不良と私と新しい婚約者(1)
俺の行動も言葉も思いもすべて自己満足だったんだ。
それが澪を傷つけるとも知らず、縮まりつつあった距離に亀裂を入れているとも知らず。
翌週のことだった。
突然姉妹校の交流生として数ヶ月滞在する人間が来たことを知ったのは。
それは俺には関係の無いことだと思っていた。
だがそれは見当違いで。
「多美丘麗香、よろしくお願いします」
気持ちの悪い作り笑いで自己紹介をする女。俺の現婚約者だ。
なんでここに・・・・・・・
でも関わろうとしなければ澪が分かるわけが無い。
「それから今、霧崎家とうちの家は親しい仲なので彼の隣でもいいですか?」
「・・・えっ?なら隣と交換してくれる?」
そういうと澪ではない人間が動いてくれたがこれで俺は放課後逃げられないことを知った。
しかもあの女絶対わざとほのめかしあがったな。
だけど澪は気づいてはいないみたいだ。
ただ知り合いのようで俺と違う意味で“なんでこいつが”っという目をしている。
さっきの言葉を深く考えてなくて助かったと思う。
だけど俺はこいつが来たことによって気が抜けなくなった。
こいつも澪のことを知っているということは何かしら仕掛けてくるに違いないから。俺にも、そして関係の無い澪の近くにいる人間も。
「ねぇ、食堂ってどう?大きいの?」
「見てみれば」
「どんなメニューがあるの?カロリーどのくらい?」
「知るか」
その後授業が終わるたび俺にくっついてきて気持ちが悪い。
胃がむかむかするというか。
今日の澪が作ったお弁当食べれるか心配だ。
『残さず食べた後のお弁当を見るとなんか作った甲斐があるというか嬉しいんだよね』
本当に嬉しそうに笑いながら話していた澪を見ているから嫌いな物が入っても食べるようになった。
事実澪の作ったお弁当(というか料理全般)はおいしいし作ってもらってるから文句は言えないしな。
でもこれが続くと無理かもしれない・・・・・・
「ねぇ、多美丘さん。あなたは知っているか知らないかは分からないけれど庄吾君は澪ちゃんの婚約者なの。だからあなたの行為はあまりよくないものだから離れたら?」
周りも賛同するように注意する澪の信者、確か級長の野辺さん。
遠まわしなのか直球なのか分からないのはここ特有なのか。
まぁ直球に言い過ぎると困り、遠まわしすぎて分からなかったのも困るからな。
「あら、まだ“元”婚約者が通ってますの?なら面倒だしもう一度自己紹介しますね」
そう言って立ち上がると挑発するような目で野辺さん一同、いや実際は澪を見て手を胸当てる。
やばい、こいつ自分から・・・・・
「昨日をもちまして霧崎庄吾の婚約者は多美丘麗香になりましたの。あなたたちの忠告を向けるのは私ではなくて後ろにいる彼女じゃなくて?」
「えっ?」
その言葉に俺は背筋が凍るとともに周りの一同と同じく澪を見る。
だけど澪は顔色ひとつ変えずに堂々としている。
「澪、本当?あれだけ仲良かったのに」
「うん、まぁ、そうみたい」
事実を否定せずただ認める澪の姿を見て心が誰かに握られたみたいに痛みを感じた。




