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総長戦記 0081話 急増

【筆者からの一言】


「「「戦争反対! 人殺しは神の教えに反する!」」」


「ワ、ワニだ! し、白いワニが見える! シャ◯だぁ! シャ◯をくれぇ!」「組長!しっかりして下さい!」


今回は宗教と麻薬のお話

1941年9月 『アメリカ 西海岸&中西部』


「さぁ皆さん、悔い改めるのです! そして祈りましょう!」


 小さな教会の中は人で埋め尽くされていた。

 大勢の人々が詰めかけていた。


 ほんの一ヵ月前には考えられなかった光景がそこにある。

 そう、一ヵ月前にこの「愛と平和の教団」の教えと勧誘に耳を傾ける者は少なかった。

 だが、今は違う。

 多くの人々が今やその説教に耳を傾けている。


 これまでは都市の滅びと疫病の到来を強調する終末思想系の一教団に過ぎず誰も注目する事はなかった。


 しかし、未だ原因不明のニューヨークの惨劇が、ニューヨーク周辺で流行っている正体不明の疫病がその状況を変えた。


 宗教とは突き詰めれば人の心の救済である。

 何故、人の心に救済が必要なのかと言えば、それは不幸や恐怖や不安といったものがあるからだ。

 そうした不幸や恐怖や不安といったものから逃れたくて、心の平安を求め人は宗教に縋る。


 ニューヨークの惨劇と疫病は多くのアメリカ人の心に恐怖と不安の種を撒いた。

 原因不明なところが、より恐怖と不安を増大させた。


 そこで少なからぬ人々の脳裡に浮かんだのが大きな街の通りで懸命に主の教えを人々に説いていた聖職者の姿である。

「愛と平和の教団」の聖職者である。

 その聖職者は聖書にある一夜にして滅んだソドムとゴモラの話しと疫病に倒れた王の話しをしていた。

 そして言っていた。このままではアメリカもそうなると。

 ニューヨークの惨状は、まさにあの聖職者の言う通り。

 それはまるで予言が成就したかのような状況だ。


 予言と宗教は深く結びついている。 

 未来とは不可知の領域にあるものだ。

 だからこそ、それを当てる予言に人は神秘と畏敬の念を持たずにはいられない。


「愛と平和の教団」は神が差し伸べてくれた救いではないのか?

 導きなのではないのか?

 そう考える者が増え始めていた。


 それに、この教団には入りやすかった。

 大抵のキリスト教の宗派は信者に定期的な献金を求めている。

 大きな宗派なら収入の5%~10%。新興の小さな所ならもっと求める事もある。

 中には資産を全部献金しなさいと言うところさえある。


 ところが「愛と平和の教団」は信徒にそうした定期的な献金は一切求めなかった。

 戒律を基にした堅苦しい日課を信徒に課す事もない。

 厳しく求められたのは唯一、聖書にある「十戒」を守る事である。


1.主が唯一の神です。

2.偶像を作り崇拝してはいけません。

3.神の名をみだりに唱えてはいけません。

4.6日働いた後の安息日を守りなさい。

5.あなたの父母を敬いなさい。

6.殺人をしてはいけません。

7.姦淫をしてはいけません。

8.他人の物を盗んではいけません。

9.嘘を言ってはいけません。

10.他人の物を欲しがってはいけません。


「十戒」は民間人として普通に暮らしていく分には決して難しいと言えるものではなく、法と常識の範疇で守るべき当然の事柄であるとも言えた。


 そのため徐々に、いや急速に入信する者が増えていく。


「愛と平和の教団」では強制はしなかったが、教団の経営する農村共同体(コロニー)への移住を推奨してもいた。

 これは種々の事情により売りに出されていた農園を教団が買取り、ここで教義に基づいた自給自足の集団生活を送ろうというものである。

 この時代、大恐慌の余波で経営に行き詰まり手放された農園は数多くあったのだ。

 中西部に教団の農園が数多く確保され、その中にはまだまだ開拓の余地のある農園もあった。


 こうした宗教に基づく農村共同体(コロニー)はアメリカ建国の時代からあるし、21世紀においても新たにつくられている。

 宗教団体にもよるが、農村共同体(コロニー)に参加する信者には高額な献金を求める場合が多い。

 中には全財産の献金を求める宗教団体もある。


 しかし「愛と平和の教団」では農村共同体(コロニー)に参加する信者にも献金を求める事は無かった。

 ただ、当然の事ながら農村共同体(コロニー)で上がる収益の中から一定の割合で資金を調達する事はしている。

 残りの収益は信者に平等に分配された。


 自給自足の宗教生活というのは他にも実践している宗派はたくさんある。

「アーミッシ◯」もその一つだ。

 ただし、「アーミッシ◯」の場合は自動車や電機といった文明の利器を捨てた生活をしている。

 歌さえ禁止している。


 しかし、「愛と平和の教団」では文明の利器を否定していない。農村共同体(コロニー)でも普通の農村と同じような暮らしができた。


 この時代、都会での暮らしの厳しさはみんな身に染みている。

 大恐慌時代、多くの人々が働き口がなくて生活に苦しんだ。自殺者も大勢出た。

 あの大恐慌の始まりからまだ12年しか経っていない。

 数年前までは酷いものだった。

 今は勤めていても、いつまた同じような事がおきるかもしれないという不安は拭えない。

 仕方なく安い給料で不満のある仕事をしている者は今でも多いのだ。

 それ故に安定した働き口が欲しいと思っている者は多い。


 信者の中にもそういう者は大勢いた。そうした信者には「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)は理想の場所に見えたのである。

 地に足のついた暮らしができるように見えたのである。

 宗教団体が経営しているのだから企業のように不況になれば人員整理で冷酷に解雇をするという事もないだろうと思えた。


 安定した暮らしがしたい者、都会の暮らしにこりごりの者、農業生活に興味がある者、緑あるより良い環境で子育てしたい一家等々、そうした者達が「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)に参加したのである。

 そのため「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)に参加する信者は日に日に増えて行くのだった。


 そうして信者を急速にふやしつつある「愛と平和の教団」であったが、アメリカという国の中で全く問題が無かったわけではなかった。

 政府の方針と真っ向から衝突するものが一つだけあった。

「徴兵制」についてである。

 ルーズベルト政権は徴兵制を施行した。

 それは青年達が軍人として招集され戦場に行き敵国の兵士を殺す事に他ならない。


 しかし、「愛と平和の教団」は信者に軍人として兵士として戦場で戦う事を一切認めなかった。

「十戒」の第6番目の教え「殺人をしてはいけません」(日本ではよく「汝殺す事なかれ」と読まれる教え)に反するものとして、良心的兵役拒否を信者にすすめたのである。


「良心的兵役拒否」は道徳的観念、宗教上の理由から兵役を拒否する行為である。

 

 アメリカでは意外とこの「良心的兵役拒否」には歴史がある。

 まだアメリカが独立していない時代の1756年に発生したフレンチ・インディアン戦争でその萌芽が見られる。

 このフレンチ・インディアン戦争は北アメリカ大陸において、フランスと多くのインディアン部族がイギリスとその植民地と少数のインディアン部族と戦争をしたものである。

 この時、イギリス植民地のペンシルべニア議会が独自の軍隊を作り、味方であるイギリス陣営に協力しようとしたした。

 この時、ペンシルベニアのクエーカー教徒達は「良心的兵役拒否」を制度化して施行する事を条件に軍隊の創設と戦争への参加に賛成している。

 これはペンシルベニアだけでなく他の幾つかの地域でも同様な事が行われた。


 そうした「良心的兵役拒否」制度は南北戦争でも第一次世界大戦でも行われた。

 そして第二次世界大戦でも。


 史実における第二次世界大戦において、アメリカの青年で「良心的兵役拒否」を申請した者は7万人以上にものぼる。

 本当に道徳的、宗教的理由から兵役を拒んだのか、ただ戦争が恐くて「良心的兵役拒否」を申請したのかは、本人にしかわからない。

 しかし数多くの青年が「良心的兵役拒否」を申請したのは事実である。


「リメンバー・パールハーバー」と叫んでアメリカは一枚岩に団結したように見えるが、内部を詳しく見て見れば意外と色々な綻びがあるのが見て取れる。これもその一つである。 


 こうした「良心的兵役拒否」の者については、大抵は非戦闘業務が割り当てられ兵役期間を過ごす事となる。


 しかし、中には非戦闘業務にも応じようとしない者もいた。

 それどころかキリスト教の宗派によっては戦争そのものを拒否し兵役招集に最初から応じず無視するところもあった。

「エホバの証◯」などがその代表にあたる。


 アメリカ政府としては、「良心的兵役拒否」制度において非戦闘業務をあてがうまでは妥協できたが、それさえも拒むとなれば一線を越えたものと見做された。

 結局、史実ではそうした兵役拒否者達、約1万7千人が刑務所送りとなり刑に服している。


 今回の歴史において「愛と平和の教団」が急速に信者を増やしている。

 そしてその勢いは、とどまる所を知らない。

 それに比して信者の中でも教団の教えに忠実に従い「良心的兵役拒否」を選択する者も多くなっていく。

 それは、後に史実よりも遥かに多い「良心的兵役拒否」者を生み出す事となる。

 史実よりも遥かに多くの者が兵役拒否者として刑務所に送られる事になった。

 


 もう一つ水面下でアメリカに増大しているものがあった。

 いや、二つである。


 一つは麻薬中毒患者である。

 西海岸を中心に麻薬汚染が急速に広まっていた。

 これも原因不明なニューヨークの惨劇と疫病に端を発した不安と恐怖からの逃避行動だった。

 現状に満足していれば、不安や不満がないのなら大抵の人は薬に手を出す事はない。

 しかし、この時点では多くの人々が不満と得たいのしれない不安と恐怖に苛まれ薬に手を出していたのである。


 もう一つも薬と同じ要素からアルコール依存症の人達が増えていた。

 合法的に酒に溺れ不満と得たいのしれない不安と恐怖から逃れていたのである。



 日に日に「愛と平和の教団」の教えに耳を傾け入信する者は多くなる。

 日に日に麻薬に手を伸ばし中毒患者になる者は多くなる。

 日に日に酒に溺れ依存症になる者は多くなる。


 アメリカ中西部と西海岸一帯は、宗教と麻薬と酒に蝕まれていったのである。


【to be continued】


【筆者からの一言】


宗教を利用して平和主義者を増やして兵士を減らす。必要経費は偽札で。

麻薬中毒患者を増やし労働力と兵士を減らす。序でに麻薬の売り上げでガッポガッポ儲ける。

何も殺す事だけが手段じゃない。

総長は地味にアメリカの力を削いでいます。




えっ前書きの白いワニ?

「ストップ!!◯◯◯くん!」という名作が昔あってですね、 

あぁ何もかもみな懐かしい……

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