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総長戦記 0083話 道化

1941年9月 『アメリカ』


 アメリカは公式にドイツとの戦争に突入した。


 だが、下院において反対票が1票とはいえ出たように議会では満場一致とはいかなかった。


 反対票を投じたのはジャネット・ランキン議員である。

 モンタナ州選出のアメリカ連邦議会史上、初めての女性下院議員である。

 彼女は反戦平和を公約に掲げ当選した議員である。


 史実においてもジャネット・ランキン議員は第一次世界大戦と第二次世界大戦の両方の宣戦布告決議において、唯一人、連邦議会で反対票を投じた人物として知られている。


 第一次世界大戦の時はジャネット・ランキン議員以外にも55人もの議員が反対票を投じた。

 この時、反対票を投じた議員へのバッシングは酷いものだった。


 その為か、第二次世界大戦ではジャネット・ランキン議員ただ一人が反対票を投じる結果になっている。

 この時も彼女に対するバッシングの嵐は酷かった。


 ただし、この時、反対票は彼女1人だったが棄権した議員は他に41人もいた。

 バッシングを恐れて反対票を投じる勇気は無かったが戦争には反対であり棄権という選択を選んだ者もいたのだ。


 史実においてアメリカは「リメンバー・パールハーバー」の呼び声に一つとなり団結したように思われがちだが、実際には議会にさえ少数派ではあるが、戦争に反対する者はいた。

 それがアメリカという国の実態である。


 それは今回の歴史でも変わらない。

「ニューヨークの惨劇」の後でさえ、戦争に訴える事なく平和主義を貫こうとする者は確固として存在したのである。  


 ただし、彼、彼女ら平和主義者に対するバッシングもまた強かったのも事実である。



 戦争に突入したものの、アメリカの状況は酷かった。

 経済も軍事も社会もあらゆる状況が酷いとしか言い様がなかった。


 アメリカで最大の都市だったニューヨークと、大きな経済圏たるニューヨーク経済圏を失った影響はあまりにも大きかった。


 しかもニューヨークの惨劇における避難民は400万人を超えており、死者はまだまだ増え続けている。

 避難民が多過ぎるため、あらゆる事が後手後手になっており未だ全員を救済するには至っていない。


 インフレも進行していた。

 戦争期にはどこの国でもインフレになりやすい。働き手が徴兵され軍需物資が優先的に生産されるために民需物資が不足するからだ。

 今回のアメリカはそれに加えてニューヨークの惨劇があった。

 それにプラスして極東の島国にいるさる軍人の謀略により、アメリカ国内に偽ドル札が流通していた事も一因である。

 宗教系と経済系の謀略において偽ドル札が大量に使われていたのである。その殆どは麻薬と一緒に密輸されたものであった。

 この大量の偽ドル札の流通にアメリカ政府は未だ気付いていなかった。


 更にはNNPの問題もあった。

 その放射線障害の治療法は確立されていない。

 知らぬ事とは言えニューヨークの惨劇が起きた直後、多くの人員がその救援活動に投入された。

 消防隊や医療関係者、そして多くの陸軍や海軍の部隊。善意からボランティアで集まった民間人や宗教団体もある。

 その多くが放射線の影響を受けたと推測された。

 これらの者達をどうするのか。数十万人もいるのだ。

 その結論は政府内部でもまだ出ていない。


 南部と東部の沿岸部では天然痘とペストが流行し多くの死者を出しているだけでなく船舶の運航に悪影響を及ぼしている。


 西海岸と中西部では信仰上、教義上から良心的徴兵拒否をする者が急増していた。


 更には麻薬中毒患者やアルコール依存症患者も激増している。


 そしてアメリカ政府はまだ気付いていなかったが、複数の新たなコングロマリットがアメリカ経済界に登場しようとしている。


 アメリカは国内に幾多の問題を抱えながら第二次世界大戦に参戦する事になったのである。


 だが、そうしなければならなかった。

 ドイツが更に原子爆弾を製造し使用する事を恐れたからである。


 ルーズベルト大統領はこれ以上、ドイツがアメリカに対し原子爆弾を使用する事を許す気はなかった。


 それにはアメリカ本土を固く守るだけでは不足だと判断した。

 海軍は自信を持って本土を守り切るとは言っているが何事にも絶対という事はない。それにドイツのUボートは神出鬼没なのだ。


 確実に原子爆弾を阻止する方法はドイツを敗北させて二度と原子爆弾を造らせない事である。 

 それにはドイツ本国を直接叩かなくてはならない。

 イギリスも頑張ってはいるが力不足なのは明らかである。


 それ故にルーズベルト大統領は国内状況が良くない事を承知の上で敢えてドイツとの早期開戦を選んだのである。


 唯一つ、救われたのは世論の大勢において国民の多くが、この戦争を支持した事である。

 原因不明のニューヨークの惨劇が実はドイツの仕業だとわかり、その行為に憤る国民は多かった。


 史実での「リメンバー・パールハーバー!」が、今回の歴史では「リメンバー・ニューヨーク!」にとって変わったのである。


 共和党も今の所は政府に全面協力している。

 今はドイツを叩き一刻も早く原子爆弾の脅威を無くすのが先決だった。

 共和党上層部はその為、ルーズベルト大統領がドイツを敵視した為にこのような結果を招いたという事には触れないでいる。

 下手にそれを持ち出して「共和党はニューヨークの悲劇を政争に利用している」と批判される事を忌避したからである。

 しかし、いつかは持ち出しルーズベルト政権を批判しだすだろう。


 ともかくアメリカは戦争体制に入った。



 それが極東の島国にいるある軍人の思惑通りだとも知らずに。

 アメリカは完全にその軍人の手のひらの上で踊る道化(ピエロ)と化していた……


【to be continued】





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