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総長戦記 0078話 圧力

【筆者からの一言】


中間管理職の愚痴話です。

公務員も辛いよ、的な。

1941年9月第4週 『日本 東京 小料理屋』


「畜生! やってられるか!」

「まぁな。これまでの努力は何だんだって話になるよな」

「だが、しょうがないだろ。相手が悪すぎる」


 三人の男達が酒を飲みつつ愚痴を言い合っていた。

 この三人は全員が同じ職場に勤めており、今日まで一緒にある仕事についていた。

 しかし、今日突然、上司に呼び出され、その仕事を他の組織に回すよう言い渡されたのだ。


「くそっ! 俺達は陛下の、陛下の、馬鹿野郎!」

 かなり酔ったのか一人が卓上に突っ伏した。

 その姿を酒の肴にしながらもう一人が愚痴をこぼしつつ落胆の色を見せる。

「ここまで来て、だからなぁ、俺も流石にガックリきたよ」

「だが、課長の言う通り、大人しくしなけりゃこっちの身が危なくなる」

 身が危なくなるという部分はかなり声を潜めている。囁き声だ。


「参謀総長か」

「……」

「怖い噂のある人さ」

 その声もまた潜められていた。


 この三人が所属するのは特別高等警察の第一課であり全員が主任警部である。

 それぞれの下に数人の部下がおり事件を担当している。

 この三人はこの数ヵ月間、今日という日まで共同である事件を担当していた。


 ところが、突如、上司に呼び出され、その事件を憲兵隊に引き継ぐよう命令されたのである。

 内偵を進めもう少しで逮捕というところまで来ていながらの任務中止であるし、通常はこんな風に憲兵隊に引き継ぐ事などありえない。前代未聞の事態である。


 だが、上司に抗議したり食って掛かるような事はできなかった。

 上司の隣には内務省次官がいたからだ。

 特別高等警察は内務省の一機関であるとは言え、通常、内務次官などという雲の上の人が姿を見せる事はない。

 それが出て来るというのはかなりの大事なのだ。


「これは高度な政治的判断によるものだ。君達も理解してほしい」

 一言だけ内務次官が言葉をかけると「後は任す」と課長に言って部屋を出て行った。


 その後、課長が話してくれた事は憲兵隊への引継ぎは建て前に過ぎず、陸軍内の特殊工作班が被疑者達を監視するという事と、被疑者達を今後も自由に泳がせ逆利用するという話だ。


 今回の事件の被疑者達の容疑はスパイ活動だった。

 我が国の重要な情報を国外に流している。

 

 だが、陸軍では被疑者達が外国のスパイである事をかなり以前から掴んでいたらしい。

 しかも、これまでにも彼らに偽情報を掴ませる事で、日本に有利に事が運ぶように画策していたようだ。


 これでは我々特別高等警察はいい面の皮だ。


 だが、表立って非難する事は危険すぎる。

 何故ならこの件の大元にいるのは陸軍参謀総長だからだ。

 この部屋限りという事で、そこまで課長は教えてくれた。

 本来ならそこまで話す事は許されていなかったらしいが、これまでの捜査の苦労を思い教えてくれたようだ。


 取り敢えず、何時になるかは不明だが、被疑者達に逆利用する価値が無くなった時は、我々に逮捕させてくれるという話になっている。


 話としてはわからなくもないが、我々は特別高等警察だ。

 陛下の特別高等警察官なのだ。

 本来、このように横槍を入れられる事などあってはならない筈だ。


 だが……

 この件の親玉が、あの総長である以上は、とても抗議などできよう筈も無い。

 そんな事をすれば情け容赦なく粛清されてしまうに違いない。


 できる事は同僚と酒でも飲んで愚痴を漏らす事ぐらいだった。

 この日、三人は暖簾を仕舞う時間(閉店)まで、やけ酒を酌み交わすのだった。


 彼らがもうすこしで一網打尽にする筈だったスパイ組織の長の名はリヒャルト・ゾルゲといった。

【筆者からの一言】


総長は簡単に邪魔者を殺害処分してしまう人ですが、いつもいつも殺すわけではありません。

今回のように排除ではなく、利用する場合もあります。

スパイは排除するより偽情報を掴ませ利用するのが総長のやり方なのです。


史実とは違い今回の歴史ではゾルゲのスパイ団は暫くの間は泳がされるもようです。

その間にどんな偽情報が意図的にスパイ団に流されるのやら……


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