アイジスの思い出
(* ̄∇ ̄)ノ ローグシーの街に来た深都の外交官、アイジストゥラの過去がちょびっと。
私は幸運だったのだろう。
南のジャスパルでは、海ガメは海の精霊の遣いと、人に崇められていた。
海ガメとは綺麗な海を好む。ただ、それだけ。
それが、海ガメのいるところは、魚も貝も多く海の恵みが豊かだと、人に思われていたらしい。
精霊術師の多い南方では、私を無下に扱う人はいなかった。
十二姉のひとりとして、深都を支えてきた。深都の迎えた妹達の中には、心を病む者も多い。ハイアディもそうだし、アシェも人に複雑な思いがある。カッセル、ユッキルもまた、心にキズを抱えている。
人と幸せな出会い方のできた私は、幸運だったのだろう。
だからといって、この胸の寂しさが癒せるわけでは無いのだが。
手を取る。横たわる、一人の男の手を取り、この胸に抱く。今にも死にそうな年老いた男の手。様々なものを慈しみ、守ってきた、皺深いごつごつとした手。
『おぉ、海の精霊の御使いよ……』
これは、夢だ。あの頃の私に、人の手は無かったのだから。男の手を取る人の手は、今の私の手。過去の夢に今の願いが重なった、そんな夢を私が見るとは。
『私はこれより、海に帰ります……』
子らの為にその身を捧げ、一族の為に生きた、一人の男。年老いても、いつまでも子供のような瞳で私を見ていた男。
いつまでも近くにいると思っていた。
いつまでも同じ海で共に泳げるものと、思っていた。
しかし、それは叶わぬことだった。それでも、もう少し側にいてくれても、良かったのではないか? なあ……
『私の魂は、あなたの海へと……』
私が海を守っていたのでは無いのだが。
だけど、お前が望むなら。私は海を、海とこの大地を守り続けよう。お前の愛した、お前の家族と裔の生きるところを、守り続けよう。
あのとき、こうしてお前の手を取りたかった。
あのときの私に、人の半身は無かったのだが。
だから、これは夢だ。あのとき、私の望んだ夢。
人のようにお前に触れたいと、人のようにお前を抱きたいと。
『アイジス……』
夢の中でこうして逢えるとは。
お前の魂はずっと私の海の中にいたのか? なぜ、今になってこうして夢に現れる?
『あ、あの、アイジス……』
む? そういえば、あの頃は私に固有の名は無かった。名を名乗るようにしたのは、十二姉となってから。互いに呼び合うには名があると良いと、皆で悩みながら良い名を考えていた。
ヴォイセスの真似をして、古き言葉から呼びやすく語感の良いものを、あれでも無いこれでも無いと、悩みながら。
「あ、アイジス……、あの……」
私をアイジスと呼ぶ。お前の顔がぼやけていく。波に揺れるように。
何やらいきなり若くなったような?
お前が私の名を呼んだことなど、無いというのに。夢の中で、過去と今が混ざり合う。
「あの、アイジス、その、手が、あの」
私の目の前には、真っ赤になって恥ずかしがる少年。
うん? えぇと、よく見たら、ニース、か?
「はい、ニースです。おはようございます、アイジス」
ニース、私の側仕え。もとローグシーの街の宿屋の息子。それがウィラーイン伯爵家の執事見習いとなり、宿屋を経営するニースの両親は騒いだらしい。
ニースが私の正体に感づいたなら、こちらに引き込むのもひとつの手だが。ルミリアもハラードも、おおらかというか、なんというのか。
寝ぼけた頭で、私を起こす執事見習いのニースは、何やら顔を赤くして、あわあわしている。
「……む、おはよう、ニース」
すぐ近くでもじもじとしているニース。いったい何を恥ずかしがっている? 私は、ふわあ、とあくびをひとつ。周りを見る。
あぁ、ここは深都では無い。領主の館の別館だ。館の名前をどうしようかと、話が出ていたか。その別館の地下、私の私室。この私が亀の王の正体を現しても、余裕のある広さ。寝床にできるプールは、ハイアディが私の為に作ってくれたもの。
まさか、人の街の中で私の住むのに都合のいい館を、作ってしまうとは。
「あ、アイジス、そろそろ離して……」
む? おかしな夢を見て、寝ぼけていたが。昨夜は深酒をしすぎたか? ローグシーの街のブランデーは旨いから。
はて、目が覚めてみて気がついた。胸に何か、当たっている。
私の手が、ニースの手を取って、私の胸に押しつけていた。
「……僕はアイジスのことが好きです。でも、その、夢の中の誰かの代わり、というのは、その……」
……私の手が! ニースの手を私の胸に押しつけていた!?
「あ、あ、あああああ!?」
ズッバアアアアアアン!!
◇◇◇◇◇
フクロウのクチバ
「……というわけで、寝ぼけたアイジスが別館の壁を突き破り空に舞い上がってしまった、ということのようです」
ハラード伯爵
「ふむ。寝ぼけてうっかりと。アイジスがストレスを溜めてしまい、おかしくなったわけでは無いのだな?」
フクロウのクチバ
「そのようです。現在、アイジスは守備隊副隊長、レーンの館の地下、守水の地下湖にいます。落ち着いたら謝罪に来るので、少し待って欲しいと」
ルミリア夫人
「そこに行くまで誰にも見つからなかったのかしら?」
フクロウのクチバ
「街は謎の飛行物体の噂で持ちきりです。非常時ということで、アシェの幻覚魔法での誤魔化しを制限付きで許可しました」
ルミリア夫人
「カダールも子供の頃、ベッドからとび出してころげ落ちたりしたけど。寝ぼけて驚いて、プールから雲の上まで飛び出すなんて、さすがはアイジス、深都の十二姉ね」
ハラード伯爵
「よほど、ひどい悪夢をみたのか、よほどはしゃぎたくなる夢でも見てたのかの?」
ルミリア夫人
「それでニースは? 無事なのでしょう?」
フクロウのクチバ
「ニースは責任を感じて、今は副隊長レーンの館にいます」
ルミリア夫人
「アイジスの気分転換用に、またクラゲの直送便をクインにお願いしようかしら?」
ハラード伯爵
「ローグシーの街の方は?」
フクロウのクチバ
「ルミリア様の指示の通り、いくつかのルートで欺瞞情報を噂の形で流しています。簡単には真相に辿りつけないかと」
ハラード伯爵
「ふむ、ワシの方からは、ゼラが訓練中に新技の実験をした、とでも王に伝えておこう。表向きにはそういうことにしておいて。ここに深都の住人がいることは秘密にしておるからの」
フクロウのクチバ
「別館のことについてはアプラース王子にも協力していただいてます」
ルミリア夫人
「アプラース王子には、こっちでのんびりしてもらうつもりだったのに、何かと忙しいわね」
ハラード伯爵
「ワシが鍛え直す、ということにもなっておるし、本人が楽しそうだから良いだろ」
フクロウのクチバ
(そーですね。怪傑蜘蛛仮面をさせてるのは、ハラード様とルミリア様なのですけど。ご本人が楽しんでらっしゃいますからねー)
◇◇◇◇◇
その後、ようやく落ち着いたアイジスが領主館に戻ってきた。
アイジス
「その、すまない。壁が……」
エクアド
「いや、怪我人が出なければいいのだが」
カダール
「問題はローグシーの街の住人に目撃されたことか」
ハイアディ
「でも、街の人達、『あぁ、領主館だから』とか、『伯爵様のお館だから』って、笑ってたけど?」
クイン
「この街の住人は……」
◇◇◇◇◇
一方そのころ、ローグシーの街に潜伏する人達は、解明できぬ謎の現象に言い知れぬ不安を感じていた。
ジャスパル密偵
「あれは、ウィラーイン領の新型魔術兵器実験なのか? いったいあの館で何が行われている? うちの腕の立つ精霊術師でも内部を探れんとは、西の聖獣とは、蜘蛛の御子とはいったい……」
メイモント密偵
「あの蜘蛛の姫の、灰塵の滅光だけでは無かったのか? あの金龍のブレスに等しき力だけでも、絶無の恐怖だというのに。くう、どこの誰だこんなトンデモ辺境に我が軍を突っ込ませた愚か者は! 中央はともかく、盾の国スピルードル王家とはなんとか関係修復せねば、ウィラーイン伯爵家を敵に回すことだけは避けねば……」
ハガクの隠密隊
「……こんなの、どうやって隠蔽しろってのよ? それになんでこの街の人達は明るく笑ってるの? あー、またか、みたいな顔して? とりあえずエルアーリュ王子に報告しないと。そしたらまた、エルアーリュ王子がローグシーに来たがるのでしょうね……」
中央総聖堂の密偵
「西の聖獣は人目をはばかることをしないのか? 中央の聖獣ほどに神秘性は無いが、身近な聖獣様と人気はあるし。ローグシーの聖堂では間近に聖獣を拝めるどころか、握手までできてしまうし。聖堂からの帰り道で、屋台で買ったものを食べ歩きする聖獣って、なんなんだ? それにあの館はちょっと目を離すと、突然、聖獣の奇跡を起こすし……」
◇◇◇◇◇
ララティ
「アイジスねえ様、反省するぴょん」
アイジス
「……」
自主的に一ヶ月の禁酒を己に課すアイジスであった。
ネタ提供、K様。
アイジストゥラ、キャラ設定、カセユキさん。
m(_ _)m ありがとうございます。
◎ ローグシーにUFO騒動勃発⁉︎
K〉謎が謎を呼ぶ、ウィラーイン。国際的諜報戦のホットスポット! ファンタジック・エリア51!
†(ーー;P
♪ 〜_φ( ̄v  ̄ ;K / ̄ ̄ ̄ ̄ カメUFO……
‥大事件の気配!




