番外編 僕が彼女を愛するまで
お久しぶりです、ディズ視点で番外編を書いてみました。
僕の愛する彼女は美しくて聡明でそれでいて芯の通っている人だった。
僕が初めて彼女に会ったのは、僕が幼い頃のこと。
「あなた、だぁれ?」
それが僕と彼女の一番最初の会話だった。
僕は王子という身であるため、いつでも笑顔を崩さずに愛想よく振る舞っていた。
それは、魔王の娘である彼女に対しても例外ではなかった。
ただ、一瞬だけ彼女の愛らしい容姿にとらわれてしまったのも事実だった。
僕が少しだけいじめただけで涙をボロボロと零す彼女を僕は心底めんどくさいと思った。
だから、いつも崩さない笑みを崩してしまったのは幼いながらの小さなミスだった。
ただその時に崩してしまったから、なんとなく素の僕が現れて、もう少しいじめたくなった。
いつもなら社交的に接して女の子の期限を取る僕が、その時は珍しくそんな気が起きなかった。
それが僕にとって大きな人生の分岐点になるとは思っていなかったけど。
だから、僕は彼女に僕と遊ぶようにお願いをした。
彼女は顔を引き攣らせながらそのお願いに了承をした。
「さあ、今日は森に出かけてみようか。」
初めて会ってから約3年経ったある日、僕はそう提案をしてみる。
僕たちはあれから一か月一度くらいの頻度で会い、遊んだりしている。
彼女は僕に負けず劣らず頭が良く、運動神経だって良かった。
3つ下の女の子に負けるのが嫌でたくさん勉強もして鍛錬もしたけど、それでも彼女が僕に劣ることはあまりなかった。
だから僕だって彼女と遊んでいるのが楽しくていつもすぐに時間は過ぎていった。
愛想笑いはいつも通りだったけど、会っていくうちに本当に笑っているような気分になった。
僕にとって彼女は数少ない友人で、親友だった。
「それは楽しそうねっ!!!」
明るく元気な彼女は、それは楽しそうに目を輝かせながら笑った。
でも僕らが森に行くなんて許されることじゃないし、良いなんて絶対に言われない。
だから僕はいつも窓から脱出する。
幸い、僕の部屋は高い場所じゃないのだ。
だからロープでもあれば僕らには逃げ出すなんて容易なことだった。
部屋を抜けて、城壁の少し崩れているところを抜ければ城の裏側に出る。
あえて目立たないような恰好をしているので誰かに見つかることはない。
国のすぐ隣にある森へ僕らは歩みを進める。
人の並に入ってしまえばこっちのものだ、と思った。
はぐれないように彼女の手をつかむと彼女も握り返してくれる。
なんだか妹ができたみたいで可愛かった。
そのまま門を出て、森に着く。
森は静けさがあり、空気も新鮮だった。
僕は森の少しだけ奥にある綺麗な泉を彼女に見せたかった。
妖精が踊り、太陽の光でキラキラと煌めく泉を。
ただ、それだけだったのに。
「あ、きれいなお花だっ!」
彼女はたたたっと走り寄って、花の近くで止まりしゃがむ。
彼女は花が好きだ、だからそれは普通の光景だった。
視界の端に捉えた光景以外は。
「-----アルッ!!!」
僕は彼女---アルの名を叫ぶ。
視界の端で魔物のオオカミが彼女に狙いを定めていた。
魔物は全速力で彼女に駆けていく。
「え?」
アルはオオカミのほうを向く。
いつもなら、彼女は「完璧な盾」で身を守るのだ。
しかし今日は違かった。目の前の光景に身動き一つ取らない。
その光景ではない何かを重ねて見ているようだった。
彼女の顔が苦痛に歪んだ、何かを見て、僕の見えない、何か。
「邪を炎で祓え!火炎の矢!」
僕は呪文を唱え、魔物に火炎の矢を打つ。
それは見事的確に的中し、魔物は傷を負う。
僕はすかさず剣を抜き、魔物に走り寄ってぶんっとそれを振る。
魔物はそれをかわした後、少し威嚇をしてから回れ右をして走り去っていった。
僕はそれを確認し剣をおさめてアルへと近づく。
アルは放心状態で虚空を見つめていた。
「アル、大丈夫?」
僕はそう声をかけて彼女の頬へと手を伸ばす。
僕の手が彼女の頬に触れた瞬間、彼女は顔をあげて僕を睨み付けた。
「裏切り者!!!私はあんたなんか好きじゃない!!!あんたなんか好きじゃない!!!」
僕は彼女の狂いように驚き目を見開いた。
彼女は僕を僕として見ていない、さっきの状況と同じだった。
僕を僕の知らない誰かと重ねていた。
「ずっと一緒って言ったのに!嘘つき!!!私は一人で大丈夫なんかじゃない。」
荒れ狂うように叫び涙をボロボロと零す。
一体、彼女は誰のことを言っているのか、僕には見当がつかなかった。
「大丈夫・・・なんかじゃ、ない。」
「アル。」
僕はアルの頬にもう一度だけ手を伸ばし、優しく撫でる。
するとアルは僕のほうを見た。
そして少しずつ、正気に戻っていく。
「ディ・・・ズ?あれ、私・・・。」
なんで泣いてるんだろう?
先ほどまでのことが何もなかったかのように振る舞う。
彼女はきっと、何も覚えていないのだ。
初めてだった、彼女があんなに取り乱すのも泣き叫ぶのも。
彼女は心の奥底にどんな闇を抱えているのだろうか。
「大丈夫?」
そう聞くと、彼女は笑顔で大丈夫だと答えた。
本当は大丈夫なんかじゃないはずなのに。
僕が、アルの笑顔を守らなくちゃいけないと思った。
いや、守りたいと思った。
もうあんなに辛そうな顔をさせたくなかった。
僕がアルのことを守るんだ。
幼いながらの使命感だった。
もう彼女の前で愛想笑いをするのも繕うのもやめよう。
僕が彼女の居場所になろう。
そうすれば、彼女にもう二度と苦しい思いなんかさせない、僕ならば、きっと。
「別にアルの前だった愛想笑いしなくても良いよね?」
そういうと彼女は「えっ」と嫌そうな顔をした。
なんだかその顔が面白くて、初めて会ったときのようにまたいじめたくなった。
僕が彼女を心の底から愛してると思うようになるのは
もう少し大人になってからの話である。
本当は、アルの闇を知っていましたディズ君のお話でした。
次からはアルフの知らない裏の物語です。




