私と不良(3)
あの忘れられないだろうという時間から日が明けた。
私の胸元には昨日からある光るものがある。
「意外に似合ってるわね」
「え?」
「意気地なしから貰ったんでしょ?その指輪」
「どうして・・・・」
「もし告白が成功したらそれ渡したいって言ってたしね。
素直になったのかしら?」
「・・・」
彼女の言葉にうつむきながら昨日のことを考える。
「それって指輪よね」
「ああ。前々から告白しようと思ってて・・・
もし告白したらずっと渡そうと持ってたんだ。
今は恋人じゃなくて良い。
絶対澪を好きって言わせるから。
だから俺のこと見てて」
そう言われて受け取った指輪。
指にはめることも置いておくことも出来なくて結局アクセサリーの一部として付けることにした。
「ハルちゃん」
「何?もしかしてお礼でも言うの?」
高価なものでも頼もうとたくらんでるような顔を見て正直いらっときた。
「殴らせて」
「どうしてそんな言葉が出るのか説明お願いするわ」
「ハルちゃんはあの彼に告白もしないし告白されても断るんだよね」
「ええ。現段階ではそうなるわね」
「なら、どうして庄吾の背中を押すようなことをしたの?」
庄吾といることは私の願いでもある。
あの告白は物凄く嬉しかった。
私だって好きだといいたかった。
でも私といる限りこの後が試練だと思う。
人間関係的にも能力的にも。
和真君のようにもともとそういう風に育てられてはいないためこの世界は苦しく感じるだろう。
そんな顔をさせたくない。
「だから現段階ではって言ってるでしょうが」
「え?」
「数年後に落ちぶれた元お嬢様っていうレッテルを貼られて生活もままならないような未来が見えている今、私は彼とは付き合いたくないと言ったの。
もし業績が伸びて安定したら私は彼に告白する。
彼女がいたら別だけど、諦めるとかそういうことは絶対にしないわ。
だって嫌なんだもの。
もう目の前にあるものを諦めたりするのは」
ああ、そうだった。
この人はいろんなものを諦めてきた人だった。
親も、親友も、仲間も。
いろんなものを諦めて目を瞑って無かったことにして一人で生きてきた人だった。
今はもうこの人は諦めることはしないと思う。
こう思わせたのも“彼”のおかげなんだろう。
「それしあんたの場合は後ろ盾があるじゃない。
意気地なしを守れないようじゃ当主として失格じゃないかしら?」
「確かに庄吾はここにいる時点で後ろ盾がありますし、守れる自信もある」
「ならちゃんと言いなさいよ。
もともと答えは出てるんでしょ?
自分で示してるじゃない」
「・・・なんかハルちゃんに言われるとむかつくんだけど」
「いいじゃない。
なんか探す手間も省けて澪が逃げるチャンスをふさげたことだから私は退散しようかしら」
「え?」
笑いながら彼女が向いた方向を見ると居づらそうな顔をして立っている庄吾がいた。
「あ、言っとくけれど全部聞いてたみたいだからね」
「はあ?」
「意気地なし、澪はこうやって囲むのよ。
正当法も良いけれど時にはこうやって敵を囲んではかせるのも重要なことよ。
じゃ、この後は二人で。
私は準備があるから」
もう一人のワタシ、いや悪魔が手を振ってこの場を去っていった。
正直、やられた!!!そして殴るの忘れた!!




