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鏡写しの君と桜の下  作者: とうにゅー
2章 文学少女はページをめくる
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28話 お勉強会

 翌週からテストが始まる。テストの期間は三日。そして私は勉強をしていない。赤点回避できればいいかなとだけ考えている。

 頭の中はまだ若干夏休みモードで、完全に切り替わっていない。

 

「ほら、そろそろ伊知ちゃん来ちゃうわよ。先輩がそんなやる気のない顔をしていてどうするの!」


 テスト前ということで、どの部活も活動をしない。だから、伊知さん、鏡子、私の三人で勉強会を開こうということになっていた。

 私は無理矢理参加させられた形だ。

 校門の前で、伊知さんを待つ。

 多少は涼しくなったが、それでもまだ暑い。残暑というが、まだ夏本番な気さえする。

 

「おまたせしましたー!」


 栗色の髪を風になびかせ、大きく手を振りながら微笑んで走る伊知さんの姿。

 額に汗をにじませ、暑さを感じさせない爽やかな笑みを浮かべている。


「お久しぶりです、詠先輩、鏡子先輩」

「元気にしてたかしら?」

「はいっ! さ、行きましょう! こっちです」


 伊知さんが中学の時から使っている図書館らしく、そこには自習室もあって、そこにいくらしい。

 長い坂を下り、いつもはまっすぐに進む道を左に曲がる。

 木々には赤や黄色の葉がつき、木をあざやかに彩っている。

 鏡子と伊知さんはテスト勉強のやる気がかなりあるらしく、お互いの得意科目や苦手科目、どういう分野が得意かと話し合い、歩きながらでも、わからないところを教えあっている。

 道を進むと広々とした公園と大きな建物が見えてきた。

 

「ここです」


 思ったより大きい。

 中に入ると、私は思わず息を呑んだ。海外の映画に出てきそうな、広々としてレトロチックな内装。いくつもの本棚が奥に向かって立ち並び、読書をするスペースは、本棚の間にある。

 鏡子の目が今までにないくらいにキラキラと輝いている。

 伊知さんは本棚には目をくれず、前をスタスタ歩く。本ばかりに目がいっている鏡子を引っ張って、伊知さんの後をついていった。

 鏡子がいつか本を好きすぎるあまり、チョコレートに混ぜて食べたり、そのまま食べたりしないか不安だ。

 エレベーターで3階まであがると、本は一切なくなり、机と椅子、それから一部のスペースにはパソコンが置かれているだけの空間になった。大きなテーブルがいくつか並んで、その奥は個人で勉強をするようになっている。個人スペースはプライベート空間をつくるため、しきりがあって、隣は覗き込まないと見えないようだ。

 テスト前ということもあり、同じ高校の生徒や、他の学校の人もいる。しかし、部屋が広いだけあって、座る場所はたくさん選べた。

 皆黙々と勉強をしている。


 目と、ジェスチャーで座るところが決まった。窓際の大きなテーブルが置かれているところだ。他にも人は座っているものの、真横ではない。

 私の向かいに伊知さんが座り、私の隣は鏡子が座った。

 勉強会のスタートだ。


 始まって一時間ほど経った。私の集中力はすっかり途絶え、解くフリをしていた。二人は集中しているようで、一生懸命手を動かし、問題を解いたり、重要なフレーズをノートに書いている。

 元々勉強が好きではない私にとって、今は少々苦痛を感じる。

 

「ごめん、ちょっと息抜きしてくる」


 小声で、鏡子に囁いて、念の為に、ノートに「私は息抜きしてきます」と書き残して自習ルームを出た。

 エレベーターを使わずに、階段まで一階に降りる。

 本棚の前に立つと、本棚の高さがよくわかる。鏡子ぐらいの身長でも、脚立がないと一番上の棚を触ることは出来ないだろう。絵本、How to本、自己啓発本、洋書等がいくつもの本棚に収まっている。当然、文豪の作品もあるわけで。

 ページをめくる音、静かなゆったりとした足音、本を戻すときの音が耳をすませば聞こえてくる。

 背表紙のタイトルを目で読みながら、本棚のそばを歩く。

 鏡子ならここをなんと例えるだろう。

 想像の源? 幸せの場所? 

 鏡子がとろけるような笑みで本を眺めて歩く様子を想像して、私はハッとした。

 どうして鏡子の事を考えているんだ。

 頭を振って、鏡子の笑顔をかき消した。

 その時、私の肩を誰かが叩いた。

 


 

 


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