳しい話を聞きたいと」
「それもそうですが、もう1つの理由があります」
「もう1つ?」
「はい。実はここのダンジョンは変換期が近いと睨んでいる。それは確実で、変異種が増えたのもその理由だろう…………ん? どうした?」
「あの……、すいませんが変換期って何ですか?」
「…………あぁ、すまない! 君はまだ探索者になってからまだ1週間も経ってないんだったな!」
それなら知らないのも仕方がないと説明してくれた。変換期と言うものは周期に3日だけ魔物が強くなる期間があり、凶暴になるのこと。
「どうして、そんな周期あるかまだ解明されていないが、30年の周期でその期間が起きている」
「それが、ここで近い内に起きると?」
「間違いない。その証拠に変換期が起きる兆候で変異種が増える。そして、宝箱も現れやすいとも聞いている」
「成る程……。もしかして、私以外に変異種と戦った者が?」
「いや、2週間前にDランクのパーティが見つけはしたが戦ってはいない。地下24階の魔物で変異種となれば、Dランクのパーティでも危険だからな」
「そうなんですか……放置しても大丈夫なんですか?」
「安心しろ。この間、Aランクの『夜叉姫』に依頼して討伐して貰っている」
「へぇ〜」
Aランクがここに来ていたことに見てみたかったなと思いつつ、それよりも自分をここに案内したもう1つの理由が知りたかった。変異種のことは原因がわかっているみたいだし。
「変換期のことはわかってくれたと思うが、変換期が起きた時に優秀な探索者を集い、魔物を狩って貰う。その際に君も参加してくれたらありがたい」
「わ、私がですか!?」
「そうだ。まさか、探索者になって1週間経ってないことには驚いたが、君の探索者としての才能と成長力を見出して参加して欲しい!」
「えっと……その前に気になったけど、どうして魔物を狩らないと駄目なんですか? 魔物はダンジョンから出られないよね?」
ダンジョン以外は魔物の生命力となる魔素がなく、外では生きられないから出てくることもない。なら、危ない日は誰も入らないようにして落ち着いたら再開すればいい。
「……それが、無理なんだ」
「無理?」
「あぁ、探索者の中でも知っているのは一部。君もここで聞いた話は秘密にして欲しい」
「……わかりました」
「ありがとう。実は…………」
初めて変換期が起きたのは80年前で場所はオーストラリアにあるダンジョン。最初は変異種が増えたことに違和感を感じていたようだが、普通に探索者が狩りに入っていき、ギルドも警戒をせずに普段のギルド経営をしていた。
そして、宝箱が増えていると言う情報が出回ったことから低いランクの者も無理に奥へ進むようになり、変異種にやられることが増えた。
それでも許容範囲だと判断され、ギルドも利益を求めていた。そしてーーーー
その日が起きた。
「オーストラリアは準備が出来ておらず、ダンジョンに知らずに入った探索者は高ランクの数人を残し、あとは全滅した。そして、魔物が全く討伐されなかったことから外へ溢れ出る現象が起きた」
「まさか! 出られないのでは…………」
「いや、出られない訳でもない。変換期は魔素が膨大に膨れ上がる期間だと思われる。つまり、魔物が外へ溢れ出ているのと同時に魔素も外へ出てしまっているのだ」
「そんな日が…………」
「あぁ、それからは外国にいる探索者を集め、外に出た魔物とダンジョンにいる魔物を狩り続けてようやく落ち着いた。そして、その時に出た死者は5万を超えるようだ」
変換期、確かにそんな事件があれば警戒して当たり前だ。
「だが、そんな事件は隠蔽されて、一部のギルド員や上位の探索者だけで共有することになっている。理由はわかるな?」
「えぇ、近くにダンジョンがあると住みたいとは思いませんからね」
「そうだ。世界にとってはダンジョンは生活の一部になっているからな。ダンジョンの資源はどの業界にも役に立っているからな」
「それで、自分にも……」
しかし、自分は才能があるとは思っていない。ただ、運が良かっただけと。
「ふっ、話を聞いても驚きはしても恐れないか」
「えっ!?」
「普通なら彼女のように顔を青くするんだがな」
後ろに立っている野谷さんが顔を青くしている。彼女も変換期のことを知っていてもオーストラリアで起きた事件は知らなかったのだ。
「すまない、配慮が足りなかったな」
「い、いえ! ギルドに勤めることになれば、危険もあると覚悟はしていました!」
「そうか、ギルド長として誇りだよ。良い部下を持っていることに」
「ギルド長…………」
「私の勘だが、身体強化とは別にまだ隠している力を持っているよね?」
ギルド長の言う通りにまだ力を隠しているが…………
(1つは別に隠している訳でもないが……)
今日、手に入れた『大樹魔法』は話すつもりだったが、たまたまタイミングが悪くて話せなかっただけだ。
『将の騎士』については…………
「…………そうですね」
圭は話すことにした。『将の騎士』と『大樹魔法』のことを。ギルド長はイタズラに広げることはしないだろうと思ってのこと。
「うははは! もう既に2つも持っているとは思わなかったな。しかも、未確認の成長型のスキルに未確認の魔法だとな!」
「え、『将の騎士』はともかく、『大樹魔法』も未確認なんですか?」
「そうだ。私も長く探索者やギルド長をしていたが、そんなスキルは聞いたこともない」
「スキルを2つとなれば、初心者の内ではとんでもない有望ではありませんか!?」
スキル持ちはF、Eランクではほぼ持っていないか、1つが少数で2つ以上を持っている者はほぼいないと言ってもいい。高ランクとなれば複数を持っていることもあるが、低ランクでは2つは珍しい。
「私の勘は間違っていなかったな! 出来れば参加して欲しいが……」
「そうですね……、わかりました。大量の人の命が懸かっているとなれば、大会ぐらいは棄権しますよ」
「む、そうだったな。君は棋士だったな。大会は難しいが、個人による対局であれば連絡してくれれば、探索者ギルドの名を使って日程をずらせるようにと助けられると思う」
「あ、それであれば助かります」
「気にするな。連絡先を渡しておくから、その時は頼むぞ」
その後も少し話が続き、圭はただの探索者ではなく、『特殊探索者』と言う立場になり、変換期になれば呼び出しがあったり、ギルドからの指名依頼を受けることがある。
その代わりに膨大な量が入る魔法鞄の支給、ダンジョン地図の無料配布、回復薬の無償支給が約束され、1ヶ月にランクに基づいた給料と言う特典も付く。
(まさか、俺が『特殊探索者』になるとはな。まぁ、死なないようにダンジョンに潜って強くならないとな)
息抜きに探索者へなった圭だったが、運が良かったお陰でスキルを2つ得て、とんでもない情報を知った。そこから『特殊探索者』になり、大変な事になるのだったーーーー
続きは明日の7時に投稿します!
あと、明日からは1話ずつの投稿へなりますが宜しくお願いします。




