新しい婚約者と天才(2)
多分誰もが見ただけならば何も変わっていないように見えると思う。
しかし、私には分かる。
澪先輩は寂しそうに、庄吾先輩は苦しそうに互いを見ている。
二人共思いあっていることは同じなのに互いの思いは分からないから言えないまま。
思えばあの出会いは正しかったのだろうか、間違っていたのだろうか。
誰に説いたって誰にも答えは導き出せないだろう。
『事は小説より奇なり』ではないが人の出会いも小説よりも不思議なものであると思う。
お嬢様と一般庶民、いや不良と言った方がいいか、この二人は今までどうりの生活をしていたら出会うはずはなかったのだから。
「寂しいのよ」
珍しく弱音を吐いた澪先輩に驚いた。
「どうしてかな?庄吾が隣に居ないだけで寂しいの」
「でも一緒に生活していますよね?」
「うん、でも・・・・寂しいの。何でだろう?」
自傷気味に笑う先輩の笑顔はどこか痛々しい。
厚顔無恥のお嬢様が来て数日が経ったことだ。
「先輩は・・・・望まないんですか?
庄吾先輩が居ることを。弟の方ではなく・・・・」
「そうね、我が侭が通されるなら一緒に居たいわ。
意外に退屈しなかったかな。庄吾が婚約者になって数ヶ月。
むしろ楽しかったかも。
この数年間色が無かった生活にいきなり入ってきた鮮やかな色に塗りつぶされて」
ふふ・・・っと普段はすることのない思い出し笑いをする澪先輩にすこし頬が綻ぶ。
望むことも期待することも諦めたようにしない澪先輩がいつの間にか望むようになったのだ、自分の本当の気持ちを。
「でも私は人を縛り付けるようなことは出来ない人間だから・・・・
もし庄吾が私との結婚を望んでいないなら・・・・その時は庄吾が望むとおりにする」
「庄吾先輩だってあんな厚顔無恥よりも先輩の方がいいですよ。
現に会う度に愚痴を聞いてあげてるんですからね」
「私は人を愛せないから関係ないのよ。
だから婚約破棄もすぐに出来そうなアレなら別にかまわない。
庄吾が自分から愛せる人と暮らすことが何より大切だから」
仮面を被って笑っている。
でも私が最初に見た完璧な仮面ではない。
だって誰が見ても先輩は、泣いているようにしか見えないのだから。




