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リス姉妹、仇討ち二人旅、N=N編

(* ̄∇ ̄)ノ 久しぶりのリス姉妹過去編。仇討ち二人旅。


「ふっははははははー! 王のもとにひざまづけ! 非戦の王杓よ! 覇道を発動せよ!!」


 高々と掲げられた王杓の青い石が輝き、辺り一帯は青い光の色に染まる。

 その手に王杓を掲げ、目に狂気の光を称える白髪の老人が高笑う。


「させるか!」


 二刀を構え疾走するユッキルデシタント。廃墟と化した崩れかけた城の中、かつては玉座のあったところに立つ老人へと駆け上がる。玉座手前の階段を飛び越え、二刀を振り上げる。

 左の刀で胴を横から薙ぎ、右の刀は肩口へと切り下ろさんと。しかし、


「ちい! また」


 振る刀の勢いが失せ、派手な古い王の衣装を纏う老人に届く前に、ユッキルデシタントの刀がピタリと止まる。


「……く、なんだ、これは? 力が抜ける……」


「ふっははは! 王を傷つけることは誰にもできぬ。なぜなら我は王だから! 王は王ゆえに王としてあるのだから! 我こそ王なり! 我が王道を阻む平民よ、頭が高いぞ! ひざまづけえ!」


「ちい……」


 ユッキルデシタントはよろよろと下がる。その手足に力は無い。刀を持ったままの手の甲で鼻の頭を押さえる。


「この、匂いは?」


「ふほほ、気づいたか? 流石は我が臣下たる奇機械衆を幾人も屠った女よ。その武力、実に見事なり。ふむ、ならば女よ、我が新たな臣下とならんか? それほどの力を持つ武人であらば、我が王道を共に歩むことを許してやろう。この青き光の王にかしづく栄誉を誉れとするがいい」


「こ、の、狂人が……」


「我が王国を再建するに優秀な臣下は幾人でも欲しいところ。奇機械衆は我の臣下であるくせに、我に口答えしてばかりで王への敬意が足らん。我こそこの世を統べ王道楽土を築く、この世界の唯一の王であるというのに」


 赤いマントに王冠を被る白髪の老人は、調子が出てきたように言葉を紡ぐ。そのマントは擦りきれて穴が空き、纏う王の衣装も古びて汚れている。薄汚れた王の姿で、廃墟と化した城の中で、目だけはギラギラとさせた老人が王を語る。

 青い光から逃げるように下がるユッキルデシタントが苦い顔で、


「その奇機械衆からも、まともに話もできぬ、共闘できぬ狂人と見捨てられた、ただのモルモットになっているだけの老人が……」


「愚か者どもめ! 我が国は滅びぬ! 王は滅せず! 我が王国は永遠の繁栄を約束する! この非戦の王杓と王たる我がいる限りいいい!」


 老人の叫びと共に王杓の青い光が強さを増す。廃墟と化した城の中は海の底のような青みがかった光景へと。

 ユッキルデシタントは朦朧とする意識の中で、刀を持ったままの手の甲で口を抑える。


「く、なんだこの匂い、は……」


「ふほほ? 非戦の王杓の力に気づいたか? やりおるやりおる。力と剣術だけでは無く、実に優秀。これはますます臣下として欲しくなったぞ。なぁ皆の者?」


 ノーマセランは手を大きく開く。右に左に顔を向けては頷く。廃墟の城の中には誰もいない。いるのは古びた王の衣装の老人とユッキルデシタントだけ。他には誰もいない。


「宰相もそう思うか。うむうむ。騎士団長、お主は心配性じゃのう。案ずるな、王とは器が大きくあらねばならんのだ」


 しかし、老人にはそこにはいない臣下が見えるように、まるで一人芝居のように返答する。見えない臣下の聞こえない声に、耳を傾け頷き言葉を返す。青く染まる廃墟の城の中、年老いた狂王の一人芝居。

 ユッキルデシタントは手足から力が抜け、座り込みそうになる身体に活を入れる。己の身体の異常を確かめる。

 刀を振り下ろす力が抜けて動きが止まる。刀を落としそうになるほど、手に力が入らない。


「脱力の、麻痺ガス、か?」


「惜しい、只のガスではお主を止めるなぞ不可能よな」


 非戦の王杓。それは古代魔術文明の遺産。王杓より発する微細な電磁波は生物の脳に作用する。アドレナリンの放出を抑え、レセプターの活動を制限する、強制鎮静効果。

 非戦の王杓の作用範囲内の生物は、攻撃衝動が抑えられる。

 暴力的な衝動を起こす為の激情も感情も殺意も封じようとするのが非戦の王杓。青い光に包まれた者は、戦う意欲が奪われる。

 ユッキルデシタントの感じる匂いとは、脳の感じる錯覚の匂い。脳の特定部位の活動を妨げる非戦の王杓の電磁波が起こす幻覚の匂いだった。

 しかし、この非戦の王杓には欠点がある。それは使用者もまた青い光の影響を受けてしまうこと。非戦の王杓の持ち主が最も強く電磁波の影響を受けてしまう。

 敵も味方も強制的に戦わせないようにする兵器。古代魔術文明時代、暴徒鎮圧の為に作られた平和利用の為の防衛装備。


「故に、今のお主に我を攻撃することは能わず。我もまた同様に。しかし、我は王なり! 王とは国を統べ、その場を制する者なり!」


 狂気の老王は懐から金属筒を取り出すと己の首に押し当てる。その見覚えのある金属筒にユッキルデシタントが目を見開く。


「それはドラクナル=Dの!」


「戦意高揚剤ー! ききき、キクー!! ふっははははー!!」


 首に刺した金属筒の針から薬液が老王に注入される。狂戦士を作る為の強化薬。異常な興奮に目は見開き、全身の筋肉が盛り上がる。狂王の脳内は青い光を打ち負かすほどの脳内麻薬が溢れ出る。非戦の王杓の影響範囲内で、戦意を保つためにドラッグ漬けになった男。

 これが奇機械衆の一人、自称古代王国の王、狂気の平和主義者、狂乱の臣下無き狂王。


「我こそがあ! 王道落奴のノーマセラン=N!!」


 左手に青い光を放つ王杓を握ったまま、右手で腰から剣を抜きぶら下げる。古びた王の衣装の老人が、ユッキルデシタントに一歩近づく。


「ちぃっ、」


 舌打ちをしてヨロヨロと下がるユッキルデシタント。


(ち、あの青い光から離れなければ。影響範囲の外まで出て、指弾を打ち込めばなんとか。そうか、あの光の範囲に敵を納める為に、コイツはこの廃墟の城に閉じ籠っていたのか)


 逃げようにも思うように足に力が入らない。戦う意思も抗う意思も奪う平和もたらす青の光。

 狂王ノーマセラン=Nの策に嵌まり、そこから抜け出すことも難しい状況で、


「待たせた、妹よ」

「く、姉よ! ここに来るな!」


 ユッキルデシタントに良く似た女がもう一人現れる。片手に一本の刀を下げて、ユッキルデシタントを守るように前に進むのは、姉のカッセルダシタンテ。


「やりにくい相手のようだ。ここは、この姉に任せろ、妹よ」

「姉よ、あいつに近づくほどにあの王杓の影響を受けるぞ」


 ゆらりと現れたもう一人の剣士にノーマセラン=Nは歪んだ笑みを見せる。


「ふっははは! 聞いておるぞ、お主が双子の剣士の片割れか? ならば問おう、お主、我の臣下とならんか? 近衛として重宝することを約束してやろう」

「イカれた薬浸けの王を気取る老人の近衛など、ごめんこうむる」

「ふはははは! ならば死ね!」


 ノーマセラン=Nの左手の非戦の王杓からの青い光は一段と強くなり、老王は駆け出し右手の剣をカッセルダシタンテめがけて振り下ろす。戦闘強化薬で増強された筋肉が、老人とは思えぬ力を与え、剣は風切る音を立てる。


「剣の技量は並程度か」


 呟いてカッセルダシタンテは、フワリと後ろに跳びすさる。ノーマセラン=Nの剣は空振りし廃墟の王城の床を割りヒビを入れる。


「その程度の腕前では、ソレガシには届かぬ」

「ふはは、しかし、非戦の王杓がある以上、貴様にこの王をキズつけることは能わず! この王に敵う者は無し! 故に我は王なり!」

「己も御せずして、何が王か」


 カッセルダシタンテは深く腰を落とす。刀を背後に構える。己の身体で己の武器を隠す、車の構え。


「行くぞ」


 カッセルダシタンテは車の構えのまま、静かに一歩、ノーマセラン=Nへと踏み出す。


「ふはははは! 愚かなり! 非戦の王杓の前に貴様の攻撃が王に届くものか!」


 カッセルダシタンテは何も答えず更に一歩、狂える王に近づく。それを見つめるユッキルデシタント。


(あれは、シタンの刀術、形の一本目、そうか! その手があったか!)


 カッセルダシタンテはノーマセラン=Nの手前で大きく刀を動かし正眼へと構えを直す。それは優雅に踊るように、緩やかに。足は右足の踵を左足の土踏まずにくっつけるような撞木の足。斜めに構えた斜の正眼、刀の切っ先は狂王の左目を狙うように。


「何をしようとこの非戦の王杓の力は破れぬ!」


 ノーマセラン=Nは王杓の力を信じ、守りもせずにカッセルダシタンテへと近づく。

 カッセルダシタンテはそのまま目を閉じる。


「ぬ?」


 目を閉じ緩やかに刀を背負うように振り上げるカッセルダシタンテ。ノーマセラン=Nはその動きに危機を感じた。これまでの敵のように非戦の王杓の効果を受けた敵とはまるで違う、力みの無い滑らかな動き。

 振り下ろすカッセルダシタンテの刀を慌てて受けようとするノーマセラン=N。しかし頭を守ろうとした己の剣に、カッセルダシタンテの振り下ろす刀の手応えはまるで無い。


「……あぁ、そんなところにいると、危ないぞ?」


 背後から聞こえるのはカッセルダシタンテの声。ノーマセラン=Nから見て、刀を振り下ろすように見えたカッセルダシタンテ。しかし、その直後に姿を見失い、一瞬にしてノーマセラン=Nは背後を取られた。


「表中太刀、一本目、涎賺(よだれすかし)

「がああああ!?」


 ノーマセラン=Nの胸から脇の下にかけて、切り裂かれた傷から血が飛沫(しぶ)く。己の守る為に掲げた剣を、まるですり抜けるようにしてノーマセラン=Nは切り裂かれた。胸から脇の下の動脈を深く切られ、出血が止まらない。青い光の中にこぼれ落ちる血は紫色の血溜まりとなる。


「な、なぜだあ!? なぜ、非戦の王杓の力が効かぬ!? き、貴様、何をしたあ!?」

「戦意を奪うのであれば、戦わなければいい」

「な、なんだとお!?」


 右手の剣を取り落とし、血を流し振り向くノーマセラン=N。驚愕に目を見開く前には、涼しげに立つ剣士、カッセルダシタンテ。


「ソレガシは一人で刀の形をなぞっていただけ。誰とも戦うつもりも無く、一人で刀の修練をしていただけだ。その刀の通り道にたまたまお前が立っていただけ」

「な、なに……?」

「倒そうとも、打ち勝とうとも、殺そうとも考えてはいない。無心でシタンの教えに従っただけ。振った刀の軌道の上に誰がいようとも気にせずに」

「せ、戦意も無く、殺意も無く、この我を斬ったか? ふ、ふはは、まさかこれが、剣の極意、無念夢想、とやらか?」

「ソレガシでは未だに剣の極意に届かぬ。だが、お前を倒すには届いたようだ」

「ま、まさか、このような手で、この非戦の王杓を破るとは……」


 ノーマセラン=Nの持つ王杓の青い光が失せる。辺りの風景が青みがかった視界からもとに戻る。まやかしが消えるように廃墟の王城に色が戻る。


「わ、我は王なり、我こそ、王道落奴の……」


 血を流し過ぎ、虚ろな目で狂えし老王は呟き続ける。


「おぉ……、王たる我は破れたり……。お、王国の民よ、この力無き王を、許せ……。すまぬ、我が親愛なる臣民よ……」


 ノーマセラン=Nは両手を開く。その目から、だくだくと涙が溢れる。非戦の王杓、その力に抗うための戦意高揚剤、戦闘強化薬。過剰な迄に溢れた脳内麻薬。

 非戦の王杓の力が途切れた今、麻薬漬けになった狂王の脳は幻覚と幻聴の世界をさ迷い、その目はもはや、この世を映していない。

 

「おお、王妃よ、戦いに破れた王を迎えてくれるのか? 王子よ、情けない父王の姿を見せた……。あぁ、臣民達よ、いまだこの王に付き従ってくれるというのか? 親愛なる臣民達よ、ならば今度こそ、我らが楽土を築こう、では、ないか……。争いの無い、平和、な……」


 そこにはいない幻の王国の民の歓声に包まれて、ノーマセラン=Nは大の字に倒れて動かなくなる。その顔は穏やかに、安らかに眠るように。

 奇機械衆、王道落奴のノーマセラン=N。

 カッセルダシタンテに切り裂かれ失血死。


「無事か? 妹よ」


 カッセルダシタンテはユッキルデシタントに声をかける。ユッキルデシタントは軽く頭を振る。


「あぁ、少しクラクラするが、問題無い。しかし、こんな手で非戦の王杓を攻略できるとは」

「仕掛けられた妹を外から見ることができたから、タネが割れた。逆の立場で妹が見れば、同じ手を思いついたことだろう」

「そうかもしれん。しかし、敵として戦うことも無く、相対して相対せずとは、」

「このノーマセランという老人は剣士では無かった。ならば剣士として扱うことも無かろう」

「王と名乗っていたか。まともに剣士として扱われなかったにしては、満足そうな死に顔だ」

「既に麻薬漬けで、この世が見えて無かったのだろう」


 カッセルダシタンテは歩いてノーマセラン=Nの死体に近づく。老王の左手が死してなお握り締める非戦の王杓に足をかける。


「非戦の王杓、か。この世に未だ、この兵器を使いこなせる者はいないのだろう」


 カッセルダシタンテは足に力を込める。女剣士の足の下で、平和を願って作られた古代遺産の防衛兵器。争いを無くす為に作られた特殊な兵器。

 非戦の王杓は望まれた使い方をされることも無く、音を立てて割れた。



設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)mありがとうございます。


( ̄▽ ̄;) 奇機械衆、K様にデザインされてほとんど揃ったのですが、ノマの力量不足で追い付けない。ぬぐぐー。がんばる。


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