#60 女子と一緒にスポーツするのは、新鮮である。
それから、球技大会が近くなったある日、真斗がまた騒いでいた。俺が声をかけるや否や、
「ラウセカいこうぜ!」
「急にどうしたの?」
因みにラウセカとは、ボーリング、カラオケ、ダーツ、ビリヤードなどができて、楽しめる施設である。それにさまざまなスポーツも楽しめる場所だ。結局、前世では中学以来行くことはなかったが……。
「バッセンやろうぜバッセン。キャッチボールだけじゃつまらんし」
なるほど、でもあれだけ大人数で行くと、少し迷惑な気がするけど……。そう思って尋ねてみると、
「大丈夫、お前ら二人しか誘ってないから。鈴木は部活。石井呼ぶと他の人も誘いそうだし」
ナイス真斗。俺も五十嵐と一緒になったら気まずいので正直ありがたい。
「神里くんたち、ラウセカ行くの? 確かに今日は学校午前終わりだし、明日土曜だしね」
「あ、大田さん。なんかそうっぽい」
「行きたくないの?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
かと言って三人で行くには少しつまらない気もする。四〜六人が妥当な気がするけど……。
「もしよかったら大田も来る? オレは大歓迎だぜ。テニスもできるし。オレと一対一しよ」
流石に男子三人のところに女子一人じゃ来ないだろと思いながらも彼女の返答を待つ。
「今日は何も予定ないからいいよ」
しかし、俺の予想とは裏腹に、彼女は行くことを決意したようだった。正直にいうと、彼女が来てくれるのは、素直に嬉しい。真斗のうるささが緩和されそうな気がするし。
「よし、じゃあ早速行こうぜ〜」
「そういえば、真斗って今日は部活ないの?」
そういうと、真斗は何やらソワソワし始めたので、どうしたのかと思って尋ねると。
「なあ、今日って何曜?」
「明日休みって言ってるくらいだし金曜だけど」
「……まあ、なんとかなるだろ」
真斗は恐らくサボるつもりだろう。確か陸部は、週四で部活があって、金曜日には部活があった気がする……。まあ、本人がいいなら俺は何もいうつもりはないけど。
「とりあえず早く向か……」
「よお、田中、部活は?」
「あ、川村……」
川村とは、真斗と同じ陸部で、真斗がそこそこ仲良くしている人である。まあ、真斗は基本誰とでも仲良くなれるものの、特に気が合うらしい。
「早くこいよ。あ、神里じゃん。田中今日サボる気だった?」
どうやらバレているようで、真斗はそのまま嘆きながら首を掴まれていた。
「いや、大丈夫。俺が連れて行こうとしてたから」
「ナイス神里!」
この川村と仲良くなったのはある経緯がある。
*
先日、俺が休み時間にトイレに向かって、用を足して出てきた時、ある生徒に話しかけられたのだ。
「お前がいつも田中と一緒にいる神里?」
そう言われたので振り返ると、隣のクラスの男子生徒が一人立っていた。因みに一組と二組の男子は、体育を合同で行うので、周りを見るようになった俺は、彼のことを認識していた。確か、川村だった気がする。
「田中って……。真斗? 真斗ならまあ仲良いけど」
とりあえず今の俺と真斗の仲ならこういう解釈で間違っていないだろう。そうやって答えると、川村は少し考える素振りを見せて、
「クラスでの真斗の様子はどんな感じなん?」
それを尋ねてくる意図があまりよくわからなかったが、敵意はなさそうだったので、理由だけ聞いてみることにした。
「どうして知りたいの?」
すると彼は真斗が陸部で長距離で彼に勝てないこととか、普段はどうしているのかを知りたいということを話していた。まあ、ある程度のことなら教えてもいいだろう。
「まあ学校では、基本人と喋っているか、寝てるな」
「寝てるんかい!」
恐ろしく速いツッコミ……。お笑い芸人になれるんじゃないか?
「真斗は友人多いから交友関係が幅広いんだよ。まあ友人思いで明るい奴だから当たり前なんだろうけど」
「だろうな。体育の時もそうだし、部活の時もそうだわ」
真斗のコミュ力は異次元だ。男子の中なら、石井や鈴木とかも高いが、真斗ほどフランクに喋れはしないだろう。
それから少し真斗について話すと、彼は満足したようであった。
「まそんな感じだな。他に何か……」
「お前、いい奴だな」
俺はその言葉に驚いた。自分がいい奴だなんて思ったこともないし、言われたこともなかったからだ。
「いやいや、そんなことないでしょ。俺性格悪いし……」
「そんなに友人のことよく見ている人、性格悪いとは思えないけどな」
「まあ、そう思いたいならいいけど」
そういうと川村は少し笑って、スマホを差し出してきた。
「まだ俺のこと言ってなかったな。俺は川村な。よろしく神里」
「ああ、よろしく」
そう言って俺は彼と連絡先を交換した。
*
「またな神里ー!」
「ああ、またね」
そして真斗は連れて行かれて、その場に残された俺たちは、どうするかという話になった。
「まあ、行ってみる?」
「うん。私は行ってみたい」
「でも、三人だと中途半端だよね……」
一輝がそういうのは無理はない……。こういうものは、奇数だと余ってしまうことがあるので、出来れば避けたいものだ。しかし、莉果も部活に行ってしまったし……。
すると大田さんが、俺の肩に手を置いて、
「じゃあさ、伊藤さん誘ってみない?」
「確かに、それいいかもね。僕は賛成だよ」
確かに伊藤さんなら、俺ら三人と仲は悪くないし、班も同じになった仲だ。ただ、彼女がスポーツをやりたがるかは別な話だけど。
「彼女が運動をしたがるかはわからないけど、一応誘ってみようか」
そう言って俺は大田さんと一緒に伊藤さんの席の前まで行った。本を読んでいた彼女は、俺らに気がついて顔を上げる。
「どうしたの? 神里君、大田さん」
「今日さ、俺と大田さんと一輝でラウセカ行くんだけど、伊藤さんも来ない?」
彼女は考える素振りを見せた後、
「運動は苦手だから、足引っ張っちゃう……」
「別に俺は気にしないけど……」
人は誰だって苦手なものがある。それを否定することなんてしてはいけないし。逆に俺は人間味があって好感が持てる。
「もしよかったら、テニス教えるよ?」
「……やっぱり球技大会で戦犯になりたくないから、練習したい」
これは流石大田さんと言ったところかな? 俺にはそのようなカリスマ性はないから羨ましい。
「じゃあ、この四人でいい? 他に誰か呼ぶ? 石井とか?」
「いや、今ちょうど偶数だしこれでいいんじゃないかな?」
「……それに石井君、私少し苦手」
まあ石井と伊藤さんは正反対の性格をしているし、仕方がない。
「了解。いやー楽しみだな」
女子と一緒にスポーツするのは、とても新鮮で楽しみに思っている自分がいた。
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