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メンドクサイ女って誰ですか?



 亜紗美さんの雑貨屋さんを出れば弁当やほのかはすぐ目の前だ。


 お昼時だからお客さんが出たり入ったりしているので邪魔になりそうだなぁと遠慮しているとコン汰さんが気付いたのか笑顔で手招きしてくれる。


 丁度お金の受け取りをし終えたばかりのご婦人がなにごとかと振り返ってからニヤニヤ笑ってコン汰さんをからかっているようなのですごく入りにくいんですけど。


「ええっと、どうしよう」


 でも八百屋のおばちゃんからのお使いもあるし、柘植つげさんにタオルを返さないといけないし。


 逃げるわけにはいかない。


「これくらいで動揺してたらダメだ!平常心、平常心……」


 大きく息を吸って。

 いち、に、さん、し――。


 ゆっくり吐き出す。

 いち、に、さん、し――。


「ふぅ……うん。大丈夫」


 宗明さんのように背筋を伸ばして姿勢良く。

 宗春さんのように視線を前に向け顎を引く。


 そうすることで大地と空と真っ直ぐ繋がっているような気持ちになって、少しだけ自信が湧いてくるような気がする。


「こんにちは」


 引き戸を開けて挨拶するとコン汰さんが細い目を精一杯大きく見開き、ご婦人は値踏みするように私をジロジロと眺めてくる。


 それに笑顔をなんとか浮かべて堪えつつ、このままではまた誤解されてしまうと急いで「おいなりさん三パックください」と注文する。


「はい。少々お待ちくださいね」

「お願いします」


 店員と客のやり取りに疑いようも無いと思ったのか、ご婦人は白いビニール袋を二つ下げて「ありがと、また来るわ」と愛想笑いで去って行った。


 ほっと密かに胸を撫で下ろしているとコン汰さんが気付いたのかクスクスと笑い声を上げる。


「……笑わないでくださいよ。さっきやっと亜紗美さんの誤解を解いて来たんで、もう誰からもコン汰さんとの仲を怪しまれたくないんですから」

「すみません」


 亜紗美さんの名前が出た途端に笑いは消えて、すごく真面目な顔をするのでなにもいえなくなる。

 誤解されるような言動をしたのは私なので余計にだけど。


「小宮山さん無事に断食明けたようですね」


 コン汰さんはおいなりさんの入ったパックを丁寧に袋に入れながら「お疲れさまでした」と労ってくれた。


 そういえばあの空腹に苛まれている時に嗅いだほのかのいなり寿司の香りはたまらないご馳走だったなぁ。


 なんて。


 呑気に記憶を遡っていたんだけど、その時にしでかした失態まで思い出して真っ青になる。


「あわ、あの時は本当にお恥ずかしい所をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした!」


 いくらお腹が空いているとはいえコン汰さんの――いや、ほんとはおいなりさんの匂いなんだけど、鼻息荒く嗅いでしまうという醜態をお見せしてしまった。


 変態女でもいいってあの瞬間は思ったけど、正気に戻ったらコン汰さんを殴ってでも消してしまいたい負の記憶で。


「いえ、あの時はおれも断食中なのに近づいてしまってすいませんでした」

「いえいえ!コン汰さんはなにも悪くないです。悪いのは緊張感のない私です」


 常に出会いを意識して綺麗でいるという女子としての気遣いや高い自意識があればきっとあんなことしていないと思うから。


「亜紗美さんに女子力伝授してもらって少しずつ改善して行こうと思うので、あの時のことはどうか忘れてくださると助かります」


 両手を合わせて拝み上げるとコン汰さんはしれっとした顔で「忘れるも何もおれはなにも見てませんよ」と優しい対応をしてくれる。


「ですが亜紗美さんならきっと小宮山さんを素敵な女性にしてくれると思います」


 だから頑張ってください。


 小さくガッツポーズを胸の前でして応援してくれるコン汰さんの目はすごく真剣で、ああコン汰さんも私のダサさには呆れていたんだなと乾いた笑いで返す。


 いや、まあね。

 自覚あるからさ。

 別にいいんだけど。


 捻くれた気持ちのまま私は亜紗美さんの話題が出ているのでそのまま本題に入ることにした。


「ですね。亜紗美さん優しくて親切でいい人ですから」

「……ええ、本当に」


 眉を下げておいなりさんが三パック入ったビニール袋をカウンターに乗せながらコン汰さんは儚い微笑みで同意してくれたのですかさず切り込む。


「あのね、コン汰さん。分かってるんなら傷つけないでいいようにちゃんと考えておいてくださいよ。お付き合いできないんなら亜紗美さんが納得できるような理由を」


 商店街の人はみんな家族としか見れないだなんて。

 そんなの。

 普通は都合のいい言い訳にしか聞こえないから。


「コン汰さんたちにも事情があるのは分かってます。だからこそ」


 後悔して欲しくない。

 コン汰さんにも。

 亜紗美さんにも。


「私たちよりずっと長く生きてきているんでしょ?だったら知恵絞って理想的な回答をひねり出してください」


 コン汰さんは二十代にしか見えないけど、永遠の時を生きる妖なんだから見た目通りの年齢ってことは絶対ないはず。

 そう予想して意見するとコン汰さんが頭を掻きながら「手厳しいですね」と苦笑い。


「……長く生きていても人と親しく暮らしていくのは本当に難しいことで」


 面目ない。


「でも同じ世界で生きて行くには避けられないことなんでしょうから今後のためにも真摯に受け止めて善処します」


 元々が亜紗美さんを諦めることを前提として考えているコン汰さんの善処しますはきっと私が望むものとは違うところを目指していくんだろうけど。


 仕方がないんだよね。


「本当は、亜紗美さんとコン汰さんに幸せになって欲しいんですよ」


 でも。

 結局選ぶのは二人で。


 選んだ先で泣いたり笑ったりするのも。

 苦しんだり悩んだりするのも。


 私じゃないから。


 責任の取れないことをいえない。

 辛いし、もどかしいし、悲しいけど。


「すみません」

「あ!でも私、亜紗美さんの恋を応援するのは止めないんで。そこは先に謝っておきます」


 預かっていたお金を出してえへっと笑えば、コン汰さんは目をぱちくりとさせてから「そうですか」と呟いた。


「あと、これ。柘植さんのタオルをお返ししたくて」


 鞄の中からちゃんと洗ったふかふかの白いタオルをコン汰さんの鼻先にずいっと差し出すと怪訝そうな顔をされる。


「店長の?一体いつ、店長に」

「ええっと五日前……ですかね。朝、千秋寺の境内でお会いしました。最初シルエットで大八さんかと思って話しかけたら全然違って驚きました」


 背の大きさとか体つきとか遠目だと分からないから勘違いしちゃったけど、中身は全然似ても似つかなかった。


「そうでしたか。さぞやご迷惑をおかけしたかと思います。すみません」


 コン汰さんは宗明さんのお札でこき使われているはずなのにそれをぐっと堪えて店長の不始末を謝罪するとは。

 まさに店員の鑑だよ。


「いや、言葉や行動が少々乱暴でしたが心配してくれていたみたいですし。全然大丈夫ですから!」


 よくよく考えればちょっと怖かったけど柘植さんから意地悪なことを言われたりされたわけじゃないしね。

 純粋に子どもだと思って慰めようとしてくれていたんだろうと思えば逆にこちらがありがとうございましたとお礼を言うべきかもしれないわけで。


「店長から嫌がらせを受けたら宗明さんに相談するといいですよ。店長、宗明さんのいうことは素直に聞くみたいなので」

「分かりました」


 口元に掌を添えて小さな声で教えてくれるコン汰さんがなんだか可愛い。

 それに乗って私も囁き声で応えるとどちらからともなくぷっと吹きだして。


 笑い声が弾けた。


「こんにちは~」


 ガラッと戸が開いて次のお客さんが来たのでお釣りをもらって袋を受け取り「じゃあ」と会釈をして「ありがとうございました」というコン汰さんの声を聞きながら出る。


 千秋寺にお世話になっているうちにすっかりと冷たくなった風に身を震わせながら次の目的地へ。


 ほのかから三軒目の所に和菓子屋樺島堂はあった。


 古い屋根と茶色い一枚ものの板で作られた看板がかかっていて結構な迫力がある。

 樺島堂という文字が刷り込まれた半透明のガラスも板戸も歴史を感じられるようなお店だ。


 重い戸を開けて中に入ると土間が広がり、そこに赤い毛氈を引いた長椅子があり大きな振り子時計が静かに時を刻んでいる。

 商品はガラスのケースの中に並んでいるものとその上に置かれているものがあり、特に色とりどりの生菓子は小さくてキラキラしていて胸がきゅんっとした。


「いらっしゃい」


 暖簾の奥から五十代の女性がにこにこと現れる。

 目移りしてしまうけれどもう買うものは決まっているから、美味しそうな焦げ目がついたみたらし団子もどら焼きも諦めなくては。


「塩豆大福と栗饅頭をええっと……五つずつください」

「はいよ」


 なんとなく四という数字は頼みづらくて五つっていっちゃったけど、宗春さん甘いの苦手っていってたから数に入れなくても良かったかもなぁ。


 でも買っていかないならいかないで文句いいそうだし。

 まあ、宗春さんが食べなかったら他の人が食べれば問題ない。


 ガラスケースの中から薄く粉を纏った塩豆大福を五つ。

 ケースの上の籠から栗の形をした大きな栗饅頭を五つ。


 茶色の紙袋に入れてくれて全部で千四百円って安くないですか!?


「うちは昔から値段据え置きなんだ。来てくれるのも馴染みのお客さんばっかりだし、なかなか値上げしにくくてさ」


 さらにおまけって小さな羊羹を三本入れてくれたからびっくりだ。

 恐縮しながら「また来ます」とほくほくして戸を開けたら目の前にジト目の銀次さんが立っていて。


 えっと?

 なんで?


「う、あの……どうしてご機嫌斜めなのかお聞きしても……?」


 小首を傾げて尋ねると唇を突きだして「ちょっと付き合って」って。


 あれ?

 これ体育館の裏とか校舎裏に呼び出されてシメられるパターン?


 え。

 ウソでしょ。


 でもそのまま背を向けて歩き出されちゃったらついて行かないわけにはいけないわけでして。


 小人さんたちも不安そうに私を見上げている。

 だけどね。


 うん。


 銀次さんは亜紗美さんからの伝言を伝えてくれた時以来に会ったし、その間も誤解を解こうとしてくれていたみたいだし。


 そこはちゃんとお礼をいっておかないといけない。


 ずっと心配もしてくれてただろうからここはおとなしくついていこう。


 銀次さんは急ぐわけでもなくゆっくりとした歩調で商店街を駅の方に向かって歩いて行く。

 どこに行くのか分からないけど私は商店街からは出られないんだった。

 そう言おうとする前に一軒のお店の前で立ち止まり私を見る。


「腹減ったから飯食おう」

「え、あ。はい」


 それぐらいならいくらでも付き合う。

 だって食べるのは大好きだ。


 ちらりと看板を見ればカフェ和良日と書いてある。


 ええっとローマ字でも書いてあるから和良日と書いて“わらび”と読むんだと分かった。

 外から見る限り落ち着いた雰囲気の良いお店のようで期待感はぐんぐん上がる。

 銀次さんは扉を引き開けて私を先に入れてから自分も続いて店に入った。


 店内は心地よい洋楽が流れて、照明の優しい夕日の色で染まっている。

 入ってすぐ右手側にカウンターがありその奥の壁の上側一面に可愛らしいティーカップがずらりと並べられていた。


 カフェっていうより昔ながらの喫茶店って感じ。

 天井でファンが回っているけど、それもまたレトロでお洒落だ。


 お客さんはカウンターに三人。

 左手側のテーブルの二つは埋まっていて、銀次さんは一番手前で接客している男性に目で挨拶するとその人は感じのいい笑顔で「奥へどうぞ」と促してくれた。


 白いシャツに黒いズボン、茶色のギャルソンエプロンをつけた男性はそんなに背は高くないけどすらりとしていて爽やかだ。

 ぼんやりと眺めていると後ろから銀次さんが焦れたように声をかけてくる。


「紬、奥のテーブル」

「え?あ、はい」


 慌てて男性の後ろを通って一番奥の二人掛けのテーブル席へと向かう。

 籐で作られた椅子はよく使いこまれているけど、深いグリーンの座面は真新しいからきっと新しく貼り直されたんだろうな。

 座るときに目に入った床の板も飴色で傷がたくさんついて、すごく味があるお店だった。


「いらっしゃい」


 小さな扉から男性と同じような格好の女性が出てきて、手際よくお冷とおしぼりをテーブルの上に置いてくれる。

 このお姉さんもほっそりとしていて清潔感があった。

 にこにこと笑うほっぺたに小さく窪んだえくぼがまた可愛らしくて好感度高い。


「珍しく銀次くんが女の子連れて来たって直樹がいうから見に来ちゃった」

「なんだよそれ」

「なに?照れてるわけ?あんたも可愛いとこあるんだね」


 メニューを広げながら視線だけ女性に向けて素っ気なく答える銀次さんを照れているとからかっている。


 随分と仲が良いみたい。

 銀次さんここの常連さんなのかな?


「無駄口叩いてないで仕事しろよ」

「つれないわね。全く。えっと今日のランチは豆腐ハンバーグとサバの竜田揚げから選べます。デザート付きは二百五十円増しでコーヒーゼリーかチーズケーキを選べるけど。どうします?」


 お姉さんは銀次さんではなく私の方へと顔を向けて聞いてくれた。

 恐縮しながらもまだ揚げ物はちょっとしか食べられないので選択肢はひとつだ。


「あ、えっと……豆腐ハンバーグでお願いします」

「デザートは?付けたらいいよ。どうせ払うのは銀次くんなんだし」

「え?自分の分は自分で払いますよ」


 どうしてお姉さんの中で銀次さんが払うことが決定事項になっているのか。

 ぶんぶんっと首を振って訂正すると前に座っている銀次さんが溜息を吐き「こういう時は誘った男が払うんだ」なんていう。


「でも」


 年上の人とご飯に行くならご馳走になるのが相手の顔を立てることにもなるから素直にお礼をいってご馳走になるんだけど。


 同じ年頃の異性とご飯に行ったことないから正直よく分からない。

 奢ってもらおうとかそんなつもり全くなかったから戸惑う。


 それにタダより高いものはないって昔からよくいうしなぁ。


 う~んう~んと唸っていたらお姉さんが折衷案を出してくれた。


 ランチ代は銀次さんが、デザート代は私が。


「で、食後のコーヒーはうちが負担する。どう?」

「えっと、じゃあ銀次さんもデザート付きにしてください」


 お互いにデザートを付けても銀次さんの方が圧倒的に支払う分は多いけど、全額負担してもらという罪悪感は無くなる。


「ああ、もういいよ。それで。オレのは竜田揚げにして、ナポリタンも食う」

「OK」


 デザートは銀次さんがコーヒーゼリー、私がチーズケーキにしてもらった。

 お姉さんはウキウキしてまた小さな扉から戻って行く。


 それを見送ってから「よく来るんですか?」と尋ねた。


「週の半分は来るな。毎日兄貴の作る稲荷ばっかりじゃさすがに飽きる」

「そうかなぁ?コン汰さんのおいなりさん本当に美味しいから毎日でもいけそうだけど」

「いくら美味くても朝から晩まであの匂いの中で毎日働いて、売れ残りを食べさせられれば紬でも音を上げる」


 喉でも乾いてたのか。

 グラスの水をぐいっと全部飲み干して銀次さんはじぃっと私を見る。


 いや。

 あの。

 穴が開きそうというか。

 お尻がもぞもぞするというか。


 視線を彷徨わせているとカウンターの方からさっきのお兄さんが歩いてきた。

 ほっとしながらテーブルまで来たお兄さんを見上げるとにこりと微笑んでくれる。


「いや、ほんと。珍しい」

「うるさいな。用も無いのに来るなよ」


 刺さるほどだった視線がお兄さんの方へと向いてくれたので、緊張が解けて背もたれにぐったりと沈む。


 週の半分来るお得意さまだからお兄さんもお姉さんも親しげに声をかけてくれるんだろうなぁ。


 こうして見ていると短い髪を軽く茶色に染めてにこやかなスタイルの良いお兄さんと長い銀髪をサラサラと流している美少年の銀次さんが並ぶと素敵な味のある店内もあってまるでお洒落なファッション誌か映画のワンシーンみたいだ。


 眼福!


「恵子がおとなしそうで真面目な可愛い子だったってえらい興奮してたからつい」

「お前ら夫婦揃ってイイ趣味してんなっ」

「俺らは銀次を心配してんだよ。最近は無くなったけど前はいつも違う女連れててチャラチャラしてただろ」

「いいだろ。別に。チャラチャラしてても」

「いや。ダメだろ。遊んだ女の数なんて泣かせた数と同じだからな。そんなの繰り返してたらお前絶対いい結婚できないぞ」

「だからっ」


 今はしてないだろ。


 半眼で睨んでいる銀次さんを余裕そうに笑って受け止めるお兄さん。


 うん。

 ますます映画かテレビドラマっぽい。


「ええっと、お嬢さん?」

「あ、すみません。紬です。小宮山紬」


 お兄さんに某ハンバーガショップの店員さんばりの素敵なスマイルで名前を尋ねられたので慌てて名乗る。


 残念。

 一気に現実に戻っちゃった。


「そう。紬ちゃんっていうの。名前も可愛いね」

「ひゃ、そんな――あ、ありがと、ございます」


 否定しようとして真希子さんの顔がチラついた。

 だから慌てて飲み込んで教えられた通り感謝で返す。


 ぎこちなかっただろうけどお兄さんは満足そうに頷いてくれたし、銀次さんは苦笑いしながらも「普段はダサいんだ」なんてことはいわないでくれた。


 社交辞令だとしても、今日は亜紗美さんにちゃんと可愛くしてもらってるんだから堂々としていてもいいはず。


「今まで付き合ってた子たちとは全然違う子を連れて来たってことは本気だってことかな?」

「どうとでも。直樹。水」


 横柄にも取れる態度で空のグラスを差し出した銀次さんにお兄さんは「はいはい」と返事して水の入ったポットを取りに行った。


 でも、気になることがひとつ。


「あの、銀次さん。今の言い方じゃ誤解されちゃう」

「いいんだよ」


 え?

 よくないでしょ!?


「その方が兄貴とデキてるって誤解はされない」

「あ」


 なるほど。


 って。

 いや。


「よくない!だってそれだと銀次さん今までみたいにたくさんの女の子と仲良くできなくなるのに」


 それにこんなイケメンと私が――なんてつり合いが取れないよ!


「別に否定しないだけで肯定もしてない。誤解する奴が悪い」

「銀次さんっ」

「いいんだよ。一年前くらいから女遊びは止めてるし、今はメンドクサイ女といる方が楽しいからな」


 うん?

 メンドクサイ女って。


「誰のこと?」

「ああ、鈍いの方がピッタリか?」

「ええっと」


 鈍いという言葉にはすごく親近感があるんですが。

 もしかしてそれって。


「私……じゃないですよね?」

「さあ?どうだろうな」


 にやりと笑った銀次さんの顔に脱力して私はこの件は放置しておくことにした。


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