私と元当主(2)
昔から父はほか、というか一部の親戚から嫌われていた。
みんな穏やかで信じ込みやすくそして心が綺麗な人たちの集まりであるこの一族が嫌う人。
どんな事情であれ傷ついた人たち、罪もないのに傷つけられる人たち、そして同じ人間なのに経歴などで差別される人たちを無条件で受け入れるのに受け入れない人物。
なぜ嫌われていたのかは小さい頃は分からなかったが今は分かるような気がした。
当時の父は最初に欲しかったものは母ではなく母の後ろにあるもの。
親戚の中でもブレーンである私たち直系を欲しがった。
それを知っていた人たちはみな嫌がる。
だってそれは“私たち”を見ていないことにつながるのだから。
「大きくなりましたね」
「人間、成長期には大きくなります」
「庄吾君も大きかったですね。隣に座ってしゃべっていましたが僕よりも少し大きいですね。
ちらっと見えたのですが背中と腕に傷がありました。そうとう古い。
運動していたのでしょうかね?」
「まさか、庄吾のこと調べたの?!」
「ま、一応ね?」
娘だから、というのはただの名目に過ぎない。絶対に。
彼は私を娘としてみていない。道具だ。しかも私たちと考えるような道具ではない。
私たちは自分たちを道具にすることを許してもほかの人間を道具にすることは許されない。
だから政略結婚という名目で結婚しても私たちは相手側を幸せにする義務がある。
たとえ望まない結婚だったとしても。
そのため私たち一族の政略結婚はほぼ禁止だ。政略結婚は非常時のみ。
だから直系の私の結婚はこの歳に見合いなんておかしいと感じたけれども候補を外されたからその償いも入っていると思っていた。
・・・まさかあの女がここまでぐるだとは思わなかったが。
「あまり頑なにここに仕えないでくださいね。このままだとあなたは壊れますよ」
「あなたには関係ないことです」
「凛香にそっくりで困りますね」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「好きな人と結婚することを望んでいます。これは父親としての願いでありあなたの周りにいる人間がそう思っています。
素直になりなさい。
自分の幸せを望みなさい」
「・・・これが私の幸せです」
そう、これが私の幸せなのだ。
私の幸せはこの一族の幸せ。
一族の幸せはこの会社が繁栄すること。
だから・・・庄吾を巻き込むわけには行かないのだ。
庄吾には庄吾の幸せがあるのだから。
「・・・相変わらず変なところが頑固ですね。
庄吾君、あなたの決めた道は茨の道ですよ。
行き着く先はお姫様が眠る城か魔獣が住む森か。
あなたの努力しだいですよ」




