エクアドとフェディエアの槍術修練
(* ̄∇ ̄)ノ フェディエア主役回。時期はエクアドとフェディエアの結婚前のこと。
「フェディエア、肩が上がっているぞ」
エクアドに注意されて、ひとつ深呼吸。練習用の木の槍を構えたまま、肩を身体の中に、沈めるように落とす。
身体の動きを槍に伝えるには、脇を絞める。この脇を絞めるというのも、始めはよくわからなかった。
肘をわき腹にペタンとつけても、それでは脇が空いている、という。
胴体の動きを手先に伝えられる状態が、脇が締まった状態。肩が一段、身体の中へと沈むようにする。
「そうそう、いいぞ」
丁寧に教えてくれるエクアド隊長。会計の私でもアルケニー監視部隊にいる以上は、それなり身を守れるようにならないと。
隊員達は呑気にやってるように見えるけれど、これでもエルアーリュ王子の直轄の特殊部隊。実力で選ばれた精鋭揃いの王軍。
戦闘経験の少ない私が、こうして隊長直々に槍の訓練を受けている。
……エクアド隊長は、こうして身体を動かして、私が悩んで沈まないようにって、思惑もあるんだろうけど。
「フェディエア、四本目いくぞ」
「はい」
エクアドとの距離を取り直して、槍の型を修練する。エクアドの実家に伝わるオストール槍術。握る槍は穂先の無い木の棒で、穂先のある方が赤く色を塗られている。
その赤色を正面のエクアドの喉元に向けて、槍を握る右手を右の腰につけて。
一歩、二歩、と型どおりに近づくエクアドの呼吸を読む。集中すると感じる、不思議な相手との一体感。
「ふっ!」
エクアドが三歩目で、息を吐いて槍を突く。私に分かりやすくなるように、わざと鋭く呼気を漏らして。
私は左に一歩避けながら、エクアドの槍を私の槍で横から払う。そのまま私の槍をエクアドの槍に絡めるように巻き込み、グルリと回して下から上に跳ね上げる。
穂先を上げた流れで右足を一歩踏み込み、左の半身から右の半身に。右手を前に出し、槍を擦らし、柄の方でエクアドの顎を下から狙い、掬い上げるようにして寸止めに。
型どおりに動いたところで、エクアドがニヤリと笑う。え?
「よっと」
エクアドが自分の槍を跳ね上げられたまま手を離して、え? 宙に浮くエクアドの槍。エクアドはそのまま、私の槍の柄を手で掴んで、ええ?
型と違う動きに戸惑っているところで、エクアドがずい、と接近する。あわあわしてるうちに肩を押さえられ、足をかけられ、私は地面に。
投げられるというか、転ばされるというか、いえ、優しく地面に寝かされるような、ふわりとした動きで地面に倒れる。
教わった通りの受け身、顎を引いて後頭部を打たないように、背中を丸く使ってコロリンと寝転ぶように。
空を見上げる私のすぐ近く、膝をついて私の顔を覗き込むエクアド。
「油断したな、フェディエア」
「そんな型の動き方、教わって無いし」
「たまにはこうして、型から外れた動きをしないと、型の手順を覚えたから一人前だ、と錯覚したりもする。そのまま実戦に出ると危ない」
「じゃ、こういうときは、どうしたらいいの? こっちも型から外れた動きをしたらいいの?」
「そんなときでも冷静に相手を見る。ちなみにこの四本目の型で、相手の顎を下から打った後、槍の柄を下げ相手の鳩尾を押すようにする動き方で、型から外れた相手の動きにも対処できる。慌てず型どおりにしても対処できるし、槍から手を離して相手から離れてもいい。予想外の動きに混乱して、何もできない、というのが一番まずい」
「イジワルな教え方」
「ここでちょっとは意地の悪い相手にはどうするか、というのも修練中に知っておかないと。魔獣相手に卑怯もの、なんて言っても聞いちゃくれないからな」
仰向けに寝転んだまま、エクアドの顔を見上げる。したやったり、というような、エクアドはたまにこんな顔を見せる。隊員相手には見せないけれど、カダール副隊長と話してるときはこんな感じ。
二人でお酒を呑んでるときなんて、まるで悪ガキ友達みたいになってる。
エクアドが差し伸べる手を掴んで起きる。槍を振り回してスッキリすることもあるけれど。槍術について頭を悩ませることも多くて、頭空っぽにして暴れるというものでも無い。これはこれで気を逸らせるにはいいことだけど。
「フェディエア、槍は相手と距離を取れるという利点はあるが、その分、懐に入られたときのことも考えないと」
「その場合、どうするの?」
「槍に拘り過ぎると余計に危ない。ときには武器を手離す勇気で格闘戦に移ることもアリだ。槍術だけが武術じゃ無い」
「覚えないといけないことが多いわ」
パンパンと背中とお尻を叩いて、服についた草を払う。
ガチンガチン、と音がするので見てみると、メイドのサレンがいる。どうやら果実水を持ってきてくれたみたいなんだけど。
サレンは、どうしてプラシュ銀の手甲を手に装備してるのかしら? どうして拳を撃ち鳴らしているのかしら?
メイドのサレンが、やる気に溢れたすごくいい笑顔を浮かべる。
「格闘術ならば、私のアーレスト無手格闘術にお任せ下さい」
「えっと、あの……」
満面の笑顔のサレン。横で少しひきつった顔のエクアド。
私はこのあとサレンにシゴかれた。エクアドが槍術の先生で良かったと、あれで優しく教えてくれていたんだと解って、エクアドにとても感謝した。
( ̄▽ ̄;) 恋のキューピッドは、拳骨メイドのサレンでした。




