ハイアディの地下湖 その6
(* ̄∇ ̄)ノ ハイアディの地下湖訪問編、これでラスト。
ルミリアとルブセィラが帰ったあと、二人が置いていった包みをレーンが開ける。中から出てきたのは女物の下着にメイドさんの服。
「ハイアディが人に化けて、この家の住み込みのメイドに、というのが対外的な設定となります」
「うん、私がレーンのメイドさんになるのよね?」
「そのためにはハイアディにいろいろ学んでもらうことになりますが、先ずは人化の魔法の維持から練習してみましょうか。さ、ハイアディ、人に化けてこの服を着てみましょう」
「う、うん」
なんだかレーンがやる気になってる。うん、私が人に上手く化けて、ローグシーの街に馴染めないと、見回りの役目もできないし。この街の領主のハラードとは、そういう約束で私がレーンの家にいてもいい、っていうことだし。私もアシェやクインみたく、人のフリして平然と街を歩けないとダメよね。
壺から出てレーンがくれた白いワンピースを脱ぐ。レーンに裸を見られるのは恥ずかしいけど、手で大事なとこは隠して、人に化ける魔法を使う。触手が引っ込んで人の二本の足でレーンの家の地下室に立つ。
「ハイアディの青い髪は、淡く輝いて綺麗ですね」
「そ、そう?」
「それでルミリア様もルブセィラ様もハイアディの髪に触っていたのだと思うのですが。そのままの髪色では目立ちますね」
「うーん、クインとアシェは、人化の魔法で髪の色とか肌の濃淡とかも変えて、目立たなくできるんだけど、私はそういうの苦手で」
深都の住人で人化の魔法がまるで使えない、というのはいない。だけど完全に使いこなせるのも少ない。
アイジスねえ様は人化の魔法の長期維持とか得意だけど、やっぱり眠ったり酔っぱらったりするともとの姿に戻るし、人に化けたときの身長とかは変えられない。
アシェは精神系、幻覚系の魔法を併用して印象まで変えられるから、髪や肌の色を変えたりとかお手の物。
クインはいざとなれば風系の魔法で、光の屈折を変えて透明化して逃げられるというのが強み。それで人の中に潜入する練習をしてたんだって。いざとなったら姿を消せるっていうのが、アシェとクインの得意なこと。
だけど、深都の住人の中には人化の魔法を使っても耳の形を変えられなかったりとか、尻尾を隠すことができなかったりするのもいるの。足の数を4本から2本に変えても、足は毛むくじゃらのままだったりとか。
「四本足から二本足になれば、足を隠すスカートで誤魔化すこともできなくは無いんだろうけど」
「な、なるほど。人化の魔法にもいろいろあるんですね。そうなるとハイアディは人化の魔法が上手な方になるんですか?」
「あ、あの、深都の住人の魔法については、その」
「もちろん外に大っぴらにするつもりはありませんよ。ここで話したことは秘密にします。それで、ハイアディの場合はどうすれば人化の維持ができるようになりますか?」
「うん、前にレーンが言ってたように、集中が途切れなければいいの。私が驚いたり動揺したりしなければ、持続できると思うの」
話をしながらレーンはテーブルの上に女物の下着を並べる。
「では、パンツとブラジャーを着けてみましょう」
「う、うん」
「ですが、前のようにパンツが破れたときは」
「え? あの、レーン?」
「正体が出てパンツが破れたら、お仕置きです」
「ひえ? ほんとにするの?」
「そういうのがあると、よりやる気になりませんか?」
「お、お仕置きって、えと、どんなことするの?」
「そうですね」
その手に白いパンツを持ったまま、レーンが考えてる。な、何を考えてるのかな?
「例えば、ハイアディが恥ずかしがっていつも見せてくれないところを、じっくりと見せてもらうとか、どうでしょう?」
「はうぅ、それってレーンが見たいだけじゃないの?」
「はい。ハイアディのことを全て知りたいと思ってますから。ですが、ハイアディ? 私がしたいことをお仕置きにしてもいいんですか?」
「え?」
「私がハイアディにしてみたいことはいろいろあります。他にはキスなど」
「え、ちょっと、レーン? 近い?」
レーンが薄く笑って近づいてきて、あう、どうしてレーンがやる気を出して目をキラキラさせているの?
「口づけて、ハイアディの唇の裏から歯茎までを、じっくりと私の舌で味わうような、濃厚な口づけなどを、」
「ひうううう!?」
濃厚な、口づけ? 近いレーンの顔が近い。レーンの肩に手をおいて、待って、レーン、ちょっと待って、
「私の舌でハイアディの口の中を蹂躙するような……」
「ひゃああああ!?」
レーン? また、イジメッ子みたいな顔になってる? わ、私の口の中をどうするの? そんなことされたら、私、どうなっちゃうの? ひゃううう!
「あ、」
「あ、」
私の下半身が触手に戻る。レーンにパンツを穿かされる前に、足が触手に戻っちゃった。前のように触手でレーンを弾き飛ばしたりしないように、慌ててレーンを抱き締めて持ち上げて、
「……ハイアディ、もう人化が解けてしまいましたよ?」
「レ、レーンがヘンなこと言うから、もう」
「では、お仕置きですね」
「待って、レーン、ちょっと待って! ニヤニヤしないで! いきなり激しいお仕置きなんてダメ! こ、心の準備が!」
間近にレーンの顔がある。ついレーンを抱き締めて持ち上げてしまって、あう、触手が赤くなっちゃう。はう。
「そうですね。では、こうしましょう。このあと、パンツを穿かせて、二枚破れたら私はハイアディの胸を揉みます」
「む、胸を?」
「はい、心を鬼にしてハイアディの胸をもみもみします。そのあと三枚破れたら、ハイアディと濃厚な口づけをします。いいですか?」
「よくないです!」
レーンから手を離す。レーンが落ちないように触手で持ち上げてそっと床に下ろす。
「あ、あの、レーン? なんだか、その、前より積極的過ぎない?」
「そうですか?」
「レーン、焦ってるの? その、ハラードと約束したから、私に早くローグシーの街の見回りをさせよう、とか?」
「そういうつもりは無いのですが、焦っているように見えますか?」
「う、うん。なんだか、焦ってるというか、余裕が無さそうというか」
「む……」
レーンは片手で自分の顔を撫でるようにして、ちょっとうつむく。
「……確かに、そうかもしれませんね。これまで、私がハイアディのことを解っているつもりで、実はそうでは無いと、領主館でカダール様に教えられたばかりですから」
あ、レーン、まだ引きずってたの?
「領主館での、カダール様とゼラ様の仲睦まじさ、ハイアディの姉のアシェとクインの領主館での寛ぎ方。それを間近に見て、私がハイアディに同じものを与えられているのかと、不安になりました」
「私は、ここが領主館より居心地良く感じてるけど」
「アシェとクインには、半端な気持ちでハイアディを玩ぶのは許さない、とも威圧されました」
「あう、あの二人が本気で睨んだら怖かったでしょ?」
「いえ、二人ともハイアディのことを心から心配しているのだと知りました。少し羨ましくも思いました」
レーンはメイド服が乗ったままのテーブルに腰かけて、私を見上げる。
「私自身、家族と上手くいかず、家から逃げるようにしてローグシーでハンター暮らしをしていたものですから。ローグシーでハンターに揉まれて、街の守備隊に入って、昔のように女性が苦手というのは治ったというか、克服したというか」
「え? 女性が苦手? レーンが? ウソ?」
「いえ、ホントですよ。ローグシーに来たばかりの頃は、女が苦手で嫌いでした」
「うっそお」
今まであんなに私のこと、じっと見てたり、からかったり、わざと顔を近づけてきたり、えっちな触り方してきたり、これまでいろんなことしてきたレーンが?
「正確には、私の母のような女が苦手というもので。こう言ってはなんですが、ローグシーの女性は男前な気性の人が多いので、おかげで友人のように話しやすいので」
「えっと、人の親子って私にはよく解らないけれど、レーンはその母と仲が悪かったの?」
「仲が悪い、と言うかなんと言うか。私には母の考えが理解できなくて、正直に言うと不気味でした」
よく解らないけど、家族が不気味っていうのはつらいのかも。私だったら深都の姉妹が不気味っていうようなものよね? 私にはそう感じる姉妹はいなかったけれど。不気味に思う人を家族として仲良く一緒に暮らすっていうのは、どういうことなんだろう?
「ローグシーに来てハンター含め、いろいろな女性と話をしてみました。それで、私の母が女性の中では異常らしい、と解ってからは少しは女性に興味を持てるようになりました」
「そうなんだ」
「ただ、これまであまり接してこなかったせいか、女性との恋愛的な距離感というのが、実はよく解っていません」
「そうなんだ!?」
「ハイアディを見ていると、なんというのかこう、いろいろしてみたくなるのですが、私がこういう感情を持つのはハイアディが初めてで」
「い、いろいろしたいの?」
ひう、それでこれまでレーンは、あんなことやこんなことを? 他にももっといろいろしたいの?
「……このローグシーの街でハイアディが頼れるのは自分だけ、ということに酔っていたのかもしれません。私じゃ無くても、ウィラーイン伯爵家の方が、ハイアディにとっては良いかもしれないと知って、不安に感じました」
「それは、無いから」
「ハイアディ?」
「私は、レーンのいるここにいたいから」
私もレーンといろいろしたい。一緒にごはんを食べて、二人でローグシーの街を見たりとか、レーンのお仕事の話とか、ハンターしてた頃の冒険の話とか聞きたい。
え、えっちなことも、恥ずかしいけれど、してみたかったりも、するし。蜘蛛の子ゼラが幸せそうにしてるのを見て、私もあんな風になってみたかったりもするし、でも、まだ恥ずかしいのは恥ずかしいし。はう。
「ハイアディ……」
レーンが私を見上げる。たまに見るレーンの寂しそうな目。なんだかほおっておけなくなるような、迷子の仔犬みたいな目。
あぁ、昔の私を見つけたアイジスねえ様は、こんな気持ちだったの? あのときアイジスねえ様が私を抱き締めたのは。何処にも居場所を見つけられなくて、何処でどうやって生きていけばいいかも解らなくて、さ迷っていたあの頃の私は。私がレーンに惹かれたのは。
身を屈めてレーンに近づく。腕を回して優しく抱きしめる。私は、何を求めていたの? レーンは私に何を見つけたの? 胸の奥で、何かが共鳴するように震える。振動に押されるように、繋がることを求めて、顔を近づけて、私の唇をレーンの唇にそっとつける。
そっと重ねるだけの音の無い口づけを。
何か、伝わるの? 何かが、繋がるの?
ゆっくりとはなれると、すぐ近くに私を見る茶色の瞳がある。
「……ハイアディからキスしてもらうのは、初めてですね」
あ、あう? 私、な、何をしているの?
「ハイアディ?」
ひう、顔が熱い。触手がうねうねしちゃう。も、もう、限界。地下室の巨大壺に飛び込んで身を隠す。頬が熱い。恥ずかしい、恥ずかしい。なんでこんなに恥ずかしいのか解らない? だけど、なんだか恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。
「ハイアディ? どうしました? ちょっとハイアディ?」
待ってレーン。落ち着くまで、ちょっと待ってて。地下湖にザブンと飛び込んで身体ごと頭を冷やす。はう、ゼラがしてたことって、これよりもっとスゴイのよね? そんなことしたら、私、破裂しちゃう。ふうぅ。
でも、いつかはレーンと。慣れたらちゃんとできるようになる? 今はまだちょっと無理だけど。
次に領主館に行ったら、ゼラに聞いてみよう。どうやっておっぱいいっぱい男と、その、イチャイチャしてたのか、とか。
うん、落ち着いたら、明日からレーンと一緒に、パンツを破らないようにする特訓をがんばろう。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
m(_ _)m ありがとうございます。
( ̄▽ ̄;) 自分からするのは恥ずかしい……のか?




