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アドバイスとか作戦とかないの?



 モデルみたいに細くて脚が長い子が最近は多い。

 それだけじゃなくファッション雑誌のチェックを欠かさずお洒落な子が街中には溢れてる。


 肩も首も華奢でよく手入れされた肌は肌理が細かくて、ヘアーサロンやネイルサロンにしょっちゅう通う女の子たちも多い。


 私はそこまで自分にお金をかけるだけの価値を見いだせずに結局安い化粧品を買い、手がかかる髪は三つ編みにして乾燥しがちな手にはハンドクリームを塗って終わらせて。


 せめてもう少し痩せてたら。

 もうちょっとお尻が小さくて足が細ければ。

 このお腹や腰回りのお肉がなかったら。


「そう思うなら運動するなりすればいいのに」


 身体のラインが出ないような服を選んで買うたびに結がそう言って私の怠惰を責めた。


 でもね。

 きっと体質ってあると思う。


 ――言イ訳するナよ


 させてよ!

 言い訳くらい。


 だって私はほとんど間食しない。

 逆に結はスナック菓子やチョコレート時にはケーキを複数ぺろりと――しかも飲み物は砂糖たっぷり入ったジュース――食べるのにスラリとしてる上にほどよい肉付きなんだから。


 本当に私と結は姉妹なの?って何度も悩んだし疑ったくらいで。


 結は高校で体育の授業があるから定期的に体を動かしていることにはなるし、若いから代謝も良いんだろうけど。


 ――代謝悪そうダナ!おまえ


 仕事柄座りっぱなしだからどうしてもむくむし、冷え症ですしね。

 ええ、そりゃ代謝悪いですよ。


 だから恥ずかしくて隠そうとしてるのに。


「お姉ちゃんセンスなさすぎ。ダサい。逆に太って見える」


 もっと積極的に見せていけなんて。

 どんな拷問なの!?って感じする。


 ――ヒヒヒーッ!見セられる方モ拷問だロ!


 ちょっと。

 なんでそんなに楽しそうなの!?


 勝手に心の中読まれるのはいずれお互い様になるんだからもうどうでもいいけど。


 居座り過ぎじゃない!?


 ――ヒィヒィヒィ!嫌ナラ追い出シてミロよ


 ああ、もう。

 それがすごく難しいから苦労してるのに。


 えっと。

 遮断。

 どうするんだったっけ?


 思いっきりシャッターを下ろすイメージ――だったっけ?


 でも中に入りこまれてる状態で遮断したら狒々が外に出られないんじゃないの?

 え?

 ええっ?


 やだ、ちょっと待って。


「――――っ、宗春さ」


 助けて。

 というかアドバイス!


 ――ヒィイイ!?


 草木が風で激しく揺れた時のような音を立てながら狒々が退いて行くのが分かる。

 重たくて氷のような存在が自分の中から消えてほっと息を抜く。

 狒々の怯えたような声がすごく気になるけど、今はちょっと余裕ない。


「――――疲れた」

「まあ狒々の意識が体内に入り込むって、ある意味憑かれている状態なんだから間違いじゃないけどね。どうでもいいけどなんでできないわけ?」


 ああ、なるほど。

 憑かれているから疲れるのかぁ。


 しかしね。

 宗春さん。

 できないことはできないんです。


「みんながみんな宗春さんみたいになんでも簡単にできるわけじゃないんですよ……」


 膝に手を当てて倦怠感に襲われつつ反論したけど、力の抜けた言い方じゃ宗春さんにはなんのダメージも与えられない。


「できないことが信じられない。納得できない」


 そんなに難しいことじゃないってあなたは仰いますがね。


「天才には凡人の常識が理解できないでしょうし、凡人には天才の理論が理解できないんです」


 追いつけないともいうけど。


 でもさ。

 もうちょっと歩み寄りとかありませんかね?


 どんなに頑張っても凡人は天才の域には行けないのでね。

 ぜひともお願いしたいんだけど。


「…………聞くけど、どうして躊躇った?」

「えっと躊躇うって」


 もしかしなくても遮断のことですよね。


 宗春さんが眉間に皺を寄せてさっさと白状しろって圧力をかけてくる。

 もちろん言わないという選択肢はないけども。


 甘いって怒られるのが分かっているので自然と口は重くなる。


「もしあの状態で遮断したら狒々が私の中から出られなくなったらどうしようって思ったら」


 怖くて。


「ずっと心の中で狒々に私の悪いとこや嫌なことを言い続けられたらおかしくなる。でもきっと笑われているうちにそれが当たり前になって、受け入れてしまいそうな自分がいるのがほんとに」


 嫌で。


 自己憐憫に酔ってうじうじしている自分にはもう戻りたくない。


 狒々に心を暴かれても前みたいに落ち込んだり、必要以上に卑下しなくて済んでいるのは少なからず成長している自分がいるからで。


「……狡賢い狒々が紬の中に閉じ込められるのをよしとするわけない。断ち切られそうだと察したら直ぐに出て行くよ。色々と思い煩わされるより教えられたことをきちんとするべきだ。その上でなんらかの問題があればこっちが対処するし。紬が心配することなんかなにも無い」


 えっとつまり。


「狒々も宗春さんも信じて任せればいいってこと?」

「は――」


 宗春さんは目を丸くして口を軽く開けるわ、狒々はヒィヒィ言いながら笑い転げて縄に締め上げられ煙を上げるわでなんかカオス状態ですが。


 またなんかおかしなこと言った?


「……まあ、狒々の心配してた頃に比べたら随分マシになったけど」


 狒々を信じるってどうなのかと問われて慌ててそんなつもりではなくてと言い訳したけど冷たい目で睨まれて私は首を竦めて黙る。


 “狒々自身を信じる”ではなくて“狒々の能力の高さを信じる”って意味だったんだけどなぁ。


 なんか伝わらなかったっぽい。


 言葉が足りないのも直さなくちゃいけない部分だからこれから意識していかないと。


 でも狒々との第二戦もまた惨敗。

 闇雲に向き合うんじゃなくて作戦を練らないとこのままじゃ眼鏡の力を制御するための練習にならない。


 対峙した途端に先手を打たれて覗かれるだけ覗かれて笑われて。


 悔しい。

 でも能力に目覚めたばかりの私では太刀打ちできるはずがないんだよね。


「宗春さん!なにか策を与えてください!」

「は?少しは自分で考えたら?」

「ほら!ここはさ、専門家に任せるのが一番でしょ?」


 今更私の無知を笑う人がいないのは救いでもある。

 こうしてできませんってはっきり伝えて教えを乞えばきっと天才さま(宗春さん)がいいアイディアを授けてくれるはず。


「開き直ったね」


 呆れたような感心したような微妙な顔をして宗春さんは顎に綺麗な指をあてなにやら考えている。


 きっと作戦を考えてくれているはず。


 ワクワクして待っていたんだけど突然なにも言わずに寺務所の方へと歩いて行くので私はたくさんのクエスチョンマークを浮かべたまま取り残された。


「えっと……宗春さん?」


 良い案が浮かぶまで放っておいてってこと?


 なんか分からないけどとりあえず休憩ってことでいいのかな。

 さすがに疲れたから部屋で少し休もう。


 屋根の上で見守っていた露草もひょいひょいっと下りてきて一緒に戻った。



  ★  ★  ★




「にぎゃ、いっ!?」


 情けない悲鳴を上げたのはもちろん私。

 本日三戦目でございますがまたしても苦戦中。


 午後三時を過ぎたあたりで再び宗春さんに呼ばれて狒々の元へ。


 その際に与えられたアドバイスは入り込んできている狒々の意識を遮断するのではなく逆に捕えて、そこを足掛かりにして記憶を見るべしというもの。


 こちらが繋がるより先に向こうから繋がってきてくれるから楽ではあるんだろうけど。


 手練れの狒々をのろまな私が簡単に捕えられるわけもなく。


 目を閉じて狒々の気配に全神経を集中させて――えいや!と捕まえようとするとぬるりと逃げられる。


 イメージの中だけで狒々を捕まえるんだから体を動かす必要なんて全くないのに、勝手に腕やら脚やらが動いて空を掻くたびに地面に転がってしまうのです。


 なにしろ修行が足りないものですから。


 何度目かの転倒の後、宗春さんから今日はもう終わりを言い渡され服や手のひらに着いた泥を叩き落としながら血が出ていないことにほっと胸を撫で下ろす。


「あれだけ言われてたのに全然気にしてなかったなぁ」


 転がるたびに起き上がって狒々を追いかけるので必死だったから。

 これではいつまでたってもみんなから心配されてしまう。


 そういえばお父さんが来た時にもおでこぶつけた――!?


 あの時だってぶつけ方や場所が悪かったら流血する可能性もあったよね。


 もうやだ。

 本当に気が抜けない。

 でもずっと怪我しないか気を張って生きるなんて私にはできないよ。


 課題が多すぎるし、そのどれもが難易度が高すぎてクリアできる自信が無いなぁ。


「続きは明日。夜は妖の時間だから力が増す。さっさと中に入るよ」

「あ、はい――あたたっ」


 夕闇が空を彩り始めているので急いで宗春さんの所まで行こうとして膝やら腰やらが痛いことに気づく。


 ああ。

 きっと痣だらけだろうなぁ。


 明日はもっと痛んで起き上がるのに苦労するかも。


「ご飯の前にお風呂入ってきたら。準備はできてるはずだし」

「うう……優しさが身に沁みます」

「優しさじゃないよ。どうせ泥だらけの服を着替えるのならついでにお風呂に入った方が効率いいって話なだけ」


 なに言ってるのか分からないという宗春さんの顔はもう最近見過ぎていて、その度に認識の違いだとか素直じゃないなぁとか思うんだけど。


「私には優しさとして伝わってるならそれでいいんじゃないですか?」


 好意的に受け取ってもらった方が普通は喜ぶんだろうけど、宗春さんはやっぱりちょっと違っていて。


「そんなつもりもないのに優しいなんて受け取られたら気持ちが悪いから止めてくれる?」

「いやですよ。私がどう思おうが私の勝手です。放っておいてください」

「ああ……紬の相手をするのは本当に骨が折れる」


 首を振って相手にするだけ無駄だと呟いて宗春さんは薄暗くなり始めた道をゆっくりと歩き出す。

 その後を着いて行きながらふと宗春さんが白いセーターを着ているのに気づいた。


 あれ?

 確かさっきまではグレーのニットだったはず。


 しかも歩調がすごく緩やかで着いて行くのに全然困らない。


 なんだ。


「やっぱり優しいや」


 笑い声を隠しながら呟くと聞こえたのか鋭い視線を向けてきたけどちっとも怖くなんかないから。

 露草が浮きながら耳元で「素直じゃないのぉ」と言ったので「同感」と返して二人で微笑んだ。



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