第9話 棋士は対局に行く
圭はダンジョンばかりに潜っていられない。本業である棋士の圭は明後日の対局に向けて準備があるからだ。
ダンジョンに潜っていた日の明後日には五段の棋士と対局の予定。なので、次の日は休みを入れて自分の部屋で将棋をしていた。息抜きが出来ているからか、とても集中することが出来た。
そして、対局の日。対局はホテルや旅館でやっており、今回も旅館だった。個別に部屋を取っており、時間になるまで待機となっている。
いつもなら将棋ばかり考えていて余裕はなかった。だが、今回は違っていた。
「完全に治ったんだな?」
『おう! 一昨日に聞いた情報で熱がどっかに行ったぞ! って、本当に地下6階まで行っているのか!?』
「証拠ならギルドカードを見ればわかるさ。Eランクになっているからな」
圭は湊と電話をしていた。話の内容はダンジョンについてだ。
『まぁ、バレる嘘を付いても仕方がないしな』
「で、明日は行くのか? 俺は潜る予定だ」
『アハハハ、俺よりもハマってんな。でも一緒に行くのは止めたほうがいいかもな』
「ん、なんでだ?」
『そりゃ、俺はまだ地下1、2階しか行ったことないし、更に下は行きたくないからな』
「やっぱり、怖いか?」
『あぁ。俺は小心者だからな』
「なら、無理に誘っても仕方がないか。ダンジョンに誘ってくれてありがとうよ。あの日から身体の調子がとても良いんだよな」
『うははは、そりゃどうも。これから対局だったな。頑張れよ』
対局の時間になり、スマホを片付ける。部屋を移動して対局場所に着くと、既に相手が座って待っていた。今日は自分より格上の五段の棋士だが…………
(何故かわからんが、負ける気がしない!)
心の中に自信を秘めつつ、圭も座って向き合ったーーーー
夕方、長い対局が終わって帰り道を歩いていた。
(なんとか勝てたか)
今日は圭が勝った。相手からの攻めを耐えて耐えて…………最終的に隙を見付けたのが勝因となった。
(前までは相手を恐れすぎたのかもな)
プロになってから自分の戦い方が出来なかったことから焦っていたと思う。それから相手の気迫に呑まれていたのも敗因に含まれていた筈だ。
しかし、探索者になってから自分の戦い方で勝ち方を探す癖が付いたし、襲ってくる魔物と比べたら人間の気迫は恐れる程でもなかった。
「今度、湊に何か奢ってやらないとな」
「何、道で独り言を呟いているのよ?」
「ん? あ、真矢じゃないか」
帰り道で声を掛けてきたのは、同じ棋士で奨励会にいた時から知っている仲である宮木真矢。同じ時期にプロになったが、真矢はプロになってから負け知らずで五段へ上がっている。
「その荷物。今日は対局があったのね? 最近は負けてばかりだけど、今日はどうだったの?」
真矢は圭と同じ21歳で、ショートヘアをした可愛めの女性だ。可愛いが、真面目でキツめの性格をしているので彼氏はいない。
プロになってから負け知らずなので、期待されている棋士の1人である。
「一応、勝ったよ」
「あら、勝ったのね」
小さく笑みを浮かべる真矢だが、圭は気付いていない。
「勝ち続けられるように精進しなさい」
「へいへい、負け知らずの期待されている棋士は違いますね〜」
「全く、貴方だって実力はある筈よ。何せ、私は奨励会で貴方に1回も勝ったことがないんだから」
そう、圭は奨励会にいた時は無敗の真矢に負けたことがないのだ。勿論、真矢だって勝つ為に本気で打っているのにだ。
奨励会とは日本将棋連盟のプロ棋士養成機関であり、プロになりたい人が入る場所であり、奨励会に入っている同士で戦い合って勝ちを奪い合うのだ。
その時に圭は真矢と何回かやっているが、全勝していたのだ。
「それは昔の話だ」
「まだ2年も経っていないけど? まぁいいわ、用事がないなら何処かで夜ご飯を食べに行かない?」
「んー、お腹が空いてないから軽く食べれる店がいいな」
「わかったわ。探してみるわ……………………よし、誘えたわ」
「ん、何か言っていた?」
「いえ、何でも無いわ」
実は密かに圭のことを気になっている乙女心を持つ真矢だった。
だが、その乙女心に気付かない圭は夜ご飯を食べた後は何もなく別れて帰ったのだったーーーー
帰った真矢はベッドで枕を抱きながら「誘えたのに、後に続かないなら意味が無いんじゃないーー!!」とドタバタと暴れたとか………
まだ続きます!




