私と不良ともう一人のワタシ
「今なんていいました?」
「その意気地なしに会いに行くから紹介しなさい」
あの・・・根本的なところを聞いても良いでしょうか?
あなた、本当は何しに来たの?
私と似た性格だから分かる。
完全にこの状況を楽しんでいる。そして、口角を上げながら何かをたくらんでいる。
多分害は無いことだと思う。
そんな人じゃないから。
でも・・・・
「これ?噂の意気地なし」
「誰ですか?彼女は」
「彼は庄吾、意気地なしの弟の和真君。こちらは私の遠縁にあたるヤマトウ株式会社の山内遥さん」
「ヤマトウ・・・確かもうひとつの直系って言われている?」
「あら?意外に物知りなのね。
調べれば分かることなんだけれど今ではほとんどの人間が忘れ去れている事実なのに」
「敵も味方も調べるのは初歩中の初歩でしょう?」
「そうね。もしかしたら私たち気が合うのかもしれないわね。
もし何かあったら電話でもどうぞ。力になるわ」
「ありがとうございます」
なんか気づいたら手を組んでるし。
おーいあと3年で潰れるって公言してたのは誰ですか?
「で、あなた方が探している意気地なしは今豊にこき使われていますよ」
「親切にどうもありがとう。よし、行くわよ」
「もう、彼に用なんか無いのに会いに行こうとしないでください」
「楽しそうだからよ」
彼女はドンドン進んでしまう。
出来れば今物凄い気まずくなるんだけれど・・・
「お前か、意気地なし」
「は?」
「ハル!!」
いきなり現れたのは澪の格好によく似た人。
この人も澪の親戚の人だろうか?
出来れば違って欲しいんだが・・・この失礼な人。
「ハル、お久しぶり。元気?
どうして早く来てくれなかったの?」
「ごめん、豊。ちょっと急だったから休みが取れなかったのよ。
でこいつが例の意気地なし?
意外に普通ね。もっとひょろひょろしてそうだと思ってたのに」
「もう、失礼なことばっかり言わないでください。
庄吾、この人は遠縁の遥さん。多分私たちに一番近い歳の人だよ。
気にしないでね、この人が失礼なことを連発するのはいつものことだから」
「聞いてて失礼連発はそっちじゃないの?
実際は遠縁じゃなくてもうひとつの直系。
分かりやすく言えばもう一人の当主なのに」
「まだ当主じゃないでしょう?」
「もうなったもんだわ」
勝ち誇ったような顔で言われても効果はありません。
確かに事実、なったようなもんだけれど。
でもまだ正式じゃない。
次期当主どまりだ。
「えっと、霧崎庄吾です」
「紹介されたとおり山内遥。あんた顔を貸しなさい」
「え?」
「言いたいことがあるの。ついてきて。
あ、澪は来ちゃだめよ。
話があるのは彼だけだから」
「えっと・・・」
「ごめん、話聞いてきてあげて。
あの人こうなった以上誰にも止められないから」
「あ、ああ」
そう言って彼女の後ろについてく彼。
その姿に少し心が痛んだのは、やっぱり好きだからかもしれない。
「澪おねぇちゃん、痛いところあるの?」
「ううん、ないよ。どうしたの?」
「何かつらそう」
多分母親のつらい顔を目にしていたからだろう、私の表情を分かってしまったみたいだ。
「庄吾がね澪おねぇちゃん守るって言ってた。
だから大丈夫だよ。庄吾が守ってくれるよ」
「庄吾が・・・」
「うん。だって約束してくれたんだもん。
だから僕ね、いっぱいいっぱい頑張って大きくなるの」
誰かと共に歩むことを拒絶していたのは事実。
父のような人をもしかしたら入り込ませてしまうかもしれないから。
でもようやく母が父との結婚を決めた理由が少し分かった気がする。
共に人生を歩みたかったのだろう。
好きだから、好きになってしまったから。
この人の傍にいたいと切に願ってしまったから。
「そうだね」
私も駆けてみようか。
一人の人間として共に歩みたいと、一緒にいたいと願ってみようか。
それがたとえ困難な道だったとしても、今なら越えてゆけそうな気がするから。




