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#59 自分の非を認めることは、すごいことである。

 それから数日後、俺らは休み時間を使ってキャッチボールをしていた。とりあえず参加できる人だけ参加して、経験者が未経験者に投げ方や取り方を教えている。なお真斗は、一番参加して欲しかった人が参加していなくて怒っていたが。その人は田代と言って、いつも隅で勉強か読書をしている生徒だ。体育の時間もほぼ動かないので、運動は嫌いなのだろう。


 そして、俺は石井に教えることになったので、彼に教え始めた。


「まず、投げる時は『目線は相手の胸のあたり』『体重移動』を意識してみて」


「おっけー」


 石井はそう言った後、俺に向かってリリースしてきた。俺はグローブを背屈させ、芯で補給した。反発した音が浸透していた。


「普通にいい感じ」


「初心者にしては上手いだろ?」


「ああ。本当に未経験?」


「俺水泳しかやってねーよ」


 水泳は習っている人多いスポーツだよな。俺も幼少期に数ヶ月間やっていた。二十五メートル泳げるようになったのでやめたのを覚えているが。なお、もう少し泳げるようになりたくて大学時代にも少し習うことにしたのだが。結局バタフライを習得してやめた。


「水泳は習ってる人多いみたいだし。いい運動になるらしいね。どのくらいまで泳げるん?」


「百メートルくらいなら泳げるけど」


 なるほど。彼がそこそこ動ける理由はわかったかもしれない。彼は真斗や鈴木、横山ほど飛び抜けて運動ができるわけじゃないけれど、田代ほどできないわけではなく、一輝くらい。つまり、平均以上はできるということだ。


「俺と同じくらいじゃん」


「神里も泳げるんんだー」


「そうだよ」


 それからも石井と軽くキャッチボールをして、慣れてきた頃に石井が、『五十嵐とどっちが先に落とすか勝負してくる』と言って、彼がいる方に向かっていった。


 そして俺は、一人で壁当てをしている横山に話しかける。


「横山。上手いね。経験者?」


「ああ、神里か。昔親父とキャッチボールをしていたくらいでそんなやったことねーよ」


 やっぱり男子とならそこまで話しかけるのに勇気はいらないな。社会経験に感謝をしたいレベルである。


「やっぱり運動神経いいから。なんでも基本できるんだろうね」


「まあ。そうかもしれないな」


 俺的には謙虚されない方が話しやすいので、楽に話せてありがたい。


「なあ、神里」


「どうした?」


 横山は少し下を向いた後、俺に目を合わせてきて、


「この前はごめん。あんなことして」


 恐らくあの林間学校での出来事でのことだろう。ただ俺は横山には一切苛立ちを感じていなかった。正直あれは五十嵐が主犯だろうし。


「いや、俺は別に気にしていないよ」


「ほんとか? よかった」


 横山も自分の非を認められる人物だ。何故彼が五十嵐と仲良くしているのかよくわからないな。


 すると、彼の友人の島田もこっちに向かってきた。


「オイラもごめんな。止めるべきだったよ」


「もう気にしていないから大丈夫だよ」


 彼らの素直な性格を俺も見習わないとな。俺はそう思った。


 それから、横山とキャッチボールをしながら、坂本について少し聞いてみることにした。


「ねえ横山、バスケ部の坂本って人どんな感じなの?」


 彼は少し黙ったあと、口を開いて、


「朝練全く来ないし練習も人一倍やっているわけじゃないのに何故かスタメン勝ち取ってる」


 なるほど……。確かに運動神経は良さそうだった。体つきもがっちりしていた覚えがあるし。


「そして奴はいつも取り巻きを二人連れてる。二人ともバスケ部なんだけど」


 ……覚えてるよ。一輝をあんな目に合わせた時、一緒に横に立って嘲笑っていた二人。思い出すだけで殺意が込み上げてくる。


「おれも一応スタメンだけど、坂本は自分にボールを回さないとキレるんだよ」


 やっぱり自己中な一面はスポーツでも出ているのか……。やはり慣れというものは怖いものである。


「しかも横でやってる女バレや女バスのことチラチラみてるし……。なんであいつがあんなに上手いんだろ」


 もし莉果が彼に絡まれるようなことがあったら、俺が動かないといけないな。


「最近その人に変わったことあった?」


「いやあんまないな。相変わらずいやーな感じ」


「もしなんか変わったことあったら教えて欲しい」


「いいよー」


 これで多少は情報が手に入ることだろう。俺は心の中で横山に感謝をした。

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