第11話 棋士は魔法を覚える
変異種のトレントを倒した圭はドロップアイテムに目を疑っていた。
(…………まさか、また出るとは思わなかったな)
圭の視線には2つのドロップアイテムがあった。ビッグボアのよりも大きい6センチ程の魔石と………スキルのクリスタルだった。
「どうすっか……、売れば300万以上は確実だろうけど」
苦労して倒したからには自分で使いたいと思うが、売った時の金額が大きいことからしばらく悩む。
(…………金はいつでも手に入られるし、スキルのクリスタルは運なんだよな。よし、使うか!)
悩んだ結果は自分で使うことにした。スキルのクリスタルを胸に当てるとまた頭の中に情報が入る。
「……『大樹魔法』? ま、魔法!?」
手に入れたスキルは魔法だった。『大樹魔法』は自然の力を扱える魔法であり、攻撃、防御、回復などとオールマイティな魔法。
魔法はレベルが設定されていて、レベルが上がるごとに使える魔法が増える。
レベル1 暴虐の樹根
今はレベル1だから、1つしか使えないが魔法しか効かない魔物がいるかもしれないし、その時は役立てるだろう。
「1発だけなら大丈夫かな。『暴虐の樹根』!」
手を向けて発動すると、トレントが使っていたような根が5本出てきた。対象がいないからか、出てきただけで何処にも伸びることも無く10秒したら消えた。
「根が襲う魔法かな? クソっ、魔物がいる時に使えば良かったな」
魔法を発動すると、『将の騎士』のスキルを使った時よりも魔力が減ったのを感じた。
(少し休んだら、魔物を探して試すか)
魔力は休めば少し回復するので、壁に寄り掛かって座るのだったーーーー
ニ十分ぐらい休んだら、魔物探しを再開した。
(『大樹魔法』はトレントでも効くんか?)
効くかわからないが、試せばいいだけだ。しばらく歩くとトレントの姿が見えた。
「先手は貰うぞ。『暴虐の樹根』!」
圭の前に根が現れ、先程と違って敵がいるからそこへ向かって襲っていた。
「…………!?」
「核まで届かないからあんま効いているようには見えないな……攻撃方法を変えるのは無理?」
今は打撃を中心に根で叩いているが、核までダメージを与えられていないから効いている様子が無かった。まだ発動している途中で攻撃方法を変えるイメージをしてみたが、何も変わらずに打撃中心だった。
(……キッチリと10秒経つと消えるか。次は最初から突き刺すイメージで発動してみるか)
叩くではなく、突き刺すイメージで発動してみたら…………
「『暴虐の樹根』…………お! 出来た!」
前と違い、イメージが反映されて根の先を使って突き刺そうと動き始めたのだ。
(…………まぁ、イメージは出来たがトレントには今ひとつのようだな)
イメージを変えられてもトレントは硬いので、浅い傷しか付けられていなかった。
「実験は充分だな。『香車の激進』!」
もう充分だと言うようにいつものやり方でトレントを始末した。
「やっぱりトレントにはこのやり方が楽だな」
対トレントの戦いは完全に確立させており、この後も続けて10体倒したら、また魔力の使い過ぎによる兆候が出てきた。
(また疲れてきたな…………身体は元気なのに、気分が疲れているような感じ。魔力が無くなるのが近いんだな)
今日はまだ午後3時だが、無理はしないでここまでにすることに決めた。地下5階から転移で戻り、ギルドへ向かう。
(ん、いつもの受付嬢はいないか? まぁ、休みだったかもな)
いつも対応してくれる名も知らない受付嬢がいないことに気付き、別の受付嬢に対応して貰うことに。
「頼むよ」
「はい、こちらのトレイに…………あ、貴方蒔絵ちゃんが話していた夢野様ですね」
「蒔絵ちゃん?」
「あ、名前を聞いてない? いつも対応していた受付嬢よ。眼鏡を掛けている娘ね!」
「あぁ、成る程。確かに聞いたことはありませんでしたね」
「その子から話を聞いていて、君のことを知った訳。初日に地下3階まで降りてスキルを手に入れたり、2日目にEランクになった有望な探索者だとね!」
「あははは、運が良かっただけですよ」
ただ運が良かっただけと圭は思っている。自分は将棋ばかりで剣どころか喧嘩さえもしたことがないし、運動も並程度なのだから。
「あ、話が長くなってすいません。すぐドロップアイテムをーーーーえ、これは!? この魔石! 数が多いけど、それよりこの大きい魔石は……!!」
「あ、伝えるの忘れました。地下6階で変異種のトレントを倒しました」
「変異種……!? まさか、一週間内に2体の変異種が現れるなんて……って、また倒したの!?」
「え、えぇ……。変異種はやっぱり珍しいの?」
「珍しいわよ! ここのダンジョンでは1年に2、3体が出るかのペースだったのに、今回は一週間もしない内に浅い階層といえ、2体も…………」
一週間に1体ぐらいは出るダンジョンはあるにはあるが、殆どは上級以上のダンジョンであり、ここは初心者のダンジョンなので、この事態は普通ではない。
「……すいませんが、詳しい話を聞きたいのでギルド長を呼んで奥の部屋まで来て頂けますか?」
「ま、まぁいいけど……」
なんだか、とんでも事態になったような気もするが断れそうはなかったので、大人しく案内される。受付嬢からギルド長が来るまで自己紹介され、お茶を入れてもらった。
ちなみに、今回の受付嬢は野谷水穂だった。しばらく待つと…………
「待たせてすまなかった。初めまして、私はギルド長の室武蔵と言う」
「あ、はい。初めまして、私は夢野圭と言います……」
ドアが開くと40代に見える男性が現れ、挨拶をしてきたので、こちらも挨拶を返す。
「うははは、緊張することもないよ。私みたいなオジサンを相手をするのは棋士の対局で慣れているだろう?」
「あ、いえ……オジサン? まだ40代ぐらいでは?」
「嬉しいことを言うね。私はもう82歳のオジサンさ」
「82歳!?」
初心者の自分が部屋に案内されて、ギルド長と話すだけでも驚きなのに、それ以上にも目の前にいる人物が82歳であることには驚きを隠せないでいたーーーー
まだ続きます!




