アプラース王子の秘めた力
(* ̄∇ ̄)ノ アプラース王子とリス姉妹の日常。
エルアーリュ王子の隠密、ハガクはローグシーの領主館を訪れる。
(ここしばらく王都でいろいろとあったから、ローグシーの領主館に来るのは久々か。どれ、久しぶりに娘リスちゃんと一緒に風呂でも……)
東方より流れてきた忍の長、ハガク。今ではエルアーリュ王子を主君とし、ウィラーイン諜報部隊の長、クチバとは同じ里の出身。
男前な女であり、また堂々と可愛い女の子が好きと口にする女。
(カッセルにユッキル。鍛えられ引き締まった身体の美少女で可愛らし。そのうえ大きなリスの尻尾で、もふもふもできるという、異形にして完璧な、ふふふ、あの尻尾をいじり倒したときの顔とか、実に……)
隠密ハガクはいつものようにノックもせず扉も開けないまま、領主館のカッセルダシタンテ、ユッキルデシタントのいる部屋へとするりと入る。
(アプラース王子とササメがここにいる、ということだが?)
エルアーリュ王子より弟であるアプラース王子への手紙を懐に入れたまま、部屋に入った隠密ハガクは、その部屋の中の光景を目にして硬直する。
隠密ハガクが見るのは下半身巨大リスの正体を現した、カッセルダシタンテとアプラース王子。
「ん……、はあ、」
「……」
「は、あん、ふうぅ……」
「……」
「あ、あー、うむ、アプラース、そこも……」
「ここか? こうか?」
「ふうん、あ、はあ、いいぞ、アプラース……」
カッセルの巨大リスの下半身はペタリと床に伏せ、上半身の少女体はクッションに埋もれるようにうつ伏せに寝ている。カッセルはひとつのクッションを抱き締めるようにして、甘い声を吐息と共に漏らす。
アプラース王子は床に座り、マジメな顔で巨大リスの背中を見詰め、両手はゆっくりとカッセルのリスの背を撫でるように。その度にカッセルの満足気な声が漏れる。
思わず見いっていた隠密ハガクは我に返る。
(は? 何をしているんだ? アプラース王子は? カッセルにえろい声を上げさせてウラヤマシ、いや、そうでは無く)
隠密ハガクはコホンと咳払いしてアプラース王子に声をかける。
「アプラース王子、エルアーリュ王子からの手紙をお持ちしました」
「む? ハガクか、兄上からの手紙とはなにかあったか? 緊急の事態でも?」
「いえ、急ぎの要件は今のところは無く、王都での近況など」
「ではササメ、受け取ってくれ。今は手が離せん」
手を止めずに真剣にカッセルの下半身のリス体に触れるアプラース王子。キリッとした熟練の技術者の顔でカッセルに、聞きようによってはちょっとやらしい声をあげさせている。
「あの、アプラース王子、何をしておられるので?」
「見ての通り、ブラッシングだ」
アプラース王子が右手を上げる。その手にはブラシが。楕円形の板から金属の細い棒がいくつも伸びる、これまで隠密ハガクが見たことの無いタイプのブラシ。楕円形の板から伸びるベルトがアプラース王子の右手の甲にまわり、しっかりと手に固定できるようになっている。
「黒の聖獣警護隊、研究班が開発した新しいブラシだ。カッセル、ユッキル、クイン、ララティと、体毛のある深都の住人に都合の良いブラシはないものかと」
うつ伏せになったままカッセルは目を細めて言う。
「うむ、そのブラシも良いが、アプラース王子のブラッシングが実に良い」
「カッセルとユッキルは、私を乗せてくれるのだが、こんなことで礼になるのか?」
「十分だ。ブラシの開発中は何人かにこうしてブラッシングされたが、その中でアプラース王子が一番気持ちがいい。何も言わなくとも力加減が最適だ。それに左手でマッサージしながら、右手でブラシをかけるなど、アプラース王子はブラッシングの達人か……」
「そうなのか? カッセルには何度かその背に乗せてもらっているから、私にもカッセルの身体のことが少し解るようになったのかもしれん。ここが凝るところ、ではないか?」
「んはあ……、むう、そこそこ……」
「ササメはどうだ?」
アプラース王子が声をかける方、そこには巨大リスの姿を現し、横に寝そべりリスの足を伸ばしたユッキルデシタント。その大きなリスの尻尾にブラシをかけるのはアプラース王子の隠密ササメ。
「少しはやり方が解ってきた気がするけれど、ユッキルはササメよりアプラース王子の方が良さそうね」
「うむ、ササメも上手くなっているのだが、こう、腹側は優しく、背中側はもう少し強くと、部位ごとに力加減を変えてだな」
「これが同じ人の身体ならマッサージや整体もササメはできるのだけど、リス体部分への力加減というのは感覚で掴めないわね」
「それができるアプラース王子は、ブラッシングの天才だ」
褒められたアプラース王子は首を捻る。
「ブラッシングの天才? 私が? よく解らないが……」
手を止めずに話を続けるアプラース王子。それを見ながらササメが言う。
「アプラース王子は騎乗する馬の世話とかもしていたから、こういうのも感覚で解るとか?」
「どうだろうか? スピルードルの王城ではネズミ対策に猫を飼っていて、子供の頃は兄上とこうして猫を撫でていたこともあるが。カッセル、転がってくれ。次は腹の方を」
「うむ、ゴロン」
カッセルは寝転がり体勢を変える。膝をつくアプラース王子の方へと腹を向ける。リスの足を投げ出して横になる姿は、まるでアプラース王子にすっかり慣れた巨大猛獣のようでもある。
アプラース王子はカッセルのリスの腹に両手を伸ばし、左手はもみもみとマッサージしつつ、右手は一定のリズムでブラシを動かしていく。
「ふ、は、あん、むう、声が出てしまう……、ん、んう、」
クッションをひとつ胸に抱き締めたまま、カッセルは鼻から抜けるような声を漏らす。アプラース王子は真剣な顔で両手を優しく、ときに力強くと動かす。脱力したカッセルのリスの足がときおりピクンと跳ねる。
その様を見て隠密ハガクはゴクリと唾を飲む。
カッセル、ユッキル、その上半身は人の少女のようであり、ちっちゃ可愛い娘がタイプの隠密ハガクから見て、カッセルとユッキルの双子の姉妹は好みのど真ん中であった。
(アプラース王子、俺と替わってくれ)
隠密ハガクは、カッセルをその手で鳴かせ続けるアプラース王子を羨望の眼差しで見詰め、心の声を口に出せずに飲み込む。
アプラース王子はそれに気づかないまま、今度は左手でカッセルの前足を持ち上げ、肩に乗せ、足と胴の付け根も細かく丁寧にブラシをかける。
「はう……、あふん……、気持ちいいぞ、アプラース……」
「そうか、ここがいいのか」
(ウラヤマシケシカラン!)
震える隠密ハガクの心の叫びは、その部屋の中の誰にも聞こえない。隠密ハガクの趣味を知っている隠密ササメだけがくふふと笑う。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
m(_ _)m ありがとうございます。
( ̄▽ ̄;) 怪傑蜘蛛仮面エースは謎の巨大リスに乗り疾走する、という噂が。




